幕間
「グイード」
薄暗い部屋の中に響くのは、しゃがれた男の声。
「は」
ろうそくのほの赤い光りに照らされる白い面には、緊張がうかがえる。
「令嬢は、どうした?」
しわがれた低い声には不思議な威圧と、確かな威厳がある。その声でつむがれる言葉に青年はそっと目を閉じた。
夕暮れを少しすぎて、闇に包まれ始めた空は暗く、たそがれの光りすら差し込まない。そんな部屋の中にいるのは、青年と彼の正面にいるこの男だけ。そして外には、衛兵が二人ほど控えているだろう。もしかしたら、部屋の中に男の護衛の人間が隠れているのかもしれない。
そんなことを思いながら青年は面を伏せたままそっと薄い唇を開いた。
「急な襲撃にあいまして、一時、開放しました」
「ふざけっ」
「ですが、必ず、彼女はここに来ます。否、彼が連れてきます」
張り上げられた声をさえぎるように低い声で言って青年は初老をすぎたぐらいの男を見る。男も顔を引きつらせながら青年を見る。さらりとこぼれる青年の白金色の髪がオレンジ色の光りにきらめく。昼と夜のあいだで交わされる会話。
「彼だと?」
ささやくような言葉に青年は静かにうなずく。男は杖をつきながらそれでもしゃんと背筋を伸ばして枯れ木のような手で青年のあごをつかんだ。
「だれれだ?」
「……お義父様は聞きたくもないであろう忌まわしき男です」
静かなその言葉に、男は手を離して杖で地面を強く打った。かんと乾いた音が古い調度がたそがれの光にきらめく室内に響き渡る。
「あやつに渡しただと?」
「ええ。なにかの縁か、乗り合わせていたようでして。……それに、予定では、令嬢はあいつの嫁になります。面倒事を引きずるぐらいならば、一回で蹴りをつけたがるはずです」
「……」
報告とも予測ともつかない言葉に、男は高ぶった感情を押し殺すようにため息をついて、青年に背を向けた。
「……そうか。そこまで考えてあるならばここに招待するための策も考えてあるのだろう?」
「はい」
「ここにつれて来い。必ずだ」
「了解しました」
敬礼を返して青年は一礼した。ぴっしりと着こなされた軍服がしわを作る。
「失礼しました」
青年は、そういい残して部屋を出ていった。衛兵が敬礼するのを背中で感じながら、紅いじゅうたんが敷かれた廊下を規則正しい足並みで進んでいく。
先ほどの初老の男はこの国の軍の総帥である人物だった。そして、この青年はこの総帥の養子。
かつかつと足音を響かせる青年はふと窓から見える町の一角、乱立するいびつな建物街、奴隷階級の居住地、スラムをちらりと見てそっと目を伏せた。
脳裏によぎる光景がある。
暗い町並み。よどんだ空気。すえた臭い。
そして気まぐれに鞭打ちにくる、絢爛な貴族。
目の前に倒れた血まみれの少女。泣きながら木材を構える、――白金髪の少年。
「……ふざけたことを」
はき捨てるようにつぶやかれた言葉はだれにも聞かれることもなく廊下の片隅に消えていった――。
すみません、入れるの忘れてました。




