第23話 ノエラ誘拐事件
クラス対抗戦の翌日。いよいよ明日から夏季休暇に入るため、今日は午前中で授業は終わった。
放課後、昼食をミアの実家である『パン工房ベイカー』でとりながら、夏季休暇の予定を話し合う。
「ノエラ、夏季休暇の間ルミィの町に帰るだろ?」
「うん。一緒に帰ろう?」
「ああ、もちろん良いぞ。...ルーク、前話してた俺の父さんに剣術教えてもらうって話、確認したら良いって言ってたから夏季休暇の間いつでも家にきて良いぞ。」
「マジ?ありがとな。俺も故郷に帰ってしばらくしたら行かせてもらうわ」
「ミアもルミィの町に来ない?」
ノエラがミアに提案する。
「行きたい!」
ミアが身を乗り出して答えた。
「じゃあ、俺ルミィの町に行く前に一回グランツによるから、その時一緒にルミィの町に行こうぜ?」
ルークが提案する。
「いいね!そうしよう。」
その後も3人と色々な話をして、そろそろ明日のために、故郷に帰る準備をしないといけないので、ミアとルークと解散し、寮への帰り道をノエラと共に歩く。
「明日久しぶりにルミィの町に帰るの楽しみだね。」
「そうだな。」
「フィオナちゃんに早く会いたいなぁ。」
「俺も早く会いたいよ。」
「アッシュはフィオナちゃんにデレデレだったからね。」
「妹なんだから当然だろ。...まぁ半年しか経ってないからそんなに成長してないと思うけど。」
「そんなこと言ってて良いの?アッシュのこと忘れてるかもしれないよ?」
「えっ!?もしそうなら俺絶対に立ち直れないよ。」
「冗談だよ。その時はボクが慰めてあげるよ。」
ノエラがニマニマとしながら話している。
ーー
-路地裏-
「女、青髪、グランツ初等学校の制服。あれがノエラ・フォレストか...顔はいいな。奴隷商に高く売れそうだ。あのガキ騙して臨時収入にするか。」
-昨夜、ルーカスが去った後の『宴の夜』-
店の中では、ダグとその同僚たちが酒を飲み騒いでいた。
「あのガキ、父親からこの店のこと聞いたって言ってたが過去の依頼者か王国貴族のリストにマイヤーって男爵家あるか?」
「ちょっと待ってろ、調べてくる。」
ダグに聞かれた男は店の裏に行き、しばらくすると本を持って戻ってきた。
「ほらあったぞ。」
「ありがとな、デロス。」
本の中身には、マイヤー男爵家の情報、過去の依頼内容について書かれている。
「貴族なのは間違いないようだな。でも名ばかりだな。まぁ貴族なのに地方の初等学校通ってる時点で察しがついてたがな。」
「で?そのガキの父親どんなこと依頼してるんだ?」
「殺しだな。惚れた女の両親の殺しを依頼したらしいな。なんでも、その両親殺して借金負わせた上で助ける代わりに結婚させたんだとよ。で、その中で生まれた子供が今回の依頼者であるルーカスってガキらしい。ちなみに女は、ルーカスを出産した時に死んだらしい。」
「親子揃ってロクでもねぇな。」
「ククククク...今更だろ。貴族の中では割と普通だろ?」
「それもそうだったな。しばらく地方でぬるま湯に浸かってるせいで忘れてたぜ。」
「貴族ってのはぶっ飛んでなきゃ俺たちの収入がなくなるだろ?」
「それもそうだな。」
-現在、路地裏-
「最近の7歳児は男女で帰るのかよ。マセてんなぁ。」
ダグは、ノエラを誘拐するためのプランを考えながら一緒に帰っているノエラとアッシュを観察していた。
「ククク...いいこと思いついたぜ。もう片方の男のガキは別に依頼対象じゃないし女を攫う場所を教えて勇者になれるか試してみるか。ただ誘拐するだけじゃつまんねぇしな。」
ダグは、卑しい笑みを浮かべる。
「さて、ちょうどあの二人以外誰もいないし仕事でもしますか。」
ダグは、フードを被り路地へ出る。
ーー
「明日、寮の前に8時に集合でいいか?」
アッシュが明日故郷に帰るための計画を話し合っている。
「いいよ。ここを8時に出るとしてルミィの町までどのくらいで着くんだっけ?」
「うーん、多分ゆうーーがぁ、はぁ..!?」
ーバタンッ
アッシュは前から歩いてきたフードを被った男に腹を殴られ倒れる。
「えっ!?アッシュ大丈夫。」
ノエラは倒れたアッシュの元に駆け寄り、アッシュの体を揺さぶりながらフードの男を睨みつけようとしたがそこに男はいなかった。
トンッと男、ダグはノエラの首を叩き意識を奪う。
意識を失ったノエラにダグは手際良く口の中へ強引に布を押し込み、後頭部で固く縛り上げた。そして頭に袋を被せ、両手両足を縛り肩に抱える。
ダグは、人が来る前に立ち去ろうとする。立ち去り際にダグは意識を失ったアッシュの近くに『-『宴の夜』への招待状-』と書かれた紙切れをアッシュのポケットに入れた。
ーー
ダグが、ノエラを誘拐してしばらく経った後。
「おい、大丈夫か少年。この制服は初等学校のものだ。誰か学校に行って連絡してきてくれないか。」
倒れているアッシュを見つけた男がアッシュの体を揺さぶりながら声をかける。
「...い、大丈...聞こ..るか。」
アッシュの意識が少しずつ覚醒していく。
(何が起きたんだ。ぐっ...。腹が痛え。殴られたのか?)
