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転生した世界で  作者: 立方体
第一章 幼少期
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章間 ギルバードとエレノア③


 ギルバードは、拘束を解かれウィリアムに連れられて兵舎へと連れて行かれる。

 エレノアは、自室へと戻る。自室には、ルーベンから戻ったシャロンが待っていた。


 「ご無事でよかったです、エレノア様。」

 「心配かけてごめんね、シャロン。」

 「...っ...ゥッ...本当に...本当に...っ無事で良かった...」

 シャロンが泣き声混じりの声を上げる。

 そんなシャロンを見てエレノアは、心配かけて申し訳ないことをしたなと思いシャロンを抱きしめる。

 「うぁぁぁぁっ....!」

 シャロンは堰を切ったようにボロボロと涙を流す。

 「そんなに泣かないでよ。ありがとね心配してくれて。」

 シャロンが落ち着くまで背中をポンポンと優しく撫でる。


ーー


 兵舎に連れてこられたギルバードは、ウィリアムに訓練場を案内される。

 「一ヶ月間はここで暮らせ。...さっそく始めるぞ。教える奥義は、風神流の『斬空・鎌鼬《かまいたち》』だ。」

 ギルバードに向け剣を投げ渡す。ギルバードは、それをキャッチする。

 「まずはお前の実力を見せてもらおう。構えろ!」


 二人は木剣を手に構える。お互い隙や間合いを探りながら対峙する。


 先に動いたのはギルバードだった。タンッと地面を蹴り一気に間合いを詰める。


 ーバンッ

 木剣同士がぶつかる鈍い音が響く。ギルバードの闘気で強化した攻撃をいとも容易く止める。


 「なかなかやるな。だが、お前の戦い方は対人戦より魔物との戦い方しか想定されていない。」

 ウィリアムは、話しながらもギルバードに反撃する。ギルバードは、一旦引いて攻撃を躱す。

 「その戦い方じゃ実力が上の相手への対人戦では勝てないぞ。」

 ギルバードは、続けて距離を詰めて攻撃を繰り返す。


 (んなことは分かってるよ。だが、そんな急に戦い方変えれるかよ!)


 「お手本を見せよう。死ぬなよ...」


 ーシュシュシュシュシュッ!

