第十一話:救出
二人は肉のまるちゃんを尻目に商店街を抜け国道に出てタクシーを拾った。
タクシーに乗った青と桃は暫く無言だった。
いや、変な緊張状態にあった。
それも致し方ないこと。
なぜなら今日の夕方、若佐は父親と一緒に心中することを知っているのだから。
そして、それを今から助けなければいけない。
緊張するのは当たり前。
それに耐えきれず桃がしゃべった。
「見て!手が震えてる。なんか落ち着かない!」
「仕方ないよ。これから心中してしまう若佐に会いに行くんだから」
「家についたら、どうするの?」
「兎に角、呼び出して外で話そう」
「なんて話すの?」
「死ぬのはやめろって話すんだよ」
「ええ!そんなハッキリ言うの!?もっとオブラートに包んだ方が良くない?」
「いや、ハッキリ言った方がいい。じゃないと止められないと思う。ただ若佐にあしらわれてお終いだと思う。変に気を使って言葉を濁すよりも、はっきり言った方がいい」青は自分に言い聞かせるように言った。
「若佐さん、きっと驚くよ」
「その方がいいだろ」
「そうだね。会って死なないでって言った方が案外いいかも」
「そうだよ。若佐の父親にも会ってさ、死なないでくれって言った方がいい。それをするためにここに戻ったんだ」
「うん」桃は力強く頷いた。
タクシーは住宅街の中で停車した。
青と桃はタクシーから降りて小巻の家まで歩いた。
表札を見ながら歩いた。
そして、若佐の表札がある家の前で立ち止まった。
一戸建ての普通の家。
青とも桃は緊張している。心中を止めるという責任を背負っているのだから当然のことかもしれない。
玄関に呼び鈴があった。
「じゃぁ、押すよ」
桃は頷く。
青は呼び鈴を押す。
返事はない。
再び呼び鈴を押す。
何の反応もない。
「いないのかな」
「いや、そんなはずはない」
青は、ドアノブを握り開けようとする。
「ダメだ。鍵がかかっている」
「留守なんじゃない?」
青は、玄関から家の周りを回って部屋が見えるところに行った。
「ちょっと、勝手にいいの?」
「勝手もクソもあるか。死なせないためだ」
青は家の壁伝いに奥へと入っていった。
そして、外から居間の中が見えた。
テーブルの上に湯飲み茶わんと出前を取ったであろう鮨桶が二つ置いてあった。
「怪しいな」
「何が」
「ほら、テーブルに器がある。なんか今さっきまでここで飯を食っていた。そんな感じ、しないか?」
「そうだね……」
青は嫌な予感がした。いや、嫌な予感しかしない。
青はガラスドアを開けようとするも開かない。
「桃、もう一度呼び鈴、鳴らしてくれる?」
「わかった」桃は玄関に戻り、呼び鈴のボタンを押す。呼び鈴が鳴っている音がガラス越しに青にも聞こえてくる。しかし、何も変化はない。
桃が青のところに戻ってきた。
「どうだった?」
「いや、何もない」
「やっぱ留守なんじゃない?」
「中に入ろう」
「どうやって?」
青は、辺りを見渡した。すると自転車の空気入れが家の端に置いてあるのを見つけた。
青はそれを手に取り、窓ガラスに向かって振り上げた。
桃は慌てて「ちょっと!」と青を制しようとするも青は躊躇いなく空気入れを振り下ろして窓ガラスを割った。
ガラスの割れる音が閑静な住宅街に響く。
隣の家の人が窓から顔を出して青と桃を驚いた表情をして隠れるように見た。
「ガラスが割れたのに、誰も来ない」青が言った。
「だから、留守なんじゃないのって!」
「いや、そんなことはない」青は割れた窓ガラスに手を入れて鍵を開ける。そして、窓ガラスを開いて中に入った。
「ちょっと!入るの?」
「入るために割ったんだよ!」
青は緊張した面持ちで躊躇いもなく部屋に入った。
桃も続いて入った。
青は階段下から二階を見上げた。
「二階へ行くの?」
「さっきから嫌な予感しかしないんだ」
「でも、二人が心中するのは夜のはずよ?」
「いや、あの人は時間は生きているっていっていた。もしかしたらこのことかもしれない……」
青は意を決して二階へ駆けあがった。
桃も青に続いて駆け上がった。
二階には部屋が二つあり、青は慌てて手前のドアノブを廻した。
ドアは開いた。部屋には勉強机がある。どうやら若佐の部屋だろう。
しかし、誰もいない。
青はすかさず隣の部屋のドアノブを廻そうとしたが廻らない。
「開かない!中からカギがかけられてる!」
桃は鼻をクンクンさせる。
「なんか臭わない?」
青も匂いを嗅いだ。
「ちょっと勘弁してくれよ」
青は、緊張した面持ちでドアに体当たりした。しかしビクともしない。
二度三度と体当たりするもドアは一向に開かない。
青はドアと距離を取り、勢いをつけてドアを前蹴りでドアを押し倒すように蹴った。
ドアは蝶番のところから壊れ、ドアは中に崩れるように壊れた。
すると黒煙が青と桃の方に向かってきた。
「うわぁ」と桃は悲鳴を上げて咄嗟に体を屈めた。
練炭は燃え始めたばかりだった。
青は部屋の中を見た。
テーブルに睡眠薬の瓶が置いてあった。
若佐と中年男性が床に寝ていた。
「何か、飲んだな。おそらく睡眠薬だ」
「え⁉」
青は部屋に入り、若佐を抱きかかえ、部屋から連れ出した。
桃は青の傍で狼狽していた。
「桃、若佐を見てくれ!」
「見てくれって言っても!」
「いいから起こせよ!口の中に指突っ込んで吐かせろよ!」
「ええ!」
桃は若佐の前にひざまづいて、若さの口に無理やり指を突っ込んだ。そして体を揺らした。
しかし、若佐に反応はない。
「ああ、どうしよう!」
青は、部屋に入って中年男性の腕下に手を入れて部屋から引きずり出した。
黒煙がどんどん大きくなっていき家中に流れだした。
「青、全然起きないよ!」桃が動揺して叫ぶ。
「兎に角、指突っ込んで吐かせろ!救急車呼ぶから待ってろ」
青はスマホを取り出そうとした。
すると、そこへ警官が二人、現れた。隣人がドアを破り侵入した青と桃を見て通報したのだ。
「君たち、何をやってるんだ!」
「何をやってるって、見ればわかるでしょ!人が死のうとしてるんだよ!」
警官は黒煙を見て、青と桃の傍で仰向けになっている若佐と中年男性のところに来た。
「兎に角、君たちは外に出なさい。後は私たちがやるから!」警官の一人が無線で応援を呼んだ。
家の外から青と桃が二階を見上げた。
すると遠くからサイレンの音が聞こえてくる。
「助かるかな?」
「ほんと勘弁してくれよ……」悲痛な面持ちで青はぼやいた。




