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Da sein―待ち人お嬢とやさぐれ貴族―  作者: 霜月美由梨
二章 隠せざる過去
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二章 隠せざる過去

「で? なんかあったの?」

 入ってきたことには理由があると思い、本題に移ってとせかすとテオはふっと笑ってうなずいた。

「まず、備えなしに王都に入るのはすこし危険と思いまして、準備ができるまでここにとまることにしました」

「……そう」

「それと、お兄様のところに早馬を出しておきました」

「本当?」

 ぱっと明るくなるリノの表情。ほの明るい蝋燭に照らされたリノの顔にテオがふっと笑う。

「ええ。本当です。もしかしたら返事が返ってくるかもしれません」

「うん」

 元気に頷くリノに、目じりにしわを寄せたテオがそっとリノの手を握る。

「だから、気を確かにお持ちください。なにがあってもあなたは領地に帰れるように手配します」

 ぐっと手を握ってそう断言したテオの目を見てリノがしっかりと頷く。それを見てテオはそっとリノの頭を撫でて、ではこれで失礼しますといって部屋の外に出て行った。

 その背を見送ってから、リノはふと机の上に伏せられてほこりのかぶった写真立てを見つけた。

「これは……」

 ほこりに触れることをためらいながらもそれに手を伸ばして起こすと、一枚の写真が入っていた。

「……だれ?」

 ガラス一枚隔てたそこには、一組の恋人同士と思われる男女が肩を並べて穏やかに微笑んでいた。

 一人は白銀の髪を持って蒼い目の青年。

 真顔では鋭くとっつきにくそうな印象を持たせる顔がやわらかくほどけている。

 もう一人は、つややかな真っ黒い髪を持った、優しげな女性。

 ことんと甘えるように青年の肩に頭を預けて、小さくだが、とてもうれしそうに微笑んでいた。

「……だれ?」

 二人は、互いに軍服を身にまとって、明らかに執務の途中抜け出して撮ったという感じで後ろには石壁が広がっている。

 そんな写真を眺めながら、そんな暖かい雰囲気を秘めた紙を見ながら、リノは目を閉じた。

「あれ? もう見つかっちまったっすか?」

 ノックもなしに入ってきたシルヴのとぼけた声に顔を上げると、リノはシルヴの顔を見上げて写真を突っ返した。

「だれ?」

「中佐と、その元カノっすよ」

「あいつ?」

 思いも寄らないその言葉に目を真ん丸くしたリノに、シルヴがさびしげに微笑んで写真立てをまた伏せて机の上においた。

「あんまり亡くなった人の写真を飾るんじゃないっていわれるんすけどね。これだけは」

「亡くなったって、その……」

「そう、この優しそうな女の人。戦争の時に逝ってしまって……」

「へえ」

 もう一度伏せられた写真立てを起こしてみた。

「……」

 どう見ても、この中の男の人と、シオンが重ならない。

「…………ほんとは、これも中佐に燃やせって言われてた写真なんすっけどねえ。あんまりきれいで燃やすのがもったいなくて」

 シルヴがそっと写真立てのふちをなぞる。その瞳はどこか悲しげで優しいものだった。

「確かに、絵にはなるわね」

「でしょう? 冷静な中佐が、唯一この人の前では少年に帰ってしまう。……それぐらい包容力のある人だったんすよ。……シオンは」

「え?」

 つぶやかれた女の名前らしい言葉を聞き返すとシルヴの顔が引きつった。

「忘れてください」

 棒読みの声を無視して身体を乗り出してシルヴを見上げる。

「いや、どういうこと? シオンてあいつの名前じゃ」

「偽名っすよ。……中佐が隠すのであればそれなりの理由があるので本名のほうは教えられませんけど、彼女、この黒髪の女のほうがシオンというんすよ。まあ、この名前を出せるようになるぐらいは立ちなおったんすかねえ」

 しみじみとしたそのつぶやきに首をかしげて眉を寄せた。

「立ち直る?」

「ええ。シオンが亡くなってから傷心を抱えて戦争に勝ち、軍の本部に戻ってきた頃にはもう、言葉すら話すこともままならない状態でして。そこから休職というものをとって今の今までずっと旅して歩いていたんすよ。テオさんを連れてっすね」

 その言葉を聞きながらリノはため息をついてまた写真に目を向けていた。

「さ、昔語りもここまでにしましょう」

 シルヴの言葉に写真立てを渡すと、元のように写真立てを伏せておいた。

「……覚えていてください」

「え」

 写真立てに手をかけたままの状態でシルヴがぽつりと言う。

「……中佐は、今はあんなんでも、元はこの写真の中の人のように温かい微笑を持って部下を、人を受け入れることのできる人だったっす。今は、それを忘れているだけ。とはいえども、あなたには信じられないことかもしんないっすけどねえ」

 困ったように笑って言われた言葉に、リノは唇をかみ締めて目を閉じた。

「……心には留めておくわ」

「ありがとうございます」

 そう言って一礼したシルヴは、用が済んだと言わんばかりに写真立てをしまってトレーを持って部屋の外に出ていった。

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