21 談笑
「うーーーむ…思ったよりも今回は多いですなー」
「既に1/3程ですね」
「…お、また1人来ますぞ」
空から降ってきた新兵を丁寧に受け止める。
「ふむ…この子は大丈夫そうですな…既に処置が終わっておりますぞ」
「気絶しているようですね…寝台車の方に移します」
夜の闇に静かに冷たい風が吹く。
数刻程前に派手に火柱と閃光が起こった方向へと目を向けるが今は静かだ。
「貴族が多いですね」
「そうですな…彼らは事前準備ができれば対応できるでしょうが、夜襲には備えてなかったようですからな〜」
「…文句言われませんかね」
「大丈夫ですぞ〜安全面は保証してますからな〜」
「あっ…」
グスタフはチラリと後方へと視線を向ける。聞き間違えかと思ったがそうではなかったようだ。
視線の先、物言わぬベールの女性は微動だにせずただ地図を眺め続けていた。
そんな彼女がゆっくりと顔を上げ、小さく呟く。
「やっば…」
「む?なにか問題が─」
強い光の柱が自分の直ぐ横に現れる。
一瞬の後に耳を劈く轟音と共に太く育っていた大樹が黒焦げになっていた。
他の者達は今の爆発音に驚き、コレの原因を知らぬものは武器を構え魔術の準備を開始しする。
そして、コレの原因を知るものは溜め息を吐くか畏怖の念を感じるかの二択であり、敵ではないと他の者を鎮める。
グシャリと、焦げて折れた大樹の根元から人影が立ち上がる。
長いブロンドの髪が夜闇の中で一際輝いて見えた。
カツカツと黒いブーツを響かせながら、下半身にピッタリとくっついたレギンスズボン、華やかな刺繍が施されたジャケットは絵物語に出てくる王子のような出で立ちであった。
目元を隠す仮面と、無駄に派手な羽飾りのついた帽子の角度を細かく直しながらコチラに駆け寄ってくる。
「お久しぶりです、グスタフ先輩!!」
「もちっと、穏便に来なさい…エレオノーラ卿」
彼女の名前は、エレオノーラ・ケラウノス。
中央騎士最速にして近衛隊に所属する女騎士である。
かつてのグスタフの教え子でもある。
彼女のアメジストを思わせる瞳が横へと動く。
「い、いや〜勢い余ってすべっちゃいまして…」
「じゃじゃ馬なのは相変わらずですなぁ…」
彼女の興味が別のものへと移ったのか、はたまた話題を無理に逸らす為か話し始める。
「あの子達が新人ちゃん?」
「そうですぞ、山越え中ですので一部ですが」
「ふーん…さっきの火柱と光も新人ちゃん達のか…」
「ところで、なんで貴女が此処にいるのですか?」
「…へ?…あっ!私、明日から休暇なの!それでパルテで買い物でも〜と思って」
「…深くは聞きませんぞ」
下手な誤魔化しかたに溜め息が溢れる。
「我々は数週間はパルテに滞在いたします」
「そうか」
「新兵の訓れ─」
「お断ります」
「ハァ…早すぎますぞ」
「私についてこれない子をついて来させるための時間でしょ?」
会話はそこで終わり、嵐の体現者は馬車に乗った。
★──────────☆
「ハン…それでここはこんなに眩しいんだ」
「むぅ…すまない」
「いや良い、謝んなよ!御蔭で寄り付かなくなってお得じゃん」
「おい、ヘリオス!君の怪我の治療はまだ終わっていないぞ!獣の牙や爪は穢れているのだ、浄化しなければ腕が腐るぞ」
「いや問題ない」
「それを決めるのは君じゃあ……ホントに問題なさそうだな」
既に出血は治まった。
傷口も自身の体温を上げていたおかげで殺菌も行えている。
「ただ…少し腹が減ったな」
足下に斃れている魔獣に脚が当たり視線を下げる。
「オイ…まさか」
「食わない…人を襲った奴らだ、人の肉を食ってるかもしれない…それなら食えない」
「…気にしない奴等もいるが…まぁ、オレも嫌だがな。必要とあれば食わなきゃならん時も来るかもな」
「…今は贅沢しよう」
その後、夜の見張り番としてヘリオスとカロンが焚火を前に陣取り周囲を警戒するが、輝く木々に辺りは明るくヘリオスの魔力が色濃く放たれたこの場所に寄る魔獣はいなかった。
「にしても、やっぱし魔法って便利だなー」
「そうだな…とはいえ、俺はオリビオやベッタのように繊細なことはできんが」
「ハァ…明かりに困らない、火をつけられるこれだけでも食いっぱぐれないと思うが」
「そうか。…それならカロンも学べば良いのでは?」
「あー…オレ様は魔法使いには慣れんなー」
「オリビオの話では、平民の方が魔法を幅広く学べるらしいぞ」
「…ゲッシュって知ってるか?」
「げっしゅ…?」
こちらの返答に「知らないのか」と少し驚いた顔をされた。
「ゲッシュ…禁忌とも戦士の誓いとも言われる物だね」
「オリビオ…寝ていないと駄目だぞ」
「これだけ周囲が明るいと寝付けないのだよ」
「流石お貴族サマ…お詳しい」
「戦士の魔法とは、一つ誓いを立てることでその者に武力を授けられる儀式…のようなもの」
カロンが何かを拾いあげ、それを投げ渡された。
「石…」
「投げ返してくれ」
言われた通りにする。
カロンの手に渡った石を彼はこれといって特別力を込める様子もなく握りしめるだけでピシリと石に罅がはしる。
「コイツの御蔭で身体は頑丈強靭になったが…オレは生涯魔法使いになれなくなった…子どもでも真似できるお呪いも使えない」
思い返せば、以前いた場所にも似たような人が居たことを思い出した。
親父の部下の人で凄い怪力だったのだ。
「騎士の中にもゲッシュ持ちは多い…というより、戦闘に使えない中途半端な魔法を捨てて得る人のが多いものさ」
「だから鎧着た人担いで全速力で走れたのか」
「まあな…無くてもいけるがな!」
ガハハと小さく笑った。




