第26話 王都レバーノ
アッシュは、1週間かけて王都レバーノへと到着する予定だ。道中は、王都の冒険者ギルドに依頼を受けに行くというニコラスと一緒だった。
(はぁ、なんで俺がギルバードのガキのお守りしないといけないんだよ。シャロンちゃんと話すためにまだルミィにいようと思ったのによ)
「初めまして、ニコラスさん。今回はよろしくお願いします」
ニコラスが何を考えているかアッシュは気がつく様子はなく、ただ挨拶をする。
「そんな堅苦しい挨拶はいらねぇよ。さっさと行くぞ」
道中馬車で移動をする。二人の間には無言の間がしばらく続いた。
(めっちゃ気まずいなぁ。何話せばいいか分からないし初対面の人とは緊張するし...それになんか不機嫌そうだし)
「なぁ、シャロンさんの好きなものとか知ってるか?」
「えっ?」
ニコラスは唐突に口を開き、アッシュに質問する。アッシュは唐突なことで何を言ってるのか分からなかった。
「シャロンの好きなものですか...母さんですかね」
アッシュは、シャロンが好きなものとして真っ先に思い浮かんだものを答えた。
「それは知ってるけどな...他には?食べ物とか」
「えっと...あっ!確か甘いものが好きだと言ってました」
「そうか....ありがとな、えっとアッシュだったけ?」
「はい、そうです。アッシュです」
「なぁ、もっとシャロンさんのこと教えてくれよ」
(なんだこの人、ストーカーか?父さんからはAランク冒険者だって聞いてたけどただのヤバい人じゃん)
アッシュが結構引いてるとニコラスもそれに気付いたのか一旦落ち着く。
「まぁ、待て少年。交換条件をしようじゃないか。君がシャロンさんの事を俺に教える。その変わりに俺がお前に中級魔法、さらに上級魔法についても教えてやろうじゃないか。俺はAランク冒険者の魔法使いだから信用できるだろ?」
ニコラスは自信満々に話す。
アッシュはその提案に揺らいでしまう。
「でも、1週間で上級魔法なんて使えるようになれないでしょ。それに俺の魔力が足りるかも分からないのに」
「でも、詠唱文とその効果を知れるだけでも十分だろ?俺が知ってる中級魔法と上級魔法を教えてやるぞ」
「くっ...分かりましたその条件を飲みましょう。ただし、シャロンに酷いことしないでくださいよ!」
心の中で、シャロンにごめんと謝りながらも交換条件を了諾する。
「俺がそんな酷い奴に見えるか?」
「はい、見えます。ただのシャロンにつきまとうヤバい人じゃないですか」
「なかなか言うね。これでも俺はギルバードの3つ下だからまあまあな年齢だぞ?もっと尊敬してくれてもいいんだぞ?」
(父さんの3つ下か...ていう事は26歳なのか。シャロンの1個下か)
「シャロンは、ニコラスさんの1つ上です」
「なるほど俺の1つ上ね」
ふむふむという顔で頷く。
「で、他の情報は?」
「ニコラスさんの知ってる魔法を全部教えてくれたら話します」
「わかったよ」
不貞腐れながらも、ニコラスは鞄から紙とペンを取り出し、スラスラと文字を書いていく。
しばらく紙に文字を書いていくと書き終えたのかペンをしまい、2枚の紙をアッシュに渡す。
「これで全部だ。詠唱文とその効果が載っている」
「意外と字上手いんですね」
アッシュは、見た目や言動に似合わず達筆な文字に驚く。
「文字だけはちゃんと勉強したからな。俺もギルバードと同じスラム出身だからまともに文字も書けないと舐められるんだよ」
「そうなんですか...ありがとうございます。ちょっと中身見たいのでシャロンの話は後ででいいですか?」
「しょうがねぇな」
ニコラスから了承をもらったアッシュは、渡された紙に目を通す。
そこには、光属性、水属性の中級魔法がそれぞれ4つずつ。光魔法の上級魔法が1つ載っていた。
アッシュは、なんでこの2属性だけなんだろうと疑問を持つ。
「俺が適性ある属性が光と水だけだから、俺が知ってるのはその2種類だけだ」
アッシュの疑問を知ってか知らずかニコラスはそう話す。
「ニコラスさん、適性がない属性って完全に使うことはできないんですか?」
「適性がないの度合いによるかな。俺はその二つ以外の基本属性の適性は完全にゼロだから全く使えない。でも、俺みたく完全にゼロじゃないなら魔力消費が大きくなるとか色々制限はかかるだろうけど使えると思うぞ」
(じゃあ、フィオナは基本属性の適性が極端に低いかゼロのどっちらかか...)