「大丈夫か、しっかりしろ!」
「はっ!はぁはぁ...」
「よかった、目を覚ましたか。道に倒れていたから心配したよ。その制服グランツ初等学校だろ?今先生呼んできてもらってるから安心して。」
心配してくれてる男の話を聞きながらアッシュは周囲を見渡す。
(あれ?ノエラがいないぞ。どこ行った?)
アッシュはポケットへ違和感を感じ、ポケットに手を入れ中身を探ると紙切れが入っていた。
(『-『宴に夜』への招待状-』?なんだ夜の宴って。...まさかノエラは誘拐されたのか?)
「すみません、『宴の夜』って知ってますか?」
アッシュは、焦りを隠せずに心配してくれている男に聞く。
「『宴の夜』?ああ、確か街の北側にある酒場だな。あそこは...」
「くっ!」
アッシュは場所を聞いた途端足元に『ウインド』を使い全力で街の北側に向けて走り出す。
(なぜだ。なぜノエラが誘拐された?ルーカスか?油断した。自分からノエラに気をつけろって言っておきながら。....無事でいてくれ。)
ーー
アッシュが目覚める前、ノエラを誘拐したダグは、『宴の夜』にいた。ノエラは床に寝かせられてた。
「ルーカス様、ノエラ・フォレストはこいつで間違い無いですか?」
そう言いながらノエラの頭に被せていた袋を外した。
「ああ、間違いない。よくやった。」
ルーカスがノエラの元に近づくと、頬をパチンッと叩く。
「さっさと起きろ、ノエラ・フォレスト。」
パチンッパチンッと数回叩いていると、ノエラが目を覚ます。
「ん、んーーーっ、んーーっ!」
ノエラは状況が理解できずに涙を流しているが、口に噛ませてある布のせいで満足に声を出すことができない。
「やっと起きたか。よくも俺をコケにしてくれたな?ノエラ・フォレスト。平民の分際で貴族様に逆らった罰を受けてもらわないとな。へへっ、テメェは俺が痛ぶった後に奴隷商に売るから楽しみにしとけよ。」
「んっ……ぐすっ、ん……ーッ!」
ノエラは、恐怖し、目からは涙が溢れ、すすり声を上げる。
「いいねぇ。もっと泣けよ。」
(怖いよ..誰か助けて...なんでこんなことに...魔法使えるかな.........あれ?なんで使えないの?どうして...口塞がれても使えるはずなのに...怖いよ..アッシュ。助けて...アッシュは無事なの...)
この時ノエラは、魔法発動に必要な『想像力』と『感覚』が、これまで経験したことのない恐怖心によって思考が塗りつぶされていた。さらに、今まで自分の心の支えであったアッシュが無事かどうかの不安、そして、アッシュに教えてもらった無詠唱が使えなくなり、さらに恐怖心が強くなり、ノエラは涙の量が増えていた。
恐怖から涙したノエラを見て、ルーカスの嗜虐心がそそられ、行動がエスカレートする。
ーボスッ!
