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陰謀だらけの魔法合戦(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編6)  作者: 月森琴美


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 校門を出てしばらく歩いてから、昇は由美の手を取った。

「飛ぶよ」

「えっ」

 何も言うひまもなく瞬間移動魔法が発動する。

 あっという間に由美の家の玄関の前だった。

「ラフな格好に着替えて外で待ってて。ああ、お家の人に夕飯は外で友達と食べるとでも言っといてよ」

 じゃあね、と言うなり昇はしゅっと姿を消した。

 瞬間移動で自宅まで飛んだのだろう。

 物事が目まぐるしく動いていく事に戸惑いながら、由美は自宅に入って鞄を置き、制服を私服に着替えた。

(藤先輩とお出かけなんて久しぶりだな)

 小さい頃は家が隣同士で、よく一緒に遊んでいた。

 手をつないで幼稚園にも通ったが、初等部入学してからは気恥ずかしくて一緒に学校に登校したことはない。

 そのうち昇の方が引越しして家が遠くなったため、二人が会うのは学校だけで、それも学年が違うから徐々に減っていった。

 学校の廊下ですれ違うか、藤家主催の催しで会うかのどちらかになって、幼い頃の事は遠い思い出となっていく。

(今回久しぶりに電話をもらって、一緒に実行委員をやって欲しいと言われた時には嬉しかったな)

 わたしは忘れられてなかったという、ちょっと胸の奥がじんわりと温かくなる気持ち。

 二つ返事で引き受けて、そのあと夜に帰宅した父親から晩酌時に今回彼の置かれた立場を聞いた。

 正直親たちが言うように、このクーデターのような企みが成功するとは思っていない。

 学校で絶対の権力者として振舞う帝と生徒会メンバーを見ていたら、そんなの現実味のない夢物語でしかないじゃないかと言いたくなる。

(実際藤先輩もやる気ないしなあ)

 これでもし昇が野心を発動させて帝を追い落とそうと気概を見せているのなら、もしかしてと思ったかもしれないが、本人のやる気はゼロっぽいので、由美も大人たちの酔狂だと今回の件を深く考えていなかった。

 だが今日のプログラム改ざんの件を受けて、一抹の不安がよぎる。

(藤先輩に幾らその気がなくても、周りのせいで巻きこまれるんじゃないだろうか)

 こればっかりはないとは言い切れない。

 現実すでに先生のノートパソコンに予期せぬ侵入があったわけだし。

 台所にいた母親に夕食はいらないと伝えると、由美は玄関を出て家の外に立った。

 ほどなく昇が姿を現す。

 くたくたのTシャツとジーンズという相変わらずしゃれっ気のない姿に、思わず声が出てしまった。

「その格好、デートじゃなかったんですか」

「んーっ、由美ちゃんは相変わらず可愛いね」

「先輩こそ変わりない挨拶どうもです」

 とりあえず女の子に会ったら可愛いと言っておけ、と彼の父親が幼稚園時代に昇に言ってたことを思い出す。

 そのせいで毎朝会うたびに可愛いねを連発されたが、幼稚園に着いてからも昇はやってきた女の子全員におはようと言うなり可愛いねをつけたので、嬉しかった言葉の価値が幼稚園の時から薄れてしまった。

(懐かしい記憶だわ)

