表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姿なき狩人  作者: 二条路恭平
プロローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/36

ブラッドリー

辺りに肉片が飛び散った後、周囲には独特の血生臭い臭いが漂い出すと斜面の頂上付近の2方向から拳銃の発砲音が響いてくると、カワサキの近辺にそれぞれ着弾してくる。

左手にM&P5.7拳銃を握り締めながら、今いる木立の陰から身を屈めながらカワサキは素早く移動する。やはり、斜面の頂上では2人の襲撃者が待ち伏せてカワサキを挟み撃ちするように拳銃弾を浴びせてくるつもりだったのだろう。

上にいる2人が手榴弾を投擲してくると厄介だとカワサキが思いながら、どちらを狙って集中的に反撃するかを思案していると、カワサキから見て右側の相手が斜面を降りて接近戦を仕掛けてくるつもりなのか、草丈の長いチマキザサがガサガサと音を立てて揺れているのが見えた。斜面を降りてくる相手は慎重に接近してくるつもりだろうが、山土の斜面を音を立てずに降りてくるのは相当の身体的能力と経験がなければ簡単にできることではない。そうなると、斜面を降りてくる右側の相手ではなく、左手の相手を集中的に狙うことにした。何故ならば斜面を降りている最中の態勢が安定しない状態では正確な射撃は不可能と言えるし、仮に射撃をしたとしても発砲したときの反動で態勢を大きく崩して尻餅をついたり、斜面を滑り落ちることになってしまう。更に、姿を直視できないが笹の葉が揺れ動くことで相手の位置を把握するのが容易なので頂上付近に居る相手よりも対応しやすい。

カワサキは、右手の相手から少しでも死角となるように大きめな木立の左斜め後ろでニーリングのポジションをとり、更にサポートハンドの右手首を幹に当ててM&P5.7拳銃を安定させると斜面の頂上に居るはずの相手を探した。先ほど射撃されたことで概ねの位置くらいは見当が付いている。

バックアップをしている相手が、斜面を降りている仲間の行く先に向けて拳銃を構えていることで拳銃の鈍い反射光にカワサキが気付いた時、右手から斜面を降りている相手が拳銃を発砲した音が聞こえると、カワサキが盾にしていた幹に着弾して粉砕された樹皮や木片がカワサキの顔へ飛び散ってくる。それと同時に小さな黒っぽい塊が左頬を掠めると一瞬の暑さを感じた後に軽い痛みが走り、左頬の辺りが軽く出血しているような感じがした。たぶん、相手が放った弾丸が幹に当たって跳弾となりカワサキの左頬を掠めたのであろうが、バックアップをしている相手もカワサキへ銃口を向けているので、左頬の傷を気にしている余裕はなく、この程度であれば戦場なら掠り傷程度の扱いで暫くすれば出血は止まるはずである。

斜面の頂上に居る相手がカワサキに向けて発砲してくる前に、カワサキのM&P5.7拳銃は発砲音が1発にしか聞こえない速さで2連射を放った。跳弾が左頬を掠めたことで多少とも無意識で身体が反応したのだろうが、相手の腹部を狙って心臓付近に着弾するように発砲したつもりだったが、カワサキが放った2発の弾丸は相手の首元と顔面に着弾した。

撃たれた相手は、首元に命中したために叫び声を上げることなく右手に握っていた拳銃を放り出すと仰向けになって倒れた。仲間がカワサキに撃たれて倒れるのを見た別の相手は、更にカワサキが潜んでいる木立に向けて発砲してくるがカワサキも2連射を放った直後に木立の幹を盾にするように隠れていたので何の実害を受けることがない。

カワサキが、いま居る木立を盾にしながら反撃しようとM&P5.7拳銃を構えるが相手はチマキザサが密生している辺りに潜んでいるので姿を捉えることができない。ただし、2度の発砲で概ねの位置は見当がついているし、発砲後にチマキザサの葉が不自然に揺れていないことから相手が移動していないと判断したカワサキは、見当をつけた辺りにM&P5.7拳銃を2連射してみた。しかし、カワサキには相手に致命弾を放った手応えはなかったが、間違いなく相手の身体には着弾したようで、ガサガサという音と共にチマキザサの葉が不自然に揺れると相手は1発発砲してきたが、放たれた弾丸は先程と違ってカワサキの近くに着弾することなく見当違いの場所へ当たった。それを見たカワサキは、目視による確認は出来ているわけではないが相手は間違いなくカワサキが放った弾丸が身体の何処かに被弾して負傷していると確信できたので一気に方を付けるべく相手に接近してみることにした。ただし、接近するに当たっては油断して相手の下方からアプローチすると相手に地面を拳銃の安定に使われて正確に射撃されるのは得策ではないので、相手が潜んでいる高さまで斜面を登ってアプローチすることにした。

