第25話 帰省
アッシュフォード(9歳)は、グランツ初等学校の卒業式で、ノエラと喧嘩別れをし、翌日にはグランツを発ち王都レバーノの中等部の入学まで一ヶ月期間が開くのでルミィの町に帰っていた。
アッシュは、母エレノアに似た綺麗な真っ白な髪をした4歳の妹フィオナとボール遊びをしていた。
「ねぇお兄ちゃん、お姉ちゃんは来ないの?」
フィオナは、兄といつも一緒に帰ってくる青髪の姉のような存在の女の子についてアッシュに聞く。
「ノエラのことか?」
「そう、ノエラお姉ちゃん!」
アッシュは、投げられたボールをキャッチしてバウンドさせてフィオナに返す。
「ノエラは、エルシオンって国に行ったんだよ。」
「えっ?じゃあ もう会えないの?」
投げ返されたボールを無視し、フィオナは泣き出しそうになる。アッシュは、フィオナに近づき頭を撫でる。
「また会えるよ...ノエラは、とっても凄いからエルシオンって場所に魔法のお勉強をしに行ったんだよ」
優しい口調でフィオナをあやす。アッシュは、ノエラに対しフィオナが懐いていたことは知っていたため二人の喧嘩の都合で会えなくなるのは、申し訳ないことをしたなと思う。
「じゃあ、私も魔法の勉強する!そしてお姉ちゃんに会いに行く!」
「フィオナは偉いな。でも、まだ気が早いぞ。学校に通い始めるはまだまだ先だろ?」
「いやだ。魔法覚える!」
プクーッと頬を膨らませる。アッシュは、フィオナがそこまで言うならと可愛さに負けそうになるが「ダメだダメだ」と理性を働かせる。
「いいじゃないアッシュ、時間もあるんだし魔法教えてあげたら?」
家の中から我が子の微笑ましい様子を見ていた母エレノアがフィオナに助け舟を出す。
「でも魔法は危ないし...」
アッシュは、フィオナに対して過保護すぎる様子を見せる。
「その危ない魔法を3歳の頃黙って使っていたのは誰だっけ?」
「それは....」
アッシュは、エレノアの指摘に対して何も言えなかった。
「フィオナ、魔法を教えてくれないなんてひどいお兄ちゃんだね?」
「うん、お兄ちゃんなんて嫌い!」
その言葉は、アッシュにとって何よりもダメージの大きなものだった。
「わかったよ、教えるから...」
「やったぁー、お兄ちゃん大好き!」
さっきまでの態度が嘘のようにフィオナはアッシュに抱きつく。
アッシュは、内心大きなため息をつく。
「やったね、フィオナ」
「うん!」
エレノアとフィオナは、ハイタッチをする。
「アッシュ、ドンマイ。」
父ギルバードが「分かるぞ、その気持ち」と言いたげな同情的な目をしながら肩に手を置き慰める。
(父さんは、母さんやフィオナのこと大好きだからいつもこんな感じにお願いされてるんだろうな...)
