第24話 後処理
ノエラ、アッシュが救出され2日後。
「はっ!ふぅー...はぁー....」
ベッドに眠っていたアッシュは、目を覚ます。まず最初に目に入ったのは見慣れない天井だった。ここはどこだ?と思いながら体を起こし周りを見渡すとすぐ隣に体を丸め、シーツに額を乗せたままスヤスヤと寝息を立てているノエラが居た。ノエラはアッシュの手を握って寝ていた。
(ノエラ....無事だったんだ...良かった...)
「起きたか。俺は王国騎士第三師団小隊長のディルク・ベルクだ。アッシュフォード君だよね。君はあの店で魔力を使いすぎで倒れていた。怪我は治せても魔力はどうしようもないからね。治療を終えたノエラちゃんが君の看病をずっとしてくれてたんだ。...話したいこともあるだろうし、落ち着いたら廊下に来てくれ。」
そう言うとディルク・ベルクと名乗った鎧を着た20代くらいの男はドアを開け、廊下に出た。
「そうか...魔力を使いすぎたのか。それにノエラがずっと看病してくれてたのか。」
アッシュは、寝ているノエラの頭へと手を伸ばし起こさないようにそっと撫でる。撫でられたノエラは嬉しそうな寝顔を見せる。それを見てアッシュも安心し笑みを浮かべる。
ノエラや自分自身が無事だったこと、こうしてまたノエラが側にいる事に安堵すると自然とアッシュの目から涙が溢れてきた。
「ん〜、アッシュ?」
ノエラが、目を覚ました。アッシュは、ノエラに心配かけないように涙を拭く。
二人が目を合わせると、ノエラの目からは涙がボロボロと落ち、アッシュに胸に飛び込み胸元に顔をうずめる。
「よかっ……うっ、ひぐっ……! 本当に、よかった……っ! 無事で……無事でいてくれて、よかったぁ…っ!」
そんなノエラをアッシュは優しく抱きしめる。
「ノエラのほうこそ無事でよかったよ...」
心配をかけないように泣かないと決めていたのにアッシュの目に再び涙が溢れる。
二人は、お互い無事なことを確かめ合うように抱きしめ合いながら泣いた。
しばらく時間が経ち、泣き疲れるとノエラが急に今の抱き合ってる状況に恥ずかしくなり顔を真っ赤にした。
ノエラは、アッシュの胸から離れ椅子にちょこんと座り直す。
「ご、ごめん....起きたばっかりなのに急に抱きついたりして」
「そんなこと気にしなくていいよ。それより、体の方は大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。治癒魔法で治してもらったから。ボクよりアッシュの方がずっと怪我酷かったんだから自分の心配してよ!」
「俺何日くらい寝てたんだ?」
「えっと...2日くらいかな。心配したんだよ...もう起きないかと思って。ボクが誘拐されたせいでそうなったらって思ったら....」
ノエラがまた泣きそうになり、そんなノエラの頭を撫でる。
「なんでノエラが謝るんだよ。別にノエラは悪くないだろ?........ちょっと騎士の人にお礼を言ってくるよ。」
ノエラを安心させるとアッシュは、ベッドから起き上がる。ドアまで歩きながら倒れる直前は満足に動かせなかった両腕がなんの違和感もなく動かせることに改めて治癒魔法の凄さに感心していた。
ドアを開き、廊下に出ると先ほどの騎士ディルク・ベルクが居た。
「助けていただきありがとうございます。」
「気にするな。民を守るのが騎士の務めだ。今は、夏季休暇中だろ?故郷に戻るなら護衛するから安心してくれ。それで聞きたいことがあるんだけど、ちょっといいかな?」
「はい、良いですよ。聞きたいことってなんですか?」
「今回の事件の内容と『宴の夜』にいた、君が戦った男について教えてくれないか?」
それから、ノエラが誘拐されたところから意識を失ったところまで覚えている範囲で詳細に伝える。
ディルクは、メモをとりながら話を聞く。
「よし、ありがとう。助かったよ。じゃ、故郷に帰るときは伝えにきてくれ。」
報告のためディルクは、その場を離れる。アッシュは、部屋の中の戻る。ノエラは、心配そうな顔でこちらを見ている。
「大丈夫だった?」
「大丈夫だ。ルミィの町に帰る時、護衛してくれるだって。」
「そうなんだ、だったら安心だね。...いつ帰る?」
「ノエラが落ち着いてからでいいよ。」
「アッシュの体調が良くなったらすぐに帰ろう。お母さん達心配してると思うから。」
「俺はもう体調良くなったから準備ができたら今日の内に街を出ようか。」
「うん、分かった。じゃあ、寮に帰って準備しよっか。」