 そんなことを思いながら、由美は昇について歩き出す。

「どこ行くんですか」

「この時間じゃ遠出は無理だし、近くのファミレスでも行きますか」

「この辺にないですよ、ファミレス」

「じゃあどこにしようかな。由美ちゃん、何食べたい?」

「別になんでもいいですけど」

 由美はため息をつき、大通りに出ればイタリアンレストランがあることを教えた。

「それか駅前でお蕎麦屋さんか。あっ、ラーメン屋もあります」

「出来れば静かに二人で話が出来るところがいいよね。あ、そうだ」

 昇はぽんっと手を打った。

「レストラン行ってから、あそこ行こうか。シーソー公園」

 昔よく遊んだよね、と言われ、懐かしい思い出がよみがえる。

 幼稚園から帰宅後、一緒に公園で遊んだ。

 昇が家まで誘いに来てくれて、公園で砂場や滑り台、シーソーで時間の経つのも忘れるほど楽しかった幼い頃の自分達。

 まだ公園はあるよねと聞かれて、ありますよと返事をしながら、由美は二人で歩く久しぶりの感覚に懐かしさを覚えた。




 レストランでスパゲッティを食べ、二人は公園に移動する。

 もうすっかり暗くなって、公園に子どもは誰もいなかった。

「いやあ、懐かしい」

 変わってないなあと嬉しそうにジャングルジムに触れる昇。

 由美もここは久しぶりである。

 中等部に上がってからは来たことがない。

 たまに通り過ぎるだけの場所になってしまっていた。

 二人は来る途中自販機で買ったジュースを手に、古いベンチに腰掛ける。

「この椅子も年季が入ってるなあ」

「一回ぐらい塗装し直してましたよ、ここ」

「そうなんだ。でもその塗装もはげてる」

「わたしが初等部だった頃ですから、2年は確実に経ってますね」

「そっかあ」

 そう言うと、昇はプルトップを開けて缶ジュースを一口飲んだ。

 由美も自分のジュースに口をつける。

 二人はしばらく黙っていた。

 心地よい夕方の秋風が体を吹き抜けていく。

 しばらくして昇は、はあっと深いため息をついた。

「どうしてこうなっちゃったかなあ」

「藤先輩」

「婆に野望があることは知ってたけど、まさか実行にうつすとは思わなかった。口ばっかりだと思いこんでたんだ。もう歳だし、ただのボケかけた年寄りのかなわない夢だとばかり考えてた」

「そうでしたか」

「何でいきなり始めちゃったんだろう。こんな無理なことを」

「まだ無理だって決まったわけではないかと思いますが」

「……由美ちゃん、まさか本気で僕が総帥になれるとでも思ってる?」

「能力的には可能かと思います」

 由美は迷ったがきっぱりと言った。

「先輩は帝様や雅人様たちと並ぶほどの実力と魔力を持ってます。その上周りの人たちを気遣う心だってある。もし本気になってやったら、クリスティ一族の人たちも認めてくれるかもしれません」

「甘いよ、由美ちゃん。能力とかそういうことじゃない」

 昇は口元に薄く笑みを浮かべる。

「伊集院財閥を継ぐとかそういう話だったら、もちろん僕にも可能性はあるかもしれない。でもあの一族の長になることは出来ないよ。君は、僕のおやじが何故クリスティ本家の者と認められず、藤家に戻されたか知ってるかい」

「その、実はよく知りません」

 正直に答えると、そうだろうね、と昇は言った。

「クリスティ本家には固い掟がある。僕もおやじから聞いて知ってるんだけど、先祖のアルツール・クリスティから受け継いだ特殊な魔力を絶対に子孫に伝え続けなければならいという掟だ」

「そんなことって出来るんですか」

 由美は驚いて問う。

「だってもし結婚した相手がいわゆる運命の相手じゃなかった場合、子どもに魔力は遺伝しないはずじゃないですか」

「そうなんだよ。だから本家の総帥はその子どもを得るために、複数の女性と子どもを作る。額に紋章を得る子が生まれるまでね」

「そんな……」

「ちなみに魔力を受け継がなかった子は、父のように捨てられて実家に戻されるってわけ。クリスティ一族にとって重要なのは先祖代々受け継いできた魔力であって、あふれるほどある財産や会社の経営能力とかを求めてるわけじゃない。一番大事なのは先祖から受け継いだ魔力。総帥の真の役目は、その魔力を受け継ぐ次世代の子孫を作ることだ」

 昇は自嘲気味につぶやく。

「これで君にもわかっただろう。総帥の役目を僕は果たすことが出来ない。クリスティ一族が僕を認めることは、絶対にありえないと」

「そうだったんですね」

「問題はさ、うちの婆を始め一部の野心家たちは、そんな大事な事を何一つわかっちゃいないってことだ。僕が認められるなら、もっと前に僕のおやじが認められていても不思議じゃないだろう。家を追い出される必要なんてないはずだ。おやじだって雷導様の息子なんだからさ」

