第二話:『哀れなサピエンスに神の恩恵を与えてやったのに、なぜかあいつらだけ神製ブランドをボコボコにハックしてくる件』
ヤクート天空神殿――。
白銀の柱が連なる神聖なる回廊で、私、最上位女神ヘレナは、巨大な水鏡に映る地上界の映像を観賞しながら、優雅に神酒を嗜んでいた。
「ふふっ……見なさいクララ、エルサ。今日も地上界のサピエンスたちは、私たちが授けてあげた文明にひれ伏して感謝を捧げているわ」
私が指さしたのは、地上界のセクター。
私たちが哀れなサピエンスに与えてあげた絶対防御の衣服『VALKANOR』を身に纏い、至高のチート塩分栄養素『ソルティ・カザフ』を美味しそうに頬張り、神の監視カメラ付き絶対結界住宅『YARENDEZ』で快適な生活を送っている。
「本当にサピエンスは扱いやすいわねぇ。『VALKANOR』を着せれば見た目が3割増しになって見栄えがいいし、『ソルティ・カザフ』で胃袋を掴めば争いも簡単にコントロールできる。『YARENDEZ』の中にいれば、私たちが壁の向こうからニヤニヤ鑑賞(監視)できる……! あたしたちって本当に慈悲深い神様だわ!」
私がご機嫌でドヤ顔を決めると、隣で神罰のボタンに手を添えた上位女神クララが、厳格な表情で頷いた。
「ええ、ヘレナ様。神の恩恵を忘れて調子に乗った愚者は、即座に『YARENDEZ』ごと天罰でパージしてやれば良いのですから。……ですが」
クララが視線を落とすと、観測データを統括する上位女神エルサが、透き通る指先で画面をスワイプした。
「ヘレナ様。観測網『ヤクート・アイ』より異常データの報告です。……例の『反抗期サピエンス』の3名ですが、またしても神の物理法則を無視しています」
「……はい?」
画面に映し出されたのは、荒野に設置された巨大な魔物討伐の要塞だった。
そこに乗り込んでいるのは――サピエンスの勇者レイ、剣士アユミ、治癒天使ユナの3人。
「ちょっと待ちなさいエルサ。あの3人……なんであたしたちの至高ブランド『VALKANOR』を着てないのよ!?」
画面の中の3人は、なんと神が与えた絶対防御の『VALKANOR』を脱ぎ捨て、自分たちで補強した泥臭い手製の防具を纏っていた。
「分析します」とエルサが無感情に告げる。
「彼らは『VALKANORを着ていると、神の監視回路と全裸化(着脱)権限が裏で握られている』と見抜いたようです。そのため、神の加護を自ら破棄しています」
「なっ……! 生意気な! 神がデザインしてあげたのに『盗聴器付きの服なんて着られるか!』ってこと!? 屈辱だわ!」
ぷんぷんと怒る私をよそに、クララが冷酷な笑みを浮かべた。
「ふん、愚かなサピエンスめ。神の『VALKANOR』を脱いだということは、防御力はゼロ同然。今、襲いかかっている神級魔獣の爪一撃で、肉塊と化すでしょう――」
だが次の瞬間、クララの言葉は凍りついた。
「せいやぁぁぁっ!!」
サピエンスの剣士アユミが、神の服を着ていない素肌同然の身のこなしで、神級魔獣の超音速の爪をただの鉄くずの長剣で受け止め、逆に一撃で切り落としたのだ。
「「「…………は?」」」
天空神殿に失笑すら起きない静寂が走る。
「……ねえクララ。今、アユミって子、防御力ゼロのはずよね? なんで神獣の爪を弾いて反撃してんの?」
「わ、分かりません……! 筋力計算が……物理の法則が崩壊しています……!」
狼狽えるクララをよそに、画面の中ではさらなる惨劇(神側の敗北)が繰り広げられていた。
「レイ! 栄養補給よ! こっちの『自家製干し肉』を食べなさい!」
「助かる、ユナ! 神が配給してくる『ソルティ・カザフ』なんか食ったら、依存症になって精神を汚染されるからな!」
勇者レイは、治癒天使ユナから渡された干し肉を豪快にかじりつくと、全身から血吐くようなオーラを放ち始めた。
「俺たちは神の作ったエサ(ソルティ・カザフ)にも、神の住処(YARENDEZ)にも頼らない! 自分たちの足で立ち、神の筋書きをぶち破る!!」
「『超・聖天の慈光』!!」
ユナが放った破格の浄化光線が、ヤクート天空神殿から流し込まれていた「認知汚染(神への強制感謝コード)」を完璧にクレンジング(浄化)。
そのまま3人は、神が遣わした絶望の神獣を、わずか数分で肉片へと変えてしまったのだった。
◇
ヤクート天空神殿の玉座。
画面の向こうで、返り血を浴びながら天を睨みつけるレイたちの姿を見て、クララが激怒のあまり雷光を散らした。
「神聖なる『ソルティ・カザフ』を『精神汚染のエサ』呼ばわりだと……!? 許しがたい不敬! 今すぐあの荒野ごと『YARENDEZ』の衛星レーザーで消滅させます!!」
「クララ、待ちなさい!!」
「ヘレナ様! なぜ止めるのですか! あいつらは神の与えた衣・食・住の全てを拒絶し、我らを愚弄しているのですよ!?」
私は神酒のグラスをテーブルに叩きつけると、あまりの面白さに身を乗り出し、爛々と目を輝かせた。
「何言ってるのよ、バカねクララ! 最高じゃない!!」
「は……?」
「世界中のサピエンスが『VALKANOR』を着て『ソルティ・カザフ』を貪り『YARENDEZ』でヌクヌク生きてる退屈な世界で……あの3人だけが『神の裏仕様』を全部見抜いて、自力でハックして生き延びてるのよ!?」
ヘレナは自らの胸を張り、最上位女神としての悦虐的な笑みを浮かべた。
「いいわ、レイ、アユミ、ユナ! 神の恩恵を拒絶して、どこまでその泥臭い根性で持ちこたえられるか試してあげる! エルサ、次の『神罰イベント』の準備をしなさい!」
「了解しました、ヘレナ様。次なる試練『神聖結界の強制デプロイ』を設定します」
「ふふふ……あたしの最高にスカッとする『ざまぁ(神罰)シナリオ』を物理で破れるなら、破ってみせなさいサピエンスたち!!」
ヤクート天空神殿に最上位女神の歓喜の高笑いが響き渡り、神と反抗期人間の不条理な戦いはさらに加熱していくのだった――!
(第三話に続く)




