個別実習だった
午前のスキル実習が終わり、大部屋へと戻った後に昼食を摂る。
少しのんびりしていたら午後になり、個別の実習が始まった。
ちなみに、昼食にはイリス様は来なかった。
個別実習と言っても、場所はみんな同じで午前にも使った訓練場で、数人ごとに別れ一グループに一人先生役が付いただけだ。
教える人が専門的になったので、細かいことまで教わることができるはず。
そんでもって俺の先生は、黒ずくめで仮面を被った怪しい人だった。
暗殺者なんだから、怪しいのは当たり前か。
しかもこの人の前には俺しかいない。
暗殺者は派生の職業がないからと思われる。
俺は本当にマンツーマンで個別実習になるようだ。
周りのみんなは実習が始まっているようで、組み手をさせられたり、教科書みたいなので話を聞いてる。
俺は目の前にいる先生に視線を送る。
しかし微動だにしない。
これでは時間の無駄だし、先に進まないので声をかける。
「すいません。 私たちは何もしないんですか?」
声をかけるとビクッと反応した。
「……一人来ると聞いていたが、おまえ、いつ来たんだ?」
「いつって……あなたが来る前から目の前にいましたよ?」
まさかと思ったが、この人に俺は見えてなかったようだ。
この程度の危険察知で、暗殺者がやっていけてるなんて、この人に教わるの不安になってきた……
「そ、そうか……おまえは暗殺者として優秀なようだな。 だが私に向けてスキルは使わなくていいぞ」
「使ってませんけど……」
この人は俺がスキルを使って、隠れてたと思ったみたいだが、俺は一切使っていない。
「スキルを使わずに隠れてたのか!?」
「隠れてもないですって……ただ少し印象に残りにくいだけです」
誰もいないところから突然現れたのを見て、隠れてたと判断したようだ。
「隠れていた訳でもないのにそれか?」
「はい」
俺が言ったことを、ちゃんと理解してくれたのか、多少哀れんだ視線でこちらを見ていた。
その視線はいつものことだから気にしない。
「多少打ち解けたところで、自己紹介しようか」
全然打ち解けてないし、俺はあなたに不信感しかありませんよ……
「私は今日からおまえの指導をすることになった ユーリだ」
今まで紹介された人はみな姓があったけど、この人にはないようだ。
「私は渡来キエルです。 キエルと呼んでください」
俺も簡潔に名前を伝える。
「キエルだな。 覚えた。 私のことは好きに呼べ。 それと私に敬語は要らんから普通に話せ」
好きに呼べか……なら無難にユーリさんと呼ぶか、奇を狙って師匠と呼ぶか……悩むな。
とりあえずユーリさんで、しっかり教えてもらえるようなら師匠と呼び方を変えよう。
しかもタメ口でいいとは楽でいい。
この世界に来てから、王族やらなんやらで敬語で話すことが多かったからな。
「わかった。 これからよろしく頼む」
タメ口で返事をすりと、ユーリさんは満足そうに頷いた。
「訓練を始めようと思うが、おまえのステータスがわからないと、何を教えればいいか判断できないので見せてもらえないか?」
そう言われれたら見せるしか選択肢はないだろう。
ユーリさんにも見えるように、念じながらステータスを開く。
俺のステータスを見ながら、ユーリさんはどう教えるか悩んでいる。
五分くらいステータス画面と、にらめっこしながら微動だにしなかった。
「キエル。 午前中に気配遮断のスキルは使えたか?」
ステータス画面を見ながら、俺に質問が飛んで来た。
肯定の返事をする。
「ならおまえがやらないといけないのは、戦闘スキルと基礎能力の向上だな」
発動系のスキルは使えるから、使えないスキルのレベル上げをするのか。
気配遮断はレベル最大だし、鍛えることもないしな。
「戦闘スキルだが、レベルによって強くなるわけではない。 鍛練したことにより、自力が付きレベルが上がる。 戦闘中にも上がることはあるが、ステータスのレベルが上がった時の身体能力上昇で上がるくらいだ。 才能があるやつは、初めから高レベルで鍛練すると、すぐそのレベルまでのことは覚える」
戦闘スキル、俺の場合は暗器術。
基本的には訓練するしか能力は上がらないらしいし、自分自身のレベルが上がっても、筋力や速さが上がったことによる基礎能力の底上げによって稀にレベルが上がるのだろう。
さくさくレベルを上げるには、地道な訓練といいうことだ。
最初から剣術のレベルが高かった、ヒカルは職業のせいもあるかもしれないが、単純に剣を扱う才能があったのだろう。
