二章 隠せざる過去
リノは目を丸くしながら雨風は防げそうな室内を見て、そして、床に石の破片や、白い欠片が落ちているのに気付いた。
「床はあまり見ないでくださいね、白いの、骨ですから」
「きゃっ」
足元に目を向けたリノの目に映ったのは、鼻から下を床に埋めた頭蓋骨だった。
飛び退ってテオの後ろに回ってぎゅっと服をつかんだ。
「蹴らずにすんだだけ良しとしましょう」
能天気なテオの言葉に、リノは涙目になりながらぽかりと叩いた。
「……大丈夫です。なにもしませんよ。全員、俺と先輩の戦友です」
笑みを深めながらテオは、頭蓋骨にしゃがみこんでつるりとしたその頭頂部を撫でた。
「……」
顔を引きつらせているリノを気にせずに、テオはその頭を踏まれない適当な場所に移して、リノを振り返った。
「薪を集めてくるので、待っていてくださ……」
「やよ!」
即答したリノに困った顔をして、テオは辺りを見回した。
まだ、薄暗いから燃えるものぐらい集められるかと思ったが、これでは集められるものも集められない。
「……大丈夫。すぐ、帰ってきます。これを」
ランプをリノに預けて服をつかむ手を振り払った。
「え」
「火をつけて暖をとらねばなりません。先輩に薪を集めてくるとか、そういう頭はないと思うので行かせてくださいね」
ぽんぽんと頭を叩きながらテオはそういうと、ひらりと身をかわしてすぐに見えないところに消えていってしまった。
「……」
思わず泣きそうになったリノは、ランプを握り締めてその場から動けずに立ち尽くしていた。
冬の風がリノの足元を通り過ぎていく。
口笛のような音をたてて風は抜けていく。
寒さも忘れて立ち尽くしていたリノの耳にやがて一つの足音が届く。
振り返ると、両手一杯になにかを持ったシオンのようだった。
「……」
立ち尽くしているリノを見て露骨に舌うちをした彼は、屋根の中に入って両手に持ったものをどさどさと音を立てて下においた。
「テオは?」
低い問いにリノはとっさになにも答えられなかった。
ランプのぼんやりとした明かりでも彼の表情が不機嫌になっていくのが見えて、ようやく喉が言うことを聞いてくれた。
「薪を……」
「……そうか」
言葉少なげに彼は返して持っていたマッチで火をつけ始めた。
それをじっと見ていると、火種に火をつけているようだった。
「薪は……?」
「そこらに落ちてるコークスだ」
その言葉に足元を見てみると確かに白いものに混じって黒い破片が落ちている。
「表向きは、ここは駐屯地だが、実は新たな燃料の開発をしていた」
「燃料?」
かすれた声になってしまうその言葉を彼は対して気にしていないようだった。
近場に落ちている黒い破片を火種の中に無造作に入れていき、持っていたらしい手帳でパタパタとあおいでいる。
「あ、先輩」
「お前、シルヴに連絡を入れておいただろう」
「ばれちゃいましたか?」
「そういうことは先に言え。わざわざ野宿しなくてもよかったんじゃないか?」
「その点ではお詫びしますが、町にどんなのがいるかわからない状態で入るのは危険かと思いまして、シルヴに偵察を頼んでおいたんです」
「なるほど。……で、結果は黒だったわけだ」
「え?」
目を見開いたテオにシオンは鼻を鳴らして手を差し出す。
テオの腕にたくさんある薪を受け取ろうとしているらしい。
テオがおとなしく差し出すと太い枝を簡単に二つに折って火の中に放り込んだ。




