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第十話:『雑魚の群れとぼったくり宿! 〜全財産を奪って極貧リスタート……のはずが!?〜』

「ふふふ……順調ね、実に順調だわ!」


遠回り迂回路の街道を歩きながら、泥加工ローブを纏ったヘレナは心の中でドヤ顔を決めていた。


「『直行ルートには恐ろしいドラゴンが出ます!』って適当な嘘を吐いたら、あのチート勇者パーティー、一発で信じてこの【ゴブリン地獄街道】に付いてきたわ! これで第一段階は完了よ!」


ヘレナがそっと目配せすると、後ろを歩くエルサがペンダント(※隠し配信端末)のスイッチを押し、クララが物陰に向かって極小の魔導フェロモンを放った。


次の瞬間――


「「「グギャギャギャギャギャッ!!!!」」」


草むらや岩影から、数千匹におよぶゴブリンの群れが波のように押し寄せてきた!


「キャッ!? ご、ゴブリンの群れです! 私たち、攻撃魔法が使えないので守ることしかできません〜っ!」


ヘレナは完璧な演技で涙目を浮かべ、レイたちの後ろへ隠れた。


(ふふん! どんなに一匹一匹が雑魚でも、数千匹の波状攻撃を受け続ければ、治癒術士ユナのMPは枯渇する! 疲れ切ったところで『一度町に戻りましょう』って提案して、わたしの息がかかった【超高級ぼったくり宿】に案内して全財産を毟り取ってやるわ!!)


「レイ! アユミ! 敵の数が多すぎるわ! 私が無限に回復とMP譲渡パスを続けるから、全開で薙ぎ払いなさい!」


「任せろユナ! ぐおおおおおっ!!」


勇者レイの大剣と、アユミの鉄くず長剣が閃光を放ち、ゴブリンの群れを次々と撃破していく。

しかし、仕掛けたフェロモンの効果でゴブリンは無限に湧き出てくる。数時間が経過し、さすがのユナも息を荒らし始めた。


「ハァ……ハァ……っ! MPが……限界……っ!」


(キタキタキタキタ――っ!!)


ヘレナは心の中でガッツポーズを決め、ここぞとばかりに哀れみの表情を作って寄り添った。


「ユナさん、もう限界です! このままでは全滅してしまいます……! 一度近くの町まで引き返して、宿屋で作戦を練り直しましょう!」


「あ……ありがとう、ヘレナちゃん……。そうね、一度体勢を整えましょう……」


「レイさん、アユミさん! 私が知っている『安心安全な高級宿』が町にありますから、そこへ行きましょう!」


(勝ったわ! あの宿の1泊の料金は金貨1000枚……勇者パーティーの全貯蓄が一瞬で吹き飛ぶ『破産トラップ宿』よ! 無一文になって途方に暮れる顔が楽しみねぇ!!)



【近くの町・ぼったくり宿『金の強欲亭』】


「……ふむ。1泊で金貨1000枚とな」


宿のカウンターで、強面の下界商人がドヤ顔で提示した宿泊料を見て、勇者レイが腕を組んだ。

レイたちの所持金は、これまでの冒険で貯めた金貨1000枚ジャスト。支払えば完璧に素寒貧すかんぴんになる金額だ。


ヘレナはニヤニヤが止まらないのを必死に堪え、口元をひくひくさせながら言った。


「す、すみませんレイさん! こんなに高いなんて知りませんでした……! でも、ここのベッドで休まないとユナさんのMPも回復しませんし……持っているお金、全部払うしかありませんよね……っ(涙目ドヤ顔)」


(さあ泣きなさい! 金を失って絶望しなさい勇者レイ!)


しかし、勇者レイの瞳には――絶望ではなく、澄み渡るような感動の光が宿っていた。


「……なるほど。そういうことか、ヘレナさん」


「……え?」


「俺たちは気づくべきだったんだ。あの無数のゴブリン地獄でユナの限界を超えさせ、そしてこの宿へ案内してくれた理由を……!」


レイはジャラリと全財産の入った革袋をカウンターに叩きつけた。


「『財産や金銭という地上界の執着を捨て、身一つで極限に挑め』……これこそが俺たちに課された、真の『無我の境地』の試練!! 金貨1000枚で心の執着を捨てられるなら、安い買い物だ!!」


「なんでそうなるのよぉおおおおおおおっ!?」


ヘレナの悲鳴が宿のロビーに響き渡った。


「それだけじゃないわ、レイ!」

治癒術士のユナが、晴れやかな笑顔で己の手を見つめた。

「見て! MPを完全に枯渇させた状態でこの高額な(魔導環境の整った)宿の空気を吸ったおかげで……私、回復魔法の『MP消費半減&最大枠永久2倍バフ』を覚えたわ!」


「「「な、なんだってー!?」」」


「さらに!」と、剣士アユミが刀身を輝かせる。

「数千匹のゴブリンを狩り続けたことで、私たちのレベルが全員『50』上がったわ! 最高のレベリング・スポットだったわね、ヘレナ様……じゃなくてヘレナちゃん!」


「……あ、あ……」


ヘレナは膝から崩れ落ち、涙目で固まった。


(全財産を奪って困らせるはずが……レベルが爆上がりして、ユナのチート能力がさらに強化されて、しかも『金銭への執着を捨てた』とか言って感謝されてるの……なんでよぉぉぉぉおおおっ!?)


「報告です」

横で安物ペンダントを構えたエルサが、無感情に囁く。

「『無一文になりながらも清々しくレベルアップする勇者パーティと、作戦が裏目に出て床で涙目になって震える新米ヘレナ様』の映像がファンクラブに高画質配信されました。投げ銭により、神殿の口座に金貨100万枚が振り込まれました」


「下界の金なんて神殿で使えないでしょーがぁぁぁああんっ! え〜ん!!」


ヘレナの可憐な泣き叫びが、ぼったくり宿の一室に虚しく響き渡るのであった。


(第十一話に続く)

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