トラッキング
窓から差し込む日差しを感じてカワサキは、目を覚ました。幾らか頭はボーっとしているが、仮眠を取ったためか身体には疲労感が残っていない。まだ、完全に頭の方がシャキッとしていない状態で、タブレット端末を手元に引き寄せてみるとCIAからメールが届いていた。
カワサキは、CIAからのメールを開く前にテレビのスイッチを入れると情報番組では昨夜の銃撃事件が大々的に取り上げられており、警察の見立てとして関西の半グレ集団同士の抗争ではないかと伝えていた。所詮、日本の警察がどんなに捜査してみても公的記録が抹消されているカワサキに辿り着くことは不可能に近く、警察当局としても半グレ同士の縄張り争いとしてケリをつけ、拳銃の入手ルートの捜査に注力した方が現実的である。
そんな事を考えながら、CIAからのメールを開けてみると、金とボディーガード達は淡路島へ向かったことが書かれており、追加情報として淡路島には在日朝鮮人同胞連合が海上自衛隊基地だった跡地を国から払い下げを受けて表向きは研修施設という名目で所有しており、その施設に向かったものと記されていた。更に、添付資料で海上自衛隊基地跡地の衛星写真等が送られてきた。
メールを読み終えるとカワサキは簡単な朝食を取りながら、これからの取るべき行動を考えていた。早速にも金とボディーガード達を追跡したいが、広大な施設に逃げ込んだ以上はカワサキが施設内に潜入したならば戦闘になる事は火を見るより明らかである。
元々、今回は金の偵察が主な目的であったので大した準備はしてなかった事を踏まえると、CIAが金を24時間体制で監視をしているのだから一旦アジトへ引き返して必要な準備を整えてから淡路島へ向かった方が最良と判断した。
そのように判断を下したカワサキは、朝食を食べ終えると洗面所へ向かい身支度を済ませて午前10時にはマンションのリース会社へ赴いて退去手続きを済ませると、バイク買取り店にホンダCBR400を持ち込んで売り払い、パジェロミニでアジトへ戻った。
昼頃にアジトへ着くと早速、狩猟時に使っていた大型ショルダーバックに5.7×28ミリメートル亜音速弾を詰めたプラスチックケースに、刃渡り73ミリメートルのガーバー社製折り畳み式ナイフや双眼鏡、FNハースタル社製のP90短機関銃用の負い皮、ロープや鉈等を入れてパジェロミニに積み込む、服装は黒いジャンプスーツに着替えると足元は黒のコンバットブーツに履き替えた。
すっかり準備が出来たカワサキは、淡路島へ向けて出発した。高速道路に渋滞がなければ目的地までの所要時間は2時間弱といったところだが途中で昼食休憩等を加味すると2時間30分の行程といったところである。
神戸淡路鳴門自動車道から国道を経由して、午後3時頃には海上自衛隊基地跡地近くまで来ることができた。目的地の少し手前で国道から脇道へ入ると辺りは鬱蒼とした森林地帯になっている。カワサキは、パジェロミニを停めても目立たないような場所を見付けてパジェロミニを停めると用意していた鉈を取り出して周りの小枝等を伐採し、パジェロミニに覆い被せて道路沿いから見ても分からないようにカモフラージュした。
パジェロミニのカモフラージュが終わると、ホルスターに差し込んだM&P5.7拳銃を身に付けてから大型ショルダーバックを背負うと左手にはP90短機関銃を持って海上自衛隊基地跡地の方向へ森の中に分け入った。
暫く森の中を歩いて人目につかぬ辺りまで来ると、P90短機関銃専用の消音器を取り出して銃口先端部へ慎重に取り付ける。P90短機関銃の銃身は10.4インチ(263ミリメートル)もあるが、銃の全長は500ミリメートルと小型なために取り回しが良いのだが、消音器を取り付けると全長が10センチメートル以上は長くなってしまう。それでも決して取り回しが悪くなるということではないが目立つ大きさになることに違いはないので、敢えて人目につかない場所で消音器を取り付けたのだ。
