シュート・アウト
カワサキは、次の2人目を探しに移動を始めたが襲撃してきたグループの中にライフル銃を持っている者がいることが分かったので、更に細心の注意を払ってストーキングをしなければならないことを自覚した。もし、ライフル銃を持っている相手がハンティング用ライフル銃ならば、この森の状況では目の前に群生しているチマキザサの群生地に入り込まなければ大きな脅威とはならないが、アサルトライフル銃であるならば近距離では連続発射をしてくる可能性があるばかりでなく、拳銃弾の威力よりも強力なパワーを有するライフル弾を浴びせられるのは相当不利な状況と考えた。
そんなことを思いながら、カワサキは森の中を進み始めた。やはり15メートル程歩いていると僅かに不自然な草むらが目に付いた。じっくりと注意深く見るとギリースーツを着た相手がチマキザサの辺りを執拗に見ている姿だとカワサキには分かった。
カワサキが2個目の手榴弾を左手に持って、右手で安全ビンを抜くと下手投げで山なりに相手の足元へ投擲すると素早く手近な樹木の陰に逃げ込む。カワサキが投げ込んだ場所は偶然にも落ち葉が厚く堆積していたので、大した音を立てずに相手の足元へ転がっていった。ちょっとの間があって手榴弾が爆発すると相手の膝から下は吹き飛び、ボロボロになったギリースーツ等の合間から小腸のような臓器を飛び立たせてチマキザサの群生地へ飛ばされる。
死体が飛び込んだチマキザサの葉がガッサァと大きな音を立てて揺れると、今回も二方向から銃撃があったが、銃撃を終えるとグループのリーダーと思われる男が仲間の生存を確認しようとして無線で呼び掛けたのだが、返答は1人だけであることはカワサキも奪った小型無線機で傍受しているので何となく分かる。
本来なら、この段階でパニックになりそうな状況だが、リーダーの男は何らかの命令を残った部下に伝えたようである。
そうなると2人が合流して2人連携して攻撃をしてくるか、或いは別の場所に2人で移動して攻撃してくるかといったところだが、カワサキならライフル銃を持っていることを最大限活用するなら、この地形から離れることはないと考えた。木立が密生している場所では、如何にライフル銃で離れた場所から銃撃できるといっても取り回しが悪いだけではなく、木々が邪魔をして狙った所へ着弾する望みが薄い。
カワサキが、このエリアから脱出すると思っているなら別だが、そうでなければ此処なら100メートル離れた場所からライフル銃で狙撃は充分に可能である。確か奪った航空写真では近くに開けた場所は、ここ以外なかったはずなので、リーダーの男が選択したのは部下と合流して、ライフル銃で100メートル先を狙っている間は、もう1人に背後を監視させることだと結論した。
時計回りで相手2人を探すべくカワサキは、ストーキングを始めると10メートル程歩いた辺りで地面が岩場のようになり周囲も幹が細い樹木しか見掛けなくなってきた。すると2メートル先に蛇が蜷局を巻いているのが見えた。蛇ごときに銃器を使いたくなかったカワサキは、ポケットから折り畳み式のナイフを取り出して刃を起こした。トラップ爆弾の解体で数ヶ所の刃が欠けているが、蛇を相手にするのに不足はない。
すっかり近くまで蛇に近寄ると、蝮が蜷局を巻いていたがカワサキが近寄ると頭をもたげ鎌首状態でカワサキに攻撃を仕掛けてくるつもりだ。カワサキは左手に折り畳み式ナイフを握りながら、更に蝮との距離を詰めると、蝮はカワサキを目掛けて飛び掛かってきた。カワサキは、身軽なステップで蝮をよけると蝮の背後からナイフの刃先で、蝮の延髄辺りを切りつけた。蝮は口を開けて噛もうとしているが、胴体から尻尾にかけてダランとして動けない。カワサキは、その蝮の左右に張った顎の辺りを掴むと蝮をぶら下げながら、襲撃者の2人を探す。
蝮を捕獲してから、30メートル以上は歩いたであろうか、15メートル程先にギリースーツを着た相手が背中合わせになっているのを発見した。
周囲の木立は比較的太い幹が少ないので、カワサキのストーキングでも接近するのが難しいが、なんとか5メートルくらいまで距離を縮めたところで持っていた蝮をカワサキ側の方を向いている相手に向けて投げ込んでみた。蝮が飛んでくるのを見付けた相手が、空中にいる蝮に向けてマカロフ拳銃を発砲するが、弾頭部分に小粒な散弾が備えてられている弾薬ならば命中させることも不可能ではないが、通常の弾頭で蝮くらいの物体に命中させるのは至難の業と言える。
