第十九話:『邪眼魔神の終焉! 〜絶対防御の反射と、ダブル無一文の残酷な現実〜』
深海封印神殿の最深部――。
海底を突き破るほどの咆哮とともに、古代厄災の巨頭【邪眼魔神バロール】が姿を現した。
その巨大な単眼に凝縮されるのは、海流を腐食させ、万象の理を破綻させる神話級の終焉光線――『絶対概念崩壊濁流』。
『オオオオオオッ! 塵トナレ、虫ケラ共ガァァァァッ!!』
逃げ場のない超高圧の滅びの閃光が放たれた瞬間、勇者レイの号令が神殿に轟いた。
「アユミ、ユナ、アヤノさん、シオリさん! 今こそヘレナちゃんが授けてくれた特訓の成果を出す時だ!」
「了解よ! 『天海の瞳』の燐光を剣に宿し――心眼全開!」
この前習得した【極限盲目戦闘プロトコル】が発動する。アユミは両目を完全に閉じたまま、バロールの視線による全概念デバフの干渉を完全カット。
「神聖領域最大展開! バロールの腐食術式を中和します!」
アヤノがセーラー服の袖をはためかせて清らかな聖域を広げ、
「広域飽和圧縮式――『蒼炎臨界レーザー』!」
シオリがブレザーの胸元から魔導書を開き、視界を塞ぐ触手群を精密射撃で薙ぎ払う。
だが、敵もさるもの。
バロールの邪眼から放たれた極太の崩壊光線が、アヤノの聖域すら突き破り、前衛のレイたちへと直撃軌道を描いた!
「くっ……!? 威力が桁違いだ……!」
「アヤノ様、直撃します……!」
(ちょっ、ちょっと待ちなさいよぉぉぉぉぉっ!?)
後方で見ていたヘレナの血の気が一瞬で引いた。
(あいつらが消滅したら、大魔王の封印を誰がやるのよ!? 私、神の理で攻撃力1なんだから、あいつらがいなくなったら世界も天界も終わるじゃないのよぉーっ!!)
恐怖と焦燥のあまり、ヘレナは身バレの危機も忘れて泥加工ローブのまま前線へ飛び出した。
「危ないから避けなさぁぁぁぁぁいっ!!(※自分の平和な未来を守るための絶叫)」
――ドッカァァァァァァァァァァァァンッ!!!!
世界が真っ白に染まった。
バロールの最大奥義が直撃したのは――両腕を頭の上でクロスし、涙目で震えるヘレナのちっぽけな体。
しかし、神の理による【絶対防御】は、古代の滅びの光線すらも「ただの光の反射」として処理した。
ヘレナの周囲に展開された目に見えない絶対障壁が、世界を滅ぼす極大エネルギーを100%のベクトル反転でそのままバロールへと跳ね返したのだ!
『グ、ギョエェェェェェェェッ!? 我ガ奥義ガ……タダノ新米魔導士ニ弾カレタァァァッ!?』
自分の放った崩壊光線を顔面にモロに喰らい、バロールの巨大な邪眼がバキバキと音を立てて砕け散る。
「……今よ! アユミ、レイ!」
ユナの研ぎ澄まされた叫びが響く。
「ヘレナちゃんが作ってくれた、奇跡の隙……絶対に無駄にしないわ!!」
アユミが跳躍した。目を閉じたまま、大気の震えだけを頼りに鉄くず長剣を一閃させる。
「――物理切断・邪眼両断ッ!!」
ズバァァァァァァァァンッ!!
空間ごとバロールの肉体が真っ二つに裂かれた!
「眠れ、古代の厄災! 『神聖楔結界・封印穿孔打ち込み』ッ!!」
レイが渾身の力で黄金の封印杭を撃ち込むと、光の鎖が神魔の肉体を縛り上げ、バロールは咆哮とともに海底神殿の台座へと圧縮・完全再封印されたのであった。
◇
激闘が終わり、神殿に静寂が戻る。
台座の前で、勇者レイとアユミ、そしてアヤノとシオリが感極まった表情でヘレナを囲んでいた。
「ヘレナちゃん……! まさか自らの身を盾にしてあの終末光線を弾き返すなんて……君の勇気と犠牲精神に、言葉もないよ!」
「ヘレナさん……! 私たちの仇である傲慢な女神とは正反対の、真の慈愛を見せていただきました……!」
アヤノが潤んだ瞳で両手を握りしめてくる。
(ふ、ふえぇぇぇ……死ぬかと思った……! でも、これで第二の厄災も無事に封印完了ね!)
