二章 隠せざる過去
「町にお触れ書が出ているらしい。連中の指令は早い」
「……どういう内容か教えてもらっても?」
「簡単だ。俺たちが彼女をさらった悪者になっている」
「げ、めんどくさいそのパターン」
「ということで、市街地は避けるぞ。シルヴにもその旨を伝えた。しばらくしたら飯を運んでくれるらしいが、もう来てるな」
シオンが振り返った先にいたのは見事なブロンドの髪を一つに引っ詰めた一人の男。
ぱっと見は細面で、優男風の彼だが、その瞳に秘められた光はとても冷たいものだった。
「さすがに気付かれちまいましたねえ。旦那」
「……飯は?」
「今作るっすよ。どうせ、ろくな飯食ってないっすよね?」
「……助かる」
そういってシオンが火の側を彼に渡してテオの隣に行く。
「そこのお嬢さんも震えてないでこっちくるっすよ」
瞳の冷たさには似合わないその口調にきょとんとしていると、テオがそっとそのちいさな肩に手を回して押してくれた。
こくんと頷いてリノは彼、シルヴの隣にしゃがんだ。テオが、ふと気がついたように自分の外套をリノの近くに敷いて手招く。
無言でそこに座り込んでリノはその炎の大きさを見て首をかしげた。
「どうしました?」
手早く持っていた道具で料理を始めたシルヴがちらりと目を向ける。
「いや、なんでも」
「そうっすか。大体の事情はお伺いしてます。旦那」
「……気にするな。名前だけ教えんなよ」
「了解っす。あと、明朝を目安にオレの部下があなたと大尉、そこのお嬢さんに化けて町を出ます。出来るだけひきつけますが、明日の朝は早めに」
「了解だ。恩に着る」
「いえいえ、それほどでも。毛布、必要っすか?」
「……一枚、いや、二枚ほど持ってこれるか?」
「足の速い奴に持っていかせます」
口を動かしながら手早く食べ物を作っていく彼の手際に驚きながら、テオを見る。
「彼は軍の薬師であり、錬金術師です。あと、裏でアサシンやってますよね」
「軍の依頼が少なすぎて材料が仕入れられないんっすよ」
唇を尖らせて言われた言葉に不機嫌そうにシオンが鼻を鳴らしてそっぽを向く。
その様子にテオがにやりと笑う。
「だって、先輩」
「しらねえよ。フィルのところにでも行って……。あいつけちなのか」
「結婚してから拍車かかっちまいましたよ。ま、それがしゃくだから媚薬を盛ってやったっすけどねえ」
「お前な、遊ぶのいい加減にしろ」
「良いじゃないっすか。そしたらフィル中佐も楽しめたみたいで、翌日疲れた顔して出てきましたよ?」
「……持久力が乏しいのはそっちもか」
ぼそりと呟いたサナンの頭を軽くはたきながら、テオは置いていかれているリノを気遣って肩をすくめた。
「聞き流してください。ただの下卑た話です」
「わかったわ」
頷いたリノだったが、しゃべりながら作られていくシチューに目を奪われていた。
会話そっちのけでおいしそうなものに目が吸いつけられていたのだ。
「さ、あとは煮込むだけっす。オレが戻ってくるまで手をつけないように」
そういって忙しそうに立ち上がって闇の中に消えていったシルヴの背中を見送ったリノは隣に立つテオを見た。