消音器を装着したP90短機関銃のチャージングハンドルを勢い良く引いて離すと弾倉から薬室に弾薬が装填された。カワサキはP90短機関銃の安全装置を掛けると一抹の不安が過った。それは、このP90短機関銃をCIAから受け取ってから時間がなかったこともあるのだが、まるっきり試射が出来てないので照準調整が行えてない。特にP90短機関銃の有効射程距離は200メートルであるが着弾の状態を把握できてない。ただし、金のボディーガード達が短機関銃やアサルトライフル等の装備はないと思われるので、実際の銃撃戦で着弾修正をしながら使いこなすしかないと自分に言い聞かせる。
P90短機関銃に消音器を取り付けてから、暫く森の中を進んで行くと海上自衛隊基地跡地まで20メートルくらいに接近してみると敷地の周りはネットフェンスで囲われているのが分かったが、フェンスの側には数体のイノシシやシカの死体が転がっているのが気になる。
カワサキが転がっている死体を見ると致命傷となったような外傷等が見受けられないし、古い死体を除けば腹部が膨らんでいるので餓死したとも考えられない。不審に思ったカワサキが、近くに転がる比較的新しいイノシシの死体を詳細に調べてみると鼻先に火傷跡が見受けられ、火傷跡にはメッキでもされたような金属が付着している。その傷痕を見たカワサキは、瞬時にネットフェンスには電流が流され、敷地内に入ろうとしたイノシシやシカがネットフェンスに触れて感電死したものと推測した。
動物が感電死したのを見たことはないカワサキであったが、これまで多くの戦場で敵のトラップで感電死をした同僚の死体を見た経験があり、感電死をした死体の特徴として電気が流れた部位には火傷跡である電流斑や電極となった金属が熱で溶けて皮膚に沈着するメッキ現象が残される事を知っていた。
そうなると普通にネットフェンスをよじ登って敷地内に入ることは出来ないので直接フェンスに触らずにネットフェンスを潜れるようにしなければならない。カワサキは思案した結果、ネットフェンスに近い樹木から手頃な太さの樹をフェンス側に倒して進入路を確保することにした。ただし、この位置から建物までの距離は50メートルくらいなので樹木がネットフェンスに倒れ掛かり電流がショートとすれば、その音で建物内にいる金やボディーガード達に気付かれ銃撃戦となるだろうが仕方ない。
カワサキが周囲を見渡すと、10メートルくらい離れた所に手頃な太さの樹を見付けたが、幸いなことに樹の位置がネットフェンスを張るための支柱から離れた所にあるのでフェンスの強度的にも比較的弱い箇所になる。
カワサキは、鉈を左手に持つとネットフェンス側に向いた幹へ斜めに鉈を振り下ろす。30分以上も鉈を振り下ろして幹の太さの半分くらいまで刃を入れることが出来たので、次に同じ側の幹に横方向へ鉈を振って切ってゆく、1時間も作業を繰り返しているとネットフェンス側の幹に楔形の切れ込みを作ることが出来た。カワサキの額には薄っすらと汗が滲んでくるがお構い無しに切れ込みを入れた所とは反対側に楔形の底辺部へ目掛けて鉈を振るう。
楔形の底辺部まで数センチメートルという所まで切り進めると樹木の自重で、樹木はネットフェンスに倒れていった。ネットフェンスは樹木の重みを受けて歪んでくると数箇所でショートを起こしてバチッバチッと音を立てて火花を散らした。
カワサキは、倒れた樹木に手を掛けてネットフェンスを越えようとした時、建物の方向から数発の銃声が響いてきた。
カワサキが咄嗟に身を伏せて銃声が聞こえた方を見るとマカロフ拳銃を構えた数人のボディーガード達がカワサキの居る方へ発砲しながら近付いてくるのが見えた。
