第十三話:人の幸せを素直に一緒に喜ぶぐらいの気概はねぇのか!
そんな良いことをすると、善行が善行を呼ぶのか、桃に良いことが起こった。
それは若佐の心中未遂があって三日後のことだった。
桃はいつも恭介にお弁当を渡すとき、ちょっとした手紙を添えて渡していた。
たとえば、季節の変わり目なら、「体調に気を付けてください」とかちょっとした気遣いや思ったことをメモ紙に一筆したためて、お弁当と一緒に渡していた。
そして、一週間ほど前、メモ紙に「付き合ってもいいならお弁当を残してください」と書いて渡した。
しかし、お弁当は完食されていた。
それを聞いたとき、青は言った。
「お弁当を残すよりも、付き合ってくれるなら完食してくださいの方が良かったんじゃないか。その方が腹も減ってるし食べるだろ」
「でも、それだと付き合いたくないから、でせっかく作ったお弁当を残されたら、なんかダブルショックじゃない?付き合わないからお弁当を完食する方が残念だけど嬉しくない?」
確かにそうかもしれない。付き合わないからお弁当を残すでは居た堪れない。
「桃は策士だな」と青は感心した。
そう桃は甲斐甲斐しい女なのだ。
桃も恭介が残すようにあえて恭介の嫌いなニンジンをメインにしたお弁当を作ったりもした。
恭介はきれいに完食した。
それが桃にとっては嬉しくもあり、潔い良くて清々しかった。
ふられて満足。
しかし、それは起こった。
昨日、恭介から返ってきたお弁当箱の中に手紙が入っていたのだ。その手紙には「完食したけど付き合おう。今度、二人で遊びに行こう」と書いてあったのだ。
桃はそれが嬉しくて真っ先に青に言った。
恭介が桃と付き合うというニュースはSNSを通して瞬く間に恭介ファンに広がり、学校中に広がった。
青と一緒に登校してきた桃は更に注目の的になっていた。
そして、いつものように恭介の教室に行きお弁当を渡して自分のクラスに返ってきた。
すると一人の男子生徒が心無い言葉を隣に座る友人に向かって言った。
「まさか嶋があいつと付き合うとはね。驚きだよ。一体どんな弁当を作ってきたんだ?海苔の代わりに万札でも敷き詰めた万札弁当でも渡したんのか?」
「なんせ宝くじが当たったんだからな」と二人はクラス中に聞こえる声でしゃべり、せせら笑った。
それを聞いた他の生徒が失笑した。
桃は自分の机に座り、一人苦笑を浮かべた。
それを桃の後ろの席に座って聞いた青は笑ってはいなかった。笑うどころか目が座っていた。
「こいつら一度、若佐が死んだっていうのに……」青は呟いた。
それを聞いた桃は、後ろを向いて青を見て呟いた。
「仕方ないよ。若佐さんが死んだことなんて誰も知らないんだから……」
皮肉を言っている男子生徒は更にみんなに聞こえよがしに言った。
「いいなぁ、俺も万札弁当、食べてみたいなぁ~」
また他の生徒は笑い、桃は一人、苦笑いを浮かべていた。
青が無言で席から立ち上がった。
そして、心無い言葉を発した男子生徒のところにゆっくり歩いていき、男子生徒の目の前に立った。
男子生徒は青を見上げた。
「ああ、なんだよ?なんか用か?」
青は男子生徒を見下ろす形でねめつけた。
「どうしてお前はそうなんだ?」青は小声で呟くように言った。
しかし、男子生徒には、はっきり聞こえなかったのか、
「ああ!?何言ってんだよ。聞こえねぇよ」
青はさっきより大きく重々しい声で言った。
「どうしてお前はそうなんだって言ってんだよ!」
「はぁ!?」男子生徒は青に挑発するように言った。
「桃が幸せならそれでいいだろ!」
「なんだよ!」男子生徒はつっぱってみせた。
「どうして、初めに悪口が出てくるんだ?おかしいだろ?人の幸せを素直に一緒に喜ぶぐらいの気概はねぇのか!ええ!」青は男子生徒を怒鳴りつけ、男子生徒の胸倉を思いっきり掴み引っ張った。
男子生徒は思わず怯んだ。狼狽するも虚勢を張った。
「や、やんのか!?」
「やるに決まってるだろ!立てこら!」青は、男子生徒を胸倉を掴んだまま立たせた。
二人は殴り合いになった。教室は騒然となった。
青は職員室に呼び出された。
そして、放課後もまた呼び出された。
担任の先生から一時間ほど、こっぴどくお説教を受けた。
職員室から出てきた青はムスっとした顔をしていた。
青の頬には引っかかれて出来た傷の跡がある。
職員室の外の廊下で桃が待っていた。
桃は青の顔を見るなり言った。
「そんな顔しているから、一時間も説教されるのよ」
青は無言。全く反省していない。
青は若佐を誹謗中傷し追い詰めておきながら、まだ他人の悪口を言ってせせら笑うクラスメイトに腹を立てていたのだ。
「ほんと、私のことなら別にいいのに。何言われても気にしてないから」
「そういう問題じゃねぇよ!」仏頂面しながら青は言った。
そう桃への悪口だけではない。
青は自分自身にも腹を立てていた。
それは今まで桃が陰口を言われても、「気にするな」「言いたい奴には言わせておけ」と、一見励ましているように見えて実はそうではないのではないかと疑問を持っていた。
親友ならもっと桃に寄り添うべきでないのか?
少なくとも牧野は、未遂事件の後だったにせよ自分の気持ちを本気で若佐に打ち明けた。
青は牧野の姿を見て、自分は桃にうわべだけの対応しかしていなかったのではないか?
そのことにに気づき心底、自分に腹を立てていたのだ。
桃は青の葛藤を知らない。
「ほんと、あれじゃ輩だよ」桃は優しい口調で言った。
「いいよ。もう輩に見られてるから……」青は言うも、半ば開き直っていた。
そんな青を桃は見て、少し微笑んで「ありがとう、青」と一言、言った。
青は何も言わず、そして二人は下駄箱に向かった。
すると、下駄箱のある入り口に一人の女子生徒が立っていた。
詩織が待っていたのだ。
青は詩織を見るなり立ち止まった。
詩織が青に話しかけてきた。
「青君、カッコよったよ。じゃぁまたね!」その一言だけ言って小走りに去っていった。
青はただただ呆然とした。
桃はニヤニヤしながら青に傍に来た。
「良かったじゃん。あの一言言うためにわざわざ青のこと待っていたんだよ、きっと」
青はその場に立ち尽くした。
桃は青の体に体をぶつけて、
「青、私は人の幸せをめっちゃ喜ぶタイプだから」桃は終始ニヤニヤした。
その夜、団地の部屋で青は台所の冷蔵庫からジュースを取りに行った。
台所で料理を作っている理沙に何気なく話しかけた。
「母さんがお父さんと結婚した理由がわかったような気がする」
「何、いきなり?」
「ほんと、人って心でいきてるんだぁ」
「どうしたの?」
「いや、心ってどこにあるか見えないけど確かにある」
理沙はにやけて照れながら言った
「何言ってるの、気持ち悪い子ね」
「気持ち悪いってなんだよ!母さんがそういうこというからルナも真似するんだよ。辞めてよ!」
理沙は笑った。




