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陰謀だらけの魔法合戦(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編6)  作者: 月森琴美


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9/15

 何事もなく金曜日を終えて週末が過ぎ、9月の第二週が始まった。

 月曜日。

 藤間由美はいつもどおり登校し、職員室へ行く。

「失礼します」

 担任に用があるのではなく、体育祭実行委員として職員代表で体育祭の総括役をしている芳賀先生に用があった。

「おう、藤間か。おはよう」

 早いな、と芳賀先生は笑顔で声をかけてくる。

「おはようございます。先生、あの」

「体育祭のプログラムだな。金曜日に提出してくれたやつ。よく出来てたぞ」

「大丈夫でしょうか」

「ああ。問題ないよ。あの順番でいこう」

 そう言って、芳賀先生はプリントを引っ張り出す。

「パソコンで打ち込んでおいた。藤君に渡しておいてくれ。用具準備係の方に渡す分はコピーして使うように」

「はい」

 由美はプリントを受け取り、一礼して職員室をあとに教室に向かった。

 クラスメイトと朝の挨拶を交わし、席についてプリントを見る。

「あれ?」

 由美の顔が強張った。

(先生は、わたしが作ったのがよく出来てたって言ってたけど)

 どうやら修正したらしい。

 彼女が決めた種目の順番が変わっている。

(別にいいけど、でも……)

 どうにもひっかかる。

 全学年徒競走は一番最初の種目になっていたのだが、修正された物は違っていた。

(一年生の徒競走になってる。一年生だけ最初にやるの?)

 他の種目の合間に二年生、三年生の徒競走が入っている。

(応援合戦と選抜リレーは午後の種目のはずなんだけど、午前中になってる)

 午後の種目は三年生男子による障害物競走と三年生女子によるダンス、それに三年生の徒競走と旗取り合戦。

(午後に三年生ばっかりってどうなんだろう)

 三年生に負担が大きすぎやしないのか。

(でも先生が了承したものだし)

 不可解なプログラム表を前に、由美は心が小さく波立つのを感じていた。




 悩んだ末、とりあえず昼休みに応接室に向かう。

 本当は一時間目後の休み時間、すぐ昇に届けたかったが、そう出来ない事情があった。

 今週から一、二年生は4階に行く事を禁じられたのだ。

 4階は三年生のクラスが並ぶのだが、三年生は体育祭の最終種目である旗取り合戦で実戦と同じレベルの魔法を使わないといけない。

 体育祭までの期間、その練習のために4階の教室や廊下などで魔法を使うことを許可されており、下級生が行けばまきぞいをくう可能性があるからだ。

 十分しかない短い休み時間に、昇を下の階まで呼び出すのは気が引ける。

「失礼します」

 応接室では、昇と実行委員3人がすでに来ていた。

「遅いぞ、藤間」

 実行委員の一人からそう言われ、すみませんと答えておく。

「そう言わないの。女の子は色々時間のかかるものなんだよ」

 にこにこ笑顔でフォローしてくれる昇の言葉に、その場は一気に和やかな雰囲気になった。

「じゃ、さっきの件よろしく」

「わかった。美術部に行ってくる」

「じゃ俺は応援団長たちに、この衣装申請書を届けてくるぜ」

「頼むよ」

「僕はこのお知らせを掲示板に貼ってくる」

「よろしく」

 次々と実行委員たちは出て行き、応接室は昇と由美だけになった。

「お疲れ様です。あの」

「ほんっとうに疲れるよねえ。あ、由美ちゃん、土曜日は来てくれてありがとう」

「ああ……あれこそ先輩お疲れ様でした」

 思い出して、由美は顔をほころばせる。

「先輩の衣装、凄かったですよね」

「もうあの場で脱ぎ捨てて逃げたかったよ。どうして僕があんな王子服を着ないといけないのかってさ」

 重いため息と共に、昇は椅子に沈み込んだ。

「まあ、似合ってたんじゃないですか」

「どこがだよどこがっ。全身真っ白。白いフリルひらひらのブラウス、白いズボンと上着、胸には勲章もどきのブローチつけて、腰に剣まで下げて歩きにくいったらないよ。しかも真っ赤なマントをひるがえして、白いブーツは膝まであって動きにくいしさ」

