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姿なき狩人  作者: 二条路恭平
プロローグ

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20/36

ストーキング

ビジネスホテルに滞在して在日朝鮮人同胞連合の顧問弁護士である李貞一を監視していたカワサキにとって、昨夜CIAから送られてきたメールを読んだことで李を見る目に大きな変化が生まれていた。

つい昨日までは、CIAから暗殺対象者としての1人というだけで特別の感情を抱くこともなく李のことを見ていたが、今では佐藤彩芽の交通事故の真相を歪めた張本人であることが判明したので、何としても罪の償いをさせたいという私的な思いを強く抱くようになっていた。

李の偵察を始めて未だ2日目ではあったが、仮に暗殺を実行するのであれば李の自宅であるタワーマンションに居る時を狙うのが最有力であると言える。その場合に一番簡単なのは近隣のビルからの狙撃ということになるが、確かに物理的には不可能な事ではないものの、ライフル銃に消音器を取り付けたとしても、元々ライフル銃に使用する弾薬は拳銃に使用する弾薬よりも装薬量が多いので、拳銃の発砲音と比べても発砲音はかなり大きいため消音器を取り付けても周辺に発砲音が響き渡ることになる。また、李の狙撃に成功したとしてもライフル弾が李の身体を貫通した場合、ライフル弾は壁にめり込むだけでは済まなく弾丸が着弾した周囲の壁が剥離して床に散乱するので階下の住人に聞かれることとなり現実的とは言えない。

更に、地上から20階の高さとなるとビル風等が複雑に影響して着弾ポイントが予測困難な状況となるので、ワンショットワンキルといったような芸当は漫画の世界か、余程の偶然が重ならない限りは望めない。最低でも1発を発砲して着弾修正することで命中させることになると考えれば成功の確率は低いと言える。

また、カワサキ自身が金光一が引き起こした交通事故の真相を歪めた訳を直接聞き出したいという思いもあるので離れた場所からの暗殺には乗り気になれないのである。そうなるとカワサキ自身が李の部屋に侵入する以外に方法がないことになる。

そこで、カワサキは李の部屋に侵入することを前提にして、タワーマンションの屋上を見ると屋上には高架水槽タンクが設置されており、加えて転落防止用のフェンスもないことが肉眼でも分かった。そのような建物の造りということはマンションの住人が自由に屋上へ出入りできないことを意味するので、上手く屋上へ行くことが出来れば李の部屋に侵入するのは難しいことではない。そうなると残る問題はタワーマンション内に設置されている防犯カメラの位置を把握して、カメラの死角を使って屋上に辿り着けるのかということになる。

そこで翌日から、カワサキは李を尾行することを止めてタワーマンションのチェックに時間を割くことにした。先ずは、ビジネスホテルの部屋からタワーマンションの外廊下を見渡せそうな雑居ビルの屋上を探し、使えそうな場所を見付けると人目に付かぬように屋上へ昇り、小型双眼鏡を使ってタワーマンションの各階毎の外廊下をじっくりとチェックする。結果としては、エレベーター前の天井に外廊下全体とエレベーターの乗り降りが映されるように防犯カメラが設置されていることが分かった。また、非常用外階段は1階の出入り口のドアが施錠できるためなのか、どの階にも防犯カメラの設置が認められなかったし、外廊下を映す防犯カメラの角度を考えると非常用外階段はカメラのフレームから外れているようだ。加えて、ボディーガード達の配置もタワーマンションの近隣というよりは少し距離をおいた周囲に万変なく配置されていることも確認できた。

雑居ビルの屋上で、そこまでのチェックを終えるとビジネスホテルへ戻るために屋上から撤退するが、ホテルへ戻る途中でコンビニエンスストアに立ち寄ると350ミリリットル入りの缶ビール数本を購入してからホテルへ戻った。ビジネスホテルに滞在してから我慢できずに何度かホテルに備え付けの冷蔵庫に入っている缶ビールを飲んだが、市販されている製品と変わらないが値段が高過ぎるので、コンビニエンスストアで購入して持ち込み用冷蔵庫に入れることにしたのだ。

