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陰謀だらけの魔法合戦(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編6)  作者: 月森琴美


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7/15

 雅人と斎が屋上で語らっていた同時刻。

 職員室の横の部屋、職員用応接室では体育祭に関する打ち合わせが開かれていた。

 面子は体育祭全般の指揮を取る体育祭実行委員長 藤昇。

 生徒会役員を代表して会計の森崎直樹。

 教職員代表の3年A組の担任 芳賀俊哉(はがとしや)

「では大体の役割分担を決めていこう」

 芳賀先生の言葉で、二人の生徒は配られたプリントを覗き込む。

「すでに始めていることだが、生徒会には招待状の準備をお願いしたい。あと体育祭実行委員長及び役員が決定したら、その告知をして欲しい」

「わかりました」

 直樹が黒眼鏡をきらりと光らせて了承した。

「次は体育祭実行委員長……面倒だから藤君と呼ぶぞ。藤君にはまず自分と一緒に体育祭実行委員をしてくれる役員を選抜して欲しい。補佐を2名、書記を2名。君を合わせて5名を選出すること。これは出来れば今週中には選んで、僕の方に報告だ」

「は、はい」

 昇は返事をしてから、ふっと気付いて質問する。

「あのこの四人ってどういう基準で選んだらいいんでしょうか。何か条件とかありますか」

「特にないな。君が一緒にやりたいと思う人に声をかけるといい」

 そう言って芳賀先生は、一旦言葉を止めた。

 直樹の方をちらりと見たが、彼は特に何もコメントをする気配がない。

 生徒会は本当に今回は何も手を出してこないようだ、と感じた芳賀先生は、こほんと咳払いをして続ける。

「これからおおまかな実行委員の役割を説明する。それを聞いて、共に実行出来そうだと思った生徒を、君が選ぶことだ」

「わかりました」

 昇はうなずいた。

「では説明する」

 芳賀先生は細かい注釈を入れつつ、プリントに書かれた事項を説明した。

 時々気になる事をメモし、質問しながら昇はやるべき事を頭に入れる。

 覚悟していたが、かなり細部まで気をつかわないといけないようだ。

「――以上だ。他に質問がなければ、これで終わるが」

「はい。また何かありましたら、ご相談します」

 昇はそう言って、よろしくお願いします、と頭を下げた。

 芳賀先生は満足したように微笑むと、がんばってくれよ、と一言言って、席を立つ。

 直樹も無言で芳賀先生についていき、応接室には昇一人だけになった。

(やれやれ)

 彼はため息をつくと、肩から力を抜く。

(わかっていたけど怖すぎるなあ。ほとんど戦闘モード全開だった)

 先生とのやりとりの間、何も意見を言わず、ただ座っていただけの森崎直樹。

 正直なんで君ここにいるの、と突っ込みたいぐらい置物のようだった彼だが、昇に対してあきらかに挑戦的なオーラをびんびんと投げ続けており、いつとんでもない毒舌な横槍を入れられるのではと正直びくびくしてしまった。

 芳賀先生もかなり意識していたようだし、居心地悪かっただろうと昇は察する。

(やめてくれよ。僕だって好きで引き受けたわけじゃないんだ)

 心の中でぐちりながら、早くも胃の痛みを感じる彼であった。

(おかげで出せなかったしな)

 鞄の中に入っている実行委員会の役員の名簿。

 すでに藤一族や懇意にしている魔族の家の学生の中から無難そうな者を選び、昨日の時点で電話をして協力を取り付けてあった。

(この膨大な内容をこなすとしたら、さっさと動き出さないとなあ)

