リローディング
今度のハンティングではヒグマを狙うことにしたカワサキだったが、鹿を狙うのであればCIAから送られた弾薬をそのまま使っても充分に通用するのだが、ヒグマを相手にするのであれば少々パワーが足りない。そこで、前のアジトで狩猟した際に回収していた空薬莢を使って市販の弾薬よりも装薬を増量したリローディングをすることにした。
幸いにも、このアジトの地下室には.308弾薬に対応したリローディング機器が揃っているばかりか、弾丸も150グレイン(約9.7グラム)と165グレイン(約10.7グラム)の二種類があり、ライフル用雷管や装薬も揃っている。また、狩猟の際に可能な限り回収した空薬莢が13発分なので、市販の弾薬よりもパワーアップしたリローディングができる。
通常、市販されている弾薬は薬莢に詰められてる装薬量が幾分少なくされている。何故なら弾薬のサイズは銃器製造メーカーが販売している銃器の薬室に収まるようなサイズで出荷されているが発砲後は多少なりとも膨らむことになる。そこで、装薬量を限界まで装填した場合には薬莢が膨らみ過ぎて排莢が出来なくなるとか、薬莢に亀裂が出来たといった状態になる可能性が強い。それでは、弾薬を使う消費者から危険な弾薬と悪い評価を受けるのを避けるためにもメーカー独自の安全マージンを確保する意味で装薬量を調整している。しかし、米国でハンティングや競技射撃等を趣味にしている人間は、リローディングで弾薬を各自の使用目的に合わせて弾丸の重量を変えたり装薬量の増減等のカスタマイズをして使っている。
地下室の事務机には、薬莢の成形、使用済み雷管の除去、装薬の計量装填、弾丸の装着等の作業で使うロックチャッカプレスという機器が既に取り付けられおり、.308のライフル弾薬用に調整も終わっているので、回収しておいた薬莢を1発ずつ磨いて汚れを取り除くと薬莢表面に傷や変形がないか等をチェックする。このチェックで傷や著しい変形をしている場合は、その薬莢を使ってリローディングすることはできない。次に、薬莢の表面にケースルプという潤滑油を塗布するのでルーブパットというスポンジが敷いてある容器にケースルプを垂らして染み込ませ、薬莢をスポンジの上で転がして表面にケースルプがコーティングされた状態にしておく。この作業は、ロックチャッカプレスを使って必要な作業を施した薬莢を作業終了後に取り出し易くする為に行うもので、この作業をやらずにロックチャッカプレスを使用すると作業終了後に薬莢が取り出せなくなる事態に陥ることになる。
ここまでの準備作業を経て、早速ロックチャッカプレスを使って薬莢から使用済み雷管の除去作業と薬莢の成形作業を1発ずつ行っう。使用済み雷管を除去した薬莢は、プライマーホールという雷管をセットする窪みとプライマーホールの奥にある小さな穴のフラッシュホールに付着した汚れを取り除いておく。特にフラッシュホールに汚れが付着して穴が塞がれた状態だと銃器で撃発した時に雷管の火花が薬莢内の装薬に伝わらないことになり不発に繋がるので手を抜けない。
13発分の薬莢の汚れを取り除いたら、ハンドプライミングツールという道具を使って薬莢のプライマーホールに雷管をセットするのだが、雷管を取り付ける作業ではハンドプライミングツールを握り込まねばならない。しかし、あまり力を入れ過ぎると雷管がプライマーホールの奥に入ってしまい、この状態になると射撃をした際に撃針が雷管に必要な打撃を加えられず不発の原因になるため目安として雷管の上面と薬莢の底面がツライチになるくらいに力を加減して行う。
薬莢に雷管がセットできたら、装薬を詰める作業に移れるのだが、CIAから送られた市販の弾薬は150グレインの弾丸が使われていたが、今回のリローディングでは165グレインの弾丸に変更するので米国で出版されているリローディングデータマニュアルを参考にして165グレインに対応する装薬量の上限をチャージすることにした。マニュアルで装薬量を確認したならばデジタルスケールを使って1発分の装薬量を計り、ロックチャッカプレスに付属しているパウダーメジャーの調整を行って決めた量の装薬が出るようにしておき、雷管を取り付けた薬莢に必要な量の装薬をチャージしていく。
装薬をチャージした薬莢はプラスチックケースに1発ずつ入れ、作業中に誤ってチャージした薬莢を倒して装薬が溢れることのないようにするのと、装薬のチャージ忘れがないように区別をしておく。ライフル弾の薬莢は、弾丸がセットされる辺りが細く成形されているので簡単に目視でチャージの有無を確認するのが難しい、もしも装薬がチャージされてない薬莢に弾丸をセットした場合に、その弾薬を銃器から発砲しても雷管のみの爆発力では弾丸が銃身内で止まってしまう。特に、ハンティングや銃撃戦等の実践であれば標的を外したと勘違いして、銃身内に弾丸が残っている状態で次弾を発砲してしまい、結果として銃身が裂けて破損事故となり射手も大怪我を負うことになる。