ホテルの部屋に入室すると、購入したばかりの缶ビールを持ち込み用冷蔵庫に仕舞うと窓際に設置しているスポッティングスコープでタワーマンションの屋上をチェックし始めた。スポッティングスコープの倍率を20倍に上げてタワーマンションの屋上を子細に観察すると防犯カメラの類いは設置されていないようであった。また、李が居住している部屋のバルコニーに面した屋上には高架水槽の比較的太いパイプが走っていることも確認できた。

屋上のチェックが一通り終わると、残りの日数は李の行動パターンを把握できれば良い。平日における李の行動パターンは、朝9時頃にタワーマンションから徒歩で法律事務所へ出勤すると夕方の18時30分には帰宅するパターンで、カワサキが観察した時には繁華街で飲みに行くといったことは一度も無かった。

1週間の偵察で、李を暗殺するのに必要な情報を入手したカワサキは、宿泊していたビジネスホテルをチェックアウトする日にCIAへ李貞一を暗殺実行まで24時間体制の監視対象者として欲しい旨を依頼してからアジトへ帰った。アジトに戻ると直ぐに必要な装備を準備するつもりだが、今回だけはCIAへ新たな装備品を依頼しなくても済みそうである。

アジトに戻ったカワサキは、部屋に入るとバックに仕舞っておいた荷物のみを取り出して、空のバックを持ってパジェロミニに乗り込み、近くのスポーツ用品へ向かい長さ20メートルで耐荷重2500キログラムで両端にカラビナが付いているクライミングロープ2本とネオプレン底のクライミングシューズ、更にトレッキング用の薄型グローブ、小型ナップサックを購入した。次いで、作業着専門店へ立ち寄りアーミーグレーのワークブルゾンと同色のカーゴパンツも購入する。

必要な装備品の購入を終えたカワサキは、アジトで久しぶりに手作りの昼食を食べ終えると購入したクライミングロープ2本をナップサックに入れると大型ショルダーバックに詰め込み、地下室からホルスターに収納しているM&P5.7拳銃と5.7×28ミリメートル亜音速弾20発を装填した弾倉に専用の消音器を持ってくると拳銃に弾倉を装填してから再びホルスターへ収納して、これも大型ショルダーバックへ入れた。

次いで、購入してきたワークブルゾンを黒いTシャツの上に羽織、デニムパンツを脱ぐとカーゴパンツに履き替え、ネオプレン底のクライミングシューズを履く。

身支度も出来たカワサキは、右手に大型ショルダーバックを持ってアジトのガレージに停めているパジェロミニの助手席にショルダーバックを置き、ガレージのシャッターを開けて神戸のタワーマンションへ向けて出発した。

出発したのが平日の16時を過ぎていることもあって帰宅ラッシュが始まったためか、予想以上に道路は混んでいたが、パジェロミニを運転しているカワサキは特段イライラしたり焦ったりすることはなかった。何故なら、今回の暗殺は陽が暮れてからが勝負なので、辺りが暗闇になってくれた方が都合が良い。

李が居住するタワーマンション周辺にカワサキが到着したのは李が帰宅する18時30分近くになっていた。

パジェロミニをタワーマンション近くのコインパーキングに停めると、トレッキング用の薄型グローブとM&P5.7拳銃の専用消音器を左右のサイドポケットに突っ込み、クライミングロープ2本とホルスターに仕舞ったM&P5.7拳銃がナップサックに入っていることを確認すると、ナップサックを背負ってパジェロミニを降りる。

徒歩のカワサキは、直にタワーマンションへは向かわずに裏手にある雑居ビルへ向かって行く。途中で、タワーマンションの周囲を見張っている李のボディーガードとすれ違うが鋭い一瞥を受けても、タワーマンションへ向かっているわけではないカワサキには特段の注意を払ってくる事はない。

タワーマンションの裏手になる雑居ビルに到着した頃は、裏路地ということもあって薄暗く人気も殆んどない。

カワサキは、背負っているナップサックを降ろして左手に持つと、雑居ビルと隣接する建物の境界となるフェンスに沿って横向きに成りながら狭い通路を奥に向かって入って行く。突き当たりはコンクリート塀が立ち塞がっており、その向う側がタワーマンションになっていた。

目の前のコンクリート塀は高さが150センチメートルくらいなので、カワサキは立ったままでタワーマンション1階の窓の様子を確認すると、どの部屋も厚手のカーテンが引かれてあるので、カワサキが塀によじ登ったとしても1階の住人に目撃される心配はない。

