二章 隠せざる過去
夕暮れの光が辺りを照らし出していた。
「……今日はここで野宿になりそうですね」
「えー」
「……ここで夜を過ごすのはまずい。もう少し先まで行くぞ」
三人は、街道をずっと歩いていた。冷たい空気に指先をかじかませながら、シオンの部下がいるというウェスナの町を目指している。
「というと、あそこですか?」
「屋根はないが、まだましだろう」
そんな二人の会話を聞きながらリノは立ち止まってしゃがみこんだ。
「お嬢様?」
テオがそんな様子のリノに気がついて立ち止まり、そして、リノの目の前にしゃがみこんで覗き込む。
「疲れましたか?」
その言葉にこくんと頷いてリノは目を閉じた。
「おなかすいた」
「……もうしばらくの辛抱を。ここから、また少し歩いたところで一度夜を明かします」
「どこ?」
「戦争のときに落とされた軍の施設です。危ないから、軍人も地元の人も近づきませんから、一目を避けなければならない私達にはうってつけの場所です」
「落とされたって……」
「火があると思うなよ。女」
「女じゃない! リノっ」
「まあまあ……」
慣れ始めたこのやり取りに苦笑をしながら、テオがため息混じりに二人をなだめる。
そして、すっと、シオンの先に目線を持っていって眉を寄せた。
「ごちゃごちゃしている間になんか来たみたいですねえ」
ため息交じりの言葉にシオンが舌うちをして、足早にその場を通り過ぎようとする。
テオも、おいてかれまいと、リノを抱き上げて歩き出す。
「ちょ、離しなさい!」
「いろいろ言っている暇はないんで失礼します。少し我慢しててください」
テオは口早にそういうと闇にまぎれそうになるシオンのあとをついていく。
「まずいですね」
「俺が引き止める。それを持って、先にいってろ」
「先輩が行ってくださいよ」
「やだね」
シオンは身軽な動作でテオの後ろに回ると銃を手に走っていってしまった。
「……まったく」
眉を寄せてそう呟いたテオはすぐに聞こえた銃声にそっと目を閉じた。
「さあ、行きましょうか」
抱えられたままのリノはなにも言えずにただこくりと頷いた。
そして、銃声を背にしばらく歩き、不意にテオが膝をついてリノを降ろした。
「ここが昔軍の駐屯地だった場所です。ちょっと待ってくださいね」
リノの隣にランプをつけて、あたりを照らしたテオが、リノにランプを持たせて立ち上がる。
「……え?」
ランプのちいさな光に照らし出されたそこは、ただの廃墟だった。
元は石造りだったのだろうその建物は無残に崩れ落ち、風化して割れた石も角が丸くなっている。そして、日の当たらない部分には苔が生え、カビの類も見受けられた。
「ここに?」
「ええ。ちょっと先のところにかろうじて屋根がある部分があるのでそこで夜を明かします」
リノの手からランプを受け取り、手を引いて歩くテオがそういう。
足元には大きな石の塊がごろごろと転がっている。
「敵軍に大砲を撃たれてね、直撃した場所はこの様。直撃を免れた所はまあ……」
立ち止まってテオは先を照らし出した。そこにあるのは石壁が欠けたとある一室だった。
「え」
「一応、廊下を歩いてきたんです。朝になれば、わかりますよ」
足元を見ていたからだろうか、崩れた建物の中に入っていたことには気付けなかった。




