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第十五話:『古代厄災の前にバカンスよ! 〜神威水着VALKANORと、子供っぽい女神様の性能マウント〜』

「……もうやだ! 暑い! 疲れた! 封印巡りなんてやってらんないわよーっ!」


極北の氷穴から南下し、常夏の熱帯ビーチが広がる南洋セクター『ラ・メール海岸』に到着した瞬間、ヘレナは初心者用ローブを脱ぎ捨てて白い砂浜にペタンと座り込んだ。


「ヘレナちゃん!? 急にどうしたんだ?」

大剣を背負った勇者レイが慌てて駆け寄る。


「どうしたんじゃないわよ! 第一の厄災(ヨルムン)を倒して、第二の厄災の封印の地を突き止めるために大陸を横断して……もう足が棒なの! 大体、世界を救う旅だからって、ずっと殺伐と戦ってなきゃいけない理由がどこにあるのよ!?」


ヘレナはぷくーっと頬を膨らませ、駄々をこねる子供のように砂浜をポコポコと叩いた。

単なる飽きっぽい性格の爆発である。しかし、もちろんそれだけではない。


(ふふん! サピエンスどもには内緒だけど……この海岸に来た真の目的はこれよ!)


ヘレナは立ち上がると、腰のマルチポーチから燦然と輝く特製ケースを取り出し、バッと掲げた。


「そこで提案よ! 次の厄災へ向かう前に、ここで盛大にバカンスを挟みます! そして見て驚きなさい! これぞ我がスリーグレイスが誇る……天空ブランド『VALKANOR(ヴァルカノース)』謹製・最新型リゾート戦闘水着よ!!」


「「「水着……!?」」」


数分後、更衣テントから現れたヘレナの姿に、勇者パーティは言葉を失った。


白とゴールドを基調とした、あまりにも神々しく、そして無駄に布面積が引き締まったハイレグ&パフスリーブ仕様の特注水着。

歩くたびに微弱な神威粒子がキラキラと七色に発光し、後光のようなエフェクトが自動でヘレナの背後から立ち昇っている。


「ふ、ふふん! どうかしらサピエンスたち! 見惚れた!?」

ヘレナは両手を腰に当て、完璧なドヤ顔で胸を張った。


「このVALKANOR最新水着はね、ただの遊泳着じゃないのよ! 神聖繊維による完全撥水・自動乾燥機能! 水流抵抗を極限までゼロにする流体力学ハック! さらには太陽光を吸収して自動で体感温度を常に快適な24.5度に保つ『超熱力学エアコン調温機能』まで搭載されているの! どう!? あんたたちの着ている泥臭い手製インナーとは、性能の格が違うでしょ!!」


子供が買ってもらったばかりの最新ハイテクおもちゃを自慢するように、ヘレナは得意げに鼻を鳴らした。


(ふふん! 物理戦闘やバフでは理不尽にゴリ押してくるサピエンスどもだけど、このアパレルの圧倒的テクノロジーとスタイリッシュさを見せつければ、ひれ伏して『ヘレナちゃんすごーい!』って羨ましがるに決まってるわ! ざまあみなさい!)


「……なるほど」

腕を組み、真剣な眼差しでヘレナの水着を見つめていたのは剣士アユミだった。


「アユミ、性能が分かるのか?」とレイが尋ねる。


「ええ……! さすがは先代勇者の末裔、ヘレナちゃんね。常夏の海辺に来て単に遊びたがる子供っぽさを見せかけつつ、その実、私たちに『水陸両用における完全環境適応プロトコル』を身体を張ってレクチャーしてくれているのよ……!」


「なんでそうなるのよぉおおおおおおおっ!?」

ヘレナの悲鳴がビーチに響き渡る。


「見てレイ、あの水流抵抗ゼロの構造! つまりヘレナちゃんは、『第二の厄災たる邪眼魔神バロールは、深海の超水圧と激流を操る可能性があるから、水流摩擦を物理切断して泳ぎ抜く準備をせよ』と無言で促しているのよ!」


「な、なんだって……! 僕たちのことだけでなく、次の戦場の環境まで見越して最新の装備を実演披露してくれたのか……! なんて健気で賢いんだ、ヘレナちゃんは!」

レイが瞳を潤ませ、眩しそうにヘレナを見つめる。


「ふふ、でもヘレナちゃん、その水着とっても似合ってて可愛いよ!」

治癒天使ユナがにこにこと笑いながら、パラソルの下から手招きする。

「自慢したくてうずうずしてたんでしょ? ほら、スイカ割りとビーチバレーの準備ができてるから、一緒に遊びましょ!」


「ち、違うのよ! あたしはあんたたちに圧倒的な文明の差を見せつけて悔しがらせたかっただけで……って、わぁっ! なにそのスイカ、すごく甘そう!」


結局、子供っぽさを隠しきれないヘレナは、美味しそうなビーチの誘惑に秒速で屈し、ドヤ顔水着のまま波打ち際へ駆け出していった。


「クララ、冷えたソルティ・カザフ(南国マンゴー炭酸割り)持ってきて! 一番大きいグラスでね!」


「かしこまりました、ヘレナ様」

クララが優雅にビーチチェアへ極上ドリンクをセッティングする。


「報告です」

日陰でペンダント端末を海へ向けるエルサが無感情に呟いた。

「『高性能水着のスペックを自慢した直後、サピエンスに褒めちぎられて赤面し、無邪気に波打ち際ではしゃぐ可憐なヘレナ様』の映像が地上界および天空神殿へ生配信されました。ファンクラブ会員によるVALKANOR水着の予約注文が殺到し、サーバーが一時パンクしました」


「誰が水着の生CMまで流せと言ったのよぉぉぉおおおっ! 宣伝料よこしなさぁぁぁいっ!!」


ヘレナの可愛らしい叫び声と波の音が、青く輝く海に賑やかに溶けていくのであった。


(第十六話へ続く)

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