「ゆり子様も凄かったですね」

「金髪の巻きカツラ、高さ1メートルの巻貝みたいなのを頭から生やして、相変わらずドウラン顔でさあ。もういい加減に濃い紫のアイシャドウと真っ赤なルージュはやめてくれ。ダンスの最中、ドアップで妖怪顔がせまってくるし、全力で逃げ出したくなる心を押さえるのがせいいっぱいだったんだぞ」

「ふふふっ、でも先輩は頑張ったじゃないですか」

「もう本当にいい加減にして欲しい。僕は地味に生きていきたいんだ。どうしてみんな、人の人生をおかしな方向にゆがめようとするかなあ」

「真面目な話、先輩はどうしたいんですか。帝様を落としてクリスティ一族総帥になりたいのですか」

「絶対ごめんだ」

 昇はげんなりと顔を歪める。

「嫌だよ。なんかあの一族って得体がしれない。伊集院雅人と森崎直樹という奇人変人がいるし。あいつらの側には出来れば近寄りたくないね」

「凄い嫌われようですね。直樹様はともかく雅人様は人気ですよ」

「イカれた女子にだろう。君もあいつがいいの?」

「そうですね。まあ悪くはないかと。乙女ゲームの攻略対象が現実世界に存在してるみたいじゃないですか、あの人たち。そんな男子って早々いませんよ」

「2次元が3次元になってるってありえない魅力のせいかあ。僕なんかどうせモブキャラだろうなあ」

「最近はモブにも注目が集まってるんですよ。先輩の場合、もうモブじゃありませんけど」

「じゃ何?」

「そうですね。この状況だと攻略対象に対抗するライバルの悪役キャラってとこでしょうか。意外とこのポジション、ゲーム的には美味しいんですよ。大体隠しキャラってことで最後に攻略出来るミステリアスな存在なんです」

「なんか疲れるキャラ設定だなあ。やっぱりモブでいいや」

「もうモブには戻れませんよ。あきらめてください」

「いやだあ。あきらめきれないっ。僕はモブでいい」

「駄々をこねても無駄です。すでに先輩は校内の女子から注目されてます。どころか先生たちからも一目置かれ始めてます。ミステリアスな隠れキャラ路線を突き進んでます。もうとことん行っちゃって、悪役の粋を極めてくださいっ」

「そこで拳を握って力説しないでよ、もう」

 うんざり顔の昇に、由美は思わず笑いが漏れる。

 実際のところ、生徒会メンバーほどではないが、昇もかなり乙女ゲームの攻略対象キャラになれるほどの魅力があると彼女は思っていた。

(小さい頃のわたしの初恋の人だったもんな)

 初等部の頃、バレンタインデーにチョコを毎年渡してるのに義理チョコ扱いされて、まったく気付いてもらえなかった思い出が頭の中をよぎる。

 結局六年生の時に昇は同じクラスの女子に告白されていいよと返事をし、初めての彼女を紹介された日に由美の初恋は片思いで終了した。

 その子とは結局中一の時に他の男子に鞍替えされて振られたと聞いている。

 彼がフリーになったと知ったが、その時にはもう昇に対して幼馴染以上の気持ちは沸いてこなかった。

(完全にわたしって対象外だと見られてるしな)

 一度間接的にふられた相手に同じ気持ちをまた抱けるかと思ったら、そうでもない。

(気持ちを整理しちゃってから来られても、もう冷めちゃってどうにもならないよね)

 幼い頃の初恋の人だった、そういえば昔そんな気持ちがあったよね、ぐらいの綺麗な思い出に成り果てていた。

(次に良い人見つけて幸せになってね。わたしももっと良い人つかまえるわ)

 というくらいの心境である。

(いけない。わたしの初恋談義はどうでもよくて)

 気を取り直し、由美は件のプリントを引っ張り出した。

「あの芳賀先生に提出した体育祭プログラムなんですけど」

「ああ。そうだった。先生はなんだって?」

「確認して、パソコンで綺麗に打ち直してくれました。これがそうです」

「どれどれ」

 プリントを受け取って目を通した昇は、しばらく無言だった。

 由美も内心ため息をつく。

(まあ、そうなるよね)

 どう考えても三年生の負担が大きい。

 それにこれでは一年と二年生の父兄が午前中で帰ってしまう可能性も考えられた。

(どうして先生は、こんなプログラムにしたんだろう)