概ね相手と同じくらいの高さまで斜面を登った頃、それまでの静けさに耐えかねたのか相手は、それまでカワサキが潜んでいた木立に向けて再び発砲してきた。だが、そこから既に移動しているカワサキには何らの影響も与えない。その様子を見ていたカワサキは、斜面を横方向に移動を始めて相手との距離を縮めていった。

相手が潜んでいる辺りまで10メートルの距離に迫った頃、カワサキがM&P5.7拳銃の引き金に左手人差し指を掛けて発砲の準備に入ろうとした時に、ザザッという音と共にチマキザサが揺れるのを目にした。カワサキが引き金から人差し指を離して様子を伺っているとチマキザサの揺れは下方へ移動しているのが分かるので、相手は斜面を更に降りようとしているのが確認できた。

カワサキは相手が潜む辺りに近付いて3メートルの距離にまで迫ると、拳銃を握った左手で黒っぽく出血した跡が見える右の二の腕辺りを押さえながら座り込んだ姿勢で斜面を降りようとしている迷彩柄の戦闘服を着た男を発見した。

カワサキは慎重に相手の背中へ狙いを定めてM&P5.7拳銃を構えると、相手は突然に何か気配を感じたのか斜面を降りる動作を止めて、上半身を右に捻るようにしてカワサキが居る後方を見ようとした。カワサキが躊躇なく2発連続で相手へ向けて発砲すると2発の弾丸は相手の横隔膜の辺りに着弾すると撃たれた相手は左手で握っていた拳銃を発砲するが、カワサキを狙って発砲したわけではないので放たれた弾丸は無関係な方向へ跳んでいく。そして、左手で拳銃を握り締めたまま仰向けに倒れて動かなくなった。

カワサキは、相手に致命弾を放った感覚がなかったので倒れている相手の頭頂部に向けて止めの銃弾を1発発砲する。頭頂部に被弾した相手は着弾の衝撃で両眼が眼窩から飛び出しそうになって絶命した。

カワサキがM&P5.7拳銃を構えた状態で絶命した相手に近寄ってみると、左手の男はアジア人の顔つきであった。また、男の胸ポケットには小型無線機が突っ込まれており無線機からは男の声で喋っているのが聞こえるが、カワサキには聞き覚えのない言語であり、イントネーションの感じから想像すると朝鮮語のように感じる。

これでカワサキには襲撃してきた相手が北朝鮮の特殊工作員ではと推測することができた。朝鮮語はまったく分からないカワサキではあったが、相手の動向を推測するのに役立つと考えて絶命した男のポケットから小型無線機を奪い自分のポケットに仕舞った。更に、男が着ている戦闘服のポケットを探ると比較的新しい状態のカラー印刷され四つ折りにされた紙片が出てきた。その紙を広げてみるとカワサキが今いる山間部の航空写真となっており、写真には赤いインクで矢印とバツ印が記載されている。その矢印の途中までは正にカワサキが手榴弾で追い立てられた方向と一致していることから、彼等の作戦は複数人数でカワサキをバツ印まで誘導したうえで殺害する計画だったのだろう。

襲撃グループの作戦計画が掴めたカワサキは、敢えてバツ印の地点へ向けて歩き始めた。バツ印へ向かって歩いている最中、カワサキが携行していた携帯電話を取り出すと相手から奪った航空写真を撮影し、CIAへメールを送り状況を説明すると同時に航空写真のバツ印へ向かい襲撃グループとの戦闘を行うことを伝えた。

CIAからは、カワサキの行動を了承することとCIAとして可能な限りバックアップをするが、人的な応援はできないことが送られてきた。そのCIAからのメールを見たカワサキは、当然のことだと思っていた。そもそもCIAの特殊要員となるために公式記録上は存在しない姿なき人間となった以上、自らの能力を駆使して困難を乗り切るほか選択肢はなく、仮に失敗すれば闇に葬られて忘れられるだけのことである。

そうしている間に、胸ポケットに突っ込んでいた小型無線機が騒がしくなり始めた。カワサキが殺害した3人からの無線連絡がなく、加えて応答にも反応しない状態は仲間がカワサキに殺されたと把握したに違いない。

これで、更に襲撃グループからの執拗な攻撃が加えられることを自覚して歩いていると1メートル程先の辺りに向う脛くらいの高さに細く黒いワイヤー電極線が張られているのにカワサキは気付いた。一目見ただけで明らかにトラップ爆弾で、ジャングル等の戦闘では定番の攻撃方法であり気付かずに張られたワイヤーに脚を引っ掛けてしまうとワイヤーの先端に結び付けられた手榴弾の安全ビンが抜けて手榴弾等が爆発して死傷することになる。

カワサキのように特殊部隊に所属して数々の修羅場を潜り抜けてきた経験に加えて、趣味のハンティングで獲物のフィールドサインを探すことに慣れているからこそ気付けたようなものであった。