カワサキは、左手に持ったP90短機関銃を構えると安全装置をセーフティの位置から単発の位置へ移動させてボディーガード達を狙う。ボディーガード達が持っているマカロフ拳銃の有効射程距離は約50メートルなので、カワサキが居る所まで弾丸が届かないことはないが、カワサキに命中させるのは相当に難しいことをカワサキは分かっているし、P90短機関銃の有効射程距離は200メートルなので慎重に狙いを付けて引き金を引くと爆竹を鳴らしたような発砲音が聞こえ、空薬莢がP90短機関銃の中央下部辺りから下に向かって排出させる。
撃ち出された弾丸はボディーガードの1人に命中したものの、カワサキが狙ったのは相手の心臓と肺が重なる辺りであったが右肩に着弾しておりズレがあるが、P90に備わっている照門は固定させているので簡単に調整が出来ない。何か光学照準器を装着しておけば良かったが時間がなく取り付けることも出来ずに持ってきたので、ハンティング等で照準器を調整する時間がない時に予めズレを想定して狙う位置を変えるホールド状態で射撃することにした。今の状態でボディーガードの左肘の辺りを狙って発砲すれば、概ね心臓と肺が重なる辺りに着弾させることが出来るはずである。
カワサキが改めて右肩に着弾した男を狙うと、男は撃たれた右肩を左手で押さえてしゃがみ込んでいるので、男の左肩の辺りに狙いを付けて発砲すると男の頭部に着弾して、男は仰向けに倒れて即死した。
仲間を目の前で射殺されたのを見せられた連中は、恐怖のためか持っているマカロフ拳銃を乱射し始める。しかし、1発もカワサキの近くに着弾しないのでカワサキは落ち着いて残りの連中にヘッドショットを見舞って倒してゆく。
丁度、最後の1人にヘッドショットを見舞ってから建物の方を見ると、屋上の方から1人の男がライフル銃を構えているのが見えた。
カワサキは咄嗟に倒した樹木の陰に隠れたが、ライフル銃で正確に狙われたら樹木の陰に隠れたところで何の意味もないことは充分に分かっている。しかし、銃器の扱いに不慣れなボディーガード達であれば、カワサキに命中弾を放つことはないと判断した。
カワサキが樹木の陰から男の左肘に狙いを付けていると、先に相手の方がライフル銃を発砲してきた。射出されたライフル弾は、カワサキの右手側2メートルほど離れた所に着弾した。屋上の男を見ると、ライフル銃を撃った経験がないようで立射の姿勢で発砲したので、ライフル銃の反動を制御出来ずに尻餅をついている。
その光景を見たカワサキは、相手が持っているのは狩猟用に販売されている米国ウィンチェスター社製のM70ボルトアクションライフルであることが分かった。たぶん金がハンティングでもするつもりで購入したのだろうが、スコープを付けているが適正なゼロインをしていなければ射撃経験のない者が撃っても簡単には当たらない。
尻餅をついた男が慌てて立ち上がると再びライフル銃を構えてカワサキを狙っているが、初弾を発砲した後に空薬莢の排出と弾薬の再装填を行っていないので発砲出来るわけがない。
カワサキが樹木の陰から屋上でライフル銃を構える男の左肘辺りを狙って発砲すると、弾丸は男の頸動脈を貫いたようで左の首筋から血液が勢い良く噴き出し、男はライフル銃を放り投げて左手で出血している首筋を押さえながら倒れるのが見えた。
相手が屋上に居て倒れてしまったので、止めを刺すことが出来ないが頸動脈に着弾したのであれば、そのまま放って置いても出血多量で徐々に意識が無くなりショック症状を引き起こして死ぬことになる。
カワサキは切り倒した樹木を使って敷地内に入ると、P90短機関銃を構えて建物に向かって走り出した。途中、射殺した相手の1人からマカロフ拳銃と予備弾倉を奪って彼等が出てきたドアの脇に来ると、ドアを勢い良く開けるが直ぐに飛び込むことはしない。案の定、建物内からは数発が発砲されてくる。カワサキは、身体を隠した状態でマカロフ拳銃を建物内に向けると弾倉に残っている弾薬を全て発砲した。