「ねえ、藤間さん」

 いきなり苗字で呼ばれ、由美の背に緊張が走った。

 私的な態度から公的な態度に改まった口調で、昇は問う。

「これ、君が考えたの?」

「いいえ」

 由美は首を横に振る。

「わたしが考えたものではありません」

「だよね。君はそんなむちゃくちゃな種目順を考える人じゃない」

 プリントを机にすっと置いて、昇は真剣な目になった。

「ではこれを考えたのは、芳賀先生でしょうか」

「普通に考えたらそうなるけど、ちょっとそれもおかしい。芳賀先生は今年で在職十年目になるクリスティ学園の教師だ。僕はここ二年、体育祭に参加してるけど、こんな異常なプログラムはやったことないよ。三年生の種目を全部午後に集中してまわすなんて。大体午後は応援合戦で始まり、選抜対抗リレー、最後は旗取り合戦と決まっている」

「決まっているんですか」

「うん。君も当然そうしたよね」

「あ、はい。午後はそうかなって思って」

 去年と同じにしました、と由美は言った。

「どうしてそうしたの?」

「それは応援合戦も選抜リレーも旗取り合戦も、他の競技よりもらえる得点が高いから、ですかね」

「そうだね。優勝をかけて得点争いをしている状況で、やはり逆転出来るかもしれないチャンスがある種目を後半に持ってきた方が絶対に盛り上がる」

「ではどうして芳賀先生は、こんな種目順にしたのでしょう」

「さあね」

 昇は目を閉じて考え込んだ。

「とにかくここで僕達が議論してもしょうがない。放課後、僕と君の二人で芳賀先生の所へ行って確認しよう。それとこの事は絶対誰にも言わないように。いいね」

「わかりました」

 心なしか昇の顔が厳しい。

 いつもどこか抜けててとぼけた態度の彼からは想像出来ない表情に、由美は息を呑んだ。

(何だろう。何か大きな問題でもあるのかな)

 芳賀先生の打ち間違いとか、気分的にこっちの方がいいから変えた、とかそんな風に軽く考えていたのだが、どうも彼の雰囲気はそんな感じではなさそうだ。

 不安が胸の内に広がっていく。

 言い知れない灰色の気持ちを抱えたまま、昼休みは終了した。




 放課後になった。

 教室掃除を済ませた由美は、昇と待ち合わせた職員室前の廊下に行く。

「お待たせしました」

「急がなくてもよかったのに」

 昇はいつもの口調と表情に戻っていた。

 少しほっとしながら、二人は職員室に入っていく。

「失礼します」

 芳賀先生は机の上で小テストの採点をしていた。

 二人が入っていくと、気の良い笑顔を向けて手を止める。

「おう、どうした。二人そろって」

「先生にお伺いしたいことがあってきました」

 そう言って、昇はプリントを差し出した。

「これのことなんですけど」

「どうした、これが」

「ちょっと見てもらえませんか」

 芳賀先生は受け取って目を走らせ、素っ頓狂な声をあげる。

「なんだ、これは。金曜日に提出したプログラムでいいじゃないか。なんでこんな風に変えるんだ」

 先生の言葉を聞いて、由美は驚いた。

(ええっ、先生が作ったんじゃないの?)

「失礼を承知でお尋ねしますが、これは先生が作成したものではないんですね」

「当たり前だろう。一体誰が考えたんだ。このむちゃくちゃな種目順」

「……やっぱりそうですか」

 昇は難しい顔をする。

 由美は不安が体中を駆け巡った。

(どういうこと? 先生じゃないなら一体誰が作ったの?)

「先生、ちょっとどこかでお話したいのですが」

 昇の表情に、芳賀先生もうなずく。

「ああ。その必要ありだな」

 手早く小テストを片付けると、職員室にあった宿直室の鍵を手に取った。

「行くぞ」

 三人は職員室を出て、宿直室に向かう。

 宿直の教師しか使わない部屋に入ると念入りに施錠し、芳賀先生は二人の方を向いた。

「ここならまず聞かれない。これは一体どういうことだ」

「先程渡したプリントは、藤間が今朝芳賀先生から渡されたプリントです」

「馬鹿な」

「間違いありません」

 由美はうなずいた。

「プリントを落としたりしてません。先生からもらって教室まで持っていって、すぐに見たんです。そうしたらもうこんな風になっていました」

「僕が作成したのは、これじゃないぞ。どういうことだ」

「先生も藤間も僕も心当たりがないということは、第三者が介入したということになります。つまり誰かがプリントを入れ替えた、あるいは先生が作成したこのプログラムを打ち出したファイルを改ざんしたということです」