 なんだかんだでやるしかないと腹をくくっている昇は、直樹が出て行ったであろう時間を計算し、職員室に顔を出す。

 3年担任の机が並んでいる列に行き、芳賀先生を探し出した。

「先生」

「おう、どうした」

 先生はコーヒーカップ片手に陽気な笑みを浮かべる。

 鞄から昨日決めた役員の名簿を出して渡すと、目を丸くされた。

「もう決めたのか、早いな」

「はい。実は昨日から候補の皆さんには声をかけておいてたので」

「さすがだ」

 手放しで感心され、昇は嬉しいという気持ちより、どこか違和感を感じてしまう。

 芳賀先生はカップを置くと、声を低めた。

「冗談抜きで君にはがんばってもらいたい。私は期待しているよ。何か困った事があったら相談しなさい。出来るだけ力になろう」

「ありがとうございます」

「君もこんなことになって大変だと思うが、正直君の方が良いと私は思っている。私だけではないよ、学園の教師の半数以上が君に期待していると言ってもいい」

「あの、それは一体何への期待でしょうか」

 昇は嫌な予感がして、こそっと尋ねる。

 すると芳賀先生は、にやりと意味ありげに笑った。

「君の将来に対する期待とでも言っておこうか。良ければ君の側につく教職員の名簿を作成してあげよう。参考にするといい」

「……」

「そのかわり首尾よく事が進んだら、私達のことを忘れないで欲しいね。君が栄光を掴んだ暁には、ぜひその横に我々も加えてくれたまえ」

「それはその……あまり期待に添えないと思いますが」

「なあに。君なら上手くやるさ。何しろ人望も人の上に立つ人格もある。本当は隠してるようだが魔力だってかなりのものだと聞いているぞ。旗取り合戦ではぜひ出し惜しみすることなく、その才を存分に生かしてくれたまえ」

「まあ、僕なりにがんばります」

 そう応えて、昇はこの曰くありげな会話を打ち切り、さっさと職員室を出ていった。





 山下英司は放課後、働きアリのように忙しく動いていた。

 昼休み、招待状のミスプリントが発覚し、それを届けた山田先生から放課後また来て欲しいと言われたので、まずは職員室に向かう。

「失礼します」

 山田先生のところに行くと、すでに新たなボール紙の箱が置いてあった。

「山下か。それを頼む。一応全部確認済みだが、気をつけてくれ」

「あ、はい」

「帝様にあやまっといてくれよ。発見してくれて本当に助かったとも」

「はい」

「その……帝様、怒ってたか」

 顔色を伺う山田先生に、笑顔で英司は言った。

「大丈夫です。誰にでもある誤りじゃないですか。怒ったりなんかしませんよ」

「ならいいんだが。次からは気をつける、とくれぐれも帝様によろしく言っといてくれ」

「わかりました」

 失礼します、と箱を持って、英司は職員室から出る。

 そのまま生徒会室に瞬間移動しようとしたのだが――。

「帝様もこれで終わりよね」

「しっ、声が大きい」

 聞こえたらどうするの、という意味深なささやき声が耳に入って、彼の足が止まった。

(何だ、今の)

 どうしても素通り出来ず、彼はこっそり風の魔法を発動させ、周囲の音を拾う。

 職員室の廊下を曲がった角にある職員専用の給湯室。

 ここでコーヒーやお茶などを沸かして職員が飲むことが出来るようになっているが、少しだけ開いた扉の奥から、その会話は聞こえてきた。

「だってさ。藤家といえば、クリスティ一族に次ぐ家柄でしょ。魔族の名門じゃないの。そこの跡取りで、総帥の実の孫。今回昇様を抜擢されたのって、総帥ご自身だとかいう話よ」

「それはあくまで噂じゃない」

「でも理事長が推薦したってのは事実よね。それに分家代表たちも別に騒ぐことなく受け入れてる。これはもう決まりだって、みんな言ってるわ」

「それはそうかもしれないけど……」

「帝様がもし後継者にはっきりと決まっているなら、今回の件はありえないでしょう。だって本来なら体育祭を取り仕切るのは生徒会の役目よ。それが今年に限って、こんな交代劇をするなんて」

「また確証のない話よ。あまり大きな声で言わない方がいいわ」

「私は正直な話、今回の総帥の判断は正しいと思うわ。帝様はすっごく自分勝手で我侭で気分屋で、職員たちもみんな顔色を伺ってご機嫌損ねないように必死じゃないの。そんな人に財閥の跡取りなんてまかせられると思う? 昇様の方が適任よ」

(なっ)

 英司はこれが何の話かわかり、思わず箱を床に落としてしまった。

 幸い給湯室は少し離れた所にあるので、彼に聞かれてしまったことはわからなかったようだが、もうこれ以上風を操って聞く気にはなれず、英司はあわてて箱を拾い上げる。

(昇様って、体育祭実行委員長の藤先輩のことだよな)