仲間の発砲音に反応した別の相手は、ライフル銃を構えた状態で振り向いた。やはり持っていたのはロシアで開発されたAKS74であった。発砲音に特徴があるのと、弾倉の形状が前方に向かって湾曲した特徴を備えているが、ギリースーツに弾倉の辺りが隠れて目視ができなかったが、カワサキの側に振り向いた時に、銃身部がハッキリと見えたので特定することができた。
1960年代、米国では小銃の小口径化が進められベトナム戦争では5.56ミリメートル×45弾を使うM16というアサルトライフルが投入された。このM16から始まった小銃の小口径化は、その後に西側諸国の潮流となったため旧ソ連においてもAKMカラシニコフを改造して5.45ミリメートル×39弾を使うAK74を開発、1974年からソ連軍で配備されることになった。
開発されたAK74は性能・実用性共に極めて優秀な小銃であったことから米国のM16アサルトライフルに対して強力なライバルとみなされらた。しかし、AKMカラシニコフが大量に普及配備されていた共産圏・親ソ連諸国では想像以上にAK74への更新が進まなかったのだが、北朝鮮では小銃の小口径化の重要性が早い段階から認識されていたため、早期にAK74の導入が進み80年代から国産化が開始され88式小銃の名称となり90年代には人民軍の各部隊への配備が行われた。
人民軍に配備されたAK74は銃床が木製或いはプラスチック製のベーシックモデル以外に、金属製折り畳み式銃床のAKS74が特殊部隊等に配備されているほか、カービン化されたAKS74U等も確認されている。
相手がAKS74を所持していることが分かったカワサキは、少々厄介なことだと思った。折り畳み式の銃床ということは森の中で全長が最小で70センチメートル弱となり取り回しが良いだけでなく、有効射程が500メートルなのでジャングルのような場所では充分であり、加えて連射速度は1分間に600発くらいなので、相手が予備弾倉をどれだけ携行しているのか分からないが、複数の予備弾倉を持っていて弾幕を張られるとカワサキにとっては相当の脅威になる。
背後を見張っていた仲間が、飛び込んできた蛇に拳銃弾が当たらず足元に着地し、その蛇が蝮であることが分かって動揺しているのに気付いたAKS74を構えている男は、地面の蝮に対して2発の5.45ミリメートル弾を発砲すると命中した蝮は胴体が真っ二つに千切れて吹っ飛ぶが、地面に当たった5.45ミリメートル弾は跳弾となり、その1発はカワサキの右肩を掠めていった。お陰で、カワサキが着ていたシャツの右袖の付根は数センチメートル程裂かれてしまっただけでなく、右肩の肉を僅かばかり抉っているので出血もしてくる。
ショルダーバッグからファーストエイドのキットを取り出して手当てをしたいところだが、襲撃してきた相手が2名も目の前にいる状況では無理な話である。
右肩に少々の痛みを感じるカワサキだが、拳銃を撃てない程ではないので、両腕でM&P5.7拳銃を構えて右側に自生している幹に右腕を添えて構えを安定させると三連射を放つ、2発の弾丸はマカロフ拳銃を握っている相手の胸部に命中すると相手は前のめりに崩れるが、崩れ出したところへ3発目が頭部に命中して相手は完全に絶命した。
カワサキの発砲音で、身を屈めていたAKS74を持っていた相手は、仲間が撃たれたことが分かると射撃モードを単発から連射に切り換えて弾倉に残っていた弾薬を全て発砲してきた。カワサキは、瞬時に地面に伏せると相手が放ってきた弾丸の殆んどが木立の幹に命中してカワサキの全身は、飛び散った木片を浴びてしまう。
一定以上の距離が離れて、射手の腰から下の位置にある標的に命中させるのは容易なことではない。そこで、カワサキは腹這いの姿勢でM&P5.7拳銃を発砲しようとするが、目の前に背丈の低い雑草が邪魔で相手を捉えることができない。
跳弾によって抉られた右肩の痛みがあるが、決して動けぬ状態ではないので左に1回転がって僅かに位置を変えて相手を狙うと、相手は空の弾倉をAKS74から外してギリースーツに備えていた予備弾倉を取り出そうとしているところであった。