13発分の装薬がチャージできたならぱロックチャッカプレスに取り付けられてるダイというパーツを弾丸挿入用のシーターダイに交換して、薬莢の開口部に弾丸を乗せてロックチャッカプレスのレバーを押し下げて弾丸がしっかりと挿入されるようにする。この時、少なくとも自分が使う銃器の薬室に入るくらいの長さに挿入しておかなければ銃器に装填できない弾薬になってしまう。
この作業を13回繰り返して手元にある13発分のリローディング作業が完了したが、この13発が想定通りの威力を発揮してくれるならぱ、ヒグマのハンティングも少しは自信を持って望めるのだが、想定通りの性能に達していなければ撃ち損じてヒグマに逃げられたくらいでは済まなく、逆に狙ったヒグマから逆襲されて殺されしまうかもしれない。
ライフル銃を使った例ではないが、過去にスラッグ弾というタイプの1発玉を装填した散弾銃を持ったハンターが獲物を求めて山中を探し回っていた際に、偶然にもハンターから50メートル離れた場所にヒグマが出没してきて、驚いたヒグマは逃げて行くと思ったがハンターに向かって突進してきた。身の危険を感じたハンターが30メートルぐらいの距離にまで接近してきた時点で散弾銃を発砲したが、撃たれたヒグマは何事もなかった様に勢いを落とすことなく突っ込んで来たので、焦ったハンターは次弾の発砲に手間取っていたところ、一緒に来ていたハンター仲間がライフル銃を数発発砲してヒグマを倒したので事なきを得たが、直後に倒れたヒグマを仲間と調べてみたらスラッグ弾はヒグマの体毛に絡まり僅かにヒグマの皮膚に擦り傷程度のダメージしか与えておらず、ヒグマを相手にするようなケースでは威力のあるライフル銃でなければ危険だということになった。
このように威力があるライフル銃であっても1発でケリがつくような獲物ではなく数発のライフル弾を命中させなければ狩猟できない相手なので、カワサキも1発で仕留めようなどとは微塵にも考えていないが、リローディングしたライフル弾の威力と着弾状態を確認せぬまま猟場での一発勝負は余りにもリスクが大きすぎるので、少なくとも一度は試射が必要と考えてタブレット端末を使って試射ができる適地を探しているが、CIAにも試射場として最適な場所がないかを問い合わせてみた。
カワサキがCIAへ問い合わせてから2日後、カワサキもインターネットを駆使して試射場に出来そうな候補地を幾つかピックアップしていたが、一ヶ所に絞りきれるだけの決定的な情報がなく悩んでいたところへCIAからメールが届いた。
メールは、カワサキがCIAへ問い合わせた試射場についての回答で、CIAが試射場に適地として選定してきた場所は、偶然にもカワサキが候補地としてピックアップしていた中の1つであった。その場所は、衛星写真等で見る限り比較的平坦そうで25メートルの距離が確保出来そうなのと、別荘地帯から直線距離で2キロメートル以上は離れた山奥でアクセス面では決して好条件とは言えないが、周辺住民に目撃されたり、発砲音を聞かれて不審に思われる心配はなさそうである。
CIAが今回もカワサキからの問い合わせに素早く対応したのは、今後のミッションでカワサキから新たな銃器を含む装備品を要求された場合に、装備品の事前テストが必要になることが想定されるので、予め試射場を確保してカワサキに必要な整備もやらせておけば、不要な時間を節約することになると判断したからである。
CIAからのメールに目を通し終わったカワサキは、早速にも試射場の整備を行おうとアジトの物置から電動草刈り機や電動のチェーンソー等の道具類に加えハンマー等の工具をパジェロミニに積み込んだ。電動工具に使うバッテリーは充電が必要な状態だったので、これから充電を始めておけば、整備作業は明日から行うことが出来る。
翌日の朝、朝食を終えたカワサキは整備作業で汚れても良いような服装に着替えてから、地下室へ向かいM&P5.7拳銃に消音器を装着し実弾を装填した弾倉を拳銃に備えてホルスターと共に持ち出した。万が一にも整備作業中にヒグマやイノシシに遭遇した時の護身用とする。しかし、防弾チョッキを貫通する威力がある5.7×28ミリメートル弾であっても拳銃弾でヒグマやイノシシと互角に戦える等とは思ってないので、あくまでも気休め程度の用意である。最も、試射場の整備道具を積載パジェロミニではライフル銃を積み込むスペースがないという事情もある。