アッシュは顎に左手をあて考え事をする。そのそぶりに気付いたニコラスが話を続ける。
「魔力の消費が大きくなるっつても俺はどんくらい大きくなるかは知らない。それに1つの属性さえ適性あれば十分だ。いっぱいあっても器用貧乏になるだけだからな。俺が知ってる魔法を使う冒険者の多くは、属性を絞ってるやつの方が多いぞ」
(なるほど...適性が少ないのは弱点にはならないのか。結局大事なのは魔力量と魔法の使い方ってわけか)
「ありがとうございます。勉強になりました」
「感謝なんていらないからシャロンさんのことを」
「お客さん、今日の目的地に着きましたよ」
ニコラスが、シャロンのことを聞こうとしたその時馬車が止まり御者が二人に声をかける。
「チッ...まぁいい。明日聞かせてもらうか。宿は自分で取れるな?朝、またここに集合だ、遅れるなよ」
ニコラスは舌打ちし、馬車から降り街の方へと一人で歩いて行った。
ーー
翌朝、馬車の前でニコラスと合流し出発をする。
「じゃあ、さっそくシャロンさんについて教えてもらおうか」
「何について知りたいんですか?」
「うーん...そうだな。やっぱり何が好きなのかとか何に興味があるとかかな」
(あれ?よくよく考えたら俺シャロンのことあんまり詳しく知らないぞ)
「好きなものは昨日も言いましたけど甘いお菓子が好きですよ。興味あるものは聞いたことないですね」
「そうか...」
「シャロンは、母さんから遠慮しなくていいって言われているんですけど、あんまり自分の好きなものとか表に出さないんですよね」
「はぁ、そうだよなぁ...そういった雰囲気あるもんな」
「俺は、シャロンに幸せになって欲しいんです。そのためにはシャロンが俺たちに遠慮しないくらい好きになる相手に出会わないといけないって思ってるんですよ。ニコラスさんはそうなれますか?」
「そうなってみせるさ」
アッシュの問いかけに迷いはないほどはっきりと答える。
「そうですか...じゃあ俺の情報は要りませんね」
「なんでだよ」
「だって相手の好きなものを自分で見つけていく方がいいじゃないですか?答えを知ってるのは面白くないでしょ。それともニコラスさんにとってシャロンとはそんな安い関係で終わりたいんですか?」
「9歳のガキに恋愛についてアドバイスされるとはな。最近のガキはマセてんなぁ...わかったよ、もう聞かねぇよ」
ニコラスはやれやれといった感じで情報を聞くのは諦め、どうやってシャロンに振り向いてもらえるかを考える。
(危なかったぁ...あんまりシャロンのこと詳しく知らないってバレなくてよかった...シャロンのこと母さんなら詳しいだろうけど)
それから会話は途絶え、それぞれの時間を過ごす。アッシュは、ニコラスに書いてもらった魔法について学び、ニコラスは目を瞑りシャロンとのことについて考えを巡らせる。
(光属性『光子爆裂』か。俺が覚えてる光属性の中級魔法はここにも書いてあったが『閃光』だからな。攻撃魔法なのはありがたいな。効果は、光の粒子が対象の周りに集まり爆発するか...威力は期待できそうだ)
そんな感じで読み進め、最後にアッシュがまだ使うことのできない上級魔法が書かれている場所まで辿り着いた。
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光属性上級魔法
『星崩し』
詠唱文:[天に満ちる無数の光よ、我が願いに応えよ。眩き流星群となりて闇を穿ち、一切の敵に星の裁きを]
効果:天から無数の流星群が降り注ぎ敵を滅ぼす