コンクリート塀の上に両手を付いて上半身を持ち上げ、右足を塀の上に載せてからカワサキが塀の上に立つと、物音を立てないよう細心の注意を払ってタワーマンションの敷地側に向けて塀を降りる。塀を降りたカワサキは、一度辺りを見回してから小走りでマンションの非常用外階段へ向かうが、ネオプレン底のクライミングシューズのお陰で余計な物音を立てない。

このタワーマンションの非常用外階段は、コンクリート造りになっており階段の外側には高さ120センチメートルの転落防止用のコンクリート塀が作られている。ただし、1階から2階にかけては外部から侵入できないように塀の上には金属製で格子状の柵が取り付けられていた。しかし、カワサキの運動能力からすれば、柵が設置されていない2階の踊り場へよじ登る事は案外難しいことではない。

カワサキは、ワークブルゾンのポケットに入れていたトレッキング用薄型グローブを取り出すて両手に填めると非常用外階段の2階踊り場へ向けてよじ登り始めた。余り物音を立てることなく踊り場へ辿り着いたカワサキは、外階段を最上階へ登って行くが各階の踊り場では度々エレベーターの昇降口等に注意を払ってマンション住人と鉢合わせにならないよう気を使う。これは、正にハンティングの際に獲物との距離を詰める際のストーキングに似ている行為で、周囲に注意を払わなければ獲物以外の動物に警戒音を出されて獲物に自分が近づいていることを知らせる結果となり獲物に逃げられる。

他のマンション住人と出会うこともなく非常用外階段の最上階まで昇りきったカワサキは、ナップサックからクライミングロープを1本を取り出すと、外廊下に向けられている防犯カメラの死角になっている外階段のコンクリート柱に、クライミングロープに付いているカラビナを使って巻き付ける。

次いで、エレベーターの昇降口へ視線を向けて、エレベーターが20階に上がってこないことを確認するとコンクリート柱に巻き付けていない方のクライミングロープの端を口で咥え、クライミングロープを巻き付けたコンクリート柱に右手を掛けると転落防止用のコンクリート塀の上に立ち上がった。

このタワーマンションの屋上は、基本的にマンション住人が屋上に来ることを想定していないので、転落防止用のフェンスは設置されていないし、コンクリート塀の高さも20センチメートルくらいしかないので、20階の非常用外階段の塀に立ち上がったカワサキが、少し跳び上がると左手が屋上のコンクリート塀の上に届いた。次いで右手も掛けると勢いを付けて上半身を屋上へ引き上げる。

マンションの屋上に昇りきったカワサキは、口に咥えていたクライミングロープを近くの金属製の配管に巻き付けて結び付ける。

次に、カワサキはナップサックから別のクライミングロープを取り出すと、李が居住しているバルコニー側へ向かい一番端に近い給水パイプにクライミングロープを巻き付けると何度かロープを引っ張って強度を確かめる。パイプに充分な強度があることを確認すると、ナップサックからホルスターに入れたM&P5.7拳銃をホルスターごと身に付けた。

後は、李が帰宅したのならタイミングを図ってクライミングロープを使いバルコニーへ降下すれば良い。

バルコニーへ降下する準備を整えたカワサキは、ワークブルゾンの胸ポケットに入れておいた携帯電話を取り出してCIAのオペレーター担当者を呼び出すと、これから李の暗殺作戦を実行することを伝えた。オペレーター担当者からは、カワサキの携帯電話で位置情報を把握しているので、携帯電話を繋いだままにして貰えればフォローとバックアップを行うことを返答してきた。

暫く屋上から李の部屋を見下ろしていたカワサキに、オペレーター担当者から李が法律事務所を出てタワーマンションに向かっている最中なので、間もなく部屋に入室すると伝えてきた。

オペレーター担当者からの連絡が入って数分後、李が帰宅したようで室内灯の明かりが漏れているのが屋上に居るカワサキに見えた。それを確認したカワサキは、バルコニー側に準備しておいたクライミングロープを左手で握ると屋上の端に立ち、右手でもクライミングロープを持ってバルコニーへ降下を始めた。幸いなことに、緩やかな風しか吹いていないので降下中に煽られるようなことはない。

李を1週間偵察したが、タワーマンションの最上階に居住していることで安心しているのか就寝するまで、李はレースのカーテンしか掛けていないので室内は丸見え状態となっている。クライミングロープにぶら下がった状態で室内に居る李の様子を伺いながら慎重にバルコニーの手摺に右足を掛けると物音を立てることなくバルコニー内に降り立った。

