表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰謀だらけの魔法合戦(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編6)  作者: 月森琴美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/23

10

 翌朝、登校した遠野斎は昇降口で上履きに履き替えて教室に向かう。

 エントランスを通ったとき、掲示板に人だかりが出来ていてなんだろうと思ったが、人混みを押しのけてまで見たいと思わなかったので、とりあえず素通りして2階に上がる階段の方に歩いていった。

 ちょうど階段から三年A組担任の芳賀先生が降りてきたので、すれ違いざま挨拶のため頭を下げる。

「おはよう。遠野君」

 斎は声が出せないので、礼だけして階段を上がろうとしたが、その時芳賀先生はちょっとつまずいて手に持っていた教材を階段に落としてしまう。

「うわっ、しまった」

 あわてて先生は教材を拾い集める。

 幸いそんなに多くはなかったので、斎も一緒にプリントや本を拾うのを手伝った。

「すまないな。ありがとう」

 芳賀先生はお礼を言って廊下を歩いていく。

 斎もクラスに行こうとして、はっと足元を見た。

 紙が一枚、落ちている。

(先生のだ)

 そう思い、拾い上げた斎の目がそれに注がれた。

(何だろう、これ。名簿?)

 薄紫の藤の花を散らした便箋に、教職員の名前がつらつらと手書きで書かれている。

 他に何の名簿なのかを記してある単語はなく、斎は首をひねった。

 そこへ青い顔をした芳賀先生がやってくる。

「遠野、この辺に紙が一枚落ちてなかったか。藤の花模様の便箋なんだが」

(これの事だ)

 斎は咄嗟にそう思ったが、思わず手に持つ紙を透明化させて見えなくした。

 そして首を横に振る。

「そうか。もしどこかに落ちてたら、すぐに教えてくれ。すごく大事なものなんだ。他の先生には見せずに直接僕の所に持ってきてくれ。頼んだぞ」

 嫌な汗を額に浮かべながら、芳賀先生はまた元来た廊下のあちこちを探しながら去っていった。

(……この名簿)

 斎は黙って瞬間移動魔法を使い、便箋を自分の鞄の中に隠す。

(他の先生に見せるなって……見られたらまずいものなんて、一体どんな名簿なんだろう)

 彼の魔法使いとしての感が何かがあると告げていた。

 そのまま何も知らなかった顔をして、斎はクラスの自分の席に座る。

 1時間目の国語の教科書とノート、筆箱を出して準備をしながら、そっとあの紙を取り出して見つめた。

(これって全部先生たちの名前だな)

 一年の担任数名と二年、三年の担任の何人か、特別授業の先生に保健の先生三河みちるの名前まで入っていた。

(うちの担任の名前はないな。一体何の名簿だろう)

 他に何か手がかりはないかと思って注視していたら、ふっと便箋の模様が目に入る。

(藤の花……藤、まさかこれって)

 斎の顔が引きつった。

 最近、変なうわさが校内に飛び交い始めている。

 体育祭実行委員長の事だ。

 いつもと違い、実行委員を生徒会が勤めずに他の生徒に依頼したことで、かなり尾ひれのついた噂が校内に流れ、正直斎は心を痛めていた。

(別に僕達が今回実行委員をしなかったのって、本家の意思とかそういうのじゃないのに)

 これは自分たち生徒会の都合で決めたことであって、お家騒動だの後継者争いなどとはまったく無縁のはずだ。

 だが周囲はどんどんそう思わなくなってきている。

(もしこれが噂を真に受けた職員の誰かが作成したものだとしたら)

 ただの根も葉もない噂だけでは済まされなくなるだろう。

 密かに帝ではなく藤昇の味方になる同士を集めた名簿。

(この名簿に名前が入っている先生は、将来帝先輩の反対派になる可能性があるってことだ)

 ぶるっと背筋に悪寒が走った。

(僕はもしかしてとんでもないものを手に入れたのかもしれない)

 確証はないし証拠もないが、斎は心に重圧がのしかかったような気分になる。

(もしそうだとしたら、これだけの先生が帝先輩の事をよく思っていないってことだ)

 帝だけではなく、今の生徒会役員たる斎たちにも不満があるかもしれない。

(嫌われずにいるって難しいのはわかってるけど、やっぱり辛いよ)

 普段接して教えてもらっている先生たちの本音を知ってしまった気になって、斎は胸の奥に鋭い痛みを感じた。




 三年A組の担任 芳賀俊哉は飲みすぎのぼうっと頭を抱えて登校した。

(それにしてもどこへやったかな)

