第十三話:『先代勇者の末裔(大嘘)と、リアル冒険が楽しすぎる最上位女神の事情』
港町『ポルト・ルナ』の外れ、海風が吹き抜ける岬の広場。
不穏な黒雲が遠くの空を覆い始めた中、ヘレナは意を決したように俯き、両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。
「……レイさん、アユミさん、ユナさん。お話ししなければならないことがあります」
重々しい空気に、勇者レイが真剣な面持ちで姿勢を正す。
「実は……私たちスリーグレイスは、大昔に大魔王を封印した『先代勇者パーティの末裔』なんです」
「「「……えっ!?」」」
ヘレナは完璧な演技力で瞳に涙を滲ませ、震える声で言葉を紡いだ。
「その血を受け継いでいるせいで、私たちは過去の封印の記憶や、これから起こる世界の危機が少しだけ予知のように分かってしまうんです。大魔王の封印が解けかけていることも、それで察知しました。本当は……怖くて、ずっと安全な場所に引きこもっていようと思ったんです……」
チラリと視線を上げ、いかにもか弱い少女の表情を作る。
「でも、冒険者ギルドでレイさんたちの強さと優しさの噂を聞いて……未熟な新米で攻撃魔法も使えないけれど、私たちの受け継いだ知識で少しでもみなさんのお役に立ちたい、世界を救う力になりたいと思って……必死で追いかけてきたんです……っ!」
完璧だった。神の全知ゆえの知識や、攻撃力ゼロの防御特化ステータス、そして「なぜレイたちを追ってきたのか」という動機まで、すべてが一本の美しい筋書きとなって繋がった。
「……ヘレナちゃん」
レイの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「そうだったのか……! 恐ろしい運命に怯えながらも、重い宿命を背負い、僕たちを信じて勇気を出してくれたんだね……! ありがとう、ヘレナちゃん。君の知識と導きを頼りに、僕たちが命に代えてもすべての古代封印を護り抜いてみせる!」
「なんて尊い血脈なの……!」
剣士アユミが刀身を地面に突き立て、熱い誓いを立てる。
「先代勇者の末裔を護ることこそ、剣士としての最大の誉れよ。ヘレナちゃんたちには、魔物の一撃どころか埃一つ触れさせないわ!」
「引きこもりたかったのに、よく頑張って来てくれたね!」
治癒天使ユナが涙目でヘレナを強く抱きしめ、頭を優しく撫で回す。
「ふえっ……あ、ありがとう……サピエンス……(よしっ! 完璧に騙せたわ!!)」
ヘレナはユナの腕の中で、密かに極上のドヤ顔を浮かべた。
(ふふん! これで怪しまれずに各地の封印ダンジョンへあいつらを誘導できるわ! 側近の古代魔族たちを片っ端から再封印させれば世界も平和になるし……何より!)
ヘレナはパッと顔を上げ、広がる下界の大自然を見渡した。
(神殿でモニター眺めてポチポチ神罰落とすだけの退屈な引きこもり生活より……こうやって下界でリアルに旅して、美味しいものを食べて冒険する方が、100倍エキサイティングじゃない!!)
「ヘレナ様、野営の準備が整いました」
クララが安物の鉄鍋を掲げ、極上の香りを漂わせる。
「本日の夕食は、下界の新鮮な猪肉を神聖調味料『ソルティ・カザフ』でじっくり煮込んだ特製シチューです」
「わぁ、美味しそう! いただきまーす!」
熱々のシチューを口に運んだヘレナは、あまりの美味しさに頬を緩ませた。風の匂い、焚き火の温もり、仲間(?)たちと囲む食事――神殿の玉座では決して味わえなかった本物の冒険の喜びに、胸が高鳴る。
「報告です」
横で安物ペンダントを掲げるエルサが無感情に呟く。
「『重い宿命を告白し、仲間とシチューを食べて満面の笑みを浮かべる可憐なヘレナ様』の映像がファンクラブに高画質配信されました。尊死するリスナーが続出し、神殿への信仰心ポイントが過去最高を更新中です」
「だから隠し撮りするなと言ってるでしょーがぁぁぁっ!」
ヘレナの可愛らしい怒声と勇者たちの笑い声が、夜の帳が下りる岬に心地よく響き渡った。
(第十四話へ続く)