 話の流れで、どうやらこれは体育祭実行委員長の事らしいと英司は気がついた。

 5時間目のホームルーム、体育祭の種目決めをしてた時に、各クラスをまわって挨拶をしにきたのだ。

(どうやって決まったのかは知らなかったけど、理事長が推薦したのか)

 箱を持ち直して廊下を進みながら、英司は考え込む。

(そもそも俺達が体育祭を取り仕切るのをやめたのは、別にクリスティ本家から指図されたからじゃない。雅人先輩の特異体質のせいで、今年はどうにも難しいから他の人にまかせようって決めただけだ)

 なのにこんな噂が立ってしまうなんて、嫌な流れだ。

 悶々としながら、英司は箱を抱えて生徒会室に戻っていった。




 招待状にすべて印を押し終えたあと、英司は生徒会室の冷蔵庫を開けて、帝と自分の分の炭酸飲料をコップに注ぐ。

「どうぞ」

「ああ」

 帝に出すと、すぐにコップの中身をぐいっと飲み干した。

 ずっと集中していたので、お互い喉が渇いていたのだ。

 英司も自分のコップの飲料をすぐに飲んでしまう。

「どうした」

「えっ」

 そのまま手でコップをいじっていた英司に、帝の声がかかった。

「その、ちょっと……」

「気になることがあるなら言え。ちょっと、じゃわからん」

 小学校からの付き合いだ。

 彼が何か思い悩んでいることなどお見通しなのだろう。

 帝はじっと英司を見た。

 決まり悪くなって、彼は目をそらす。

 帝のため息が聞こえた。

「言いたくないなら別にいい」

 俺はもう帰るぞ、と言うと、帝は立ち上がり、鞄を持って生徒会室を出て行ってしまう。

 英司はコップを片付けながら、更に重い気分になった。

(今のちょっとまずかったよな)

 自分たちの王様は意外と繊細だ。

 隠し事や自分だけ蚊帳の外に置かれることを、とても嫌う。

(もっとはっきり言えばよかったかなあ)

 でも話題が話題だ。

 生徒達の口さがないうわさ話ではなく、職員たちが発信源だったりする。

(あーあ、なんかもう気分悪すぎだ)

 いつも明るく深く考えない性格だったはずの自分なのに、何でこうなったんだ、と英司は心の中でぐちりながら自分の鞄を手に帰宅した。




 斎は雅人と屋上で別れたあと、下校中に茉理と駅で出会った。

 たわいない会話を少しして別れたあと、反対側に来た電車に乗り込み、家を目指す。

 帰宅するや否や、斎は夕食とおふろを早めに済ませ、宿題も終わらせて、さっそく直樹からもらった本を開いた。

 とりあえず戦闘の基本が書いてある本から開いてみる。

 そこにはずらずらと戦闘で気をつけねばならない事が目次に記されていた。

 最初から読むかと斎は更にページを繰る。

[戦闘の前に、相手をよく知ることは重要である。あらかじめ対戦相手がわかっているなら、情報を出来るだけ集めること。相手の魔法属性、戦闘スタイル――攻撃系、補助系、回復系などは、基本的に押さえておきたい内容だ]

(相手の事、か)

 その文を読んで、斎はPCに今日直樹が転送してくれた双子のデータを思い出し、本を中断して小型PCを開いた。

 北原瑠衣のデータを開いて覗き込む。

(確かこっちの赤毛の子は、攻撃魔法が強くて脳筋だって直樹先輩が言ってたっけ)

 そう思って見ると、信じられない内容が書いてあった。

 北原瑠衣。魔法系統、炎。身長185センチメートル、体重80キロ。

 明るく人目を引く容姿で、初等部では紅薔薇の君と呼ばれている。

(身長185センチって僕より遥かに高いじゃないか)

 斎は最近の小学生はこんなに大きいのか、ととにかく驚いた。

(成績は……うわっ、さすが脳筋だ)

 小学校のテストで平均点が5点って、将来本当に大丈夫かと思ってしまう。

 更に驚いたのは魔力量だ。

 通常の子どもの魔力量の10倍はある。信じられないほど驚異的な数字が記されていた。

(ありえない。こんなに魔力を持つ存在など魔獣ぐらいしか考えられないよ)