すっかりとアッシュの部屋となったたくさんの本が置かれた部屋にフィオナと共に入る。
「フィオナ、魔法を教えるけど無理はするなよ」
「うん、わかった」
フィオナは、魔法を使えるようにワクワクしながら元気よく返事をする。
「じゃあまずは、魔法を使ってみよう。魔法には、適性がある属性ってのがあるんだ。とりあえずは、使ってみたい属性は何かある?」
「うーんとね、ノエラお姉ちゃんと同じ水が良い!」
ノエラによく見せてもらっていた水属性を選ぶ。
アッシュは、俺よりノエラに懐いてないか?と思いなりながらも水属性の詠唱文が載ったページを開く。
「じゃあ、ウォーターボールを使ってみようか。まずお手本見せるから見ててね」
あらかじめ用意していたバケツの上に手を伸ばし、本来必要のない詠唱文を使い魔法を発動する。
「[芳醇なる水の恵みよ、我が手に集まれ]」
水の玉が、アッシュの手のひらにできる。それをバケツの中に落とすとパチャッと心地よい音を出し形は崩れただの液体となる。
「お兄ちゃんはなんで詠唱してるの?お姉ちゃんは詠唱してなかったよ?」
「ああ、詠唱はお手本を見せるために言ったんだよ。俺も本当は詠唱しなくても使えるんだぞ」
「へぇ〜。私も詠唱しない!」
「そうかそうか。でもそれはまだまだ先ね」
フィオナはアッシュにむーっと抗議するような目を向ける。
「安心しろ、ちゃんと教えるから。ほら、フィオナもやってみろ。」
「うん...えっと、この文を読めば良いんだよね?」
フィオナの質問にコクリと頷く。
「[芳醇なる水の恵みよ、我が手に集まれ]」
フィオナが詠唱する。しかし何も起きなかった。
「あれ?何も出ないよ?」
不安げな表情でアッシュを見る。
「うーん、おかしいなぁ....違う属性使ってみようか。」
その後も火、風、土、光と基本属性の詠唱をするが、魔法が発動することはなかった。
「...っ、うっ....うわぁぁぁん」
フィオナは、ついに泣き出してしまった。アッシュは抱きしめて背中を擦りながら「大丈夫、大丈夫」と声をかけて落ち着かせる。
(魔力が少なすぎるのか、それとも適性ある属性が基本属性以外のどっちかだよな。後者ならいいけど、前者だった時には魔法使うには補助的な魔道具が必要になるよな...)
「落ち着いたか、フィオナ?別の魔法も試してみようか?」
「うん、やってみる...」
泣き止んだフィオナに提案をしてグランツにいた際に購入した基本属性以外の魔法が書かれている本を取り出す。
アッシュは、短剣を使い自分の腕に軽く押し当てて傷をつける。
「まずは治癒魔法を試してみよっか。これが詠唱文ね。」
「えっと...[優しき光よ、傷を癒やせ]」
ピカっと血が滴っていたアッシュの傷を包み込み、光が消えると元の綺麗な肌へと戻っていた。
「やっ、やったぁー!お兄ちゃん、魔法使えたよ!」
「やったな、フィオナ!」
フィオナは、嬉しさのあまりぴょんぴょん飛び跳ねる。
「フィオナ、他の魔法も試してみるか?」
「もちろんだよ!」
「次はどの魔法がいい?」
さっきまでの泣いていたのが嘘のよう自信満々なフィオナを微笑ましそうに見守りながら、本に載っている属性の一覧を見せる。
「これが良い」
フィオナは、本の文字を指差す。
「氷属性だな。よし、この『フロストブレス』をバケツの水に使ってみようか」
アッシュは、自分が使ったことのある氷属性の中で一番魔力消費の少ない魔法を選ぶ。
「[凍てつく息吹よ、熱を奪い去れ]」
フィオナが、詠唱すると周囲の温度が下がった。そして、バケツの中に入っていた水が氷となった。
「おぉー、カチカチになったぁ」
フィオナは、氷になった水をツンツンと触りながら感動する。
「早く次の魔法使いたい!」
「今日はここまでだ」
魔法に興奮しているフィオナをアッシュは止める。
