第八話:魅惑の精神攻撃結界を張ったら、異常な深読みで『試練の隠し解法』扱いされた件
【ヤクート天空神殿・第一観測領域】
「くっ……ふ、ふふん! 物理もダメ、知恵もダメなら……次は『心』よ! 今度こそサピエンスの浅知恵では太刀打ちできない領域で見せしめにしてやるわ!」
神聖なるヤクート天空神殿の中央。
二度にわたる大敗(涙目)から立ち直った最上位女神ヘレナは、バッと腕を広げてドヤ顔を復活させていた。
着ているドレスは最高級神威ブランド『VALKANOR』の精神防衛・幻想仕様。
彼女は不敵な笑みを浮かべ、全天モニターに妖しい桃色の光を放つ領域を映し出す。
「見なさいクララ、エルサ! これぞサピエンスの欲望や恐怖のトラウマを増幅させ、精神を崩壊させる精神侵食結界『ヤレンデズ・マインドマイン』よ! いくら筋肉ゴリ押しのあの子でも、己の内に潜む恐怖や欲には勝てないわ!」
「素晴らしいですヘレナ様……! 物理演算を超越した概念攻撃! 今度こそ、あの無礼なサピエンスどもがヘレナ様に許しを請うて泣き叫ぶ姿が見られますね!」
クララが目を輝かせて拍手を送る。
しかし、いつも通り冷静な上位女神エルサは、無感情な手つきで端末をタップしながら告げた。
「……ヘレナ様。下界の『反抗期パーティ』が結界内に足を踏み入れました。精神侵食波動、照射開始」
「ふふふ……さあ、トラウマに怯え、欲望に惑わされるがいいわ!」
【地上界・ヤレンデズ・マインドマイン内部】
結界に入った瞬間、周りの景色が妖しい霧に包まれ、恐ろしい幻影と甘い誘惑の声がアユミたちを襲う。
『……我が力と富を望むか……さもなくば、お前の最も恐れる絶望を見せよう……』
「アユミ! これは精神攻撃だ! 幻覚に呑まれるな!」
勇者レイが剣を構え、必死に精神を保とうとする。
しかし、渦中の剣士アユミは――目を輝かせて、何か深い悟りを開いたような顔をしていた。
「……なるほど。そういうことね、女神様」
「え? アユミ……?」
「レイ、ユナ、騙されちゃダメよ。これは『恐怖』や『欲望』の幻覚なんかじゃないわ」
アユミはキリッとした表情で大剣を担ぎ直し、朗々と語り始めた。
「この空間の本当の役割……それは、『女神様が私たちに与えてくれた、精神の最終限界突破用トレーニング・ルーム』よ!」
「なんでそうなるのよぉおおおおおおおっ!?」
天空神殿の全天モニター前で、ヘレナが膝をガクガクさせながら叫んだ。
【地上界・勘違いの極み】
「見なさい! この精神への負荷! 意図的に強いストレスを与えることで、私たちの精神耐性を極限まで引き上げようとしてくださっているのよ! つまり『トラウマを克服して次へ進め』という、神の愛に満ちた試練の裏解法!」
「な、なるほど……! 俺たちを潰すためじゃなく、鍛えるために用意された『隠しダンジョン』だったのか!」
感銘を受ける勇者レイ。
「そういうことなら、話は早いです!」
治癒天使ユナが速攻でハックを開始する。
『精神負荷・超効率吸収コード展開(精神攻撃をそのまま経験値に変換)』
『精神力ハックバフ(メンタルを無限にハイにする概念展開)』
「ハァァァアアアッ! 女神様の愛(試練)、しっかり受け取ったわぁぁああっ!」
アユミは精神侵食の波動を「最高のメンタルトレーニング」として全身で受け止め、パワーアップ。そのままハイテンションな爆走で、結界の核となっている神聖精神炉を力任せに一刀両断した。
――ズバァアアンッ!!!!!
「感謝します、ヘレナ様ー! 最高の強化イベントでしたー!」
晴れやかな笑顔で手を振りながら、最速タイムで結界を通り抜けていく3人。
【ヤクート天空神殿・惨敗】
「強化イベントじゃないわよぉおおおおおっ! 精神攻撃よ!? なんで『神の愛』とか深読みして勝手にレベルアップして突破してるのよぉーっ!!」
ヘレナは完全に涙目になり、床にペタンと座り込んでじたばた暴れた。
「ヘレナ様、お気を強く! ほら、最高級神聖食『ソルティ・カザフ』です! しょっぱくて美味しいですから!」
半狂乱でカザフを差し出すクララ。
「報告です」
エルサが無感情にカメラをヘレナに向けながら呟く。
「『絶対に攻撃が効かないポジティブすぎる狂気サピエンスと、泣きじゃくる可憐な最上位女神様』の映像が拡散。下界および神々からの信仰心投げ銭が過去最高額を更新しました。ヘレナ様推しファンクラブの会員数が爆増中です」
「だから、そんな動画撮るなと言ってるでしょーがぁぁぁああんっ! え〜ん!!」
ヘレナの悲痛で可愛らしい泣き叫びが、今日も天空神殿に響き渡るのであった。
(第九話に続く)