「そうですね。確かに」

「でもおやじは一族から捨てられた。それは魔力を受け継がなかったからだ。だからおやじは必死に目立たず普通に生きていこうとしている。自分を絶対に認めないであろうクリスティ一族に無害な人間だと思わせるために。少しでも野心ありと認定されたら、後継者候補になるどころか処分対象になってしまう。あの一族はそれが出来るだけの力があるし、実際に手を汚すことだってしてきたらしい」

 由美は昇の話を聞いて、背筋が薄ら寒くなってきた。

(じゃ今の状況は、藤先輩にとってかなり危険なものなんじゃないの?)

 クリスティ一族から抹殺されかねないのではないだろうか。

「婆に何度もやめて欲しいと言ったけどさ。まったく聞いてくれないんだ。それどころか絶対に大丈夫だと言い張る。あの自信はどこから来るのかと思っていたけど、どうも婆の話ではクリスティ一族の大物がこちら側につくと言ったらしい。今回の計画は、そいつに持ちかけられたようだ」

「そんな。一体誰がそんなことを」

「それはわからない。婆も相手に対してはだんまりを決め込んでいる。よっぽどの実力者なんだろう。あの人を黙らせるなんてさ」

 昇はジュースでまた喉を湿らせると、星の見えない夕闇の空を仰いだ。

「で、話は僕達の現実問題に戻るけど、おそらく今回のプログラム改ざんは悪戯に見せかけた警告だと僕は考えている。クリスティ一族からのね」

「一族からの警告ですか。それはまた物騒な話ですね」

 由美はぶるっと震えた。

「今、婆のしかけのせいで僕はクリスティ一族から野心家と思われてしまっている。これ以上増長しないようにと警告の意味で悪戯をしたんじゃないかな。だって他にあんな形で、あんな意味の無い事をする必要はないじゃないか。おそらくいつでも校内には侵入出来て、その気があればいくらでも僕を消せる。そう伝えたかったんだと思うよ」

 昇はふうっと息を吐く。

「たぶん犯人は学校関係者で、セキュリティに引っかからない人間だ。一番可能性があるのは教職員の誰か。職員室にいても怪しまれないし、もし同じ三年生の担任だったりした場合、芳賀先生のノートパソコンをいじっていても芳賀先生本人に頼まれたんじゃないかと思って、誰も気にしないだろう」

「そうですね。もし先生同士だったとしたら、他の先生も見逃すでしょう」

「あとは……生徒会、かな」

「あの人たちですか」

「学内セキュリティだって文句無くはずせるし、あの連中だったとしたら理事長も手を出せない。ただ決め付けるのは良くないし、外部の可能性だってある」

 昇はやれやれと肩をすくめた。

「僕の味方についてくれそうな先生の名簿を芳賀先生が作ってくれると前に言ってたから、お願いしておいた。僕自身は総帥になる気もないし、なれるとも思ってないけど、周囲はそう考えてはくれないからね。せめて悪戯をしそうな人の候補ぐらい知っておかないとと思って」

「つまり先生のリストに名前が載ってない教職員の中に、先輩をよく思ってない人がいるということですね」

「あくまで可能性があるっていう話だけどさ。以前名簿作成の話を持ちかけられた時には必要ないって思ってたんだ。僕自身はそんな気ないし、今回の件を済ませたら、すみやかに元の無害で平凡な存在に戻ればいいやってのんきに考えていたんだけど、どうもそういうわけにはいかないのかもね」

 由美はあまりに予想もつかない話に、何も言えなかった。

 家の跡目騒動とか後継者争いとか、そんなの乙女ゲームやライトノベルの世界にしかなくて、自分の日常で体験してしまうとは思ってもみなかったのだ。

 昇は自嘲気味に笑う。

「ま、なるようになるでしょ。今考えてもしょうがない。体育祭を無事に乗り切って、僕はそんな事望んでないってはっきり宣言して、お役ごめんにしてもらおうと思ってる。うちの婆も僕が結果を出せば話ぐらい聞いてくれるでしょ。今の段階では何言っても取り合えってもらえないしね」