 昨日の夜、自宅で夕食を食べて、昇に渡す名簿を作成した。

 そのあといつもの癖で冷蔵庫からビールを出し、適当におつまみを用意して飲みながらテレビを見る。

 番組が終わったので、洗面を済ませてリビングから部屋に戻ったのだが、机の上に置いておいた藤の花模様の便箋はどこかに無くなっていた。

 酒でほろ酔い気分になっており、一応部屋のあちこちを探したが見つからず、あきらめてもう一枚作成する。

(間違えてゴミ箱にでも入れてしまったかな)

 その前にも書き損じて便箋を数枚丸めてゴミ箱に放り込んでいたため、間違って捨ててしまったに違いないと自分のうっかり加減にあきれて二枚目を書いたのだが、それにしてもおかしな話だ。

(まあ別にいいか)

 よもや誰かがそれを盗むなどと、俊哉には考えもつかないことだった。

 教職員の名前だけ記してあるので一体それが何の名簿なのかは書いていないし、持っていっても価値のない物だと思うだけだろう。

(たぶん書き損じと一緒に捨ててしまったのだろうな)

 そう思うことにして、頭を今日の授業の内容に切り替える。

 時々通り過ぎる生徒たちの挨拶に返事を返しながら、彼はいつもどおり職員室に入っていった。




 昼休み。

 斎は散々悩んだが、やはりこのままにしてはおけないと英司に思念を送った。

『英司先輩、今どこですか』

『斎か。ちょっと助けてくれっ』

 というなり、英司はしゅっと瞬間移動して斎の席にやってくる。

「きゃっ、英司先輩よ」

 周りのクラスの女子が声をあげる中、斎の横の開いてる椅子に座って英司はふうっとため息をついた。

『どうしたんですか。なんか疲れてますけど』

『どうしたもこうしたもないよ。雅人先輩が俺に特別修行だとか言って、雅人先輩に変身する練習を強制的にさせるんだ。もういい加減にしてほしいよ』

『それはお疲れ様です』

「こんなところにいたのか。英司」

 ガラッと一年E組の扉を開けて、今度は帝(中身は雅人)が顔を出す。

「早く来いっ。お前はまだ修行中だ」

「げっ、帝……じゃないけど、もう勘弁してくださいっ。あれだけ出来ればいいでしょう」

「駄目だ。完璧に仕上げるまでは特訓だ。行くぞ」

「いやだあっ。斎―っ、助けてくれーっ」

(あの帝先輩って雅人先輩だよね)

 斎は英司に思念を送る。

『雅人先輩にも伝えて欲しいんですけど、直樹先輩も一緒にご相談したいことがあります。出来れば今すぐに』

『今すぐ?』

『はい。帝先輩にはちょっとご相談しにくいというか、言っても良いものか僕には判断できません。先に先輩たちにご相談してからと思っています』

『つまり帝は抜きで、先に俺たちだけにってこと?』

『はい。例の校内中に飛び交っている嫌な噂に関わる話なので』

 英司はしばらく沈黙したが、やがて横にいた帝の方を向く。

「直樹先輩が理科室で面白い実験をしてるから見に来いって言ってます。行きましょう」

「わかった。斎、お前も来い」

 斎はうなずいて立ち上がった。

 どうやら思念で英司は雅人と直樹に斎の意図を伝えてくれたらしい。

 三人は連れ立って廊下に出て、そっと瞬間移動した。

 着いた先は理科室。

 すでに直樹は来ており、手ごろな椅子に座っていた。

「どうした、斎。話があるそうだな」

「めずらしいよね、君が僕達になんて」

 帝の姿が揺らぎ、金髪の貴公子が現れる。

 彼はうなずくと、藤の花模様の便箋を出した。

「なんだ、これは」

『今朝、登校したときに芳賀先生が落としていった紙です。僕とすれ違うときに教材を落としちゃって、一緒に拾ったんですけどその中にこれが』

 英司は、斎の思念を雅人と直樹に伝える。

 三人ともじっと紙を覗き込んだ。

「なんでしょう、これ。先生たちの名前が書いてありますね」

 英司は首をかしげる。

『芳賀先生はこれを僕が拾ったことは知りません。先生に教材を全部拾って渡したと思ったのですが、偶然これだけ拾い忘れたみたいで、僕の足元に残っていたんです』

 斎はその時のことを出来るだけくわしく説明しようと、思念を重ねた。

『あとでこの紙を芳賀先生があせって探しに来ました。すごく大事な物だから見つけたら必ず自分の所に届けてほしいと言われました。他の先生には見せないようにとも』

「なんだそれは。随分いわくありげな名簿だな」

 英司は斎の思念を聞いて、眉をひそめる。

「英司君、斎君は何て?」

「この紙を芳賀先生が必死に探しにきたって言ってます。もし見つけたら、すごく大事な物だから必ず自分の所に届けて欲しいって言われたそうですよ。他の先生には見せないようにって釘もさされたそうです」