 ギルバードを圧倒的な手数の斬撃が襲う。一発一発が、空を裂くような鋭く、速い攻撃だ。

 ギルバードは何とか攻撃を受けて耐える。反撃をする暇がないほど攻撃が止まらない。一発一発の重い衝撃に体力がどんどん削られていく。


 ーバコォォォォォォォン....パラパラパラ

 「グハァッ!」

 遂に被弾したギルバードはそのまま壁まで衝撃により飛んでいく。


 「これが『斬空・鎌鼬』だ。習得のためにまず素振りからだ。だが普通の素振りじゃないぞ。速くそして空を裂くような素振りをしろ。」

 そのまま、ウィリアムは訓練場を後にする。


 「ハァ...ハァ...クソが....やってやる。決めたんだ、エレノアを守るって。」

 まだ痛む体を起こし、呼吸を整えウェリントンに言われたことを意識して素振りを始める。


ーー


 ウィリアムと訓練を始めた頃、エレノアの部屋には兄であるルシアスが来ていた。

 二人はソファに向かい合うように座り、シャロンが淹れたエレノアは紅茶をルシアスはコーヒーを飲む。

 「お兄様、お騒がせして申し訳ありませんでした。」

 「堅苦しいなぁ。今まで通りでいいぞ。」

 「お兄様、なぜお父様は許してくれたんでしょうか。」

 ルシアスはエレノアの質問を聞きやれやれといった様子で答える。

 「父上は、エレノアに昔から甘かったからね。」

 「そうでしたっけ?私にも厳しかったですよ?」

 「いやいや、俺に比べてら全然甘かったぞ。それに今回の件だって許して、条件付きとはいえ結婚すらも許そうとしてるんだぞ?」

 「それはそうですけど。まぁ、お兄様がいてくれるおかげで私はどこかに嫁ぐぐらいしか役目がありませんから。」

 「それもそうだがな。それで、お前が惚れたギルバードは一ヶ月で奥義習得できると思うか?」

 「はい、できると信じてます。」

 真っ直ぐとした目で答える。

 「そうか、それは良かったよ。ところで、もし父上が許さなかったらどうするつもりだったんだ?」

 「えっと...妊娠したって嘘つくつもりでした。」

 頬をぽりぽりとかきながら申し訳なさそうに言う。

 「はぁ!?....くっくっくっ、やっぱりエレノアは面白いなぁ。」

 「笑わないでくださいよ。」

 「すまんすまん、まさかそこまでギルバードのことが好きなんてな。」

 「はい、好きです。」

 エレノアは、顔を赤ながらもはっきりと答える。

 「....じゃあ、また息抜きに会いにくるよ。」

 「はい、今回の件は心配をかけてすみませんでした。」

 「いいよ、妹のわがままはいつものことだからな。」

 ルシアスは、ソファから立ち上がり仕事に戻ろうとする。

 「そんなに頻度多くないですよ。」

 「まぁ、ギルバードが無事に奥義を覚えられたら一緒にいられるのはあと一ヶ月だ。ゆっくり過ごせよ。」

 「はい、ありがとうございます、お兄様。」


 それからエレノアは、スラムをなくすために動き始める。父である国王に話したところ環境改善と治安維持を目的として許可された。


ーー


 それから5日が経過した。ウィリアムは、ギルバードの素振りの様子を見てアドバイスをするが本格的な練習には入らなかった。ギルバードも文句は言わずにひたすらに努力を続けた。

 エレノアの捜索に動いていた第二師団が王都に戻ってきた。ウィリアムと第二師団団長フェルト・サップとアロイで酒場に集まっていた。


 「納得いきません。なぜ王は誘拐犯を生かしておくんですか!」

 アロイは、酒を飲みながら愚痴を言う。

 「声がデカいぞ。その件は箝口令が敷かれてるんだ。声を落とせ。」

 フェルトが注意する。

 「すみません...」

 アロイは、素直に従う。

 「でも俺も疑問です。ウィリアムさんは何か知ってますか?」

 フォルトは、丁寧に疑問を投げかける。

 「さあな、王女様が許すって言ったらしいぞ。それに、アロイお前も感謝しろよ。王女様が不問にして欲しいって言ったから何も処罰がなかったんだから。」

 「はい、分かっています。」

 アロイがさっきまでの威勢はなくなりシュンとなる。

 「それよりお前の報告では、こっちから護衛の依頼をした冒険者のギルバードに対する態度が随分と悪かったらしいじゃないか。なぜそこまで冒険者を見下しているんだ?」

 ウィリアムは、アロイに疑問を投げかける。

 「それは...冒険者は荒くれ者の集団だからです。そもそもあんなやつに依頼しなくても護衛は問題なかったんです。あいつがいたせいで今回の事件が起こったんですから。」

 「アロイ!お前はまだそんなこと言ってるのか。お前はヘルスから何を学んだ!」

 フェルトが叱責する。

 「しかし団長、冒険者関連でどれだけ多くの犯罪が起きていますか。」

 「確かに冒険者が関わっている犯罪は多い。だがそれは大勢いる冒険者のほんの一握り、そして冒険者としては実力が足りなかったものが犯罪を犯している。それに、ヘルスだって元は冒険者だ。この国では、歴史的に見て貴族が冒険者になることも多い。そのことはお前も知ってるだろ。」

 「はい...」

 「アロイ、お前はギルバードの実力をわかっているか?」

 「いえ、Aランク冒険者と言うことしか知りません。」

 「今回、ギルバードが王女様を殺そうとしなかったから良かったがもしもお前の態度にムカついて護衛対象を殺そうとしたらどうする?」

 「私が止めます。」

 「それは無理だ。お前では勝てない。」

 「そんなことやってみないと分からないじゃないですか!」

 自分の力を否定され、しかも見下していた相手に勝てないと言われ抗議の声を上げる。

 「俺はギルバードと戦った。だから断言できる。それにやってみないと分からないじゃダメなんだ。それで負けたらどうする。お前のプライドと王族の命どっちが大切だと思う。同じ護衛をする仲間だ。今後、冒険者だからといって見下すな。剣の腕を上げるのも大事だがもっと精神を鍛えろ。わかったな。」