「初めて魔法を使ったんだ。魔力がどのくらいあるか分からないからちょっとずつな。我慢できるか?」
「うん...我慢する」
アッシュは、フィオナが魔力をどのくらい持っているのか分からないためちょっとずつ回数を増やしていくように提案する。フィオナは、その提案を渋々聞く。
「いい子だ」
フィオナの頭を撫でる。
「じゃ、お母さんたちのところに戻ろっか」
フィオナと手を繋ぎ、リビングに降りていく。
「二人ともちょうど良かった。お昼ご飯できたところだよ」
リビングでは、シャロンが昼食を食卓へと運んでいた。
「「いただきます」」
みんなが席につき食事を食べ始める。
「魔法の方は順調?」
「えっとね、治癒魔法と氷属性の魔法使えた!」
フィオナが嬉しそうに話す。
「そう、すごいわね」
フィオナは、エレノアに褒められさらに嬉しそうになる。
ーバンッバンッ
「ギル、いるか?」
食事中、ドアが叩かれる。ギルバードは心当たりがあるようで、ドアを開ける。
「ニコラス、何の用だ?」
「おいおい、久しぶり会った親友にそんな言い方ないだろ?」
「いいから用件は?」
「ちょっと近くまで来たからな。今夜酒飲みに行こうぜ?」
ギルバードは、エレノアの方を見る。エレノアは、行ってきていいわよという感じで頷く。
「いいぞ」
「サンキュー、じゃあ前飲んだ店で集合な」
そう言うとニコラスは、玄関を後にしようとした時に、一瞬シャロンに目を奪われてしまうが直ぐに振り返り歩いて行く。
(あの子前にどこかで見たことあるなぁ...うーん、いつだったかなぁ。)
ギルバードは食卓へと戻ってくる。
「あの人は誰ですか?」
「ああ、そういえば会ったことなかったな。あいつは、ニコラス。冒険者だった頃何回か一緒にパーティー組んでたやつだよ」
「パパの数少ない友達の一人よ」
「友達じゃねぇ、腐れ縁だ」
ギルバードは、エレノアの友達発言を即否定する。
ーー
夜、ギルバードは以前も一緒にお酒を飲んだ店へと足を運んだ。
「お前の家にいた嫁以外の女誰だ?もう一人の嫁か?」
ニコラスは、ギルバードの家で一瞬見た水色髪の女性について聞く。
「シャロンのことか?違ぇよ、俺はエレノア一筋だ」
「そういえばそうだったな。じゃあ、あの子誰なんだ?前までいなかったよな」
「いや、結婚した時からずっといたぞ。お前も会ったことあっただろ?」
「いやいや居なかったぞ」
「ふーん、じゃあお前が来た時だけちょうどでかけてたのかもな」
「ところでさ、そのシャロンって子、結婚とかしてるの?」
「してないぞ、小さい頃からエレノアと育ったらしいから...なんだ惚れたのか?」
ギルバードは、揶揄うような口調でニコラスに言う。
「なんかどこかで会ったことあるなぁって感じがして。まぁ、惚れたってのもあながち間違ってないけど」
揶揄うつもりが意外と素直に答えられてギルバードは反応に困ってしまう。
「あー、そう言えばお前絶対シャロンと会ったことあるぞ」
「どこで?」
「10年くらい前かな...俺がエレノアと逃げてた時、お前のところに情報を得るために話を聞き来たのがシャロンだぞ」
「...思い出した、可愛い子からあまりにも切実にお願いされたからお前の情報いっぱい喋っちゃたんだよなぁ、そうかあの子だったのか」
全く悪びれるわけもなく思い出したことが嬉しくなっているニコラスを見て、やっぱり腐れ縁だわとギルバードは思う。
「ニコラス、お前もっと俺に申し訳ないとか思わないのか?」
「俺がお前に申し訳ないって?思うわけないだろ....そんなことよりさ俺にシャロンちゃん紹介してよ」
「知るかよ、自分でどうにかしろ」
ニコラスは、「頼むよぉ」とギルバードにだる絡みする。
ーー