パジェロミニでアジトを出発してから1時間ぐらいは舗装路の快適なドライブであったが、途中から未舗装路になると正に悪路で起伏が激しくスピードを出して走行できない。そのため、朝の7時30分にアジトを出発したが現地に到着したのは11時近くになってしまった。
カワサキは、早速パジェロミニから電動草刈り機を取り出して雑草の草刈りを始めた。雑草の草丈が可能なくらい短くしておくと空薬莢を回収する時に便利なので適当な作業はできない。
最低限のエリアを刈り終わったのは、午後1時を過ぎていたので、買っておいたサンドイッチと野菜ジュースで昼食を取り、空腹を満たしたところで電動のチェーンソーに持ち替えて近くに生えている手頃な樹木を斬り倒し、長さを130センチメートルにして4本分を切り揃えた。
次いで、パジェロミニから厚さ3センチメートルのベニヤ板を取り出して、切り揃えた4本をテーブルの脚として釘を打ち付けて固定し、簡易なテーブルを作った。
出来上がった簡易テーブルを雑草を刈ったエリアの端に設置するとゴルフ用のレーザー距離計で簡易テーブルから25メートルの距離を見回したが、適当な樹木がなかったので簡易テーブルの脚に使った樹木の残りでペーパーターゲットを貼り付ける看板を作り、簡易テーブルの反対側へ置く。
ここまでの作業を終えた時点で、時刻は午後4時近くになっていたが、幸いにも作業中にヒグマやイノシシと遭遇することはなかった。
今日一日の作業で、取り敢えずライフル銃の試射ができる状態にしたので、カワサキは後片付けを始めて、パジェロミニの荷台に道具類を積み込むとアジトへ向けてパジェロミニを発進させた。
アジトに帰宅すると直ぐに夕食の支度に掛かり、相変わらず見てくれが悪いが味だけは確かな男料理を缶ビールと共に食べ終えると、使った食器等を手際よく片付けてテーブルを移動して、床下収納で隠している地下室へ向かった。
地下室に入るとソフトケースに仕舞っているプレシジョンライフル銃を取り出して、一旦事務机の上に置き、大型書庫に仕舞っておいたリローディング済みの弾薬を入れておいたプラスチックケースを持って事務机に置く、次いでソフトケースの脇ポケットから箱型弾倉を出してプラスチックケースからリローディング済みの弾薬を箱型弾倉に装填していく。
10発の弾薬を箱型弾倉に装填してみたが、全て問題がなく弾倉に装填出来ているようである。これは、リローディングで弾丸をセットするのに道具を使っても、所詮は機械ではなく人間が作業しているので、13発の弾薬が全て同一の深さに弾丸がセットされているとは限らないため箱型弾倉に問題なく装填出来るかを確認したのである。
ここで、弾薬の全長が長過ぎたりして弾倉に入らないようではライフル銃に弾薬を装填して射撃など出来ない。少なくとも箱型弾倉に装填した10発の全長は適正なサイズに弾丸がセット出来ていることが分かった。更に、箱型弾倉に並んでいる状態を見ても微妙に弾丸部分が突き出したり、逆に凹んでいるような弾薬も無さそうである。
箱型弾倉への装填状態を確認したカワサキは、次にライフル銃を手に取り、箱型弾倉をライフル銃にセットすると遊底を操作して10発の弾薬を薬室に装填と排莢を繰り返した。この動作で弾薬が弾倉から薬室に装填される際に、変な抵抗であるとか遊底が最後まで戻せないほかに、スムーズに排莢が出来ないような症状がないことをチェックしてみたが全弾とも問題が無さそうである。尚、このチェックをしている時には誤って発砲することの無いようライフル銃の引き金付近には絶対手を近づけるようなことはしない。
ライフル銃から排莢した10発は事務机の上に並べて置き、弾薬ケースに残っている3発も同様なチェックをして問題がないことを確かめると最初の10発は箱型弾倉へ再装填して、ソフトケースの脇ポケットに仕舞う。残りの3発は弾薬ケースに戻してから大型書庫へ仕舞った。
リローディングで作成した弾薬のチェックを終えたカワサキは、次にライフル銃本体のチェックを始める。特に、これまでよりも装薬量が増えているので、消音器やスコープの取り付けが緩んでいないかを確認すると、ライフル銃の機関部から遊底を取り外して遊底の各所にグリースを適量塗り付ける。更に、機関部の稼働部分へシリコンオイルを吹き付けておいた。
ライフル銃のチェックとメンテナンスを終えるとソフトケースに収納して事務机の上に置くと、大型書庫からナイロン製の大型ショルダーバックを取り出して、着弾状態を確認するためのスポッティングスコープと付属の三脚、耳を保護するためのヘッドフォンタイプのイヤーマフ、射撃用ペーパーターゲット数枚を詰め込みジッパーを閉める。
ライフル銃を収納したソフトケースを左肩に担ぎ、大型ショルダーバックを右手に持ったカワサキは1階に戻ってベッドの近くにソフトケースとショルダーバックを置いてから床下収納を元に戻し、テーブルも定位置に移動させた。
