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20 閃光

 ヘリオスは困惑していた。

 それは、新たな環境によって生まれた新しいモノ。




「ふぅー──……」

 深く息を吐く。

 身体から溢れる脂汗を鬱陶しいと感じながら、両手足に噛みつかれた状態では拭えない。


「あっ…あ…ああ…」

 自分と同年代の友人は始めてだった。

 小柄で、自分以上に人と話すのに不慣れな印象を受ける少女は俺を見て震えていた。

(そういえば以前、彼女に自分は怖いと言われたな…また、怖がらせてしまったか)


「ヘリオス!」

「チェリア、ベッタを頼む」

 噛みつかれた部位から肉が潰れ、骨が軋むような音が聞こえる。

 場所によっては罅が入ったかもしれないな。


「『全員、俺が3数えたら目を閉じてくれ…眩しくなる』」

 言葉と同時に何をやろうとしているかを思い描く。

 凄いな…ベッタは動揺していても魔法で繋げてくれている。


「3」


「こっちへ」

 オリビオとパオロがベッタとチェリアを引っ張る。

 彼らを襲う魔獣はオリビオの水に阻まれた。

 そして彼等は目撃する。ヘリオスの身体が内側から光を発していることに、肉が赤く骨は白く浮かんで見えるような強い輝きが発せられていることに。


「2」


 ヘリオスは、これまで自分の力に制限をかけていた。それは手を抜く為では無い。ヘリオスは自力での魔法の制御能力が乏しいのである。

 中央騎士団に入団する以前は北の山岳地帯で過ごしていた。そこは王都がある中央平原に比べて気温が低い地域である。冬の寒さは王都の比ではない。そんな環境で生き抜く為に彼は知らぬうちに習得した魔法を無意識的に起動していた。

 そして、それは養父によって意識的に扱えるように鍛えられた。

 暗い冬の山にてヘリオスはその力を独自に開花させていた。


「1」


 ヘリオスの魔法は【熱】と【光】。彼の魔力は熱を帯びており、体温を上げ続けることが可能である。

 しかし、欠点がある。

 一つは、上げた体温を下げる方法を彼自身が持たないこと。王都周辺はの気候では特に彼自身の体温調整がし辛いことを感じていた。

 二つ目は、体温を必要値まで高めるのに時間がかかることである。一度だけ、ガンドルフとの戦いの際に意図せずに体温が高くなったことで中途半端に魔法が起動したことはあったが、彼自身の制御不足によるものである。


「0」


 解放した熱は心臓の鼓動と共に全身を駆け巡る。それを腕に流れるように意識する。魔獣の数頭は危険を察知して逃げようとするが間に合わない。


 動作は単純だ、ただ手を叩く。


 内側から白熱発光する程に高められた腕を力一杯に叩きつける。

 火花と衝撃音が夜空に響く。


閃光波(フラッシュバン)】と名付けられた対魔獣用に開発された魔法技術(マジックアーツ)…魔術である。


 瞬間的にそこには“白”で埋め尽くされた。

 突然の光と、強化された腕力によって発せられた拍手。そして、ヘリオスの放つ熱気によって周囲の感覚を麻痺させる。


「フンッ!」

 自身の身体に食いついたモノに引き抜いた短剣で確実に首を斬る。

 周囲で目が眩み動きの鈍ったモノも首を斬りつけ腹を刺す。


 一瞬遅れて、オリビオ達が動き出す。

 オリビオの細剣が貫き、パオロの双剣が両断し、チェリアの剣が斬り捨てる。

 魔獣の群もここで分が悪いと逃避が始まった。


「深追いは─」

「しないよ」


 一段落がついた。

 皆がっくりと力が抜けた用に倒れる。

「ヘリオス…水だが、今の私ではこの程度が現界だ」

「たすか─うゔぇぼぼー」

 ドジュウウゥゥと蒸気をあげながら頭から水球がかけられる。

 体温が急激に下げれられ、力が抜けていく。


「終わった…」

「あ、あの…す、すみま」

「謝らなくていい、貴女(あんた)の御蔭で奴等の把握できたし、連携も容易だった…誇るべきだ」

「は…はい」

「うーん…それにしても、君の魔法は面白いねヘリオス」

 オリビオが周囲を見渡しながら笑う。

 周囲の木々や地面は白く発光しており、深夜なのに昼のような明るさが地面から発せられている。

「これでは、眠ろうにも邪魔になるかも」とチェリアが小声で呟く。



 ───。────!

「何か…来ますね」

 パオロが身構える。

 他の者達もその言葉に武器を拾い構えるが。

「あっ…ま、待ってください!えっと…カロンさんです」

「む…!」

 ベッタの言葉に臨戦態勢を解除する。


 暫くして、一人の男を背負いながらカロンが木々の隙間から飛び出してきた。

「ウハッ!ここはなんか明るいな!!…ヘリオスにオリビオ様!」

 息も絶え絶えといった様子だが、カロン自体には負傷は無く、多少泥まみれになっている程度であった。

 問題はその背負われていた者だった。

 左脚は太腿の部分が大きく抉れ、両腕には幾つもの爪や牙による傷。だが、一番目立つのは背中だ鎧は半壊し深々と背中には3本線の爪痕がクッキリと刻まれていた。


「ぐっ…う…」

「先ずは応急手当だ…傷口に奴等の牙は不潔だから洗浄する」

 オリビオは手の平サイズの水球を作ると男の傷にあてがう。

 ついでとばかりに先の戦闘で傷を負った俺にも同じようにする。


「…オリビオ様…」

「待て、止血する動くな」

「はい…」

「すまねぇ…サイモン…」

「フフ…気にするなカロン…油断した私の失態だ……手当を終えたら、鎧のガラス玉を砕いてくれ…私は先にリタイアする」

「ああ…その脚じゃ山越えは厳しいもんな」


「頭ぁ〜サイモンさん〜ご無事ですか!」

「良かった…他の班と合流できた」

 ピエールとリン、それから他にも見覚えのある男二人が暗闇から現れた。


貴方達(アンタたち)も魔獣に襲われた…のか」

「ああ、…気づくのに遅れた。サイモンは庇って負傷」

「伊達に…貴族では無い…のだ……死にはせんが…ふぅ……ふぅ……」

「喋るな、血が流れすぎている上に無理に戦ったな?」

「ネレイス家の貴公子殿に診てもらえれば…安泰だ…」


「ネレイス家ってなんかあるの?」

「は、はい…ネレイス家は歴史の古い家でして、軍医としても活躍される方等も輩出している名門家なのです」

「…私は叔母上のようには上手くやれないがね…まぁ、多少は叩き込まれている」


 その後、彼の手当てを済ませた後にガラス玉を砕きグスタフ教官の元へと飛ばした。

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