それからニコラスは、しばらくルミィの町へと滞在しシャロンに対してアプローチを続ける。シャロンは、「私は、エレノア様の側にいるつもりなので結婚する気はありません。」と断り続ける。
そんな日々が続く中、ギルバードがアッシュとフィオナを連れ町に出ているため、エレノアとシャロンは家で二人になっていた。
「なんだかこうして私たち二人になるのも久しぶりね」
シャロンの入れたお茶を飲みながら二人はリラックスしていた。
「そう言えばそうですね」
「シャロンなんだかここ数日男の人に絡まれてるそうじゃない」
「はい、何度も断ってるのですがしつこくて。相手はニコラスさんなのでギルバード様に相談しようかなって思ってます」
シャロンはまるで他人事のように話す。
「ところでシャロンは結婚願望とかないの?」
「特にないです。エレノア様と一緒にいられるだけで十分ですから」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど...でも、これだけは約束して、もし、結婚したい人が現れても私たちに遠慮しないこと」
「そんな人は現れないと思いますが、わかりました」
「うんうん、それでいいの。まあ、何かあったらいつでも話して。私たち友達でしょ?」
「...はい」
シャロンは、エレノアの言葉に遠慮がちに返事をしながらも嬉しそうな顔をする。
ーー
ギルバードは、アッシュとフィオナの二人を連れて買い物に行っていた。
「父さん、何を買いに行ってるんですか?」
「ああ、お前にそろそろ武器を渡そうと思ってな。前やった短剣だけじゃ不便だしな。それに王都の学校では、実戦的な授業もあるんだろ?」
「そうだけど、なんでフィオナも付いて来てるの?」
アッシュと手を繋ぎニコニコしながら歩いてるフィオナを見ながら聞く。
「楽しそうだったから!」
これは来るなって言えないなと思いながら歩いて行くとギルバードが店の中に入るため、アッシュとフィオナもそれに続く。
「いらっしゃい...なんだギルバードか。今日は何のようだ」
店の中は、壁にさまざまな剣や盾などの武器が置いてある普通の武器屋という印象だ。店主の男は、少し大柄な男だ。口ぶりからしてギルバードは常連なのだろう。
「今日は、俺の息子の武器を選びに来たんだ」
「へぇー、こいつがお前の息子か」
店主は、下から上までアッシュの体を観察する。
「ここは武器屋ですか?」
「ああ、そうだ。武器屋兼鍛冶屋だ。お前の親父の剣の刃研ぎもしている...どんな武器が欲しいんだ?」
「アッシュせっかくだ、武器の選び方を教えてやろう」
ギルバードは、壁にかけてあるさまざまな大きさの剣を何本か手に取る。
「まずは、どのサイズの剣を使いたいかを選ぶ。どれがいい?」
アッシュは悩みながらも木剣と同じサイズ、一般的な大きさのサイズを選ぶ。
「これにします」
「よし、じゃあ次は剣の重さだ。重い剣の方が一撃は大きくなる。逆に軽い剣では素早く剣を振るうことができる。好きな方を選べ」
選んだ剣の長さでそれぞれ重さが異なる剣が用意される。
アッシュは、一本一本手に取ってみる。
「坊主、実際に素振りしてみていいぞ」
「ありがとうございます」
アッシュは、店主についていき裏庭へと出る。そこで、素振りをしてみる。しかし、なかなか決めることができず色々な重さの剣を行ったり来たりする。
「まぁ、重さ決めるのが一番難しいからなゆっくり悩んでいいぞ。フィオナ、お前はその間に行きたいとこあるか?」
「ここでお兄ちゃん見る」
「そうかそうか」
満面の笑みでそう言うフィオナをギルバードは抱っこする。
それから数分が経ちアッシュが一本の剣を選ぶ。
「これに決めました」
アッシュが握っていた剣をギルバードが手に取る。
「通常より少しだけ軽い剣か。魔法を使うお前にちょうどいいかもな」
「その剣をそのまま買うか?」