「すごく大事な物ね」

 雅人はそこを強調し、ため息を一つつく。

「参ったねえ、こう来るなんて」

「あの、俺だけよくわかっていない気がするんですけど、これって一体何なんですか」

 英司は困ったように問うた。

「斎君は気付いたみたいだけど、先輩の君が気付かないなんて情けないなあ、もう」

「そう言ってやるな。英司はそっち方面に気が回るタイプじゃない事ぐらいわかるだろう」

「よくわからないけど、一つだけはっきりしてるのは、俺が状況を把握出来てない馬鹿だって言われてるってことですよね」

 英司はぶすっとふくれる。

『僕の考えすぎかもしれません。でも最近校内に嫌な噂が飛び交っています』

 斎は英司に思念を送った。

『今回の体育祭、実行委員を僕達がしなかったこと、委員長に藤昇先輩が抜擢されたこと、それを結びつけて、これはクリスティ一族の後継者争いだっていう解釈をしている人たちがいます』

「それは俺も知ってる。実際そういう話を先生たちがささやいてるのもな」

『この便箋、模様が藤の花です。たぶんこの便箋に名前が書かれている先生たちは、帝先輩じゃなく藤先輩を後継者にしたいって考えてる人たちなんじゃないでしょうか』

「えーっ、そこまでするか。ただの噂で」

 英司はやっと紙の重大さに気付いて、声をあげる。

「それがただの噂じゃないんだよね、これ」

 雅人は薔薇の花を一厘取り出すと口元に持っていく。

「お前達にもそろそろ話しておかないといけないと思っていた。あまり良い話ではないんだがな」

 直樹は黒眼鏡を煌かせながら口を開いた。

「何かあるんですか」

「そうだな。今回の体育祭の件についてはとても根が深い。まずはそこから話そう」

 直樹は英司と斎に座るように言い、二人は直樹の前の椅子に腰掛ける。

「藤家の事は知っているな。我がクリスティ一族の傘下に入っている有力魔族の一家だ。そしてクリスティ学園の理事を、現藤家の当主藤ゆり子が勤めている」

「あの騒音妨害の歌を歌う理事ですよね。かげき一家の」

『かげき一家?』

「斎は知らないか。藤家のゆり子様ってさ、歌劇がお好きなんだよ。それだからあの家の催しは、すべて舞台衣装みたいなコスプレしていかないと参加出来ない決まりがあるんだって。いつも王子服とか執事服とか中世の騎士みたいな格好して集会やるから、歌劇に過激なほど狂ってる一家ってあだ名が魔族の中でついちゃってさ。かげき一家って呼ばれてるんだ」

『そうなんですね』

「藤ゆり子の話に戻るが、彼女はクリスティ一族と関わりがある女性だ。斎も英司も(つがい)(きみ)の事は知っているな」

 直樹の質問に、二人は神妙にうなずいた。

「本家の次期後継者は満十六歳になった日から運命の相手かもしれない女性を選び、本家の邸に迎えて仮の伴侶とする。具体的にその女性と子をもうけ、もしその子が一族の紋章を持つ子であるなら、その女性を本妻として正式に婚姻する。だがもし生まれた子が紋章を持たなかったら、その女性とは別れ、別な人を選んで子を作る。この仮の伴侶として迎える女性の事を番の君と呼ぶわけだが」

 直樹はそこで一瞬言葉を切り、顔を歪める。

「藤ゆり子は、総帥伊集院雷導様の番の君だった女性だ。そして藤昇の父親である藤満――ゆり子の息子は、雷導様との間に生まれた子どもなんだ」

「噂で聞いてましたけど、やっぱり本当だったんですね」

 英司はため息を一つつく。

「本家のしきたりは知ってます。帝にだって本当はたくさんの異母兄弟や従兄弟たちがいるってことも。藤先輩はその中の一人ということですか」

「そうだよ。残念ながら藤満の額には一族の紋章が浮かばなかった。だから彼は赤子の時にゆり子様と共にクリスティ本家から出されて、藤家に戻されている。正式にゆり子様を認めるわけにはいかなかったけど、その分謝礼と一族への融資や相応の待遇を、クリスティ一族からはさせてもらったよ。だから藤家は魔族の中でも名家として名をはせているわけさ」