 「はい、分かりました」

 アロイは、不満そうにしながらも尊敬している団長たちの言うことを聞く。


ーー


 素振りをはじめ10日が経過した頃、ギルバードの素振りは、今までしてきた素振りとは段違いに変化していた。


 「ギルバード、素振りは合格だ。そろそろ本格的に始めようか。とは言ってもその素振りで『斬空・鎌鼬』を習得する特訓は大詰めだけどな。」

 「はぁ?何言ってんだよ。こんなことで使えるようにならないだろ。」

 ウィリアムの言葉を聞き、黙々としていた素振りをやめ、聞き返す。

 「まだ分かってなかったのか?あの奥義は、ただ相手よりも早くそして相手よりも鋭く、相手よりも多く剣を振るっているだけだぞ。」

 やれやれといった様子でウィリアムは答える。

 「とりあえずやるぞ。かかってこい。」

 

 ウィリアムの挑発にギルバードは構える。その様子を見たウィリアムも真剣な表情になり構える。


 「さあ、来い!」

 その言葉に、ギルバードは一気に攻撃を繰り出す。

 ウィリアムはその攻撃を受け止める。

 「確かに成長したがまだまだだ。もっと早くだ!空気を切り裂くイメージだ!」


 (もっと速く...もっと強く....)

 ギルバードは攻撃をしながら目を瞑る。そして、素振りをしていた時の感覚を思い出す。呼吸を整え、目を開ける。


 ーバッバッバッバッ

 ギルバードの剣は今までと比べられない程速くウィリアムに襲いかかる。


 「いいぞ、その調子だ!だが、威力が足りん!」

 そう言うと攻撃をしていたギルバードに反撃し、距離を離れさせる。


 「はぁはぁはぁ....」

 ギルバードの息が上がる。

 「スピードは十分だが、攻撃が軽い。その程度では、奥義とは言えない。」

 ウィリアムは、金属でできた通常よりも重い剣を渡す。

 「これを使って同じ素振りを繰り返せ。木剣と同じように振るうことができるようになったらまた見てやる。」

 ウィリアムは訓練場から出ていく。


 「重いな...木剣と同じようにだと。あと20日、時間が無い、弱音なんて言ってられないな...」


 「くっ...はぁ...」

 剣を握り締め頭上まで上げ、振り下ろすので精一杯だった。


ーー


 エレノアは、スラム街の改善のためまずは、孤児院の整備、孤児院の子供も教育機関に通えるようにするための法整備を進めていた。

 スラムは領土を持つ貴族にも関わってくる事案のため、関係大臣たちは消極的になっていた。

 「エレノア、苦戦してるようだな。」

 ルシアスはコーヒーを飲みながらエレノアに言う。

 「はい、ここまで大変だとは思いませんでした。」

 「まぁ、今まであまり政治に関わってこなかったからな。大臣たちは、何か変わることをあまり好ましく思わない。それに、何をするにしても貴族が関わってくるからな。」

 「アドバイスを貰えませんか?」

 「うーんそうだな。俺の場合王太子って立場だからな。反対しながらも素直に言うことを聞く場合が多いからな。一番簡単な方法は、メリットを提示することと公爵とか上級貴族とのめんどくさい交渉を自分がするって言うことだな。」

 エレノアは少し考えるそぶりを見せた後「ありがとうございます」と感謝して、部屋を飛び出していく。慌ててシャロンもルシアスに「失礼します」と言いエレノアに付いて行く。