カワサキが張られたワイヤー電極線の先を探してみると手榴弾の安全ビンに固結びで繋がれており容易に手榴弾の安全ビンからワイヤー電極線を外すことができない。

更に、手榴弾の安全ビンに結ばれているワイヤーの反対側を見てみると木立の根付近にワイヤーを何重にも巻き付けて固結びで張られている。もし、このようなトラップ爆弾で殺害するつもりなら両端に手榴弾を付けて外し難くするはずである。このように片側のみに取り付けているのであればカワサキには、ナイフ1本で安全ビンに取り付けてられたワイヤーを外すことは先程難しいことではない。

カワサキが、ポケットからガバー社製の折り畳み式ナイフを取り出してナイフの刃を起こすと幹に手榴弾を固定していたワイヤー電極線を切断し始める。前日にヒグマの解体用に充分タッチアップを行ったのでワイヤー電極線の切断は比較的簡単に行えたが、これでナイフの刃先等は欠ける部分も出るので使い物にはならなくなるが、自らが生き残るためなのでナイフ1本を惜しんでいられない。

手榴弾を幹から取り外すことが出来たカワサキは、手榴弾の安全ビンに左手中指を突っ込んだうえで安全レバーを握りながら安全ビンに結び付けられたワイヤー電極線を取り付けてられた反対側の樹木の方へ移動して、ワイヤー電極線のテンションを緩めておく。

樹木の近くで屈むと安全ビンに結び付けられたワイヤー電極線の数センチメートル先をナイフの刃元で切断した。これでワイヤー電極線を引っ張って安全ビンを抜くことが出来なくなったのでカワサキの武器として使用することができる。

そのような調子で、数ヶ所のトラップ爆弾を解体してカワサキは3個の手榴弾を入手することに成功したが、3個目の手榴弾を手に入れてから暫く歩くと木立が無くなりチマキザサの群生地となった。その群生地は広さにして直径100メートルくらいの円形に近い開けた場所で、木立が茂る位置からは充分に拳銃の有効弾を送り込めることが可能である。しかも、チマキザサが群生しているとなると如何にカワサキがストーキングのテクニックを駆使したとしても笹の葉を揺らすことなく移動するのは不可能と言え、このエリアに追い込めば充分な射撃訓練を受けた複数の人間がいれば相手を嬲り殺しにすることは造作もない。

カワサキは、携帯電話でCIAへメールを送り偵察衛星の熱感知センサーでカワサキが居る地点に何人の人間が潜んでいるのかを問い合わせた。待つことも無くCIAからは5人の人間が点在しているのを感知しているとの返信が送られてきた。これで、カワサキには自らを除いた4人が襲撃グループの人数であることが確認できた。

カワサキは、人数までは把握したものの相手が携行している武器については分からないので、4人纏めて対するのではなく時計回りに出来る限り1人ずつ片付けることにした。しかし、時計回りに動き出す前に1個の手榴弾とワイヤー電極線を使ってトラップ爆弾を仕掛けた。3ヶ所のトラップ爆弾を解体した際に、比較的長いワイヤー電極線を丸めてポケットに突っ込んでいたのが役立つことになった。

トラップを仕掛け終えて木立等を盾にストーキングテクニックを駆使して最初の1人目を探しているとギリースーツというジャングル等で発見され難い装飾が施された戦闘服を着用している相手を見付けた。これとてカワサキに軍隊での実践経験があってこそ発見できたのであって、一般の人間では例え数メートルの距離に近寄ったとしても気付かずに通り過ぎたかもしれない。

カワサキは、トラップ爆弾を解体して手に入れた手榴弾の1個を取り出すと右手で安全ビンを抜いて左手でギリースーツを着用している男の背後へ山なりで投げ込むと近くの木立の幹を盾にするようにして蹲った。足元に手榴弾を投げ込まれた相手は、足元の手榴弾を見ると罵声を漏らしてチマキザサの群生地へ逃げ込むと同時に手榴弾が起爆して無数の破片を周囲に飛び散らせる。

何とかチマキザサの群生地に逃げ込んだ相手であったが、飛び散った破片の幾つかの餌食になったようで唸るような声を発すると共に笹の葉が不規則に揺れる。そこへカワサキが奪っていた小型無線機から号令のような声が聞こえると同時に三方向から一斉に発砲音が鳴り響くと笹の葉が揺れた辺りに着弾する。この銃撃でチマキザサの群生地に逃げ込んだ男の身体には1発以上の弾丸が命中したようで骨を砕く音が小さいながらもカワサキの耳に届いた。

それに今の三方向からの発砲音には、1つだけ拳銃ではなくライフル銃からの発砲音があったことにカワサキは気付いた。そのカワサキの鼻腔には硝煙の匂いが徐々に弱くなってくると血生臭い匂いが漂い出してきたことで、ギリースーツを着用していた男が絶命していると分かった。

敵味方の区別なく銃撃を加えてくる北朝鮮の特殊工作員達には死に物狂いな姿勢を感じたカワサキは、何処と無く哀れと思いつつも一時の感傷に捕らわれていては、自分も簡単に死を迎える結果になることを自覚して暗殺要員の儚い運命に抗う覚悟を深めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