カワサキは、バルコニーの隅へ移動すると片膝をついた姿勢で室内の様子を伺う。すると帰宅の際に1階の集合ポストから取り出してきたらしい郵便物をテーブルの上に置いた李は、左手に持っていた鞄をソファに放り投げて、踵を返すとクローゼットルームに向かって行った。

その様子を見ていたカワサキは、ホルスターに入れたM&P5.7拳銃を左手で抜き出し、右手で銃口先端部に捩じ込まれているマズルキャップを外し、ワークブルゾンのサイドポケットに忍ばせていた消音器を取り出すと同時に右の掌にあるマズルキャップをポケットに落とした。

室内の様子に注意を払っていたカワサキは、一旦視線を銃口先端部と消音器に移して、慎重に消音器を銃口先端部に位置決めしてから捩じ込み始める。ある程度まで消音器を捩じ込むと再び室内に視線を戻した。消音器の装着は最初に注意する必要があるが、ある程度まで捩じ込むことが出来れば、後は手を動かしてシッカリと消音器を装着すれば良い。

李は、いつもの通りに白いバスローブに着替えてソファに腰掛けるとテーブルの上に置いた郵便物を1通ずつ眺めるが、不要と判断した郵便物は封も切らずにゴミ箱へ捨てている。郵便物の選別が一通り済むと、壁に設置されている操作パネルで給湯器と思われるスイッチを入れてから浴室へ向かって行った。

李が浴室へ向かったのを確認したカワサキは、消音器を装着したM&P5.7拳銃の遊底を引いて弾倉の初弾を薬室に装填する。この時、いっぱいまで引いた遊底を直ぐに離して勢い良く遊底を戻してやらないと弾薬が上手く薬室に装填されないのだが、勢い良く戻る遊底は定位置に戻った際に、どうしてもジャッキという金属音を発してしまうので、少しでも李に物音を聞かせたくないカワサキは、李がバルコニーから離れた部屋へ移動するまでM&P5.7拳銃の薬室に弾薬を装填することを控えていた。

何時でもM&P5.7拳銃が発砲可能な状態にしたカワサキは、左手で拳銃を持っているが人差し指は引き金に掛けることなく真っ直ぐに伸ばしている。銃器を扱う際は、発砲する時以外は引き金へ指を掛けないことで不要な暴発を防ぐことができる。

カワサキは、拳銃を持っていない右手でアルミサッシの何枚かを押してみると、1ヶ所だけロックが掛かっていなかったので、容易に室内へ入り込めた。開けたアルミサッシを静かに閉じると室内には李が浴室でシャワーを使っている音が聞こえているので、毛足の長い絨毯の上をネオプレン底のシューズで歩くカワサキの足音はまったく聞こえない。

カワサキは、クローゼットルームに向かい身を隠すと、間もなくシャワーの音が止んで李が浴室から出てくるのが気配で分かった。

浴室のドアが開いてバスローブを羽織った李は、バスタオルで洗髪した頭髪の水分を拭きながらリビングルームへ歩いて行くと、クローゼットルームから物音1つ立てずに李の背後に現れたカワサキが、李の背中へバスローブ越しにM&P5.7拳銃に装着した消音器の先端を押し当てた。

