初心者ダンジョンだった①
リカルドを先頭にダンジョン内へと続く扉を潜り中へ入る。
ダンジョンの中は洞窟のようになっており、横幅は約十メートル、天井の高さは四メートルくらいだった。
これくらい広ければ、武器を振るのも大丈夫だろう。
一階にはセーフエリアはないそうで、安全を確保するには外に出るしかないそうだ。
入ったばかりで、まだ敵の姿は見えない。
とりあえず、すぐに逃げられるように入り口の近くでモンスターが湧くのを待つそうだ。
俺たち殆どが、生きている生物を殺したことがないことから、緊急時の為の配慮みたいだ。
入り口の近くをウロウロすること数分、ついにモンスターが現れた。
現れたのは額に角が生えた、一メートルくらいあるデカイ兎だった。
リカルドの説明によると、あの兎は『ホーンラビット』と言うそうだ。
地球にいる兎を、イメージしたと思うが全然違う。
生えている歯は刃物のようだし、生えている角も頭突きされたら刺さりそうだし、目付きも血走っていてキモイ。
あの兎とはまだ距離もあるので、向こうはこちらに気づいていない。
そこで誰がヤるかの会議が行われた。
見た目は凶悪そうな兎だが、このダンジョンの一階に出てくるようなヤツだから弱いそうだ。
初陣だし、誰も率先して戦おうとはしない。
しょうがないので俺が立候補してやるとこにした。
「誰もやらないなら、俺が行くよ」
俺が話しかけたことで、牽制し合ってたみんながこちらを向く。
その視線は安堵や、心配などいろいろな感情が織り混ぜっていた。
「いいのか? 仮にも兎を殺しに行くんだぞ?」
「元の世界でも、猟師のじいさんと鹿とか猪とか取ったことあるから、動物が死ぬのは見慣れてる」
俺の実家は猟師の家系だ。
父親は動物を殺すのがダメで、普通のサラリーマンだが、じいさんやその上のご先祖様も猟師をやっていたはずだ。
家系図を見たことがあるが、三百年くらい前までは書いてあった。
俺の影の薄さはじいさんたちの遺伝だと思う。
「それなら是非行ってくれ!」
委員長がそう言うと、周りのみなも頷いたり、俺の肩をたたいたりした。
「なら行ってくるよ」
「大丈夫だとは思うが気をつけてな」
俺が行く旨を伝えると、リカルドが声をかけてくれる。
あの程度だったら、スキルを使わなくても近づけるが、一応モンスターなので、気配遮断と影の道、忍び足を発動させる。
「えっ、消えた!」
「マジかよ……」
俺がスキルを発動させたので、周りに見えなくなったようで、スキルのことを知らなかった半数が驚いていた。
タクやヒカル、剣持、双槻はスキルを使って遊んだりしてるので知っている。
なぜかリカルドも知っていたようで、消えたのを見てうんうんと頷いていた。
エリザのストーカーになっているから、エリザと遊んでいる時にでも見たのだろう。
ホーンラビットに近づく前に、武器収納からナイフを出しておく。
ナイフを構えたまま近づき、ホーンラビットの背後に回る。
どこまで気がつかれないのかを確認するために、少しずつ距離を詰めていく。
一メートルくらいまで近寄ったが、まだ大丈夫なようなので、ホーンラビットの周りを一周回ってみる。
ホーンラビットは臭いで、周囲の異変に多少は気がついたようだったが、俺がどこにいるのかまでは、わからないようだった。
このレベルのモンスターなら、正面を移動しても見つからないな。
確認が終わったので背後から喉元にナイフを刺し込む。
ホーンラビットは突然の攻撃にまったく対応できず、息絶えるまでに少し暴れたが、そのまま倒れ光の粒となって消滅していった。
ナイフを刺した際、ホーンラビットからは血が出なかった。
血の代わりなのか、光の粒子が切り口からキラキラと流れ出ていたので、それが血の代わりだったのかな?
敵がいなくなったので、スキルを解除してみなから見えるようにする。
先程までホーンラビットがいた場所には、額に付いていた角が落ちていたので拾っておいた。
俺がスキルを解除したので、見ていたみながこちらへとやって来た。
「お疲れ様。 初めてにしては手慣れていたな」
リカルドからお褒めの言葉をいただいた。
「その手に持っている角が今回のドロップだ」
俺の手の中のモノを見るとリカルドはそう教えてくれた。
やはり落ちていた角はあの兎のモノだったようだ。
「おまえの姿が見えないから、あの兎が突然苦しみだして死んだように見えたぞ」
「キエルのスキルがスゴいのは知っていたけど、あれは見ていて可愛そうにだったんだな」
近づいてきたタクと剣持がそんなことを言ってくる。
なぜか一緒にいる他のみなも頷いているし……
確かにモンスターなのに何もせずに死んでしまったからな。
「あれが暗殺者の戦い方なんだから、仕方ないだろ」
ユーリさんと訓練したから、正面から戦っても余裕で勝てるだろうが、安全な戦い方があるのに危険を冒すこともないだろう。
「簡単には倒していたようだし、殺すのに本当に慣れてるんだな」
人を殺人鬼みたいに言わないでもらえるかな?
確かに俺の職業は暗殺者だけどさ。
「慣れてる訳じゃない! 殺すときは嫌な気持ちになるし、おまえらより多少耐性があるだけだ」
誰も好き好んで殺したりしない。
俺たちが普段食べている肉だって、元をたどれば何かの動物だ。
それを食べて生きているんだから、人は誰でも間接的には動物を殺している。
畜産をやっている農家さんの中には、自分たちで育てている動物の肉は食べられない人もいる。
それは自分たちが目の前で精肉している反動だという。
つまり、農家の人たちも好きで肉を作っている訳ではないのだ。
「それよりリカルド、ホーンラビットから血が出なかったがなんでだ?」
戦ってみて一番疑問に思ったことをリカルドに聞いてみる。
「話すのを忘れていたが、ハッキリとしたことは解っていないが、モンスターが魔力で形成されているからだとされている。 モンスターの傷口から、溢れていた光が形成している魔力だな」
血が出ないのはありがたい。
服などに付いた血は落ちにくいし、血を見るのが嫌な人もいるだろう。
ダンジョンではそれがないとなると、戦い難かった皆も多少はやり易くなるだろう。
ナイフを刺し込んだ感触は、まんま生肉を切った感触だったが……
俺の初戦闘が終わり、次のモンスターを探しに歩く。
先程と同じように数分歩くと、モンスターと遭遇した。
その度に交代で戦闘を経験していくのであった。




