閑話 ノエラとの特訓
事件から1年が経ち、アッシュは2年生となっていた。そんなアッシュは、『ウインド』の移動スピードを増加させる以外の応用方法を考えていた。
「『ウインド』を、体を浮かせるくらいの魔力を出して使ったら飛べるようになるんじゃないかと思うんだ」
アッシュは、ノエラに相談する。
「鳥みたいに空を飛ぶってこと?」
「そうだ」
「本当に飛べるの?」
「やってみないとわからないな。だからちょっと手伝って欲しいんだ」
「うん、わかった。どうやってするの?」
不安げなノエラと共に演習場へと移動する。
ーー
「俺が『ウインド』を使って飛んでみるから、ノエラには失敗した時にキャッチして欲しいんだ」
「えっ!...どうやって?」
ノエラは困惑する。
「それは『ウインド』でだよ。俺が落ちてきたらふんわり地面に着地させて。魔力コントロールの練習と思って付き合ってくれよ」
「いいけど...ケガしても知らないよ?」
「大丈夫、ノエラを信じてるから」
不安そうなノエラを安心させるように励ます。
(そんなこと言われたら断れないじゃん)
ノエラは、内心で文句を言うが好きな人から信じてると言われて満更でもない様子だった。
「じゃあ、始めるぞ。準備いいか?」
「うん、大丈夫だよ」
アッシュは、足元に『ウインド』を展開する。その風の軌道を上向きにコントロールし、体が浮けるように少しずつ威力を上げていく。
「うわぁ!」
ーバタンッ
足が少し地面から離れただけでアッシュは、バランスを維持できずに地面に倒れる。高さも全然なかったため、ただ転んだ程度の痛みしかなかった。ノエラの魔法も高さがなかったため、間に合わなかった。
「ごめん、アッシュ」
ノエラは申し訳なさそうに俯く。
「謝らなくていいよ、俺もこんなすぐ倒れるなんて想定外だったし。この調子なら今日はノエラの出番ないかもな。全然浮けないから」
「がんばろうよ、アッシュ!」
「そうだな」
あんなに不安そうだったノエラから励まされる側になるとはなとアッシュは思いながらも練習を再開する。
「痛ェ」
何度も試すがバランスを取ることが難しくバタン、バタンと倒れてしまう。まだまだ高さも全然のためノエラの魔法を発動する暇もない。アッシュが、地面に倒れるたびノエラは毎回毎回辛そうな顔をする。
「今日はもうやめようよ、傷だらけだよ」
ノエラから指摘されアッシュは自分の体を見る。服はところどころ破け、複数箇所に擦り傷や血の出た痕があった。
「それもそうだな、今日はここら辺でやめるか」
アッシュがそう言うとノエラは安心したように笑みを浮かべアッシュに治癒魔法をかける。アッシュの傷跡に光が灯り傷が消えていく。
「あれ?ノエラ、いつの間に治癒魔法も無詠唱で使えるようになったんだ?」
「えっと確か半年前くらいにできるようになったよ」
「凄いな、治癒魔法の無詠唱、難しくない?コツ教えてくれよ」
「....えっと、ボクもよくわかってないんだよね」
「そっか、わかったら教えてくれ」
「うん」
(絶対に言えない...あの一件以来アッシュのことを早く治したいとかアッシュを癒してあげたいって思ってたら無詠唱でできるようになったなんて...恥ずかしすぎて言えない。好きな人のこと考えてたら出来たなんて。それに、コツを聞いてもしアッシュが別の人のこと考えたらボク耐えられないから)
ーー
放課後、アッシュの特訓は続いていった。そして、毎回お決まりのようにノエラからのストップによって1日の練習が終わる。
数日が経ってようやくノエラの役目であるアッシュを魔法で受け止められる距離まで到達した。だいたいアッシュの腰の高さくらいだ。
「結構浮くようになってきたな」
「そうだね...でもこれ以上は危なくない?」
「危ないな...でも、ノエラが魔法使ってくれるから問題ないだろ?」
「信頼してくれるのは嬉しいけど...ボク的には危なっかしくて見てられないよ」
