だるまさんがころんだった
最初の鬼は初心者には厳しいので、俺たち異世界組でじゃんけんをして決める。
負けて鬼に決まったのは剣持だった。
剣持は廊下の端に移動してこちらの準備を待つ。
俺たちも一列に並んで始められるように構える。
俺の隣りにはイリス様が鼻息荒く、いつでも走り出せるように意気込んでいる。
走らないルールなのだが、イリス様はヒルダが守るそうなので許可が出た。
俺は剣持にオーケーだと伝えゲームが開始される。
剣持は後ろを向き声を出し始める。
「だーるーまーさーんーが……」
その声と同時にみながゆっくり動き始める。
違うのはイリス様だけで、イリス様は開始と同時に猛ダッシュして行った。
歳の割には早い速度で走っているが、あのスピードで止まれるのだろうか?
そんなことを考えながら俺も前へ進む。
エリザ様もイリス様ほどではないが、意気込んでいるようで早歩きで進んでいる。
「……こーろんだ!」
最後の方でリズムを変えてフェイントをかけ剣持が振り向く。
「わっ」
「っとと」
「きゃっ」
歩いていた俺、タク、ヒカル、双槻は即座に対応してピタっと止まる。
少し速度を出していたエリザ様はフェイントに引っかかり、止まれずふらついてしまっていた。
そして走っていたイリス様はというと、フェイントを読んでいたのか最後の方に速度を緩め、凄いキレイに止まっていた。
「エリザ様アウトですね。 こちらに来て待っていてください」
剣持がエリザ様にそう告げ手招きする。
「そういうフェイントもありなんですね。 気がつきませんでした」
自分の失敗を反省しながら、トボトボと剣持の方へと歩いていく。
動いてしまったエリザ様を見て、イリス様は静止しながら器用にケラケラ笑っていた。
それからは誰も捕まらなかった。
イリス様は走ったのは初めだけで、後はじりじり距離を詰めて行った。
俺たちはエリザ様とイリス様に楽しんでもらえればいいので、ゆっくり歩きながらイリス様を後ろから眺めている。
エリザ様は全力で楽しんでいるイリス様を見て悔しそうにしていた。
開始早々にアウトになって、後は見てるだけだしそりゃそうか。
そんなことを考えていると、イリス様と剣持との距離が五メートルほどになった。
剣持も近寄ってきたイリス様を警戒しているのか凝視している。
いや、顔はニヤけているから警戒はしていないな。
そして剣持が掛け声を言おうと壁の方へと向く。
それと同時にイリス様がダッシュする。
剣持の読んでいたのか早口でセリフを言うが、言い終わるより前にイリス様が剣持にタッチする。
タッチと同時にイリス様と捕まっていたエリザ様は走り出す。
俺たちはそれほど近づいてないので二、三歩下がるくらいしかしない。
イリス様たちが十メートルほど逃げたところで、剣持のストップがかかる。
この距離じゃ俺たちには届かないだろうし、イリス様にはタッチに行かないだろう。
つまり剣持の標的はエリザ様ということになる……と思っていた。
しかし剣持はこちらに目を向けていた。
俺たちに聞こえないくらいの声で何か呟くと、こちらに向けてジャンプした。
そのジャンプだ一歩で五メートルくらい進んでいる。
「おい剣持! おまえスキル使ってるだろ!」
「使っちゃダメってルール無かったはずだが?」
普通は遊びで使うとは思わないだろ。
一歩であの距離進むなら余裕でここまで届く。
別に鬼になるのが嫌な訳じゃないけど、なんかタッチされたら負けた気がして嫌だ。
剣持が二歩三歩進む、俺たちとの距離はもう三メートルないくらいまで近づいてきた。
そっちがスキル使うならこっちも使う。
すぐに気配遮断と影の道を発動させる。
「おい。 渡来が消えたぞ!?」
スキルを発動したことで皆から見えなくなったようだ。
「たぶんスキルを発動したんだな」
「ぼ、僕たちにも、み、見えないし本気のヤツだね」
訓練時に俺のスキルを見ている、タクとヒカルが気づいて説明する。
「見えないならしょうがない。 他の三人にタッチするか」
そう言いタクとヒカルにタッチする。
双槻はいつの間にか俺たちよりさらに十メートルくらい離れていた。
俺たちがその場から数歩しか動かなかったが、双槻は本気で後ろに逃げたようだった。
さすが親友、剣持のことをよく知っているな。
結局タッチされたのはタクとヒカルの二人、先に触られたタクが次の鬼に決まった。
一回目が終わった瞬間まだスキルを解除していないのにイリス様が俺に飛びついてきた。
なんとか受け止めたが、この状態の俺も余裕で見えてるよ……
受け止めた拍子にスキルが解除される。
なにもない場所から現れた俺に、エリザ様と双槻は驚いていた。
剣持はイリス様を抱き上げている俺を見て羨ましそうしている。
おまえももう少し馴染んだら、抱っこくらいできるようになるさ。
そのまま二回戦目に突入。
新ルールでスキルの使用は無しになったが、そのかわり皆本気でやることになった。
もちろん俺たちは走るのはなし。
その後、三回、四回とやっていると、ヒルダとは別のメイドさんが夕食の準備ができたと呼びにきた。
そこで『だるまさんがころんだ』はお開きになった。
エリザ様もイリス様も満足してくれたようで、ニコニコ笑っていた。
「次、何かやる時は呼んでくださいね。 今度は絶対ですよ!」
この王女様は今日誘わなかったのを、結構根に持ってるようだった。
「わかりました。 絶対に声かけさせてもらいます」
次にイリス様が話かけてきた。
「きょうもたのしかったの! あしたもあそんでくれる?」
「明日の訓練が終わった後に、予定が無ければまた遊びましょう!」
イリス様は駄々を捏ねることもなく素直にわかったと頷いてくれた。
「それでは夕食に行きましょうか?」
イリス様と手を繋ぎ、夕食が準備してある大部屋へと向かった。