「そうだったんですね」

「いくら認めることは出来なくても、総帥の子がいる一家を蔑ろにすることはない。うちはその辺はきちんとしている。だがまあ、向こうにしてみれば、どれだけの待遇や高額謝礼を出されても選ばれなかったという心の傷は残るし、雷導様は番として迎えた女性を徹底的に冷遇したからな。精神を病んで自殺した女性もいたと聞いている」

「恨みの一つや二つはかってそうですね」

「一つや二つで済めばいいけどな。実際藤ゆり子は大層自分に自信を持ち、自尊心の高い女性だったそうで、選ばれなかった事で深く雷導様を恨み、いつか自分の子をクリスティ一族の総帥にという野望を抱き続けているそうだ」

 直樹はそこでまた言葉を切り、雅人の方を向いた。

「おい、何かお茶をくれ。喉が渇いた」

「もう。僕は君の奥さんじゃないんだけどね」

 そう言いながらもパチンと指を弾いて、雅人は机の上にティーセットを広げる。

 柔らかな紅茶の香りが理科室に広がった。

「今日は砂糖を入れて甘めにしておいたよ。さ、どうぞ」

「いただきます」

 英司と斎は、配られたカップに口をつける。

 緊張していた体に、甘い紅茶が染み渡った。

『美味しいです、ありがとうございます、雅人先輩』

 伝わらないことはわかっていたが、斎は思念でお礼を言う。

「美味しいって斎が喜んでますよ、雅人先輩。ありがとうございますって」

「そうかい。可愛い弟たちに喜んでもらえて嬉しいよ。おかわりもあるからね」

 紅茶で喉を潤すと、直樹はまた話に戻った。

「話を続けるが、今回の体育祭の件に関しては藤ゆり子の野望が動いていると俺と雅人は思っている。白状するが今回俺達が実行委員を他者に委ねたのは他でもない、本家からの指示なんだ」

「ええっ、そんな」

『そうだったんですか』

 二人は驚く。

「二人だけの秘密にしとこうと思ったんだけどね。君たちにはこんな醜い陰謀の世界なんて出来れば見せたくなかったしさ。ごめんよ」

 雅人は素直に謝る。

「だがもうそういうわけにはいかなくなりそうだ。教職員にまでこんなに手が回っているとはね。二人とも分家代表として、俺達と共にこの難関を乗り越えて欲しい。いいだろうか」

「もちろんです」

『はい』

 二人はうなずく。

「本家の指示と言ったけど、正確には総帥雷導様の指示だ。雷導様はご高齢のため、別邸でお過ごしだが、そこに最近話し相手と称してある少女が出入りしている」

「ある少女ですか」

 英司の質問に、雅人が答えた。

「平安時代の姫君が現代に舞い降りたかのように黒々と美しい黒髪と、黒曜石のように輝く瞳。白雪姫のごとき白い肌に真っ赤な唇。それは愛らしい姫君でね。雷導様はその子を見てとても気に入り、常に側に置いて可愛がっているという。別邸に部屋を与え、彼女はそこから中学校に通っているとか」

「そんな子がいるんですか」

『雷導様ってその……年下の女の子が趣味な人なんでしょうか』

 斎が不快そうに眉をひそめる。

「斎、今の表情でお前が何を考えたのかわかったが、お前が想像しているような事はないから安心しろ。本当にただの話し相手だ。孫娘だしな」

「孫なんですか」

「そうだよ。あの藤昇の妹なんだよね、これが。名前は藤咲子(ふじさきこ)だって」

「そんな子が雷導様の側にいるんですか」

「困った事に総帥はこの孫娘を甘やかしていてね、おねだりされたことはなんだって聞いちゃうんだ。おじいちゃんは孫娘には甘いって世間では決まってるだろう」

 雅人は大仰に肩をすくめてみせる。

「おじいさまの側にこの子はべったりくっついて、我侭のし放題さ。気に入らない使用人はすぐ首だし、学校で癇に障る子には魔法をこっそり使って嫌がらせをして楽しんでるらしい」

「じゃまさか今回の体育祭実行委員長の件は」

「理事長を通して僕達に連絡が来た。体育祭実行委員長を帝じゃなく藤昇にと」

「僕達も不本意だったけどね。でもまだ未成年で一介の学生である僕と直樹君に拒否権はなかったし。ただいきなり何の説明もなく、それだけ言われて交代なんて納得の出来る話じゃないだろう。だから調べたら、この子がおじいさまにどうやらおねだりしたらしい。兄を次期総帥にして欲しいと」