店主がギルバードにそう聞くとギルバードは、剣を店主に渡す。
「いや、この剣と同じ重さ、大きさの新しい剣を打ってくれ」
「わかった...10日後までにはできるから楽しみにしておけ」
ギルバードは、「ありがとな」と言い店を出ていくのでアッシュもフィオナと手を繋いでそれについて行く。
店の外はすっかりと夕方になり3人は帰路についた。
「今回買う剣は、消耗品だ。いずれ自分で剣を探せ。王都やヴィクトリアにはもっといい剣がある。これだって思うものが出てくるまでは色々試すといい」
「はい、わかりました」
(ギルバードは元はAランク冒険者らしいからな。頼りになるな)
ーー
それから家では、フィオナに魔法を教えたりギルバードから剣の修行を受けたりした。
フィオナに魔法を教え初めて5日経った日。
「フィオナ、そろそろ無詠唱を試してみるか?」
「うん、やりたい」
「じゃあ分かりやすい『フロストブレス』からやってみるか」
アッシュはバケツに水を貯める。
「まず、魔法を使う想像をするんだ。初めは難しいと思うが頑張れ」
うーんと唸り声をあげながら魔力を込めるが全然魔法が発動する気配がない。
「フィオナただ魔力を込めるんじゃない。今まで魔法を使ってきただろ?その時魔法使ったらどうなったかを口に出しながらやってみろ」
「えっと...魔法を使ったら手が冷たくなって周りも冷たくなって水が氷になる」
目を瞑りながら『フロストブレス』を使うとどうなるのか何度も経験したことを呟く。
「そうだ、そのことを頭の中でイメージするんだ」
「うーん...はぁ、はぁ」
フィオナの魔力の放出が止まり、息が上がる。
「魔力使いすぎたみたいだね。今日はここまでにしよう。続きはまた明日だ」
「うん....」
フィオナは無詠唱が成功しなかったことにしょんぼりとする。
「まだ時間はあるんだから落ち込むな。大丈夫、俺も最初はできなかったから。一発で成功する方が難しいんだから」
アッシュに励まされフィオナは少しだけ元気になる。
翌日も同じようにフィオナと無詠唱の特訓の続きをする。
「じゃあ、昨日と同じようにやってみようか。まずは頭の中でイメージしてみよう。魔力は使わずにな」
アッシュの言葉を聞き、フィオナは頭の中でイメージを始める。
(魔法を使ったらまず手が冷たくなって...周りも冷たくなって...水が氷になる...)
今まで魔法を使って経験したことを思い出しながら頭の中でイメージを繰り返す。
「イメージができたらいつも魔法を使うみたいに魔力をこめろ」
フィオナの魔力が放出される。
バケツの中に入った水が少しずつだが凍ってくる。しかし、途中で魔法が解けてしまう。
「惜しいなぁ、あと少しだったけど。この調子で続けていこうか。体調は大丈夫か?」
アッシュは、フィオナの魔力がどのくらい残っているか未知数なので指標となる体調の変化について聞く。
「まだ、大丈夫だよ。なんで切れちゃったのかなぁ?」
「多分集中力だと思う。水が凍り始めて安心しただろ?それでイメージが切れたんだと思う。もう一回やってみようか。次は俺がいいって言うまで止めちゃダメだからな」
「わかった」
フィオナはもう一度頭の中でイメージを創り出す。そして、そのイメージが完成したら魔力を込めていく。徐々にゆっくりだが水が凍って氷になっていく。
「よし、いいぞ」
アッシュの合図に合わせてフィオナは、魔法を止める。息が上がっているが先ほどとは違い水が完全に氷に変わっているのを見て「やったぁー」と初めて魔法が成功した時と同じように飛び跳ねて喜ぶ。
「成功したな。明日からはもっと早く魔法が使えるように練習を繰り返そうか」
「うん、明日も頑張る!」
ーー
剣の製作を依頼し、約束の10日が経った。