二人で廊下に出て騎士の人に準備ができたら今日のうちにルミィの町に向けて出発したいと旨を伝えた。騎士の人はわかったと言い、寮まで一緒について来てくれた。寮までの道のりにおいてノエラはアッシュと手を繋ごうとしていた。アッシュもそれを拒否せずに手を繋いで歩いた。二人はそれぞれの寮の部屋に戻りルミィの町に帰る準備をする。準備を終えて寮の前に戻ると、数分もしない内にノエラが荷物を持って戻ってくる。
「お待たせアッシュ。」
「それじゃ行こうか。」
ノエラはそう言うと何も言わずに再び手を繋ぐ。
ルミィの町までは、ディルクの小隊が護衛をするそうだ。馬車も王国騎士が用意をしてくれた。高待遇過ぎないか?と思いながらもアッシュは、騎士たちに甘える。馬車での移動中もノエラはアッシュにずっとくっついていた。
(流石にくっつきすぎじゃないか?いくら誘拐されて不安だったからと言っても今は騎士の人たちの護衛で安全だってのに。...まぁ、悪い気はしないからいいか。ノエラみたいな可愛い子にくっつかれて。それに信頼してくれているみたいだし....俺も信頼してるしな。)
アッシュは、馬車でのガタガタとした振動やいっぱい眠っていたがまだ疲労が抜けていなかったため、道中ウトウトして、ノエラの肩に頭を置く形で眠ってしまう。眠ったアッシュを見てノエラはアッシュの頭をそっと自分の膝の上に置き、優しく頭を撫でた。アッシュの安心しきった寝顔を見てノエラも嬉しくなる。
「ふふ、可愛い....守ってくれてありがとね....大好きだよ...アッシュ。ずっとそばにいてね。」
アッシュを起こさないように小さな声でノエラが呟く。自分で言っておきながらノエラは耳を赤くし、アッシュが起きていないことを確認してホッとする。
ーー
-夕方、ルミィの町-
「...シュ...きて、ついたよ....アッシュ、起きて」
ノエラは、アッシュの体を揺さぶりながら声をかける。
「うーん、ノエラ?」
アッシュは目をこすりながら目を覚ます。頭が寝起きでぼーっとしていた。徐々に思考がクリアになっていくと今の状況理解し、ハッと飛び起きる。
「ごめんノエラ寝てた...その...ありがと。膝痛くなかった?」
「大丈夫だよ、気にしなくて。アッシュの寝顔可愛かったよ?」
ノエラは、ニマニマとしながら話す。
「揶揄うなよ...」
アッシュは恥ずかしくなり顔が赤くなる。
「帰ろっか。」
アッシュが誤魔化すようにそう言って外で待っていたディルク達護衛をしてくれた王国騎士に二人でお礼を言う。
「「ここまで送っていただきありがとうございます」」
「気にするな、仕事だからな。じゃあ元気でな。」
ディルクがそう言うと騎士たちは町を去っていく。
しばらく2人で町を歩き、まだ町にいた頃、いつも別れていた場所に着き、繋いでいた手を離す。
「じゃ、ノエラまた明日な。」
「うん、明日アッシュの家に遊びに行くね。また明日!」
手を振りノエラが家の方まで歩いていくのを見送るとアッシュも家族が待つ実家に帰る。
ガチャっとドアを開けると母であるエレノアが玄関まで駆け寄ってくる。
「おかえり...アッシュ。事情は騎士の人たちから聞いたよ。よく頑張ったね...」
エレノアが涙交じりの声でアッシュを抱きしめる。
「おかえりアッシュ。ノエラちゃんを守ったそうじゃないか。良くやった。」
父ギルバードが、頭をポンポンと労うように優しく叩く。
「お帰りなさい、アッシュ様。」
メイドのシャロンが声をかける。
「だれ?」
シャロンの影から2歳になった妹のフィオナが様子を窺っている。
「ただいま、シャロン。久しぶりだね。半年も会わないうちに大きくなった。」
アッシュは妹との再会と少し大きくなった姿を見て、エレノアの抱擁から離れてフィオナの元に近づく。フィオナはそんなアッシュを怖がって母であるエレノアの元に駆け寄る。
「おい....う、嘘...だろ...」
アッシュは、がっくりと項垂れる。
駆け寄ってきたフィオナをエレノアは優しく撫でながらお兄ちゃんだよと教える。
フィオナは、恐る恐る項垂れるアッシュの元に近づく。
「おにい、ちゃん?」
フィオナは、首を傾げて疑問を含んだ声で聞く。アッシュは、フィオナからお兄ちゃんと呼ばれて顔を上げてフィオナの方を見る。すると、フィオナが両手を広げる。
「抱っこ、して?」
アッシュは、満面の笑みでフィオナを抱っこする。
「そうだぞ、俺がお兄ちゃんだぞ!」
それから、入学してから半年間の学校生活などグランツでの暮らしなど色々な話した。