李は一瞬身体をビクッとさせてバスタオルを手放すとバスタオルが床に落ち、李は凍り付いたように動かなくなったところへカワサキが

『振り向いたり、ちょっとでも大声を上げたら容赦なく撃ち殺す』

物静かだが有無を言わせぬ雰囲気で伝えると、李は震えた小さな声で

『誰だ?』

と問い掛けてきた。

『誰でも良いだろう。ただし、質問するのは俺で、あんたに質問する権利はない』

カワサキの冷静な返答に対して

『何も分からないままで、あんたの質問に答えなければならない義務があるのか?どうせ最後には殺されるなら何も答える必要はないッ』

と李は開き直って強がってみせるが

『俺の質問に答えたくないなら、それでも結構だ。下手に拷問をして騒がれても面倒なので、あんたの要望通り今ここで射殺する』

カワサキが、李の背中に押し当てていた消音器の先端を李の後頭部に移すと

『背中から腹部を撃つよりも、後頭部へ撃ち込めば一瞬で楽になる』

抑揚のないカワサキの声を聞いた李は、湯冷めの所為ではなく、恐怖のために身体が小刻みに震え出して足元に水溜まりが広がってくるとアンモニア臭が漂い出した。

どんなに去勢を張ってみせても、実際は人一倍生きる事に執着している李は、相手の凄みある本気度を理解すると

『わッ、分かった。私が悪かった。私の負けだ。どんな質問にも答えるから、命だけは助けてくれッ』

強がってみせていた勢いは、風船が萎むようになくなり命乞いを始める。

『俺が知りたいのは、金光一がポルシェで起こした交通事故についてだ』

カワサキの質問に対して

『待ってくれッ、先ずは命の保証をして貰わなければ答えられないッ』

この期に及んで弁護士らしく駆け引きをしてくるので

『あんたの答え方次第だ。俺は気が長く優しい性格じゃないので、あんたが嘘を吐いたり時間稼ぎの下らない話をしていると判断したら容赦なく引き金を引く』

カワサキが消音器で李の後頭部を小突きながら言うと

『分かった、喋る。あの交通事故は翌日に父親の金龍雄から電話があって、息子が起こした交通事故を罪が重くならないようにしなければ、顧問弁護士の契約を破棄すると脅されたんだッ』

李が一気に喋るが

『そんな嘘が通用すると思っているのか?その割には、コンピューターで悪事をしている人間にメールを送ってドライブレコーダーの記録動画を加工するように急かしているじゃないか』

とカワサキから言われた李は

『悪かった。私の言葉が適切じゃなかった。あれは、父親の金龍雄から電話でバカ息子が酒酔い運転で人を牽き殺してしまったので、何とかして欲しいと泣きつかれてやった事だッ』

李が徐々に真実を語り出したので

『で?動画の改竄は?』

カワサキが更に急かすと

『父親から電話を貰った日の昼に、金の自宅へ行って、ドライブレコーダーの記録をUSBメモリーにダウンロードしたものを知り合いでコンピューターハッカーをしている男に巧妙に加工した動画を証拠に所轄の警察へ金光一を出頭させて軽い刑罰で済むように私が交渉したんだ』

それを聞いたカワサキが

『顧問弁護士が汚い真似をしてまでやる理由は?』

と質問を続けると

『私の両親は共に平民の血筋だから、私のように優秀な才能を持っていても北朝鮮では富裕階級には成れないんだ。なのに金親子は女とセックスする以外に何の才能もないくせに、血筋だけで富裕階級に成って偉そうにしてる。私が色々と御膳立てをしてやらなければ何一つできない能無しなのに。だから、金親子の弱味を握って在日朝鮮人同胞連合を乗っ取ろうとしたんだッ』

李が、そこまで叫ぶように喋ると続けて

『もう、充分だろうッ、あんたの事は全て忘れるから命だけは助けてくれッ』

と言ってカワサキに部屋から出て行ってくれというようなジェスチャーをすると、突然李は逃げ出すような仕草を取った。

カワサキは、やむを得ず李の右大腿部へ向けてM&P5.7拳銃を1発発砲した。爆竹を鳴らしたような音と共に弾丸が李の大腿部を掠めて壁に着弾すると、李は気が抜けたように絨毯の上に座り込んだ。

これ以上は時間を掛けて聞き出すことが難しいと判断したカワサキが

『金親子から受け取ったドライブレコーダーのオリジナル動画が入ったUSBメモリーは何処に隠してある?』

と問い掛けると、半ば腑抜けたような状態の李が隣の部屋を指差して

『そっちの部屋にある机の上から2段目の引出しの中だ』

と力無く答えた。

カワサキが、隣の部屋へ向かい机の引出しを開けると数個のUSBメモリーがあったので、全てのUSBメモリーをワークブルゾンのポケットに仕舞ってから、李が居る部屋に戻ると李は四つん這いで玄関口へ這っていた。

カワサキは、無言で李の後頭部へM&P5.7拳銃を発砲すると李の後頭部中央よりも左側に着弾した弾丸は、右側頭部から脳味噌と脳漿を撒き散らしながら貫通した。脳を破壊された李は、声1つ上げること無くうつ伏せになってくたばると、白い絨毯は李の血液を吸って赤く染まっていった。

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