「んっ!んんーーっ!」
ノエラはお腹を蹴られた衝撃で苦痛の声を上げる。
「ルーカス様、あんまり壊さないでくださいね。奴隷商に売る時安くなるんでな。」
ダグがルーカスを制止する。
「わかってるよダグ。一発だけで十分だ。惨めな姿が見れて満足だぜ。そろそろ売りに行っていいぜ。」
「了解ですルーカス様。奴隷商は夜からしか開かないのでもう少し待っときます。」
そう言うとダグはノエラの目元に布を被せ視界を奪った。布はすぐに涙で濡れた。
(勇者は間に合うか?それとも逃げたか?早く来いよ、つまんねぇから。...この女、いくらで売れるかな。7歳で顔も良い女。特殊性癖の男が買うだろ。大体金貨5枚くらいだろうな。どうせこいつはモノの価値知らねぇから金貨一枚って言って渡しとけばいいだろ。)
ーー
生徒が倒れていると連絡があったエリスが最初に生徒を発見したという男に話を聞く。
「連絡ありがとうございます。それで、倒れていた生徒というのは?」
「それが起きたあとしばらくしたら『宴の夜』って知っていますか?って聞かれたから街の北にある酒場って伝えたんだ。学校に伝えたから待っていてって言ったのに場所を聞いた途端走っていってね。」
男は困った表情であったことを話す。
「その生徒の特徴は?」
「確か、灰色の髪だった気がするな。」
「分かりました。連絡ありがとうございました。」
エリスは男にお辞儀をして礼を言う。
(灰色の髪、生徒の中で当てはまる人物はアッシュフォードただ一人だ。...『宴の夜』、確かあそこはあまりいい噂を聞かない店だったよな。なぜ、アッシュフォードがそこの店の名前を聞いた?)
エリスは、男からの話を整理して一緒に来ていた教師に指示を出した。
「モールス校長にさっきの話の内容を伝えて来てください。おそらく生徒名はアッシュフォード・グレイブだと思われることもお願いします。私は、引き続き情報を集めます。」
「わかりましたエリス先生。」
エリスから指示を受けた教師は、急いで校長に伝えるべく学校へと戻った。
-校長室-
-コンコン
「モールス校長はいらっしゃいますか。先ほど街の方から生徒が倒れていると連絡があった件についてご報告があります。」
「入れ。」
モールスから許可を得た教師は扉を開け、校長室へと入る。
「それで、生徒は無事だったのか?」
「はい、それが...倒れていた生徒は発見した方に『宴の夜』という酒場の場所を聞いたら走ってその場を去ったと伺いました。」
「そうですか。誰なのかはわかりましたか?」
(『宴の夜』か。また厄介な名前が出てきたな。なぜ生徒からその名前が出てくるんだ?)
「エリス先生曰くアッシュフォード・グレイブだろうと言ってありました。」
「アッシュフォードですか...現在グランツには王国騎士が滞在しています。私が依頼しに行きましょう。手が空いている他の先生方にも捜索の手伝いをしてもらってください。」
モールスは席を立ち指示を出す。
「了解しました、モールス校長。失礼します。」
教師は校長室を後にする。
どかっとモールスは椅子に座る。
(厄介なことになったな。よりにもよってアッシュフォードとは...それに『宴の夜』か...狙いはなんだ。まぁ王国騎士が滞在していたのが救いか。)
モールスも校長室を後にして王国騎士が滞在している駐屯地へと向かう。
ーー
アッシュは街の北側の酒場が多い場所へと全力で向かっていた。
(考えなしに走っているが敵がいたらどうする?武器になるものがないぞ。調達する時間もないし...魔法だけで勝てるのか?頼みの『風空槍』も今の魔力じゃ一発しか打てないぞ。一人で勝てるのか...ノエラが魔法を打てる状態だったらワンチャンあるか?...とりあえず行くしかないか。)
考えながら移動していると酒場エリアに着いた。店名を見逃さないため『ウインド』を使用した移動をやめ、早歩きになる。
まだ夕方前ということもあり、夜には人が多くなる酒場エリアは、閑散としていた。
「はぁ、はぁ...どこだ?」
移動してどんどん奥に進んでいくと『宴の夜』と書かれた看板を見つけた。
ーバンッ
アッシュはドアを思いっきり開けると中には、店主と思わしき男がカウンターでジョッキを拭いていた。
「お客さんですか?まだ開店前ですが?」
アッシュは店主の質問にポケットに入っていた紙切れを見せる。
「ノエラはどこだ。」
いつでも魔法を発動できるように準備をしながら声のトーンを落とし、冷静に質問する。
「そっちのお客さんですか...お目当てはそこの扉の先ですよ。」
店主は何事もないように変わらぬ口調で店の中にある扉を目で指し、場所を教える。
(なんなんだここは...)
アッシュは疑問を感じながらも警戒しながら扉の方へ移動し、慎重に開ける。
キィーと音を立てて開いた扉の先には、両手両足を拘束され口と目には布を被せられたノエラと椅子に座っているルーカスと小汚い格好をした、アッシュの髪色よりもくすんだ灰色の髪を後ろで結んでいる男がいた。
(ノエラは気を失っているのか?生きてはいそうだ。お腹を蹴られた後があるし頬も赤くなって叩かれたのか?)