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(すごいな...上級になると詠唱文も長い。この魔法を無詠唱で出すことができれば最強だろうけど難しいだろうな。それに俺は多分魔力はまだ足りないと思うし。魔力消費の指標がわからないな。中級は初級の50発分くらいっては学校で聞いたけど上級は中級の何発分だろうな)
「ニコラスさん、上級魔法って魔力どのくらい減るんですか?」
「上級か?その魔法にもよるがだいたい中級の10発分くらいだと思うぞ。ちなみに俺は1日上級2発が限界だ。本当に上級は切り札だな。質問の答えはこれでいいか?」
「はい、ありがとうございます」
ニコラスはアッシュの質問に丁寧に答える。
(10発分か...俺はまだ中級を1日3発しか打てないから使えるようになるのはまだまだ先だな...それにしてもノエラはこれを『素質量』だけで打てるってどんだけバケモンなんだよ。そりゃあんだけいっぱい中級が使えるわけだな)
考え事をしていると今日の移動が終了し目的地の街へと着いた。
アッシュは宿を取ると、魔法を試すために街の外へと出る。
「まずは『光子爆裂』から使ってみるか」
アッシュは、一本の木に向けて手を伸ばす。
「[天に満ちる光よ、集いて球となり、立ちはだかるものに光の爆発を]」
ーボカァァァァァァァァンッ
アッシュの詠唱が終わると木の周辺に光の玉が集まり、一斉に爆発する。対象となった木を跡形もなく消した。
「ふーっ、なかなかの威力だな。今日はあと一回打っておくか。無詠唱のためには何回か練習して感覚をつかまないとな」
その後アッシュはもう一発魔法を放って宿に戻った。
ーー
それからは何事もなく王都に向け移動し、予定通りルミィの町から1週間かけて王都レバーノへと到着した。
「すっげぇー」
アッシュは思わず感嘆の声を上げる。
関所で通行審査を受けて、街を覆う城壁の先にはグランツとは比べ物にならないくらいの広大な街が広がっていた。そしてその中央には、遠くにあってもはっきりと存在していることのわかる巨大な城が建っていた。
「アッシュ、王都に来るのは初めてか?ここがこの国の中心部王都レバーノだ。そしてあそこにあるのが王城。この国の王が住み、国の政治が行われる場所だ」
ニコラスが城を指差し説明する。
「とりあえず中等学校がある場所まで案内してやる。そこで俺たちは解散だ」
ニコラスは、ここに来るには慣れてるのか迷う様子もなく街を歩いていく。
街中は活気のある市場の喧騒やいかにも貴族が乗ってそうな馬車が行き来したり、巨大な建物の中で商会が営まれていた。
「ニコラスさんは王都に何回も来てるんですか?」
「いや、俺も数回くらいだ」
「じゃあなんでそんなに慣れた感じなんですか?」
「ここでオドオドしてたら恥ずかしいだろ?」
アッシュはその回答を聞き、その気持ちわからなくもないけどと思う。
アッシュは、キョロキョロと街を見ながらニコラスについて歩く。
街の中心部になるにつれ建物の大きさが大きくなったり街中の高級感が増したり、貴族の屋敷と思わしき豪華な建物あったりした。
そして、ニコラスは大きな門のある豪華だが古き伝統もありそうな建物の前で止まる。
「ここがレバーノの中等学校。お前が三年間学ぶ場所だ。適当に受付に行ったら寮に案内してくれるだろ。じゃあな、お前との旅はなかなか楽しかったぜ」
「ニコラスさんはこの後どうするんですか?」
「俺は、ここで依頼を受けたらまたルミィの町に戻るよ。おまえを送り届けたことを伝えるのとシャロンさんへのアタックを続けないといけないからな」
「あははっ....頑張ってくださいニコラスさん」
アッシュは苦笑いを浮かべ握手を求める。
「お前も頑張れよ」
アッシュの握手にニコラスは答える。