「アッシュ、お前にこれを渡しておく。」
ギルバードが真剣な表情で短剣を差し出してくる。
「これはなんですか?父さん。」
「本当は初等学校を卒業してから渡そうと思っていたんだがあんな事があったからな....護身用だ。これで自分や大切な人を守ってやれ。」
「はい、分かりました。」
「早速、明日から剣術の特訓始めるから今日はしっかり休めよ。」
ーー
-同日、グランツ初等学校職員室-
「本日、アッシュフォードが目覚め、故郷であるルミィの町へとノエラと共に王国騎士が護衛となり出発いたしました。」
エリスが淡々と報告をする。
「ありがとうございます。それでは、本日はルーカス・フォン・マイヤーの処遇について話します。」
進行を務める教師が本日の議題について説明する。
「これまた難しい話ですね...マイヤー家は腐っても男爵家だ。簡単には処罰できんよ。」
初老の教師であるマルクが話す。
「そのことは心配いりません。本日王都からマイヤー男爵家の爵位剥奪が決定したと連絡がありました。」
モールス校長がそう告げると職員室内がざわめき出す。
「まさか...爵位剥奪までの処遇をするとは。」
「意外だな...」
「ここまで大きな事件となったのか....」
「落ち着け、国も名ばかりの貴族は廃止したがっていたからいい口実となったのだろう。...しかし、これで処遇に対して遠慮する必要がなくなった。それに現在ルーカスは王国騎士に身柄拘束されている身だろ?」
マルクが、ざわめきを抑え冷静に分析した。
「はい、現在ルーカスは誘拐の罪で身柄拘束中です。おそらく貴族で無くなったのなら刑罰が執行されるでしょう。」
エリスがマルクの質問に答える。
「だったら学校側の処罰としては退学以外あり得ないということでよろしいですか?」
マルクの意見に誰からも異議は出なかった。
「では、ルーカス・フォン・マイヤーは退学処分で決定します....エリス先生は今回の被害者であるノエラ・フォレスト並びにアッシュフォード・グレイブの担任です。休暇明けにはトラウマ等がないか気を配ってください。....以上、今日の職員会議は終わります。」
進行役の教師が終了を告げ、解散した。
-校長室-
職員会議終了後、校長室に一年生担任教師のエリスとダンが呼ばれた。モールスと二人の教師は校長室内のソファに向かい合う形で座っていた。
「予想外のトラブルがありましたがクラス対抗戦お疲れ様でした。早速、今年の一年生の様子について教えてください。」
モールスの質問に対してまずエリスが口を開く。
「やはり今年の一年生で突出しているのはノエラとアッシュフォードです。二人は中級魔法を使えるのも有りますがチーム戦においてチームを指揮するなど大きな役割を果たしていました。アッシュフォードに関しては剣術の腕前も一番でしょう。」
次にダンが答える。
「私もエリス先生と概ね同じ意見です。二人は7歳児にしては異常としか言いようがありません。確実に中等部では、王都もしかしたらエルシオンまで行けるかもしれません。」
「今回の事件でも、アッシュフォードは犯人に対して応戦して大怪我を負い、魔力も魔力欠乏症寸前まで使ったと報告がありましたが、それ程とはなかなかですね。....分かりました引き続き生徒たちの指導をよろしくお願いします。」
モーリスがそう言いまとめる。
「あの一つ気になることがあるのですが....ノエラ、アッシュフォード、ミア、ルークの四人が無詠唱で魔法を使っている気がするんですのですが。一応、魔法を使っている時、周りに聞こえない程度の声でブツブツと言ってそうなんですが同じ魔法を使う時でもその間隔がバラバラなんですよね。」
エリスが確信が持てないため遠慮がちに言う。
「無詠唱ですか....珍しいですね。理論上は出来ても本当に実現した人はとても少ないですからね。それに隠そうとしているんですか。果たして誰が教えたんですかね。突出した才能があるノエラ、もしくはアッシュフォードですか。まあ、さほど問題ないでしょう。本人たちが隠そうとしているならそっとしておいて上げなさい。話は以上です。お疲れ様でした。」
モーリスがそう言うとエリスとダンは席を立ち、お辞儀をして校長室を後にする。部屋に一人となったモーリスは、移動していつも座っている椅子へと座る。
(はぁ、報告ごとが増えたなぁ。校長も案外楽じゃないか。でも、アッシュフォードが無事だったことを喜ぶべきか。本人の実力も高い。中等部で王都の学校に行くことになれば、国王も安心するだろう...)