「最低ですね。その子の言葉を総帥は聞いてしまったと」

「そういうこと。おじいさまもさ、本来だったらとっくに引退してる歳だし、半分ボケちゃってるんじゃないかなあ。いくら孫娘が可愛いからって、これはないでしょう」

『ひどい話です』

 斎は目を伏せ、小さく拳を握る。

「帝が成人したら、さっさと当主の座を継いでもらう。雷導様は完全に引退。これで一族の未来は安泰だ。だがその流れを妨害する奴らは始末する必要がある」

 直樹は冷静な声で言った。

「今回の件を利用して、俺と雅人は藤家を完全にクリスティ一族の傘下からはずし、名家の看板を下ろしてもらうつもりだ。お前達にも協力して欲しい。いいだろうか」

「俺に出来ることなら何でもしますよ。藤先輩を総帥にするわけにはいきません」

『僕もです』

 二人は決意を込めた瞳を先輩たちに向ける。

「ありがとう。具体的な事はまた改めて話そう」

「言っとくけど王様にはまだ言わないでよ。いいね」

「わかりました」

『はい』

「帝にはいずれ俺か雅人から話す。雷導様の今回の指示は帝を深く傷つけるものだ。自分より藤昇を選んだというのと同じだからな」

「実際には可愛い孫娘にほだされただけの老人の酔狂な決断に過ぎないんだけどね。まったくおじいさまにも困ったものだよ」

 雅人は薔薇の花をぐしゃっと握りつぶし、床に投げ捨てる。

「あっ、理科室にごみを落とさないでくださいよ。ちゃんとごみ箱に入れてください、雅人先輩」

「えーっ、いいじゃない、これぐらい」

「駄目ですよ。そもそも薔薇の花だから、雅人先輩が落としたって先生にすぐばれますよ。先輩しか校内で薔薇を撒き散らしてる人はいないんですから」

「ひどい、ひどいじゃないか、英司君。君は僕がいつも薔薇をあちこちにばら撒いて歩く薔薇妖怪だとでもいうのかい」

「考えてみればそうかもな、確かにお前は薔薇妖怪だ」

「直樹君、君までもが。ねえ、斎君。君はそうは思わないよね」

 雅人は斎に抱きついて泣いた(嘘泣き)が、斎も思うことは英司や直樹と同じだった。

『妖怪かはともかくとして、雅人先輩が薔薇を振りまいてるのは事実です』

「斎もそうだと言ってますよ、雅人先輩」

 英司がぐぐっと斎にひっついてる雅人を引き剥がす。

「みんなで僕のことをいじめるなんて、ああっ、ひどい。この僕の薔薇のように美しい美貌がそうさせたんだね。いいよ、僕は華麗なる薔薇の妖精、薔薇の王子なんだ。君たちの目には妖怪と見えようが、僕のこの本性は美しい薔薇の花たちにしかわからないんだよ。そうだろう、僕の愛する薔薇の花たちよ」

「ああっ、そうやってポーズ決めつつ、また薔薇の花を大量に撒き散らす。片付けるこっちの身にもなってください。斎、箒とちりとり持ってきてくれ」

「ううっ、僕のトレードマークの花たちをゴミ扱いしてゴミ箱に入れるなんて……ひどすぎる。これほどの悲劇が他にあろうか」

「うるさい。お前はいい加減その芝居をやめろ。ついでに薔薇ももう出すな。昼休みはあと5分で終了だ。その前にこれ全部片付けないと、お前をまた国語の加藤先生の膝の上に転送してやるからな」

「うわっ、やめてくれ。次の授業は美術なんだ。僕はクラスのみんなの人物画のモデルをやることになってるんだぞ」

「黄金のかえるを写生してもらうってのも悪くないな。俺から美術の先生に言っといてやる。安心してかえるになるといい」

「嫌だーっ。僕は先に教室に戻るよ。みんな、また放課後生徒会室で会おう。アディオスッ」

 そう言って一足先に雅人の姿は理科室から消えた。

「やれやれ、やかましい奴だ」

 直樹は立ち上がって椅子と机をずらし、斎と英司が薔薇の花を履き集めるのに手を貸す。

「ふう、やっと終わりました」

「ご苦労さん。じゃ放課後、また生徒会室でな」

 三人は最後に笑みを浮かべて瞬間移動し、それぞれの教室に戻っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