その後、ニコラスは振り返り手を振って街中へと消えていく。
アッシュは、学校の門に立ち警備をしている男に数日後に入学予定のアッシュフォードだと伝え、しばらく待つと中に入れてくれた。中に入り、受付の女性へ寮の場所を聞くと案内してくれることになった。
この学校は貴族学校のため王都にあるそれぞれの屋敷から通う生徒が多く、寮に入る生徒が元々少ないため寮の大きさ自体はそこまではないが、学校の敷地内にあり立派な建物だった。
「ここが学生寮になります。中に寮母がいるので詳しくはその方に聞いてください」
「ありがとうございます」
案内してくれた女性はお辞儀をして校舎へと戻っていく。
「中に入るか、荷物邪魔だしな」
アッシュは、両手の荷物を抱え寮の中に入って行く。中には初老の女性がいた。
「入学予定の方ですか?名前は?」
「アッシュフォード・グレイブです」
「ちょっと待ってね....確認できたよ。部屋に案内するね」
手元にある本でアッシュの名前を確認するとアッシュに部屋の鍵を渡し、先導して移動を始める。
階段で2階まで上がった先の部屋の扉を開ける。
「ここがあんたの部屋だよ」
中はベットと机があり、一人で暮らすには十分な広さだ。
「他にも寮生がいるからトラブルを起こさないようにね」
そう言った寮母は、部屋の前から去り階段で一階まで降りていく。
アッシュは中に入り荷解きをする。荷解きを終えベッドに横になる。剣は、机の横に立てかけていた。
「はぁー、1週間も馬車移動は流石に疲れるなぁ。入学式は3日後か、何しようかな...」
アッシュは入学式までの間は、魔法の練習のために外に出る以外では部屋に篭っていた。
「はぁ、やっぱり俺は人が多いところ苦手だな...なんだか懐かしいなこの部屋に引きこもってる感じ」
アッシュはベッドに横になり、本を読みながらぼーっとしながら前世のいじめられ、人間不信になり、高校の途中から引きこもり始めたことを思い出しながら感傷に浸っていた。
「明日から学校か。楽しみだなぁ。どんなことするんだろうな。学校楽しみなのも懐かしいなぁ。途中から学校は憂鬱なものでしかなかったからな。上手くやれるかな...やっぱり貴族ばっかりだから平民の俺の肩身は狭くなるのかな」
アッシュは学校が始まること自体は楽しみだが、前世の経験から新しい環境への緊張感や不安も持っていた。
「ダメだダメだ、しっかりしないと...明日から頑張ろう!」
沈んだ気持ちを頬をパチンッと叩き切り替える。
ーー
「レオへルト、明日から学校が始まるな」
「はい、お父様」
王城の一室に王太子ルシアスとその息子レオへルトが居た。
「わかってると思うが王族が手本であらなければいけない。お前が地位を盾に皆を虐げれば自然と他の貴族たちも爵位による上下関係が生まれる。お前はその横行を止める立場だということを忘れるなよ」
「分かっています」
「そして、貴族以外にも地方の初等学校で優秀だった平民である生徒達も何人かいる。その者たちへの接し方も考えて行えよ」
「肝に銘じておきます」
「それでいい。今日は早く休むように」
レオへルトはそう言われると部屋から退室し自室へと戻っていく。
「まさか、エレノアの息子も王都に来るとはな。レオヘルトと同い年なのは知っていたが地方から上がってくるなんて優秀に育ったらしいな」
一人になったルシアスは、今は城にいない妹エレノアの息子のことを考える。
「まあ、レオヘルトなら王族の立場を武器に横柄な態度をとらないと思うが、従兄弟同士で喧嘩なんかしないでくれよ。父上に知られてどやされるのは俺なんだから」
孫には甘い父親、この国の国王でもあるヴァルゼウスのことを思い出しながら独り言を呟く。