ーー
それから何事もなく夏季休暇を実家で過ごしていた。ほぼ毎日のようにノエラが遊びにきて、アッシュがギルバードに剣術の特訓をつけてもらう様子を見ていたり、フィオナと遊んだりしていた。後半あたりからは約束通り、ルークとミアも遊びに来た。ルークとアッシュは一緒にギルバードに剣術の特訓してもらった。ルークは飲み込みが早く、短期間で全流派の初級の腕前に到達した。
ーー
平穏な日々が過ぎていき、9歳となり、そろそろ卒業前のどの中等部に進むか判別する最終試験を迎える。
筆記試験と実技試験両方を総合的に評価される。優秀な生徒は、貴族が通う王都の学校へさらに優秀なら学術都市エルシオンにある学校に通えるそうだ。
この2年間でアッシュは、各属性1種類ずつ中級魔法を覚え、1日3回は打てるほど魔力も増えた。剣術の腕前も全流派、中級の腕前まで上がった。また、学校の図書館で世界の歴史や様々な種族についての知識も増やし、獣人が使う言葉が少し話せる程度までなっていた。
アッシュは今回の最終試験で手を抜くことを決めていた。理由は2つ。
一つ目は、冒険者について学べるのがエルシオンの場合は高等部から、王都の場合は中等部から学べるため。エリス先生が三年間担任で、面談の際に、今の調子で行けばエルシオンに行けると言われたから手を抜くことにした。
二つ目は、ノエラと離れるためだ。あの事件以降ノエラはずっとアッシュに引っ付いておりノエラの今後のためにも距離を置いたほうがいいと思ったからだ。アッシュがエルシオンに行けるならノエラもエルシオンに行けるはずだと確信していた。
一つ目の理由よりも二つ目の理由の方が比重は大きい。
そして試験当日、ノエラとは別グループになったため実技などで手を抜くことがバレることがなくなった。結果が悪すぎるとグランツの中等部になるかもしれないので慎重に手を抜いた。面談の際に、エリス先生にどのくらいの基準で判別されるか大まかに聞いていたおかげで加減がしやすかった。
ーー
卒業式、ここで王都に行く生徒とエルシオンに行く生徒は発表される。モーリス校長がステージに立ち話し始める。
「諸君、三年間よく頑張った。...早速、最終試験で優秀な成績を収め、王都、そしてエルシオンに進学する生徒を発表する。まず、王都に進学する生徒は1名いる。アッシュフォード・グレイブだ。おめでとう、これからも頑張りたまえ。...次に、学術都市エルシオンに進学する生徒も一人いる。ノエラ・フォレスト。我が校始まって以来の快挙だ。おめでとう。」
講堂が騒めき出す。王都に行ける生徒がいるだけでも珍しいのにそのさらに上を行く生徒が現れたためである。
「静まれ。他の生徒諸君も学年が上がる際に、認められれば王都の学校に行くことができる。ここで諦めずに中等部でも励みたまえ、以上。」
モーリスが宣言すると騒めきと共に拍手が起きる。
それから俺とノエラは、他の生徒から囲まれて賞賛された。しかし、ノエラだけは怪訝な顔でこちらを睨んでいた。
「アッシュ、おめでとう。羨ましいなぁ、王都に行けて。俺も行きたかったのに...ま、すぐに追いつくから待ってろよ。」
「楽しみにしてるぞ、ルーク。」
ルークと握手を交わす。
「私もすぐに追いつくから待っててねアッシュ。」
「もちろんだ、ミア。」
ミアとの握手を交わす。
「アッシュ、ちょっと来て。」
ノエラが俯きながらもはっきりとした口調でアッシュに話しかける。
やっぱり来たかと思いながら黙ってノエラの後ろをついていき、誰もいない裏庭へと移動する。
「おめでとう、ノエラ。すごいじゃないかエルシオンに行けるなんて。」
「どうして...?」
アッシュの称賛の言葉を遮り、震える声で呟いた。
「どうして....っ!どうしてアッシュが一緒じゃないの!」
