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第十八話:『深海に蠢くインキュバスの罠!? 〜精気を吸われる女神たちと、異常な清廉潔白の再来〜』

南洋セクターの沖合、海が底知れぬ暗黒へと裂ける海底断層。

邪眼魔神バロールが根城とする【深海封印神殿】の回廊を進む一行の周囲に、突如として不気味で甘やかな桃紫色の霧が立ち込めた。


「……くっ!? な、何よこの霧……生ぬるくて、なんだか頭がぼうっとして……」

泥加工ローブを身にまとった新米魔導士(最上位女神)ヘレナは、その場によろめき、壁に手をついた。


霧の奥からゆらりと姿を現したのは、濡れた漆黒の長髪に妖艶な美貌を備えた男の魔族――【古代インキュバス】の群れであった。


『ククク……ようこそ、愛らしい乙女たちよ。我らは大魔王配下、夢幻と悦楽を司るインキュバス……。貴女方の清らかな魔力と生命の雫、我らの甘美な抱擁にて余さず吸い尽くして差し上げよう……』


「きゃあっ!? アヤノ様、精神防護障壁を!」

「だ、ダメですシオリ……! この術式、直接的な害意や殺傷力が一切ない……! 『無害な快楽と脱力』による生命エネルギーの直接ドレインです……っ!」

セーラー服姿の神官アヤノとブレザー姿の魔導士シオリが、膝から崩れ落ちる。


(ちょ、ちょっとぉぉぉっ!?)

ヘレナもまた、全身の力が抜け、ふにゃふにゃと床にへたり込んだ。

(害意判定がないから、私の絶対防御が『ただのスキンシップ』扱いで素通りされてるじゃないのよぉーっ! 攻撃力1の私にはどうにもできないし……力が入らないわぁ……ふえぇ……!)


「ヘレナ様……お気を確かに……あぁん、力が……」

「報告……全身の脱力レベルが限界値に達し……抗う機能が……停止……」

クララもエルサも頬を赤らめてへたり込み、スリーグレイスおよび制服チート組の女性陣は完全に無力化されてしまった。


『フハハハ! 観念するがいい、まずはその小さく愛らしい魔導士の娘から、極上の精気を――』

インキュバスの細長い爪が、涙目で震えるヘレナの顎に触れようとした、その瞬間――。


「そこまでだ、不埒者めッ!!!!」


海底の回廊全体を揺るがす、凄まじい大音声が響き渡った。

立ちはだかったのは、勇者レイ。

その瞳には、サキュバスの館で放たれたものと全く同じ、澄み渡るような【異常な清廉潔白】の光がギラギラと宿っていた。


『な、何だ貴様は……!? 男の精気とて吸い尽くせぬわけではないぞ!』

インキュバスたちが一斉に甘美な幻覚と極上の色香をレイへと放射する。

だが――レイは修験者のごとく不動の姿勢を崩さず、むしろ冷え切った眼差しで魔族たちを睥睨した。


「恥を知れ! 仲間たちがその身を削って世界のために戦っているというのに、あられもない術で弄ぼうなど言語道断! ヘレナちゃんたちの清らかな祈りによって、僕の心はすでに一切の不純物を削ぎ落とした無我の鏡……! 貴様らの浅ましい色情など、埃一粒ほども入り込む余地はないッ!!」


『ひっ……!? な、何だコイツの精神構造は……!? 欲望や邪念が……完全なゼロだと……!? 概念が白すぎて逆に目が眩む……ッ!?』


「受けよ! 邪念退散・精神純化光線――『不動明王波(ふどうみょうおうは)』ッッ!!」


ドバァァァァァァァァァッ!!!!!

レイの全身から放射された純度100%の清廉潔白オーラが、インキュバスたちの桃色の霧を物理的に吹き飛ばし、一瞬でクレンジング浄化していく!


『ぐわぁぁぁぁぁっ!? 眩しい! 精神が浄化されて消滅するぅぅぅぅぅっ!!』

インキュバスたちは哀れな悲鳴を上げながら、光の粒子となって霧散していった。


「はぁ……はぁ……! 助かったぁ……」

霧が晴れ、ヘレナたちはへたり込んだまま息を吹き返した。

だが、正気に戻った剣士アユミの瞳には、すでに常軌を逸した「過剰深読み」の炎がメラメラと燃え上がっていた。


「……さすがね、レイ!」

アユミは愛用の鉄くず長剣を一閃させ、生き残りのインキュバスの残党を物理演算無視の衝撃波でまとめて両断した。

「ヘレナちゃんたち女性陣の尊い純潔を護るため、欲望を完全消去した真の不動心を発揮したわね! 先代勇者の末裔であるヘレナちゃんを護る、最高の勇者の姿よ!」


「あ、あの男……邪念が一切存在しないというの……!?」

セーラー服の襟元を正したアヤノが息を呑み、ブレザー姿のシオリも眼鏡を押し上げて戦慄する。

「アヤノ様……仇の女神を討つ旅の途上とはいえ、あの勇者の清廉さは本物です。侮れません……!」


(いや、ただのストイック変態バカなだけでしょーがぁぁぁぁぁっ!!)

床に手をついたヘレナは、またしてもレイの清廉潔白に助けられた悔しさと恥ずかしさで、真っ赤になって涙目になった。

(ふ、ふえぇぇん……! なんで毎回毎回、このサピエンスのバカにいいとこ取りされるのよぉーっ! でも……正直、ちょっとだけ助かったわ……)


「報告です」

日陰で安物水晶ペンダントを掲げるエルサが、無感情に呟いた。

「『精気を吸われてへにゃへにゃになり、涙目で頬を赤らめる可憐なヘレナ様と、それを救う鋼メンタル勇者』の映像が地上ファンクラブへ生配信されました。投げ銭による『ヘレナ様純潔防衛基金』が設立され、天空神殿の年間予算の3倍を突破しました」


「誰が私のへにゃへにゃ顔まで全世界に晒せと言ったのよぉぉぉおおおっ! 絶対に許さないんだからぁぁぁぁっ!!」


ヘレナの悲痛な叫びが海底神殿に響き渡る中、一行の足元が激しく揺れた。

奥の大扉が吹き飛び、ついに第二の災厄――【邪眼魔神バロール】が、完全なる殺意を込めた単眼を爛々と輝かせて姿を現した。

(第十九話へ続く)

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