 自分や英司、帝だって、ここまでの数値は出ない。

 あきらかに人間離れした検査結果だ。

 脳筋で攻撃魔法が半端なく強い。

 直樹の説明を完璧に裏付けるものだった。

(彼が本気で攻撃してきたら、校舎なんて簡単に吹っ飛ぶかも)

 これは戦闘方法をよく考えなければならないと、斎は彼のデータを頭に叩き込んだ。

 もう一人の北原怜のデータにも、やはり直樹の説明通りの数値が並んでいる。

(こっちも身長180センチ、体重は75キロか)

 双子だからよく似た体型なのだろうか、それにしても二人とも長身だ。

(こっちはクールでカリスマ的美貌を持ち、初等部では白薔薇の君と呼ばれている、か)

 対象的なあだ名をつけられ、女子の間では絶大な人気を誇っていると記されている。

(さすが雅人先輩の従兄弟だけあるよね)

 黒髪、黒い瞳に整った冷たい美貌。

 そして成績は、見事に素晴らしい数値であった。

(平均点が全科目100点。これはこれで凄いな)

 自分の初等部の時のテスト結果を思い浮かべ、斎は改めて感心する。

(でも成績はいいけど、身体能力は全然駄目そうだ)

 身長と体重はなかなかのものなのに、何故か筋力や瞬発力など運動全般に関する数値はかなり低い。

 更に低血圧で朝に弱く、貧血でしょっちゅう倒れる、と書いてあった。

(心臓に持病あり。出席日数は卒業出来るぎりぎりか)

 更に意外なのは魔力量だ。

 頭脳は優秀なのに、魔力量はかなり低い。

 正直この数値も驚異的だ。

(あと1点低ければ、もはや通常の人と変わらないな)

 魔力を感じない、魔法が使えない一般人とほぼ同レベルの数値を見て、斎は思った。

 冷静沈着、状況判断や情報分析に優れている。

 直樹の説明ではそう言っていた。

(このデータだと、直樹先輩並みに頭は回ると見ていいかも。でも実際の攻撃は不可能みたいだ)

 魔法系統はやはり炎だ。

 北原の家系なのだから当然そうなのだろうが、炎系は攻撃に特化した魔法に強い特徴がある。

 でもこの魔力量では、その特性を生かすことは出来ないだろう。

(不憫といえば不憫かもしれないな)

 生まれ持った属性や魔力量を変えるのは不可能ではないが、至難の業だ。

 残念な魔力ではなく、優秀な頭脳に磨きをかけて少ない魔力を効率よく使って来るに違いないと斎はやはり彼のデータもしっかりと頭に入れた。

 ここまでチェックすると、集中していた気がふっと抜ける。

 だらんと椅子に身をもたせかけ、斎は目を閉じた。

 今の段階で、どうやって彼らが自分たちに挑んでくるのか皆目検討がつかない。

(今回は直接戦闘じゃなくて、探知や探索能力を駆使した勝負になる)

 お互い深く読み合った方が勝つ。

 雅人の言葉が、頭によみがえった。

(向こうの二人も、こっちの事を調べてくるはずだ)

 自分がしているように、相手もおそらくデータを調べて、帝や英司、そして自分の能力や魔力量、特徴などを頭に入れて作戦を練ってくるだろう。

 ふと気がついてPCを操作し、一族のデータベースにアクセスする。

 帝の事を検索しようとしたが、何故かエラーメッセージが出た。

(あれ?)

 もう一度やってみたが、やはりエラーだ。

 画面にはこうメッセージが出る。

[トップシークレットモードでログインをお願いします]

(そうか。帝や僕たち分家代表のデータは、超機密事項。一族の限られた者しか見ることが許されない。通常ログインでは閲覧不可能にしてあるのか)

 その事に思い至り、あきらめて斎はPCから目を離す。

(明日直樹先輩に聞いてみよう)