「どうしてって俺の実力が足りなかったからだろ?」
「嘘つかないで!」
ノエラは顔を上げ、その目には大粒の涙が溜まっていた。
「ボクなんかよりアッシュの方が実力上でしょ!ボクが行けてアッシュが行けない訳ないじゃん!....僕と一緒が嫌だったの?ねぇ?どうして?ずっと一緒にいるって約束したじゃん!」
ノエラは、アッシュに詰め寄りアッシュの胸を叩きながら抗議する。アッシュは、初等学校に入学する前、まだルミィの町にいる時にした約束を思い出す。
「ごめん、約束守れなくて...」
「ふざけないでよ……ッ! アッシュのバカ! もう知らない、アッシュなんて……大っ嫌い……っ!!」
ノエラの怒りと悲しみが混じった叫び声を残して、そのまま踵を返して走ってその場を去った。その背中を見ながら拳をぎゅっと握りしめた。
(本当にこれで良かったのか?いや...俺の決めたことだ。後悔はしない。これからは別々の道を行くんだ。それに、高等部では、エルシオンに行けるように頑張るからその時また会えるさ)
ノエラが去った方に背を向け、その場を立ち去る。
ーー
-校長室-
アッシュは、中等部の入学式まで期間が約一ヶ月空くので故郷に帰ることにした。故郷に帰る前にモーリス校長から呼び出され、校長室のソファに校長と向かい合う形で座る。
「悪いね。帰る直前に呼び出して。」
「いえ、構いませんよ。校長先生とは一回話してみたかったので。一年の時の事件の際に、王国騎士に救助を要請してくれたと伺いました。お礼が遅くなってしまいました、その節はありがとうございました。」
「礼は要りませんよ。生徒のために働くのが教師の仕事ですから。今日呼び出したのは一つ確認したいことがあったからです。アッシュフォードくん.....最終試験、手を抜きましたね。」
モーリスは、確信めいたようにアッシュに質問する。
「そんなことありませんよ。あれが俺の全力です。」
アッシュは誤魔化す。
「嘘をつかなくて良い。誰にも言いませんから。」
アッシュは、誤魔化すのは無理だと判断し、正直に話すことを決める。
「はい、そうです。手を抜きました。理由は、王都の学校の場合、中等部から冒険者について学べるからです。」
「ほぉ、将来は冒険者になりたいのですか?」
「いえ、ただ興味があっただけです。父が冒険者だったので。将来どうしたいかはまだ決めていません。」
「エルシオンに行けば、王都よりもより高い教育を受けられるのに?」
「そちらも興味はありますので、高等部で行けるように頑張ろうかなと思っています。」
「中等部で入るより高等部で入る方がよっぽど難易度が高いですよ?」
「覚悟のうちです。」
アッシュは、モーリスの目をまっすぐと見る。
「そうか。頑張ってください、アッシュフォードくん。」
「はい、ありがとうございます。それでは、失礼します。」
アッシュがそう言ってソファを立ち、校長室から出ようとする。
「最後に一つ、老婆心と思って聞き逃してもいいがアドバイスをしておきましょう。ノエラ・フォレストとはいずれキチンと話したほうがいいですよ。誤解されたままでは嫌でしょ?...ちなみに、ノエラ・フォレストは昨日のうちにエルシオンに向けて発ちましたから、再会できるのは君がエルシオンの高等部で入学できたらになると思いますが。」
この人知ってたのかよと思うながら苦笑いを浮かべる。
「そのつもりです。」
「そうかそれなら良かった。どんなに姿が変わったとしても、君達には繋がりがあるから気づけるだろう。」
最後のモーリスの言葉の意図をアッシュは理解できなかったが、お辞儀をして校長室を出る。
モールスが言ってた通りノエラは、エルシオンに出発しており、喧嘩別れのまま会うことは無かった。その後、故郷に帰り中等部の入学式がある一ヶ月間は、実家で暮らすことにした。




