第四話:『神罰100万連打vs不屈のサピエンス! ……と思ったら、高度な頭脳戦で一敗地に塗れた件!?』
ヤクート天空神殿――。
「ふふふ……クララ、エルサ。前回の反省を活かし、今回はただの『力押し』や『単純な結界』に頼るのをやめましたわ!」
黄金の玉座に優雅に脚を組み、女神の微笑みを浮かべる――最上位女神ヘレナである!
ヘレナの前には、広大な地上界をリアルタイムで捉える観測網『ヤクート・アイ』。
そこに映っているのは、荒野の切り立った断崖絶壁に追い詰められた反抗期サピエンス3人組――勇者レイ、剣士アユミ、治癒天使ユナの姿だ。
「解説しなさい、エルサ。私たちが構築したこの完璧な『新・パージプロトコル』を!」
「了解しました、ヘレナ様」
上位女神エルサが、透き通る指先で空中パネルを流麗に操作する。
「今回の作戦名は『概念反転・リバース・パージ』です。あのサピエンス3人組の強みは、治癒天使ユナによる『常識外れの瞬間超回復』と、剣士アユミの『バフ重複による物理演算無視のゴリ押し』にあります。そこで――」
エルサが画面をスワイプすると、サピエンス3人組の足元に、禍々しい紫と漆黒の陣線が広がった。
「彼らがどれほど攻撃力や回復力を上げようとも、『付与されたバフの数値をそのままダイレクトに自身へのスリップダメージおよび防御力低下に変換する』という概念上書きコードを設置しました」
「素晴らしいわ、エルサ!」
上位女神クララが、両手にパチパチと神威の稲妻を走らせ、喝采を贈る。
「つまり、あの治癒天使が『50倍バフ!』と叫んだ瞬間、そのバフがそのまま『50倍の自爆ダメージ』となってアユミを襲うわけですね! 自慢の連動バフ戦術が、そのまま自滅の刃となる……まさに神の知恵!」
「その通りよ!」
私は手にしていた神酒のグラスを優雅に傾けた。
「ふふふ、ゴリ押ししか脳がないサピエンスに、高度な『システムの裏をかく概念戦』が理解できるかしら? さあ、存分に自滅しなさいサピエンス!!」
◇
一方、地上界の断崖絶壁――。
「……なんだこの不気味な陣は?」
勇者レイが、足元の黒い刻印を見下ろし、大剣を警戒して構えた。
「レイ、気をつけて! 地脈の波動が歪んでるわ!」
治癒天使ユナが聖杖をかざし、即座に陣の解析を始める。
「これは……くっ! 神様たちの『概念書き換え攻撃』よ! 私がかけたバフの数値が、そのままアユミへの毒と自爆ダメージに反転される仕様になってる!」
「なに……!?」
アユミが手にした鉄くず長剣を握り直す。
「じゃあ、いつもの『100倍バフ+超速再生』のゴリ押しは使えないってこと?」
「使った瞬間にアユミが即死するわ! 今回の神様、嫌らしいくらいに頭を使ってきてる……!」
その時、上空の雲が割れ、ヘレナの全知全能のドヤ声が天から降り注いだ。
『ふふふふ! 聞こえるかしら反抗期サピエンスども! あなたたちの浅はかなゴリ押し戦術など、この最上位女神ヘレナ様の知略の前には無力! さあ、バフも使えず、回服も封じられた状態で、我が神罰の雷の露と消えるがいいわ!!』
バリバリバリバリバリッ!!!!