アッシュは、相手の出方を見ながら周りを見渡す。
(ルーカス、テメェが犯人か。絶対に許さないからな。あと一人、フードがついている服ってことはあいつが攫った犯人だな。ルーカスだけなら良かったがもう一人は戦力が未知数だ。)
「アッシュフォード、なぜお前がここにいる。...いや都合いいか。お前も俺様をコケにした一人だ。テメェもそこの女みたいにグハァ!」
-ズサァァァ...バンッ
アッシュはルーカスがセリフを言い終わる前に、足元に『ウインド』をそして『風神流』のステップを使いルーカスに対し『闘神流』の闘気を乗せた全力の拳で殴り飛ばす。
殴られたルーカスは、地面に体を引きずられながら壁に打ち付けられて気を失った。
ダグは、ルーカスの元に行き頬をペチペチと叩く。
「ルーカス様〜、大丈夫ですか〜。」
アッシュはその様子を見ながら未知数の敵に対して警戒しながら拘束されているノエラのもとに少しずつ近づいていく。
「おっと、そこで止まれ。アッシュフォードだっけ?多分お前が助けるよりも先にその女を俺は殺せるぜ。」
ダグは、背を向けているはずなのにアッシュの動きに対し警告を出す。
その言葉を聞き、アッシュは立ち止まり慎重に話し始める。
「ノエラを誘拐する指示出したのルーカスだろ?もうルーカスは倒れたんだしノエラを解放してくれてもいいだろ?」
ダグは、クックックッと笑いながら立ち上がりアッシュの方を向く。
「それだとつまらないだろ?それに、金も貰ってるしな。...俺からお姫様を救ってみせろよ勇者様よぉ!」
ダグはアッシュを挑発する。しかしアッシュは敵の実力が未知数のため動くことができなかった。
(実力がわからない以上下手に動けない。それに金を貰ってるって言うことは依頼されたってことだから素人じゃないだろう...どうする...ノエラの状態もわからないし早くしないと手遅れになるかもしれない。無詠唱で不意をつけるか?...クソォ剣さえあれば多少動きやすいのに)
アッシュは部屋の中を見渡しながら武器になりそうなものを探す。それっぽいのも無かったため魔法で戦うことにした。
アッシュは、『ウインドカッター』を放つ。
「[炎の盾よ、守れ]」
ダグがそう唱えると『フレイムガード』が発動し、風の刃からダグを守った。
(なるほど。長い詠唱は戦闘では不利と思っていたが短縮できるのか。それもそうか、『想像』さえ出来ればなんでもいいからな。)
アッシュは、考え事をしながら土属性の『アースクラフト』を使い土の塊を剣状に変形させ、ダグに向かって突撃する。
ダグは、腰に下げていた剣を使って攻撃を受け流すだけで反撃してこない。
ーガンッガンッ...パラパラッ!
土の塊で作った剣は強度こそそこそこにあるが金属の剣との打ち合い、そしてアッシュが闘気を使い全力で剣を振るうため徐々にボロボロになっていく。
アッシュは、剣を振るう中で新しい土の剣を作り、剣を持ち替える。
「無詠唱で魔法なんて本物初めて見たぜ。理論上は出来ても無詠唱を使えるやつは少ないらしいからな。...まぁ、せいぜい楽しませてくれよ。」
そう言うと今まで受け流すことしかしてこなかったダグが反撃をしてくる。
-バコンッ!
アッシュは完全には受け流せずに衝撃により土の剣は一発で壊れ、その場に踏ん張り切れず、ズルズルと後ずさる。
続け様にダグは攻撃を仕掛けてくるためアッシュは、『アースシールド』を五重に重ね、その場を切り抜ける。
ーバァコォォォン!
なんとか三枚目までで攻撃を防ぐことができた。
「ククク...いいねぇ。7歳でここまでやるなんて恐ろしいなぁ。」
ダグは残り二枚の『アースシールド』も破壊する。
ースッ....ドスッ!