 「やれやれ...騒がしい妹だな。」

 ルシアスはどこか嬉しそうな表情をする。


 宰相、財務大臣、文部大臣、法務大臣、内務大臣を部屋に集める。


 「集まってもらったのは他でもないスラム街の件についてです。」

 「エレノア様、またそのお話ですか。以前も申しましたが、メルヴィル伯爵家が起こした反乱の後始末で国政はまだ混乱しています。スラム街に手をつけている暇などありません。」

 宰相が反対する。

 「私も宰相の意見に賛成です。反乱によって国庫も圧迫されております。言い方は良くありませんがスラムに割くお金などありません。」

 財務大臣も反対する。

 「分かっています。ですが、今回の反乱は、メルヴィルが民衆を上手く誘導して起こした革命のようなものでした。国民からの信頼は国政において重要なものと考えています。その一つとしてスラムの改善は、街の治安維持と生活環境の改善、そして才能ある子供を潰すことを防ぐことが出来るようになると思いますが?」

 エレノアが今回の反乱と結びつけメリットを提示する。

 「たしかにエレノア様の意見はもっともです。スラムの改善は、先ほどおっしゃた大きなメリットがあるでしょう。しかし、貴族も動かさねばなりません。貴族がスラムのために金を出すとは私は思いませんが?」

 内務大臣が、エレノアに賛同しながらも不可能だと言う。

 「貴族への交渉は私がします。」

 その言葉を聞いた大臣たちは驚く。なぜ、エレノアがここまで動くのか疑問を持つ。


 「はっきりさせましょう。私が貴族へ交渉します。公爵家などをはじめとした上級貴族たちが私が提案しているスラム改善に協力すると言ったら実現可能ですか?」

 エレノアの真剣な表情に、各々が真剣に実現可能かを考える。


 「私としては、孤児院が整備され、スラム街の子どもたちがそこに入るなら普通の国民と同じように教育機関への入学は許可していいと思っております。」

 最初に文部大臣が答える。

 「法整備も問題ありません。」

 法務大臣も答える。

 「孤児院の整備は、財務と各領地を収める貴族たちに左右されます。」

 内務大臣が答える。

 「財務としては、どこまで貴族が協力的かによって決まります。」

 財務大臣が答える。

 「話をまとめましょう。実現のためにとりあえずはどこまで貴族が協力するかが重要。そしてその交渉はエレノア様が行う。ということでよろしいですか?」

 宰相が大臣の意見から今後の動き方についてまとめる。

 「各々の意見はわかった。貴族との交渉次第で実現に動いてくれるってことでいいのね?」

 「はい」

 エレノアの最終確認に対し、宰相が代表して回答する。

 「ありがとう。」

 そう言ってエレノアは部屋から出て行く。


 「シャロン、時間がないわ。とりあえず伯爵までの発言力が強い貴族を中心に呼んで。」

 「かしこまりました。」

 シャロンは、命令に従い力を持つ貴族を。優先的にエレノアの名前を使い呼びだす。

 

 エレノアはまず初めに貴族の最高位のベルガンド・フォン・クレスタ公爵に会う。

 「来てくれてありがとうベルガンド。」

 「エレノア様が呼んでおられるならこの老体に鞭を打ってでも馳せ参じますよ。」

 「ふふっ、ありがとね。早速本題なんだけど、私はスラム街の改善をしようと思ってるの。」

 「ほぉう、スラムのですか...具体的な方策を聞いてもよろしいですかね?」

 「まず、孤児院の整備を行う。そして、身分のないスラムの子どもは学校には通えないけど孤児院に入ったら学校に通えるように法整備する。」

 「なるほど。しかし、それだけではスラムの子どもたちの改善はできますが根本的な解決にならないのでは?」

 「確かにそうよ。でも、少しずつ進めるしかない。」

 「そうですね。余計な心配をして申し訳ありません。」

 ベルガンドは、丁寧に頭を下げる。

 「謝らなくていいわ。それより、公爵家はこの件にどのくらい協力してくれる?」

 「どのくらい、ですか...エレノア様の案は素晴らしいものですがそれは領地を治める貴族の協力が必要ってことですよね?なにせ王都にスラム街は存在しないのですから。実際に動くのは領主である貴族になりますからね。」

 

