第十二話:夢の力
若佐と父は大量に睡眠薬を飲んで、一酸化炭素で死のうとしたのだ。
それを青と桃が救い、救急隊が早急な処置をしたため、二人は一酸化炭素を吸い込むこともなく大事には至らなかった。
早期発見が功を奏したのだ。
駆け付けた警官から若佐の無事を聞いたとき青と桃は心底、安堵した。
桃はその場にへたり込み、「良かった!良かった!」と泣きながら喜んだ。
若佐と父は経過観察のため入院した。
若さの父は警官の事情聴取にも応じていた。
若佐が落ち着いたころ、青と桃は若佐の見舞いに病院に行った。
その道すがら桃は青に尋ねた。
「私たちはこれから一体どうすればいいの?」
「俺たちが若佐と親しくなればいい」
「それって友達になるってこと?」
「嫌か?」
「嫌というより、若佐さんがどう思うかなぁ?」
「俺は若佐の彼氏になる」
「それ本気?」
「本気も本気。悪いか?」
「悪くないけど、それこそ若佐さんがどう思うか?」
「まぁ、今すぐでなくとも……。兎に角、若佐と親しくなって三人でつるもう」
「そうだね。三人で遊んだりすればいいんだね」
「若佐は俺たちよりずっと大人だよ。嫌な奴じゃない。きっと親しくなれる」
「そうだね」
青と桃は若佐が入院している病院に行った。
病棟のナースステーションで面会者名簿に名前を書いた。
すると若い女性の看護師に声をかけられた。
「もしかして若佐さんにお会いに来たのですか?」
「はい」桃が言った。
「あなたたちも同じ学校の人?」
「も?」桃が呟き、青を見た。
「もう既に誰か来ているのですか?」青が尋ねた。
「ええ、来てるわよ」
「じゃぁ、会わない方がいいんですか?」
「大丈夫よ。あなたたちと同じ学生よ」
「そうですか……」
看護師は微笑んでから、ナースステーションの奥に引っ込んだ。
青は思った。
学校でいじめに会っていた若佐に一体誰が会いに来るのだろうか、と。
桃も同じようなことを思っていた。
「行っていいの?」
「看護師さんがいいって言ってるんだからいいんじゃないか」
青と桃は若佐がいる個室に向かった。
若佐のいる個室の近くまで来ると青と桃は入り口の脇で立ち止まった。
中から声が聞こえてきた。
「私、若佐さんのことを思って、沢山服をデザインして作っているです!私の夢は若佐さんが私のデザインした服を着てパリコレでランウェイするのが私の夢なんです!だから死ぬなんて辞めてください!私から夢を奪わないでください!」
「……」青と桃はその言葉を個室の入り口で黙って聞いた。
女子生徒の涙交じりの声が青と桃にも聞こえてきた。
桃はそっと部屋の中を覗く。
青は桃の腕を掴み、部屋から離れ、ナースステーションの前まで戻ってきた。
「部屋にいたの牧野さんだったよ」
「牧野ってあの小さくてクラスでも目立たない牧野か?」
「悪かったわね、小さくて。私と同じよ」
「でも、牧野がなんで?」
「一度だけ、牧野さんの私服姿、原宿で見たことあるの。凄い奇抜な服着てた。牧野さんから声かけられなかったら全くわからなかったわ」
「そうなん?」
桃は頷く。
「牧野さん、将来デザイナーになりたいって言ってた。だからきっと背が高くて存在感のある若佐さんに憧れていたんじゃないかな。若佐さんに自分のデザインをダブらせていたんじゃないかな。若佐さんが自分がデザインした服を着てパリコレでランウェイをする姿を本気で夢見ていたんだよ!」
「凄い夢だな」
「でも、良い夢だよ」
「誰も悪いなんていってないよ。良いと思う。今の若佐を前向きな気持ちにするのは希望に満ちた夢かもしれない」
「青、ふられちゃったね」
「俺の考えは浅はかだったから。でも、牧野は凄いよ」
「なんで?」
「自分の気持ちをまっすぐ正直に伝えたんだ。それが今の若佐をどれだけ勇気づけるか。ほんと牧野は凄いよ」
「そうだね。中々、想いを正直に伝えるって難しいよね」
「人は見かけによらないってことだ」
桃は満面の笑みで頷いた。
二人は病棟を後にした。
若佐親子の心中は未遂で終わった。
後日、青と桃は警察から感謝状を頂いた。
どうして助けることが出来たかを聞かれたときは、青はただ一言、「なんとなく」と答えた。




