二章 隠せざる過去
夢を見ていた――。
そう、まだ、サナンがなにかと遊びに来て相手をしてくれていた時のことだった。
「サナンさま」
広い庭先には、甘えた少女と、貴族にはふさわしくない、どちらかと言えば庶民的なシャツ姿の銀髪の青年。
「おう、元気だったか?」
気さくに話しかけ、いつも気の利いたお菓子や、小物を土産に持ってきてくれる彼のことが大好きだった。
「今日はなあに?」
「お前……。ま、いっか。ほれ、ネックレス」
「え?」
「……ケーキとか言っても、大半はイアンの腹の中に入るんだからな」
そう言って遅れて出迎えに来た兄の引きつった顔に目を向けた彼は、優しく笑いながら頭を撫でてくれた。
「あけていい?」
「ああ。あけな。……もっとも、気に入ってくれるかはわからないがな」
やわらかいその声に導かれるようにして、丁寧に包装された箱を開いていく。
「わあ……」
手の込んだ内装の箱に見劣りせずに入っていたのは、藍色の宝石に一つの家紋が彫られ金で装飾されたネックレスだった。
「……この家紋は?」
「……俺んちの」
片目をつぶってにやりと笑った彼に、兄が血相を変えて顔を引きつらせた。
「お前……」
「いつになるか、わからない。だが、ほぼ、決定事項だろう? それに、明日から戦争に行くんだ。……いいだろう?」
「だが、……お前?」
「俺になにかがあったとしても、公爵家でその子の面倒は見る。養子に入れても良いと、父は言っている。もちろん、兄もだ。……そしたら、万一王が崩御しても兄貴が入って家はその子が残る」
真剣な表情をした彼に兄がもの言いたそうにしながらもなにも言えずにうなだれた。
「……そう、か。うん。頼む」
「ああ。ま、あと、お前の就任パーティーにゃ行けないな?」
「当たり前だろう。……まあ、親父の誕生パーティーも一緒にやるっぽいから忙しいの覚悟で軍に警護にはきてもらうが」
「そうか」
そういった彼の顔には、とびきりのいたずらを閃いた子供のような表情があった。
「なんか思いついたか?」
「ん? なんのこと?」
そうやってとぼける彼もいつもの彼だった。
「サナンさま」
「ん?」
彼は頭を撫でながら小さい少女に目を合わせてやわらかく笑う。
「戦争に行くの?」
「ああ。大丈夫。帰ってくるから」
「本当?」
「ああ。約束だ」
彼の大きくて細くて長い小指が目の前に差し出される。
その指には銀色の指輪が光っている。繊細な彫刻がされた、ぱっと見でも値が張るとわかるものが。
「うん」
はっきりとうなずいて自分のちいさな小指を絡ませて、目をあわせてまたうなずく。
「……もうそろそろ、戻らないとな。明日の準備があるんだ」
「……忙しかったのか?」
「否定はしないな。でも、こういうことは俺の口から伝えるのが筋だろう?」
「……まったく」
あきれた兄と、ネックレスを手にして目をきらきらさせながら手を振る少女に見送られて彼が去っていく――。