 「ええ、ベルガンドの言うとおりよ。法整備がこっちでできても貴族が動かないなら意味がないからね。」

 

 (あいかわらずこの人の相手は疲れる。国に対しての忠誠心はあるけどどこか不気味だわ。)


 「我がベルガンド公爵家は、全面協力いたしましょう。法が整備され次第領地への孤児院設置とスラムの子供を孤児院に入れる旨を進めましょう。」

 思案するそぶりを見せていたベルガンドは、エレノアの策に全面協力すると約束する。

 「ほんと!?ありがとう!」

 エレノアは腹の探り合いではない心からの笑みを浮かべる。

 「それと私の方からも仲の良い貴族たちへ協力するように声をかけておきましょう。」

 「本当にありがとう、ベルガンド。」

 「いえ、感謝は不要です。スラム街はなくした方が治安維持や生活環境の面から見てもいいと思っていましたので。」


ーー


 さらに10日が経過し、約束の一ヶ月までは残り10日となった。

 エレノアは、公爵の賛同を得られたことで貴族との交渉は順調に進み、大臣たちも法整備に向け動き出す。

 一方ギルバードは、やっと満足に金属の剣を振るうことができるようになり、素振りの精度も木剣の時と同じくらいまで上げた。


 「素振りは終わりだ、ギルバード。木剣を握れ。」

 ウィリアムとギルバードはお互い構える。

 「さぁ来い!」

 ウィリアムの合図とともにギルバードはいつものように一気に接近する。そして、いつものように剣を振るう。

 ーバァンッ!

その一撃は今までよりも速く、そして確実に威力の高い一撃だった。


 「なっ!?」

 その攻撃にギルバード本人が驚く。

 ウィリアムは、反動により体勢を崩すがすぐに立て直す。

 「何を驚いている。当然だろ、重い金属の剣を木剣のように扱うことが出来るようになってるんだから。威力、スピードは完璧だ。それを連続で放ってみろ。」

 ギルバードは、スゥー...ハァー...と呼吸を整える。


 「オラァァァァァッ!」

 叫びながら何度でも剣を振るい続ける。

 バァン、バァンと木剣同士がぶつかり合う音が響き渡る。

 「もっとだ、目で追えないくらい多く剣を振え!」

 ウィリアムは、全て剣で受け止めながら奥義に近づくためさらに高みを求める。

 

 (もっと速く、もっと強く、もっと多く......エレノアを守るために!)

 ギルバードは「もっと、もっと」と考えながら剣を振い続ける。


 ーヒュゥゥゥゥ

 空気が一変する。

 ーシュシュシュシュシュシュッ

 ギルバードの斬撃が空気を切り裂くように鋭く、そして速くなる。

 「クッ...ようやく成ったか!」

 ウィリアムは満足そうに笑みを浮かべる。そんなウィリアムの元に容赦なく斬撃が浴びせられる。

 

 ギルバードは、ただ『エレノアを守る』という固い決意の一心でより高みを目指し剣を振るった。その結果、奥義『斬空・鎌鼬』へと到達した。


 「ぐっ、おっ...」

 一撃が、ウィリアムの横腹へと直撃する。ギルバードの攻撃が止まる。

 「見事だ、ついに奥義習得だな。」

 片膝をつき、横腹を抑え、苦しそうな表情をしながらもギルバードを賞賛する。

 「明日からは、その奥義を実戦でいつでも出せるようになってもらう。」


ーー


 それから5日が経過した。約束の一ヶ月まであと5日。遂にギルバードは奥義『斬空・鎌鼬』をいつでも出せる状態まで成長した。

 エレノアの方も、孤児院の法整備が進みあとは国王の許可だけとなった。

 エレノアとギルバードが王都に連れて来られた際に居た、ギルバード、エレノア、ルシアス、王妃、ウィリアム、ベルガンドが玉座の間に呼ばれる。


 「ギルバードよ、ウィリアムから報告は聞いている。奥義を習得したそうだな。」

 国王ヴァルゼウスは話始める。

 「エレノア、約束通り結婚は許可しよう。明日からお前は王族ではない。エレノア・グレイブとして生きよ。」

 厳格な声で、そう告げる。

 「っ!ありがとうございます...お父様..」

 エレノアの目からは涙が溢れる。

 「お前が進めていた孤児院の件だが、ルシアスが引き継ぐから安心しろ。それとエレノア・リ・アルカディアは病死したと発表する。自分で決めたことから逃げ戻ってくることなど許さないからな。」