「じゃあ次は長く浮いてられるようになる練習するか。高さはさっきくらいしか浮かないから問題ないだろ?」
「それならいいよ」
ノエラからの許可を得たアッシュは、今現在の最高到達地点である腰の高さの位置まで浮き、空中でのバランス制御の練習をし始めた。
「っと、あ、あ、あ……っ!?」
浮いたはいいもののバランスを全然取れずに情けない声をあげて耐える。ノエラは、アッシュのことをアワアワと心配しながら見守る。
数十秒耐えた後、アッシュはバランスを崩してしまう。アッシュが地面に落ちる直前に優しい風の絨毯がアッシュを支え、そっと地面に下ろす。
「ありがとな、ノエラ」
地面から立ち上がりながらアッシュは、守ってくれたノエラに感謝を伝える。
「大丈夫だった?痛くなかった?」
ノエラは、威力を抑えて放った『ウインド』がアッシュを傷つけていないか心配しながら駆け寄る。
「バッチリだよ、次もよろしくな」
何回か練習を続けた後。
「今日はやめにしよう、もうすぐ日が暮れちゃうよ?」
「あれ?もうそんな時間か。そうだな今日はもう帰ろっか」
アッシュのその言葉を聞きノエラがホッと安心する。
(よかったぁ、このままじゃボクの心臓がもたないよ)
ーー
さらに数週間が経過した。アッシュは、腰くらいの高さなら数分間体勢をキープでき、ゆっくりとだが風をコントロールし、バランスを崩さず横移動もできるようになっていた。
「そろそろ高さ上げるか。いいだろノエラ?」
「いいよ、制御できるようになってるし」
ノエラは、渋々といった様子で許可を出す。
(なんかノエラ過保護な親みたいになってないか?)
アッシュは、そんなことを内心で思いながらも練習を始める。
「おっ!」
アッシュが、ゆっくりと高さを上げていくがバランス感覚を掴めたのか、腰の高さまで上がるのに数日かけたのが嘘のように難なく頭の高さまで上がることに成功した。
「すごい、すごいよアッシュ!」
ノエラが感動してアッシュを褒める。アッシュも嬉しくなって親指を立ててグーサインをしてドヤ顔をする。
「うわぁ」
気を抜いてしまってバランスを崩してしまう。
「キャァッ」
ノエラは慌てて悲鳴を上げながら、すぐに『ウインド』を発動しアッシュの体を受け止める。
「ふーっ、あぶねぇ」
「もう、危ないじゃなくてアウトだよ。気をつけてよね」
「ごめん、ごめん」
その後は、高さも出てきたため十分気をつけながら練習を続けた。
ーー
浮く練習を始めて二ヶ月が経過した。
アッシュは、高さ的には演習場の天井までだが自由に浮くことができるようになった。当然ながら浮く高さが上がるほど魔力の消費も莫大になるので高く浮きすぎるには『ウインド』を使うよりももっと魔力効率が良い魔法を使った方がいいように感じた。
一方、空中での移動は、精密な魔力コントロールとバランスの維持が必要なため、高さ的にはアッシュの身長の約倍の2メートルくらいが自由に動ける限界のラインだった。
「とりあえずこの特訓は終了かな...付き合ってくれて本当にありがとな」
「お疲れアッシュ、大変だったね」
「そうだな、予想以上に時間かかったな。ノエラもやってみる?」
「私は大丈夫だよ。怖そうだし」
手を振ってアッシュの提案を断る。
「せっかく付き合ってくれたんだし何かお礼したいんだけどなぁ」
「全然大丈夫だよ、それにボクの方がアッシュにお礼しなきゃいけないこと多いし」
「そうか?別にノエラにお礼してもらうようなことした覚えないけどな。じゃあ、何かして欲しいことがあったら教えてくれ」
「わかった」
「帰ろうか、ノエラも寮に帰るだろ」
「うん、帰る」
二人は演習場を後にして寮までの帰路に着く。
(アッシュは、無自覚なんだ。ボクがどれだけアッシュに助けられてきたのか....ボクはアッシュのそばに居れるだけで幸せだよ)