ベッド脇のテーブルに設置した充電器に差しっ放しのタブレット端末の画面を見るとCIAから新たなメールは届いていないので、インターネットで明日の天気予報を確認すると1日中曇りとなっていた。晴天でないのは残念だが、曇りであるならライフル銃の試射に影響がない。
カワサキは、試射場への移動時間を考慮して早めに出発できるようシャワーを浴びてからパジャマに着替えて就寝することにした。
外から聞こえる小鳥の鳴き声で、カワサキは慌てて飛び起きて時計を見てみると6時30分を過ぎていた。カワサキとしては6時前には起きようと思っていたので完全に寝坊である。
舌打ちをしたカワサキは、急いで身支度と朝食を済ませてパジェロミニで試射場に向かったが出発できた時間は前日と同じ7時30分頃になってしまった。途中、コンビニエンスストアで昼食用にサンドイッチと野菜ジュースを買ったので試射場に到着したのは11時30分過ぎであった。カワサキは車内で昼食を取り終えてから積載していた荷物を自作した簡易テーブルへ運んだ。
大型ショルダーバックを開けてペーパーターゲットを取り出すと、自作の看板に張り付けてから、簡易テーブルに戻りスポッティングスコープに付属の三脚を取り付けてテーブルの上に置く。次いでヘッドフォンタイプのイヤーマフを着けてからソフトケースに仕舞っているライフル銃と箱型弾倉を取り出してライフル銃に弾倉をセットした。その後、ライフル銃のハンドガードに取り付けいる二脚銃架を起こして簡易テーブルの上でライフル銃を固定できるようにすると、遊底を操作して弾倉の最上部にある初弾を薬室へ装填して安全装置を掛ける。
二脚銃架を使ってライフル銃を構える際には、心持ち前方へ押すようにしてやると二脚銃架の固定が安定する。スコープを通してペーパーターゲットのセンターに狙いを定めて安定装置を外すと引き金を静かに引く。
これまでよりも装薬量を増やしているため、イヤーマフを装着していても発砲音が以前より少し大きく響いている感じがする。
1発目の排莢をすると、続けて2発目と3発目をペーパーターゲットのセンターを狙って発砲した後、3発目を排莢して遊底を引いたままの状態でスポッティングスコープを覗き着弾状態を確認する。
3発の弾痕は、ペーパーターゲットのセンターから11時の方向5センチメートル辺りに2センチメートル以内の範囲で着弾したことが分かった。
カワサキは、スコープのレティクルを横方向に調整するヴィンテージノブを弄る必要がないと判断したが、上下方向を調整しようとエレベーションノブに手を掛けたところで思い留まった。下方向に5センチメートルぐらいであればホールドして修正できるし、仮にエレベーションノブを調整するにしても1クリック程度であるので、スコープのノブを弄らずに試射してみることにした。
ホールドとは、ゼロインを済ませたスコープのエレベーションノブとヴィンテージノブを弄らずに着弾修正することを意味しており、予め着弾のズレを見越して狙点をずらして照準することである。
カワサキは、遊底を戻して4発目を薬室に装填してからスコープの照準をペーパーターゲットのセンターから5時の方向に8点ゾーンを狙って発砲し、5発目と6発目も同様の狙点を狙って発砲した。ライフル銃の遊底を引いて6発目を排莢したまま薬室を空の状態にしてスポッティングスコープを覗くと概ねセンター付近に纏まって着弾している。
ホールドの状態を確認できたカワサキは、排出された空薬莢をリロード用に全て回収してから撤収準備を始めた。
穴の空いたペーパーターゲットを回収してから、スポッティングスコープの専用三脚を外してショルダーバックに仕舞う。ライフル銃から箱型弾倉を外して、弾倉はソフトケースの脇ポケットに入れライフル銃本体をソフトケースに収納する。
全ての荷物をパジェロミニの荷台に積み込み終わるとアジトへ向けて車を発進させた。アジトには夕陽が沈まぬうちに到着したので、カワサキは直ぐに地下室へ向かい6発分のリローディングを行った。前回のリローディングで装薬量や弾丸の挿入具合が分かっていることに加え、作業量も前回の半分なので大した時間も掛からずにリローディングができた。
ライフル銃を収納しているソフトケースの脇ポケットから4発の残弾が入っている弾倉を取り出すと弾薬ケースに仕舞っておいた3発と新たにリローディングした3発を箱型弾倉に装填しておいた。
これで気象条件が良ければ、明日にでもヒグマのハンティングに出掛ける準備が整ったので、CIAから新たなミッションのメールが来ないことを祈りながら夕食の準備に取り掛かった。