「第三者だと? 一体誰がそんなことを」

「わかりません」

 昇は首を横に振った。

「犯人を突き止めるために、まずは状況を整理したいと思います。プリントを入れ替えたのか、それともファイル改ざんか、このどちらかを確認しなければ。先生、このプリントを作ったのは学校ですか」

「ああ。金曜日に机の上に置いてあった手書きの表を確認して打ち込んだ。ノートパソコンにな」

「そのパソコンは、職員室にありますか」

「ああ」

「ではそれを確認しましょう。もしそれが今あるこのプリントと同じ種目順だったら、ファイルのデータが改ざんされたということです。何者かが先生のノートパソコンを開けてパスワードを解析し、侵入して書類ソフトのデータを書き換えたということになります」

「そうだな。すぐ調べよう」

 三人は固い表情で宿直室を出て、また職員室に向かう。

 ノートパソコンを開けると、芳賀先生はファイルを開いた。

 三人は現れた書類の画像を覗き込む。

(あっ、書き換えられてる)

 由美は目を丸くした。

 そこにあったのは、朝もらったプリントとまったく同じ種目順に打たれたプログラムだった。

「馬鹿な。僕はこれを作ってない」

「失礼」

 カチャカチャとマウスを動かし、昇はデータの履歴を見る。

「金曜日の4時ごろに作成したことになってますね。先生が作ったのってその時間ですか」

「ああ。5時半まで小テスト問題を作るために、このパソコンで作業していた。もし改ざんされたのなら、そのあとの時間帯になるはずだ」

「土日はこのパソコン、家に持って帰ってますか」

「いや、家には他にパソコンがあるし、基本的に学校に置いたままだ」

 だがパスワードをかけてあるし、学校のセキュリティを破るのは至難の業だろう、と困った顔をしながら先生は言う。

「朝印刷したんですよね、プリンターで」

「ああ」

「その時、ファイルを確認しましたか」

「いや、朝は画面まで開いてない。データファイルの上にカーソル合わせて右クリックし、印刷を選んだだけだ」

「そうですか」

 ふむ、と昇は考え込んだ。

(なにこれ。どういうことなの)

 由美は混乱する頭で、必死に考える。

 誰かが体育祭のプログラム作成に介入し、種目順を入れ替えた。

 それはわかったが、目的がわからない。

(こんなことをして何の意味があるんだろう)

 どうせ確認したらすぐにわかることだ。

 書き換えられたのなら、また書き直せば済むことで、体育祭の準備進行に何の支障も与えない。

 一体犯人の目的は何なのだろう。

「とりあえず藤間が出した種目順で良いなら、僕達の方で種目順の表は作成して係りに配布しておきます。いいでしょうか」

「ああ、そうだな。そうしてくれ」

「先生にも一枚お届けしますよ。それと」

 昇は意味深な瞳を芳賀先生に向けた。

「この間、興味深い名簿を作成してくださると言ってましたね。それお願いしてもいいですか」

「……わかった。すぐに用意しよう」

「ノートパソコンじゃなくて手書きでお願いします。学校以外の場所で書いていただけると良いのですが」

「自宅でやるよ。心配するな」

 芳賀先生は心得たと了承する。

「状況から見て内部の犯行である可能性が大きいです。気をつけてください」

「君もな」

 ぽんっと右肩を叩かれ、昇はうなずいて一礼した。

「失礼しました」

 二人そろって職員室を出る。

 何もわからないし、頭が混乱するばかりだ。

 由美は悶々と歩いて階段の前まで来る。

「由美ちゃん、これから時間ある?」

「あ、はい」

「じゃ他の実行委員に声をかけて、僕達は先に失礼しよう」

 そう言って、昇はにこっと笑った。

「まあ、そうだなあ。デートでもしようか」

「ええっ、で、でえとですか」

「うん」

(で、デートって何、その意味ありげな単語は)

 まったく問題が解決していない状況で女の子をデートに誘うなんて何考えてるんだろう、と由美は思ったが、とりあえず従う事にして、二人は学校を出た。

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