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婚約破棄された悪役令嬢ですが、国が回らなくなったので第二王子に引き取られました  作者: リリア・ノワール


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第5話 正しい判断

 第一王子エドワード・ヴァンデルは、自分が「間違った選択」をしたことがないと信じていた。


 少なくとも、これまでは。


 王族として生まれ、正しい教育を受け、周囲から期待されて育った。

 剣も魔法も、平均以上には扱える。

 政務だって、臣下たちが言うほど悪くはないはずだ。


 ――少なくとも、国は回っている。


「最近は、随分と落ち着いてきたな」


 執務室で書類に目を通しながら、エドワードはそう口にした。


 以前は、些細なトラブルが頻発していた。

 地方からの苦情、現場の混乱、判断の遅れ。


 だが今は違う。

 提出される書類は整っており、数字も安定している。


「やはり、余計な口出しが減ったのがいいのだろう」


 そう結論づける。


 思い浮かぶのは、一人の女性の姿だった。


 レティシア・フォン・アルヴァレス。

 名目上は、まだ自分の婚約者。


 彼女は優秀だ。

 それは認めている。


 だが――扱いづらい。


 何を考えているのかわからない無表情。

 こちらが決めたことに対して、感情を見せずに従うだけ。


 それが、エドワードには不満だった。


「王妃となる者には、民に寄り添う姿勢が必要だ」


 そうだ。

 正しさだけでは足りない。


 その点、リリアは違う。


 彼女はよく笑い、よく不安を口にし、よく頼ってくる。

 守ってやりたいと思わせる。


 それは、王として重要な資質だと、エドワードは本気で思っていた。


「殿下」


 ノックの後、宰相補佐が入ってくる。


「地方第三魔法炉の件ですが、非常に安定しています」


「そうか」


 エドワードは満足げに頷いた。


「俺の判断が正しかったな」


 宰相補佐は、一瞬だけ言葉に詰まったように見えたが、何も言わなかった。


「……はい。結果としては」


 結果がすべてだ。

 エドワードは、そう理解している。


「それと、物流調整も滞りなく進んでいます」


「良い傾向だ」


 問題はない。

 少なくとも、表面上は。


 宰相補佐が去った後、エドワードは椅子に深く腰掛けた。


 ふと、机の端に置かれた婚約関連の書類が目に入る。

 正式な破棄手続きは、まだ進めていない。


 だが、時間の問題だ。


「……レティシアには、悪いことをしたかもしれないが」


 口に出して、すぐに否定する。


「いや。あれは、彼女のためでもある」


 彼女は強すぎる。

 一人で何でも抱え込む。


 だからこそ、王妃には向かない。


 感情を見せない女性が、民に愛されるはずがない。

 それは、冷静な判断だ。


「正しいことをしている」


 自分に言い聞かせるように、呟く。


 その時、ふと胸の奥に、わずかな違和感が生まれた。


 ――では、なぜ。


 なぜ、彼女が以前より口を出さなくなってから、

 書類が“自然に”整うようになったのか。


 なぜ、問題が起きる前に、修正されているのか。


「……考えすぎだな」


 エドワードは、その思考を振り払った。


 優秀な文官が揃っている。

 自分が方向性を示している。


 それだけのことだ。


 そうでなければならない。


 扉の向こうで、誰かの足音が止まる。

 次の報告だろう。


 エドワードは、何も疑わず、顔を上げた。


 自分が、

 最も重要な“支点”を見落としていることに、

 気づかないまま。



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