土の破片が飛び散る中アッシュは土の剣でダグを突き刺す。
「そんななまくらじゃぁ俺は倒せないぞ。」
アッシュを蹴り飛ばし、距離を離し、突き刺さった土の剣を素手で粉々に破壊する。刺した後からは血がポタポタと垂れているが大したダメージになっていなかった。
「簡単に死ぬなよ、アッシュフォードくんよぉ。[灼熱よ、穿て]」
ダグがそう唱えると『ヒートブレイズ』が発動し、複数の炎の光線がアッシュを襲う。
アッシュは、『アクアシールド』を使い攻撃を止める。最初は、一個の水の盾で防げるとアッシュは思っていたが一本の炎の光線を止めるとお互いの魔法が相殺され水の盾は霧散する。
「くっ...!」
続け様に襲ってくる炎の光線を一本に対して一つの水の盾で相殺していく。
ダグは、余裕の笑みを浮かべながらアッシュに対して撃っていた炎の光線の一本をノエラに対して撃つ。
アッシュは、自分を守る以外にもノエラを守ることに集中力を持っていかれた。自分そしてノエラへの攻撃を防いでいくなかで隙が生まれる。その隙をダグの攻撃がアッシュの防御を破る。
「ッ……――く、あぁぁぁッ」
アッシュの右腕に『ヒートブレイズ』が直撃し、当たった箇所の服が破れ、肌を焼くような痛みが襲う。
アッシュに攻撃が当たるとダグは満足したようにそれまで何発もアッシュとノエラに向けられた炎の光線を止め、痛みに悶えているアッシュの元に歩いていく。
アッシュは、魔法を発動しようとするが痛みのあまり集中力が途切れる。ダグはそんなアッシュの目の前まで行くとアッシュの左腕を蹴る。ボキッっと骨が折れる音を響かせる。
「ッ!...アァァァァァァァァ」
アッシュは、両腕を自由に動かすことができなくなる。ダグはそんなアッシュをいたぶるように腹に蹴りを入れ壁まで飛ばす。
ードンッ
「グッ..カハァ...」
アッシュの口からは血が出てくる。
「そろそろ終わりにしてやるよ。7歳児にしてはなかなか楽しめたぜ。」
そう言いながら壁際までダグが歩いてくる。その時、バンッと表の店と繋がっているドアが開き、店主が入ってくる。
「おい、ズラかるぞ。騎士が来た。そのガキ殺すならさっさと殺せ。」
「チッ、いいとこだったのに。アッシュフォードくん、せっかくだから殺さずに生かしといてあげるよ。ククク...次はもっと楽しませてくれよ。」
そう言い放つと二人は壁際まで歩いて行き、壁を押すと隠し通路が出て来た。
ーヒュンッ....バシュッ!
二人がそのまま通路に入ろうとしたその瞬間アッシュは、『風空槍』をダグに向けて放つ。コントロールは乱れていたが、威力や速度は通常とあまり変わらなかった。油断していたダグの右腕を切り飛ばす。
「...クククククク。しぶといガキだ。」
右腕から血を流しながら、切り飛ばされた腕を持ち、ダグはアッシュを一瞥もしないまま通路へと消えていく。隠し通路の扉は閉まり、普通の壁になる。
ーバタンッ
アッシュは、床に倒れる。ただでさえ魔法をいっぱい使っており魔力が減っていた上に、中級魔法を使ったことでアッシュの魔力は『魔力欠乏症』一歩手前まで減っていた。今すぐにでも気絶しそうな体をかろうじて動く火傷を負った右腕と両足で地面を這いながら、今いる位置から反対側の壁際にいるノエラに少しずつ近づいていく。
「ハァ.....ハァ.....ノエ、ラ...」
ノエラに近づきノエラに触れようと手を伸ばすが、あと少し届かない場所で意識を失う。
ーー
アッシュが気を失って1分も経たない内にモールス校長が依頼した王国騎士がドアを乱暴に開け突入してくる。
その中で指揮官っぽい男が、他の騎士に指示する。
「そこに倒れている二人の生徒を保護しろ。それと治癒魔法使えるやつは魔法をかけろ。」
ノエラとアッシュを指差し指示を出す。次にルーカスを指差し「そいつは拘束しておけ」と指示を出す。
「他の騎士は、怪しい奴がいないか周辺を捜索しろ!」
騎士たちは指示に従い行動を開始する。
ノエラは拘束から解放され、アッシュと共に抱えられて治癒魔法を使える人の元に運ばれる。ルーカスは、手足を拘束される。
ーー
-隠し通路内-
「ちぃ〜、痛ぇなー。これ治癒魔法で治るのか?...デロス、早く治してくれよ。」
「分かったよ。とれた右腕貸してみろ。」
デロスは右腕を受け取ると切断面をくっ付ける。
「[優しき光よ、巡る命の傷を癒やせ。痛みを払い、再び立ち上がる力を]」
そうデロスが唱えると切断面に光が灯り、デロスが腕から手を離すと腕がくっついていた。
「サンキュー、アッシュフォードだっけ?将来が楽しみだな、ククク...」
「7歳であの強さだろ?お前絶対殺されるな、あのガキに。」
二人は話しながら歩き、暗闇の中に消えていく。