カワサキは、相手の腹部辺りに2連射を放つが、急いで発砲したので相手の右肩辺りに2発とも着弾した。撃たれた相手は、左手で右肩を押さえようとして予備弾倉を足元に落とすと、苦痛に表情を歪めながらしゃがみ込んで右腕を押さえていた左手を離すと落とした弾倉を拾うが小銃を右腕で支えられないのか、銃床を右脇腹辺りに押し当てて腰だめのような態勢で小銃に予備弾倉を叩き込み、左手で被筒を握るとカワサキが腹這いになっている辺りに向けて10発程度を連射してきた。しかし、放たれた弾丸は全て1メートル程上を通過してゆく。右利きの射手が銃床を右腕の付根に固定して照準せずに腰だめで発砲すれば、余程の近距離でなければ正確に銃撃することはできない。カワサキの耳には通り過ぎる弾丸の風切り音が聞こえると、カワサキも相手に向けて応射を3発連射した。相手も発砲直後にカワサキに射殺された仲間を楯にして隠れたので、カワサキが放った弾丸は全て死体に命中しただけであった。
相手は仲間の死体を左手で掴んで楯にしていたが、カワサキの拳銃弾が仲間の死体に食い込むと、死体を離して小銃の発射態勢を整える。カワサキも急いで立ち上がると3メートル程離れたところにある小さな岩に逃げ込んだ。それを目にした相手は、身体全体をカワサキが逃げ込んだ岩に向けると再び10発の連射をしてくる。今度も腰の高さくらいに跳んできた弾丸はカワサキが逃げ込んだ岩に命中するが、カワサキは逃げ込んだ瞬間に屈んでいたので5.45ミリメートル弾の餌食になることはなかった。
カワサキは、M&P5.7拳銃を右手に持ち変えると左手で最後の手榴弾を取り出して安全ビンの輪っかを歯で咥えて抜き外し、相手に向けて山なりに投げ込んだ。手榴弾が投げ込まれたことが分かった相手は、飛翔中の手榴弾を撃ち抜こうと弾倉に残っている10発を連射すると偶然にも1発が手榴弾を撃ち抜いたが、命中した瞬間に空中で手榴弾が爆発したので、金属片が周囲に飛散した。小さいながらも岩に身体を隠していたカワサキは、手榴弾の破片が当たることはなかったが、小銃を構えていた相手は、仲間の死体を楯にする余裕もなかったために手榴弾の破片を全身で浴びることとなり、身体全体はすっかり血だらけになっている。しかし、辛うじて絶命とはなっていないようで、動きがスローモーションのようにゆっくりではあるが、小銃を捨ててバックアップ用のマカロフ拳銃を取り出そうともがいている。
その様子を目にしたカワサキは、M&P5.7拳銃を楯にしている岩を支えにして、相手の胸部を狙って2発を連射した。放たれた2発の弾丸のうち1発が相手の眉間に命中すると相手の後頭部からパッと血煙が吹き出し、鼻から多量の鼻血が噴き出して前のめりに崩れた。
これで、カワサキを襲撃したグループを殲滅したことでホッとしたカワサキは、担いでいたソフトケースとショルダーバッグを降ろすと、ショルダーバッグからファーストエイドのキットを取り出して右肩の応急手当を施す。左頬の傷は血が止まり大した痛みもないので、特段の手当てをせずにしておいた。
ショルダーバッグとソフトケースを担いでから、CIAへ状況報告をしようと携帯電話を取り出すと、CIAからメールが届いていた。怪訝に思ってメールを開いてみると追加情報と記されており、カワサキがパジェロミニを停めている周辺に3名の人物が徘徊しているとの内容であった。
確かに、カワサキを確実に暗殺するつもりであるならば、二重三重のバックアッププランを用意しておくのは当然なことであり、随分と念の入ったことだと思ったが、問題は今のカワサキが武器・弾薬の補給を受けることができない状態であることに加え、M&P5.7拳銃の残弾が少なくなっているだけではなく予備弾倉も携行していない。更にライフル銃は13発分を持っているだけで、果たして3人の相手を確実に倒せるかということである。
そこで、カワサキは倒した2人のところへ行ってみる。特に、AKS74を持っていた相手の身体を丹念にチェックする。もし予備弾倉を1個でも持っていれば30発の弾薬を己の武器にすることができる。ギリースーツの上から探ると予備弾倉が1個あった。ホッと安堵した心持ちでAKS74を奪って予備弾倉を叩き込み遊底を操作して薬室に弾薬を装填すると安全装置を掛ける。更に、相手がバックアップ用に携行していたマカロフ拳銃を奪うと、別の男が持っていたマカロフ拳銃から弾倉を奪うと、マカロフ拳銃の遊底捍を引いて薬室に装填されていた弾倉を取り出して奪った弾倉に補弾する。
これからカワサキは、パジェロミニを停めた場所へ戻るつもりであるが、それまでに倒した相手から奪える武器によって戦うための備えてを充分にして、この窮地を生き残って脱出するミッションを自らに課した。