ギルバードとアッシュの二人で武器屋へと向かった。フィオナもついて行くと言っていたが遊び疲れたのか家でぐっすり眠っている。
10日前にも訪れた店のドアを開ける。
「注文していた剣出来てるか?」
「ああ、ギルバードか。もちろん出来てるぞ」
店の奥から店主が出てくる。客がギルバードだとわかると再び店の奥に戻り一本の剣を持ってくる。
「これが坊主の剣だ」
店主がアッシュに手渡しで剣を渡す。
「試していくか?」
「はい」
アッシュの返事を聞き、前回剣を選ぶ際に素振りをした裏庭へと移動する。そこには、丸太が置いてあった。
「あの丸太で試し斬りしてみな」
アッシュは、鞘から剣を引き抜いた。
剣をじっと見つめる。アッシュには、実際に斬ることのできる短剣は持っていたがその時とは違った緊張感を抱いていた。そして、自分のために作られた剣という感動も味合っていた。
剣をいつものように構える。そして呼吸を整える。
思いっきり剣を振りかぶり闘気を纏い力を込め剣を振るう。
ースパァン
丸太がアッシュが振りかぶった位置から綺麗に真っ二つになる。
「...すごい」
アッシュがこれならわざわざ闘気を使わなくても斬れたんじゃないか?と思うほどの切れ味に感嘆の声を上げる。
「当然だ。俺が打ったんだからな」
店主が誇らしげに話す。
「ギルバード、代金は銀貨5枚だ」
「相変わらず相場より高いんじゃないのか?」
「俺が打ったんだからそれくらいが妥当だ」
ギルバードは文句を言いながらも店主の腕の良さを買っているのか代金を支払う。アッシュの感覚的に銀貨一枚は元の世界の一万円に相当する。
二人は、店を出て帰路につく。
「この剣大切にします!」
アッシュは大事そうに剣を抱えながら言う。
「前も言っただろ。その剣は消耗品だ。いつか自分がこれだと思う剣が見つかるまでの代用品だ。俺が使ってる剣も冒険者になって3年くらい経った後に隣国のヴィクトリアで腕の良いドワーフの鍛冶屋に頼んで打ってもらった剣なんだ。その剣が俺にぴったりでずっとそれを使ってるんだ。お前もそんな剣にいつか出会えるよ」
「はい」
ギルバードの言葉を聞き、アッシュもいつかそんな剣に出会いたいと一つの夢ができた。
「短剣を渡した時にも言ったと思うがそれは簡単に人を殺すことができる武器だ。扱い方に気をつけろ」
ギルバードが真剣な声色で忠告する。
「分かっています」
「なら良い」
アッシュも同じように真剣な声色で返事をするといつものような優しく軽い声色に戻り乱暴に頭を撫でる。
アッシュは、「やめて」と言いギルバードの手を振り払おうとしているが嬉しそうな顔をしていた。
ーー
シャロンがいつものように町で食材の買い物をしていると男が近づいてくる。
「シャロンさん、俺と少し話をしない?」
「またニコラスさんですか。何度も言ってますがもう付き纏わないでください」
シャロンはここ数日町に出かけるといつも声をかけてくるニコラスに迷惑そうに断る。
「そんなこと言わずにさ。俺たち結構前からの知り合いだろ?」
「知り合いと言っても10年くらい前に一回会っただけですけどね」
「いやいやあの出会いは結構運命的だったでしょ」
「どこがですか...ただ私がギルバード様と仲の良かったあなたに話を聞いただけじゃないですか」
シャロンが呆れたように言う。
「俺は、シャロンさんだったからギルバードのこと話したんだよ。俺はそう簡単に親友のことは売らないからな」
「そういえば聞いてきませんでしたね。なんで話してくれたんですか?出身のスラムの場所とか色々と」
「それは君が可愛かったからだよ。まぁ、簡単に言えば惚れちゃった訳だな」
ニコラスは軽い口調で話す。
「揶揄わないでください。あと、本当にそれが理由なら結構簡単な理由じゃないですか」
生まれて初めて異性に正面から可愛いと言われて戸惑ったが冷静を保つ。