ヘレナは心の中で大きく息を吐き、ドヤ顔を取り戻しかけた。
まだ世界には大魔王配下の幹部が残っているため、この危険な下界から天界へ帰るわけにはいかない。だが、ひとまずこの強烈な緊張感からは解放されたのだ。
「ふ、ふふん! まっ、あたしにかかればこんなものよ! それじゃあ冒険のテンプレ通り、街に戻って美味しいものでも食べて祝杯をあげましょう!」
「賛成です、ヘレナ様!」 クララが笑顔で安物の鉄鍋を掲げる。
「街の酒場で最高級の肉と魚を仕入れ、特製ソルティ・ルミナスのフルコースでお祝いいたしましょう!」
「いいね! お腹ペコペコだよ!」
レイが爽やかに笑い、腰の革袋を取り出そうとして――ピタリと動きを止めた。
「……あ」
「どうしたの、レイ?」 アユミが首を傾げる。
「いや……思い出したんだ。僕たち、以前『金の強欲亭』のぼったくり宿で……金貨1000枚、全財産を支払って無一文だった……!」
「「「………………」」」
凍りつく勇者パーティ。
(あ……そ、そうだったわ! あたしが嫌がらせで全財産巻き上げたんだっけ……!)
ヘレナの額に冷や汗が流れる。だが、すぐにチート制服組の二人へと視線を向けた。
(で、でも大丈夫よ! あっちには一国の王女様と近衛魔導士がいるんだから! 奢ってもらえばいいじゃない!)
「あ、あの〜、アヤノさん? 姫様なら、お財布に少しは余裕が――」
「……申し訳ございません」
アヤノはスッと視線を逸らし、セーラー服の裾をぎゅっと握りしめた。
「実は……先ほど着用していた夏用セーラー服だけでなく、この秋の新作『VALKANOR神聖セーラー・コレクション』を全色全シーズン先行予約してしまいまして……小国の国家予算レベルで口座が完全に空っぽです」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ヘレナの絶叫が神殿に木霊した。
「あんたねぇ! 毎回毎回セーラー服の襟やリボンが変わってるから『神官としての属性特化や段階的パワーアップ』かと思ってたら……ただの私生活の趣味!? 冒険者SNSで映えたいだけのために全財産溶かしたの!?」
「アヤノ様を責めないでください!」
シオリが眼鏡をクイッと押し上げて割って入った。
「新魔法の威力を試すため、途中のダンジョン施設と港の防波堤を蒼炎で消し炭にした際の『損害賠償請求書』が、現在私の元に金貨5万枚分届いております」
「あんたは器物損壊の示談金地獄じゃないのよぉぉぉおおっ!!」
ヘレナは頭を抱えて膝から崩れ落ちた。
「な、なんなのよこのパーティ……! 勇者側はぼったくり宿で素寒貧、チート組は衣装代破産と賠償金地獄……全員揃って正真正銘の無一文(一文無し)じゃないのよぉーっ!!」
祝杯どころか、今夜のパン一つすら買えないという残酷すぎる現実。
「報告です」
神殿の柱の陰で、エルサが無感情に水晶ペンダントを掲げた。
「『厄災を撃破した歓喜から一転、パーティ全員が素寒貧である事実を突きつけられ、頭を抱えて涙目で絶望する可憐なヘレナ様』の映像が配信されました。投げ銭により神殿の口座に莫大な天界マネーが着金しましたが、地上では一切引き出せません」
「使えない金なんていくらあっても意味ないでしょーがぁぁぁぁっ! え〜ん!!」
大魔王の封印はまだまだ道半ば。
天界へ逃げ帰ることも叶わない最上位女神ヘレナを待ち受けていたのは、あまりにも世俗的で切実な「無一文サバイバル」の現実であった。
(第二十話へ続く)