 「はい、もちろんわかっています。」

 エレノアは、逃げることなど考えていないと言う覚悟している目をして答える。

 「それでいい。グランツの近くにルミィという小さな町がある。そこで暮らせ。家は用意している。」

 「はい。」

 「話は以上だ。必要な荷物をまとめて明日の朝に出発しろ。それとウィリアム、ベルガンド、わかってると思うがこのことは他言無用だ。」

 「はっ」「もちろんわかっております。」

 二人は当然わかっていると言わんばかりに返事する。


 「ギルバード、我が娘エレノアのことを頼んだぞ。」

 「私が必ず守ります!」

 エレノアと同じく覚悟の決まった目をしている。


 ヴァルゼウスは、玉座から立ち部屋から退室する。エレノアは、父が振り返る瞬間、口元が笑っている気がした。


 その後、エレノアは部屋に戻る。

 「シャロンにもお世話になったわね。もう会うことはないと思うけど頑張ってね。」

 「エレノア様、私もエレノア様と共に行きます。」

 「ダメよ。あなたはここで侍女として働くの。それに私についてきてもいいことないわよ。」

 シャロンの提案を嬉しく思ったがエレノアは、拒否する。シャロンは、断られ悲しそうな表情になる。そして、目には涙が浮かんでいた。

 「...お願いっ...します...私はっ...エレノア様に仕えるために生きてきました...それにっ...私を拾ったのはエレノア様です...」

 シャロンは泣きながらお願いする。

 「そうだったね...」


-今から14年前(聖歴504年)-


 シャロンの両親は王都で宿屋を営んでいた。しかし、物心つく前に父を亡くし、3歳の頃には母も病気で亡くなった。身寄りをなくしたシャロンは、両親の店があった場所で座り込み泣いていた。身寄りを失ったシャロンの運命は、実力をつけて冒険者をになるかスラムに住むしかなくなっていた。

 

 そんな中、王都に買い物に来ていた当時5歳だったエレノアは座り込み膝を抱え泣いている少女を見つけた。

 「何をそんなに泣いてるの?」

 周りの侍女や騎士止めようとしたが無視して話しかけた。

 「ママがっ....死んじゃったっ....ひとり...っ、ぼっちになっちゃた....うぁぁぁぁぁ...」

 少女シャロンは泣きじゃくる。

 「だったら私の侍女になりなさい!」

 「えっ?...侍女って?」

 エレノアの提案を、シャロンは理解できていなかった。

 「お待ちください、王女様。どこの誰かもわからないものを侍女などと...」

 「私が決めたの...お父様には、私からお願いする...ねぇ、あなた名前は?」

 侍女の反対を何の問題もないと言い、少女へと視線を移す。

 「シャロンです...」

 シャロンは、絵本の中でしか聞いたことがない『王女様』と呼ばれたエレノアに対して混乱していた。

 「シャロン、私の侍女にならない?侍女ってのは私のお世話をするの。でもその代わりお金も貰えるし王城に住むことができるのよ?」

 「お城?」

 シャロンは、街の中心に聳え立つ大きな王城に視線を動かす。

 「そう、お城よ。ご飯もちゃんと用意されるの。」

 「なんで...なんで私なんですか?」

 幼いながらもただの平民である自分を侍女にしたい理由を疑問に持つ。

 「同年代の友達が欲しかったの。貴族の子達もいるけど疲れるんだよね。だから、どう?」

 エレノアは、ただその立場から本当に心を許せる友達を探していたのだ。

 「よろしくお願いします。」

 「やったぁー、ありがとう。じゃあ行こっ!」

 エレノアは、シャロンの手を繋ぎ立ち上がらせて王城へと帰る。


 そこからは、侍女としての教育を受けながらエレノアと遊んだり、話し相手になったりし友達のように過ごした。しかし、いつからかシャロンは確かに仲は良いが侍女としての適度な距離感になり、呼び方も『エレノア様』から他の人達と同じ『王女様』へと変わっていった。エレノアは仕方がないと思いながらも寂しくなっていたが、シャロンは、家族以外で王女という立場関係なしに唯一心を許せる存在だった。


