二章 隠せざる過去
そして翌日の日の出。
「ねむいー」
「ついたらすぐに眠れますから……」
外套を羽織ったリノを、テオがなだめながら歩いていく。
「……テオ」
先を行っていたシオンが少し歩を緩めて、テオになにかを耳打ちした。
「あ、そうですね、了解です」
頷いてテオが先に走っていってしまった。
追いかけようとしたリノの肩をシオンがつかむ。
「あいつは先触れだ。なにかがあればすぐに戻ってくる」
「なければ?」
「シルの家で合流だ。文句垂れてないでさっさと歩け」
肩から手を離してシオンが先を歩く。
むっと口を閉じてその背中をにらみつけたリノだったが、それ以上なにも言わずにその背中についていった。
しばらく無言で歩くと、いつの間にか街の中に入っていた。
夜明け直後の町は、朝食の準備などにいそしむ主婦達の目覚めのときだった。
「……」
シオンがちらりとリノに目を向けて、裏通りに入っていく。
そのあとをおとなしく突いていくリノだったが、ふと、裏通りの建物と建物の隙間に腕を引っ張られて引き込まれてしまった。
「なんの用」
引っ張った腕の持ち主をにらみながらリノが気丈に言い放つ。
「なんの用って用ったらなあ?」
同意を求めるように引き込んだ腕の持ち主の男が振り返って、何人もいる男達に顔を向ける。
「一つしかねえだろうや、姉ちゃん」
下卑た笑みを浮かべながら一人の男が言って笑う。
「……」
思い当たることは一つ。それしかないだろう。
「……」
リノはぐっと奥歯をかみ締めて、正面にいる男をにらんだ。
「付き人がいるの」
「それも先に行っちまったじゃないか?」
「……気づくわ」
「それでもどこにいるか……」
返事をするように響いてきた規則正しい足音に男達が黙る。
「……なんだお前?」
深いため息と共に漏れた低い声にリノが、引きつった顔ながらも笑う。
現れたすすけた銀髪のシオンに男達が噛み付くように寄っていく。
「……なんだ。か。ただの元軍人だ」
そう言ってシオンが、一番近い男を殴る。そして足を振り上げ、道をふさごうとする男達を蹴散らす。
「朝からお盛んなこった。猿以下の連中にはお灸をすえてやらねばなるまい」
シオンは腰のホルスターから銃を引き抜いて、無造作に引き金を引いた。
パンと小気味良い破裂音と共になにかがはじけた。
「なっ」
放たれた銃弾は正確にリノの傍にいた男の頭を撃ち抜いていた。
頭蓋に大穴をあけて、路地裏に中身を撒き散らしながら倒れ伏した男の姿に、その場にいただれもが顔を引きつらせた。
「ということだ。さようなら」
それだけを言って、リノを襲おうとした男達に、シオンは笑いながら容赦ない銃弾の洗礼を受けさせ、路地裏を赤く染め上げた。
狂人のなせる業。
その場にもし見ている人がいるならば、そう言うだろう。
赤く染まった路地裏にうっそりと笑みを浮かべたままでいたシオンは、断末魔の痙攣に苦しむ最後の一人に銃弾を浴びせ、何事もなかったように銃をしまった。
「……ひどい」
「お前は追われの身だ。こういうやつらは金でお前の情報を流す。ならば、消しておいたほうが得策だ。行くぞ」
呆然と立ち尽くしているリノの細い腕をつかんで、元の裏通りに出てそのまま歩いていく。
「離して!」
握り締められるようにつかまれた腕が痛みを訴えている。
そんなリノの様子を気にしない様子で早足で歩いていくシオンの表情はない。
「離してって!」
角を曲がったところで渾身の力を振り絞って振り払うと、シオンが怒ったように眉を吊り上げて振り返り、そして、通りの先に視線を滑らせる。
「この……!」
なにかを言おうとしたリノをシオンが横に突き飛ばす。




