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第十四話(最終話):時は流れ

それから時は流れ、若佐はフランスにいる。

そう若佐はモデルとして、牧野はデザイナーとしてフランスで成功を収めたのだ。

そして今、若佐はエッフェル塔の近くにあるシャン・ド・マルス公園で日本人女性編集者からインタビューを受けていた。

「牧野には感謝している」

「牧野さんとは同級生なんですよね」

「ええ。年齢は私の方が一つ上ですけど、牧野が私をこの世界に誘ってくれた。いや、それ以上のことをしてくれた。ほんと牧野には感謝してもしきれない」

「牧野さんとは仲がいいんですね」

「デザイナーとモデルの関係ですけど、それ以上の関係だと思う。二人でフランスにやってきて、ほんと認めてもらうまでは大変だった。でも、二人だからこそ、お互い励まし合って頑張ることが出来た。時にはぶつかり合ったり、大喧嘩もしたけど。でも、苦労を苦にはおもったことはなかったわ。それも一つの楽しい体験と思っていたわ」と言って若佐は思い出し笑いをした。

「それに私は一度死んだ身だから、ほんと、どんな苦労も苦とは思わなかった」

「死んだって、何かあったんですか?」

「あったっていうか、やったのかな。私は学生の頃、いじめられてたんですよ」

「いじめに会われたんですか?」

「はい」

「なんか意外ですね」

「あまり気にはしてなかったんですけど、それでもいじめられると落ち込むじゃないですか。それと人生もなんかうまくいかないことばかりで、それで父と心中したんです。お互い疲れていたし、なんかうまくいく見通しも見えなかったし、ほんと詰んじゃったっていう感じ。それでもういいかなって、睡眠薬飲んで練炭燃やして死のうしたんです。そしたら助けられた。ほんと、あれは今考えてもなぜ私たちが助けられたのか、全くわからない……」

「どうしてですか?」

「家で死のうとしたんですよ。誰にも悩みを打ち明けることなく、誰にも話さず、衝動的に父と決めて死のうとしたんですよ。それなのに助けられた。どうして助けられるんですか?誰も知らないのに……。私はそれを考えるとほんと今でも不思議で全くわからない」

「助けたのは身内か親しい人だったとか」

「いえ、助けたのは同級生でした。別段親しくもなかった。なのに私たち親子を助けれくれた。そう、あれがなかったら、私はここにいない……」若佐は空を見上げる。雲一つない抜けるような青い空。若佐はそれを見てしみじみ言った。

「今日のような青空を見ると私はその人と彼女のことを思い出す」若佐はしみじみと青空を見た。

「決して忘れない」若佐は清々しい顔をして呟いた。


喫茶眉唾に一人のスーツ姿の若い男が現れた。

店主の魔貝は男を見るなり、頬を緩めた。

男はカウンターに座った。

「どう、忙しいですか?」魔貝が尋ねた。

「忙しいですね。特に景気が悪いせいか、どうも厄介なことが多い」と愚痴た。

魔貝は珈琲を男の前に出した。

男は珈琲を一口飲んだ。

「なら、景気のいい話でもしましょうか?」

「景気のいい話?」

「実はここだけの話、政府が面白いことを始めよとしているんです」

「面白いこと?」

魔貝は男に囁くように言った。

「そう、実は政府は景気対策のために給付金を国民に渡すのではなく、一千億円分の砂金を荒川に流すっていう話がまことしやかに進んでるんです」

男は苦笑した。

「砂金ですか?そんなの荒川に流してどうするの?」

「荒川に砂金を流せば、砂金を手に入れようとする者が集まる。砂金を手に入れるために荒川の川底の泥をすくう。そして川底の泥が取り除かれる。そこに小石を敷き詰めれば鮎が遡上するほど綺麗な川になる。どうです。ウィンウィンの関係が出来るでしょう。まさに一石二鳥だ、いや三鳥、それ以上だ。それを今、政府と東京都が極秘裏に計画してるんですよ」

男は苦笑した。

「ほんとですか?」

「ほんとだよ。ちゃんとプロジェクト名もある」

「どんな名前ですか?」

「荒川ゴールドラッシュ」

それを聞いていた男は笑った。

「荒川ゴールドラッシュ?なんか胡散臭いなぁ」

「そんなことないでしょう。現実味ある」

「それ、一体どこ情報ですか?」

「それは言えないな。情報っていうのはいつも秘密の中にあるものだから」

「怪しいな。まぁ、ここで怪しくない話を聞いたことないからなぁ」

「失礼な。怪しい話なんてないよ。ちゃんと裏とってるんだから」

「裏って、それどこです?」

「それは言えない」

「ほら、いつも言えないじゃないですか!」

「でも、そのおかげでためになったこともあるでしょう?」

「いろいろ助かったこともありましたけど……」

「どうです!荒川ゴールドラッシュが始まったら一緒に行きませんか?」

「砂金、獲りですか?」

「夢があるでしょう。そしたら、桃ちゃんも呼びましょう」

「桃を」

「ゴールドラッシュが始まれば、当然、人が集まる。そうしたら飲食の場が必要になる。そこへ桃ちゃんのキッチンカーを呼べば桃ちゃんもひと稼ぎ出来る」

「確かに」

「お金っていうのは、ただばらまけばいいものではない。ばらまくより、雇用を生み出すことの方が大切なんです。そうすれば何かが始まる」

「なるほど」

「こんな眉唾みたいな話も、役立つときもある。それに何より眉唾にはロマンがある」

男は微笑み、言った。

「ほんと魔貝さんにはかなわないな」

珈琲を飲んだ。


      〈終わり〉


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