二章 隠せざる過去
理解が出来ないまましりもちをついたリノの鼻先をかすったのは短い矢だった。
「やっと、見つけたぜ?」
そういって通りの先から来たのはクロスボウを持った男達だった。
「……ち」
シオンが舌打ちをして、右肩にまっすぐと刺さった矢を左手で引き抜いた。
「さあ、令嬢を渡してもらおうか」
いかにも金で雇われた風貌の男達は、下卑た笑みを浮かべながらリノをちらちらと見る。
「……」
腰を抜かしているリノを抱え上げて、自分の盾にするようにして立たせたシオンがけがをしているはずの右手で、銃を取った。
「お前らが打てば、この令嬢の命はない。生け捕りじゃないと、意味がないだろう?」
「な、あんたね」
振り返ってシオンの顔を見たリノが言葉を詰まらせる。
「少し黙っていろ」
ぐっと引き結んだ唇は震え、頬からは血の気が引いていた。
体を支えるようにリノの肩についた左手も震えている。
「お手製の毒さ。苦しいだろう?」
「……こんなもの、従軍していたときに比べれば可愛いものだ」
そういってシオンがリノの肩から手をはずして、両手に銃を持ってリノの横で抜き様に発砲した。
瞬く間もない凶行。
クロスボウの引き金を引く間もない連射と、命中精度に、一人を追うにしたら多すぎる追っ手が見る間もなく散っていく。
「……」
全員を散らせたことを確認したシオンが、リノから離れて銃をしまい、建物に背中を預けて深くため息をついた。
「先輩!」
「追っ手だ、こいつ連れてさっさと行け」
がやがやと騒がしくなりはじめた裏通りに、テオが現れて立ち尽くしたままのリノをさらう。
テオにつれられるままくねくねとした通りを背後の発砲音におびえながらも走った。
そして、追っ手がいないと判断したのだろうか。
裏通りの深いところで速度を緩めたテオに、習うようにリノは立ち止まってぺたりと座り込んでいた。
「いや、いやよ、こんなこと!」
リノはしゃがみこみながら、激しく頭を振り、わめきはじめた。
そんなリノに、驚いた顔をしながらもテオは落ち着かせようと、その肩に手を伸ばしたが、手を止めた。
リノはがたがたと震えだしていた。
「……お嬢様」
テオがその状態を注意深く観察するように見下ろし、そして眉を寄せた。
「いや、もういやよ!」
石畳の地面に座り込みながらそう繰り返すリノに、テオは困ったようにため息をつき頭を掻いた。
「……失礼します」
そうぼそりと呟いて、テオはリノを抱えおこすと当身を入れて意識を失わせた。
「さぁっすがっすね」
すぐ近くの扉が開いて中からひょっこりとシルヴが顔をのぞかせる。
「先輩が負傷した」
「了解っす、お嬢さんは地下室へ」
「ああ」
リノを抱えたテオがシルヴに導かれるままにその中に入っていく。
シオンが帰ってきたのは、それから一時間以上した後だった。