「まぁ、あの時は感謝してますよ。あなたがいっぱい喋ってくれたおかげでエレノア様を見つけられたんですから」
「ずっと疑問だったんだけどさ、ギルバードの嫁のエレノアさんって何者なの?ギルバードが護衛の任務の最中に駆け落ちしたってのは聞いたけどそんなに偉い人なの?シャロンさんっていう侍女まで結婚する時についてきてさ」
「それは言えません。それに私はエレノア様のそばにずっといましたから私から連れて行って欲しいとお願いしたんです」
「へぇ、エレノアさんのこと大切なんだね」
「はい、そうです。だからあなたのような人に構ってる暇はありません。失礼します」
シャロンがその場から立ち去る。
「また声かけるから。また話そうねー」
シャロンの背中にそう声をかけて満足したようにニコラスもその場から立ち去る。
家に戻りシャロンはギルバードにニコラスのことを相談する。
「ニコラスさんをどうにかしてください」
「すまないなシャロン、あいつ本気で人に惚れたことないからまさかここまでしつこいなんて思ってなかったよ」
「ギルバードに似てるじゃない」
話を聞いていたエレノアがギルバードを揶揄う。
「ニコラスさん、本気なんですか?」
「多分そうだと思うぞ。あいつ断られたら普通すぐ諦めるからな。それに、シャロンが俺たちの行方探す時ニコラスに話聞いてあいついっぱい情報喋っただろ?あの一件の後会ったら『聞きに来た人が可愛すぎてついな』とか言ってたからな」
「そうなんですか」
「まぁ、俺からもう一度言っておくよ。あいつが迷惑かけて悪かったな」
(本気なんだ...てっきり揶揄われてると思ったけど。初めて異性から好意を向けられたからどうしたらいいか分からないな)
ーー
アッシュが実家に帰ってきて一ヶ月が経過した。
王都の中等部への入学式のためにレバーノへと出発する。
「じゃあ、行ってきます」
腰に剣を携えたアッシュが、家族に別れを告げる。
「アッシュ、頑張れよ」
ギルバードがアッシュの胸に拳を当てて送り出す。
「気をつけてねアッシュ。周りは貴族ばっかりだと思うけど遠慮しちゃダメよ」
アッシュは知らないが実際に王都の学校で学んでいたエレノアは、怖気付かないようにアドバイスする。
「アッシュ様、お身体にお気をつけて」
シャロンはアッシュの身体を気遣う。
「フィオナ、行ってくるよ」
今にも泣き出しそうなフィオナの前にかがみ込み頭を撫でる。
「行かないでお兄ちゃん...まだいっぱい魔法教えてよ!」
「ごめんなフィオナ、まだ無詠唱教えてる途中だったけど。でも、フィオナの無詠唱もあと少しで完成だ。練習を繰り返せば絶対にできるよ」
優しくフィオナに謝る。
「いやだ、まだ無詠唱できるようになったの一個だけじゃん!もっと教えてよ!」
「一個覚えたら練習の仕方は同じだから...そうだフィオナにこれを渡しておくよ」
アッシュは、鞄の中から一冊の本を取り出し、フィオナへと手渡す。
「これって...魔法の本?」
その本は、アッシュがグランツで購入し、フィオナとの魔法の練習で使っていた本だった。
「そうだ家にある本は基本属性しか載ってないけどこの本には色々な属性が載ってる。いっぱいこの本見て試してみるといいよ。あと、基本属性も魔法使うのに慣れたらまた使えるかどうか試してみて。もしかしら使えるかもしれないから」
「ぅん...わかった...がんばる」
アッシュの体に抱きつき声をあげて泣く。アッシュは、フィオナが落ち着くまで背中をポンポンと優しく叩く。
ギルバード、エレノア、シャロンは二人のやりとりを微笑ましそうに見ていた。
フィオナが落ち着きアッシュから離れると、アッシュは立ち上がる。
「じゃあみんな行ってくるよ。また休みの時に帰ってくるから」
アッシュは、そう言うと振り返って家族に背を向け王都へと旅立つ。