ステータスを見た訳ではないが、剣持や双槻など部活で練習していたであろうやつらは、初めから高いレベルで持っているんじゃないかと思う。
「なのでおまえには暗器術の鍛練をしてもらう。 暗器は私の方で用意したからそれを使え」
ジャラジャラと音を立てて、ユーリさんの袖口からあり得ない量の武器が出てきた。
「袖口に入る量じゃないし、どうなってるのこれ?」
「これはおまえも持っている暗器収納スキルのおかげだ。 袖から出したように見えただろうが、実際は異空間に入れてあるのを袖口から出すように見せただけだ」
普通に隠せる量じゃないからビビったが、スキルによるものだった。
「暗器収納スキルってどうすれば訓練したことになるんだ?」
「訓練は必要ない。 暗器収納は出し入れしているうちに、勝手にレベルが上がるから特別やることはないぞ。 レベルに応じて収納できる量が変わってくるから、暇があれば出し入れしてレベルをあげな」
手遊び程度に片手間でできるから訓練というほどでもないのかな。
楽にレベル上げができるならそれに越したことはないな。
「暗器術はまず暗器を隠せないと始まらないから、このナイフを収納スキルでしまってみろ」
ユーリさんが自分で出した武器の中から、十五センチくらいのナイフを拾いこちらへ差し出してきた。
それを受け取ると大きさの割に重く感じた。
ナイフに目を向けて集中し、暗器収納を発動させる。
すると手からナイフがスッと消失した。
「しっかり収納スキルは発動したようだな」
ちゃんとスキルは発動したようだ。
「次は同じ要領で、今収納したナイフを手に出してみろ」
言われた通り、今度は手のひらに現れるように、先ほどのナイフをイメージする。
イメージして約二秒ほどで、俺の手にはナイフが握られていた。
「初めてにしては中々の速度で取り出せたな!」
ユーリさんが予想していたより、早く出現させられたようで誉められた。
さすがに頭を撫でるのは、恥ずかしいので止めてください。
「そのナイフはやるから自分の収納へしまっておけ。 残りの時間はこっちのナイフで私と組み手だ」
俺は言われた通りにナイフをしまい、投げ渡してきた木でできたナイフをキャッチする。
「戦闘に関しては、全くの素人なんだけど?」
「私の動きを見て覚え、技術を盗め! なに大丈夫すぐなれるさ」
ユーリさんそれって怪我しませんかね……?
てか凄いスパルタですやん!
「構えかたくらいは教えてやる」
俺、手足をいじり構えを作っていく。
「それが基本の構えだ。 身体に染み付かせて、すぐ構えられるようにしろよ」
この格好、動くのに少し窮屈な感じなんですけど……
「これからゆっくりとおまえに攻撃するが、なるべく構えを崩さないことを意識してナイフで受けてくれ」
ユーリさんは本当にゆっくりとナイフを差し出してくる。
俺はゆっくり迫るナイフを、自分の持っているナイフで受ける。
「動きはそんな感じでいいが、身体は相手に向けて半身で、攻撃される面積を減らせ!」
指示されたように後ろ足を引くように、身体を動かし半身なりながら構える。
「そのまま身体が開かないように気をつけながら、私のナイフをさばいてみろ」
すると最初はゆっくりだった、ナイフの速度がだんだん早くなっていく。
俺もなんとかその速度ついていくが、途中から受けきれない攻撃が増えていき、俺の身体に傷ができていく。
最後には押し切られ腕を取られて投げられる。
「ガハっ」
地面に打ち付けられて声が漏れる。
受け身なんか体育の授業で少しやっただけだから、そんな反射のように受け身は取れない。
「倒されてもすぐ立て! 上に乗られたら逃げられなくなるぞ」
怒声に反応にてすぐに立ち上がる。
「よし、次いくぞ」
立ち上がるとすぐに攻撃が始まる。
今度は始めから攻撃速度が早い。
少しは耐えられるが、また押し切られて投げられるが、言われる前に立ち上がる。
そのまま何十回も続けてて、立ち上がれなくなった頃に終わりが訪れる。
「これだけやれば少しレベルも上がっただろうから、後で確認してみろ」
暗器術以外にもステータスのレベルも上がっているそうだ。
「では今日はこれで終わりにしようと思うが、なにか質問はあるか?」
ユーリさんと会ってから、ずっと気になっていたことを聞いてみよう。
「一つだけきいていい?」
「なんだ言ってみろ」
答えてくれるみたいだ。
「ユーリさんは男性? 女性どっち?」
仮面を着けていて、体の起伏もあまりないので、外見では判断できないので気になって聞いてみた。
「それは……ひみつだ」
その後、粘ってみたが聞き出すことはできなかった。