「先輩」

「君もけっこう巻き込むかもだけど、僕一人じゃ頼りないからさ。幼馴染のよしみでちょっと手伝ってよ。いいだろう」

「はい。わたしに出来ることなら」

 由美は力強くうなずいた。

「じゃあ明日からまたがんばろう」

 にこっと笑って、昇は手を差し出した。

 由美も片手を出し、二人はしっかりと握手する。

「体育祭、絶対成功させましょう」

「無駄にやる気出さなくていいって。やれるとこまでやればいいよ、適当にさ」

「それ、明日からがんばろうーなんて今言った人の台詞じゃないと思うんですけど」

「そうかな」

「まあ、先輩らしくていいですけどね」

 くすくすと由美は笑う。

 昇も笑みを見せて握手していた手をほどき、照れくさそうに髪の毛をガシガシとかいた。

「じゃあ帰りますか」

「はい」

 夕暮れが過ぎ去り、すっかり夜になっていた。

 公園を出て、静かに二人は並んで家路に向かう。

 空には久しぶりに語らった幼馴染二人を見守るように、綺麗な月が浮かんでいた。




 月が見下ろしていたのは、公園から家に帰る二人の姿だけではなかった。

 クリスティ学園中等部校舎の屋上。

 二人の少年の影が、そこにあった。

「ねえ、怜。これって本当に必要な事?」

 瑠衣は屋上のフェンスに背中をもたせかけ、両手を頭の後ろで組んでぼやく。

「僕達の計画に必要な事じゃないけど、ちょっと先輩たちにプレゼントを贈っとこうかなって思ってさ」

 怜は屋上から校庭を見下ろしながら答えた。

「こんなことして本当に何の意味があるのかなーって思ったけどさ。すごいじゃん、怜の読みどおりになったね」

「ああ。こんなに上手く行くとは思わなかった」

 微笑んで怜は、一枚の紙を取り出す。

 それは薄紫の藤の花模様を一面に散らした便箋で、クリスティ学園中等部に在籍する教職員の名前が手書きで書き連ねてあった。

「しっかしこんなに俺達の王様って人望ないんだね。教職員の七割が藤の味方だなんてさ。もう少し性格矯正した方がいいじゃないの?」

「同感だが、別に王の役目は聖人君子になることじゃないからな。種馬としてしっかりがんばってくれればそれでいいんじゃないのか。一族としては」

「種馬ってひどいなあ。怜、王様が可哀想でしょー」

「事実だろうが。一族のお偉方はそう思ってるってことだ。だけど僕達がそう思ってるかどうかは、別問題だろ」

「まあね。少なくとも俺は王様には興味あるよ。面白そうじゃん」

「面白くない、興味ないって言ってたくせに、どうした、急に」

「別に。ただ一応ナル兄と陰険眼鏡が大事にしてるぐらいだもん。ちょっとはどんな奴とか思わない? 怜」

「そうだな」

 そう言って怜は紙を覗き込んだ。

「で、その名簿どうするの?」

「僕達が持っててもしょうがないだろ。ちゃんと先輩たちに届けないと」

「どうやって? まさか郵送とか言わないよな」

「そんな手を使うなんて面白くないだろう。せっかくだからもっと楽しまないと……っと誰にしようかな」

 怜は考え込んでから言った。

「瑠衣、お前芳賀俊哉になれる?」

「もっちろん」

 呪を唱えて次の瞬間。

 赤い髪の少年は姿を変え、長身で筋肉質の中年教師へと変化した。

「よし。明日の朝、1階の階段で仕掛けよう」

「1階ってことは遠野の透明人間な先輩だね。わかった」

「上手くやれよ」

「怜も女生徒かなんかに化けて待機しててよ。万が一仕損じたら、フォローよろしく」

「了解」

 二人はにっと笑いあい、明日やる悪戯にスリルと刺激を予想しながら拳を打ち合わせた。


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