天から降り注ぐ、神級の紫電。
バフを封じられた3人は、いつも通りの物理粉砕ができず、地面を転がって回避するのが精一杯だった。
「くっ……! ははは、さすが神様! めちゃくちゃ嫌な手を使ってくるじゃないか!」
血を吐きながらも、レイが不敵に笑う。
「レイ、笑ってる場合じゃないわ! このままじゃ雷の余波だけでジリ貧よ!」
ユナが必死に聖障壁を展開するが、バフなしの通常の防御壁など、神威の雷撃の前には紙くず同然で粉砕されていく。
「ど、どうするのアユミ……!? いつもの切断が使えないよ!」
アユミは激しい雷撃を紙一重でかわしながら、冷徹な瞳で足元の陣線と上空の空を交互に観察していた。
「……ユナ、レイ。神様は『バフの数値』をダメージに反転させるって言ったよね?」
「ええ、そうよ!」
「じゃあ……『デバフ(弱体化)』をかけたらどうなるの?」
「「……え?」」
アユミの言葉に、レイとユナが目を見開いた。
「この陣は『数値のベクトルを反転させるプロトコル』で動いてる。だったら、ユナが私に『攻撃力・防御力・生命力をマイナス100万にする超極大デバフ』をかけたら……?」
「マイナスが反転して……プラス100万の超極大強化になる……!?」
ユナの脳内で、神のシステムをハックする計算式が瞬時に組み上がった。
「いける……! 神様の作った厳密な計算式だからこそ、『マイナス×マイナス=プラス』の数学的ロジックを拒絶できないんだわ!」
◇
ヤクート天空神殿――。
「え……? ちょっと待ちなさい、エルサ」
私のはしゃぎ声がピタリと止まった。
観測画面の中では、追い詰められたはずの治癒天使ユナが、禍々しい漆黒の光をアユミに向かって放っていた。
「『超・絶望呪縛・全能力限界低下』!!」
本来なら対象を廃人にするはずの最低最悪の呪い。
だが、エルサが設置した『反転陣』を通過した瞬間――
ズドオオオオオオオオオン!!!!
「なっ……何事ですか!?」クララが叫ぶ。
反転陣が処理オーバーを起こして激しく火花を散らし、マイナスの呪いが『限界突破のプラス神威』へと変換され、アユミの体から見たこともない金色の闘気が爆発したのだ!
「な、物理演算が……!? 属性値がオーバーフローを起こしています!!」
エルサの端末から煙が上がる。
「うおあぁぁぁぁぁっ!!」
能力値が『プラス100万』に跳ね上がったアユミが、一歩踏み出しただけで断崖絶壁の地形そのものを崩壊させた。
そして、そのまま空に向かって長剣を一閃――!
ドカァァァァァァァァンッ!!!!
天から降り注いでいた100万発の『ヤクート・サンダー』が、アユミの放った規格外の衝撃波によって雲ごと逆流し、神殿の観測回路を直接打ち砕いた。
「きゃああああっ!?」
バチチチチッ! と天空神殿のモニター群がショートし、神殿全体が大きく揺れ動く。
◇
静まり返るヤクート天空神殿。
煙が充満する中、私の高級な髪はボサボサになり、神酒のグラスは床で木っ端微塵になっていた。
「……エルサ」
「は、はい……ヘレナ様……」
「今……あたしたちの頭脳戦……完璧にシステムの裏をかかれて負けなかった?」
「反省します……『マイナス値の入力』に対する例外処理(例外構文)をコードに組み込んでおりませんでした。サピエンスが数学的ロジックで神の陣を逆ハックしてくるとは……」
「おのれぇぇぇぇぇサピエンスどもぉぉぉっ!!」
クララが頭を抱えて地だたらを踏む。
「神の智慧たるシステムを『マイナス×マイナス=プラス』などという初歩的な算数で破るなど……屈辱! 過去最大の屈辱です!!」
だが――。
ボサボサの髪のまま、私はゆっくりと立ち上がった。
そして、煙の向こうの天井を見上げ、ニヤァ……と、今日一番の凶悪で愉悦に満ちた笑みを浮かべた。
「……勝ったり、負けたり。手応えが出てきたじゃないの……っ!」
「ヘレナ様……?」
「一筋縄ではいかない! 私が高度な神罰を出せば出すほど、あいつらは泥臭く、イカれた発想で喰らいついてくる! これよ! これこそがサピエンスとの連載劇の醍醐味よ!!」
ヘレナは自分の頬を両手で叩き、気合を入れ直した。
「いいわ、レイ、アユミ、ユナ! 今回はあたしたち神側の『負け』を認めてあげる! だけど次は甘くないわよ! 次は『概念』も『数学』も一切通用しない、地獄の『物理的・精神的2重詰みイベント』を用意してあげるから!!」
最上位女神ヘレナの激しい対抗心と歓喜の声が、煙る天空神殿に高らかに鳴り響くのであった――!
(第五話に続く)