弾倉が空になったマカロフ拳銃の遊底が後退した状態で動かなくなるが、カワサキは慌てることなくマカロフ拳銃の銃把底部の弾倉止めを操作して空の弾倉を抜き取ると奪っておいた予備弾倉をマカロフ拳銃に叩き込む。フッと屋上を見上げると男が1人マカロフ拳銃をカワサキに向けて発砲しようとしている。
カワサキは、右にサイドステップをすると同時にマカロフ拳銃の遊底止めを操作して弾倉の初弾を薬室へ装填すると屋上の男に発砲する。屋上の男はカワサキが横にステップしたので慌てて狙い直す間に、カワサキが放った弾丸が頭部に命中して屋上から落下した。
カワサキは更にサイドステップをして、落下してくる男に当たらないようにすると、男はカワサキが開けたドアの前にドスッという鈍い音を立てて落下した。
状況が分かっていない建物内の連中は、カワサキが倒れたと勘違いをして落下した死体にマカロフ拳銃を乱射してくる。その間に、カワサキは単発にしていたP90を連射に切り替えて建物内に10発程を発砲すると直ぐに建物の陰に身を隠すと建物内から『うわっ』という声が聞こえてくる。
連射に切り替えたP90短機関銃を再び単発へ戻してニーリングの姿勢で通路を覗くと2人の男が身体に複数発を被弾させて絶命していた。残った男達は恐怖に駆られた声を挙げて建物の奥へ逃げて行くのが聞こえてくる。
カワサキがP90短機関銃を構えたままで手前の部屋に残っている者がいないか確認しながら建物の奥へ向かうが、曲がり角では壁に身体を隠しながら先の方を確認することを怠らない。
そんな調子で、建物の奥へ進んで行くと奥の方から車のエンジン音が聞こえてきた。カワサキが小走りでエンジン音の聞こえる方へ向かうと開けっ放しにされたドアの向こうはガレージのようであった。
カワサキがP90を構えたままでドアの陰からガレージ内を覗くとアルファードとベンツが動き出そうとしているので、手前のアルファードの運転席へ向けて発砲するとスライドドアの窓ガラスが蜘蛛の巣に割れて、運転手の左後頭部に着弾した。
運転手が居なくなったアルファードは、スリープ現象でゆっくりと右側に動き出して隣にいたベンツに軽く接触する。接触されたベンツは、アルファードを押し退けるように半ば強引に発進すると、アルファードは左側へ進路を変えた。アルファードに乗っている連中は車内からカワサキに向けてマカロフ拳銃を発砲するが、相変わらずカワサキに当たらないばかりか、数発が車内に当たって跳弾となっている。
金を乗せているベンツを襲撃するのに邪魔なアルファードの連中を黙らせるために、P90短機関銃を連射に切り替えてアルファードの車内に向けて掃射すると瞬時に車内に居た連中は死体となり、アルファードは崖に向かって前進して落下していった。
P90短機関銃の弾倉が空になったので、P90短機関銃を左脇へ移動させてホルスターからM&P5.7拳銃を抜き取り、ベンツのリアウィンドウへ向けて3発速射する。少なくとも1発はベンツの運転手の後頭部にヒットしたらしくベンツは蛇行し始め、スピードを緩めぬままで樹木が生い茂る斜面に向かって落ちると樹木に追突した音が聞こえる。
カワサキが駆け足でベンツが追突した方へ向かうと、ベンツの助手席から這い出してきたボディーガードを認めて止めのヘッドショットを見舞った。
暫くすると、後部ドアが開いて頭部から出血して赤鬼のような形相の金光一が両手を挙げてベンツから降りてきた。カワサキと目が合うと卑屈な笑みを浮かべて『降参だ。何も抵抗はしないし、今後はあんたに変なマネはしないと約束するから見逃してくれ』と言ってきた。カワサキは無言で、金の心臓の辺りと頭を狙ってM&P5.7拳銃を速射すると金は口から血を吐き出したままで仰向けに倒れて絶命した。