-現在-


 「本当に私について付いてくるの?」

 エレノアは、シャロンに覚悟を問う。エレノア自身も、シャロンのことを侍女というより友達として見ていたので離れるのは寂しかった。しかし、王城で侍女を続けた方がシャロンのためになると考えていた。


 「はい、付いていきます。」

 涙を拭きハッキリと答える。

 「分かった。これからもよろしくねシャロン。」

 「...っはい!」



 次にエレノアは、両親と兄の元へと別れを告げに行った。

 「これを持っていきなさい。あなたが生まれた際、結婚した時に渡すために作ったものよ。」

 王妃がそう言うと、王族の娘が他家に嫁ぐ際に、渡される勇者の剣を施したネックレスをエレノアの首に着ける。

 「そのネックレスはただ勇者の剣の加工が施されてるものじゃない。洗脳などの精神干渉を無効化する魔道具でもあるのよ。」

 「ありがとうございます。でも、これをつけてたら王族だってバレるので...大事にとっておきます。」

 そのネックレスを握りながらこれをつけれる日は来ないと寂しそうな表情をする。

 「その心配は不要だ。特別なアクセサリーを嫁ぐ際に贈ることは王族出身のものしか知らないことだ。精神干渉無効化のアクセサリーをつけていると知られてはいけないからな。だから、それはちゃんと着けておけ。」

 ヴァルゼウスが、エレノアに心配いらないと言う。内心では娘を心配する親心を持ちながらも王として父としての威厳を保って話す。


 「お前がいなくなると寂しくなるな。まぁ、元気で暮らせよ。たまに意見書と言う名目で手紙出せよ。」

 「はい、お兄様...スラム街の件よろしくお願いします。」

 「ああ、分かっている。俺に任せておけ。」

 「他の兄弟たちと仲良くしてくださいね。」

 当然、王には王妃以外にも側妃はいるためそこには子供もいる。王太子は、王妃の息子ルシアスだが歴史上何度か王位継承争いは起きている。エレノアは、身内では争って欲しくないためお願いする。


 夕食は、何年振りか側妃やその子供、エレノアにとっては異母兄弟達家族全員揃って食べた。ヴァルゼウス、王妃、ルシアス以外の家族は、エレノアが明日この城を出ることを知らない。


ーー


 翌日、早朝。城門前でルシアスに見送られながらエレノア、シャロンそしてギルバードは城から旅立つ。

 エレノアとシャロンは、今まで育ってきた城との別れに涙を流すが、直ぐに涙を拭き、未来へと目を向ける。


 「行ってしまいましたね。」

 母と父は、エレノアたちの乗った馬車を窓から見送っていた。

 「ああ、そうだな...」

 「心配ですか?」

 「ギルバードはエレノアが認めた男だ。それに、一ヶ月という短い期間にも関わらず奥義を習得した。心配してないさ。」

 「それもそうですね。」


 エレノアたちが旅立ち、1週間かけてルミィの町に辿り着き、用意されている家に入った。それからしばらくして王国内に第一王女エレノア・リ・アルカディアの病死という訃報が知らされた。

 そして、エレノアが生前進めてきたとされた、スラム改善の第一歩として孤児院の整備と孤児院の子供の教育機関への入学が正式に法律として整備された。


 翌年519年に、アッシュフォード・グレイブが誕生した。


これで第1章は終了です。

次回から第二章の始まりです。舞台は、王都の中等部へと移ります。今回の章間で出てきた貴族の名前とかが出てくるかもしれません。

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