 PCを閉じると彼はまた本に向かい、就寝までの時間を読書に費やした。




 深夜の屋上は、昼間の暑さとはうって変わって秋の気配が感じられる涼しい風が吹いていた。

 中等部の校舎の上、昼間斎と雅人が語らった場所に、今度は違う人影が二つ。

「それにしてもさ」

 燃えるような髪をした少年が、フェンスに背中をもたせかけて鼻を鳴らす。

「この学園のセキュリティシステムって屑だよね、ほんとクズ。こんなに簡単に進入出来ちゃうなんてさ」

 馬鹿にしたような笑いを添えて、赤い髪の少年は言い放った。

「そう吼えるな、瑠衣」

 横に立つ黒髪の少年が、彼の言葉を制す。

「セキュリティシステムが無能なんじゃない。僕達が有能すぎるだけだ」

「はははっ、違いない」

 面白そうに笑う瑠衣を見ながら、黒髪の少年はため息をこぼした。

「少しは真面目にやってくれよ。一応うちの一族の大物とやりあうんだからな」

「えーっ、なんかさ、全然つまらないんですけど」

 瑠衣は体の向きを変え、黒髪の少年と同じように下の校庭を見つめる。

「ほんと相手が小物すぎて燃えないよね。そう思わない? 怜」

「勘違いするなよ、瑠衣」

 怜は瞳に理知的な光を宿して、側の相棒を見た。

「僕達の目的は、生徒会役員の椅子を手に入れることでも入れないことでもない」

「はいはい。わかってますってば」

 瑠衣は肩をすくめる。

「あの性悪眼鏡とナル兄の言いなりってのは癪にさわるけど。ま、今回はしょうがないでしょ。俺達だって一族の一員だし。ちゃんとそれなりにお仕事しないとね」

「目的を確認しておこう。今回僕達が動くのは、あの三人――いや、直樹先輩と変態ナル男を含めた五人に、僕達がいかに優秀で手ごわい相手かということを知らしめる為だ」

「うんうん」

「そしてもう一つは、あの二人が僕達に真に依頼してきたことを受諾するかどうかを判断するためだ」

「姫姉ちゃんかあ。正直データ見ただけじゃ、まったく普通の一般人だよね。これといった特徴のない」

 瑠衣はうーんと考え込む。

「もう少し可愛くて守りがいのある女子だったら、やりがいもあるんだけどなあ。容姿も能力も全然平凡。そこらに似たようなのはいくらでもころがってますってレベルの子を、超激レア最重要人物として守れなんて言われてもさ。ほんとやる気が出ないよねえ」

「そうぐちるな。あれでも一応王様が惚れた相手だぞ」

 接してみれば、何か魅力の一つでもあるだろう、と怜は淡々とつぶやく。

「どうかなあ。王様に女を見る目がないんじゃないの?」

「それは同感だが、まあ僕達は彼女の事を外面のデータだけでしか知らない。そして本当に超レアな姫君として今後守りぬく対象とするかどうかの判断は、僕達に委ねられている」

「そうだねー。やる気が出る相手だといいよねー」

「瑠衣、お前本当にやる気ないな」

「えーっ、だってさあ。期待出来そうにないじゃん、姫姉ちゃんも、王様チームも」

 つまんないーっ、燃えないーっ、面倒くさいーっ、そうぶつぶつ言う双子の兄の背中を、怜はこつんと拳で軽く打つ。

「僕はけっこう楽しいけどね。すでに僕の仕掛けた罠は発動している。敵がそこに思惑通りにはまって自滅していく様を想像しただけで、わくわくするんだ」

「怜、お前って本当にヤな性格してるよな」

「万年やる気ゼロのお前には言われたくない」

「そうかあ。俺、やる時はやるぜ」

「どうだが」

 ため息を一つつき、怜はまた校庭を見下ろす。

「そういえばさ」

 瑠衣が思い出したように言った。

「昼間、商店街で会った子、あれが姫姉ちゃんだよね」

「ああ。単純に僕達の魔術に感動して拍手してた奴か」

「横の友達二人は気付いたみたいだけど、やっぱデータ通り魔力はゼロ。魔力感知も出来ないってわけか。あーあ」

「そこでつまらなそうな顔をするな。むしろハンデがあって面白いじゃないか」

「そう? そうは思えないけどさ」

「あれは予期せぬ偶然の接触だったが、たぶん良い方向に行くと思う」

「そうかなあ」

「ま、どうせ当日もアノ格好でやるからな。むしろ好感度が初対面よりは上がるだろう」

「あーあ、ナル兄の馬鹿。何が変身魔法を七年ずっと継続させて、周囲の人間を騙し続けるなんて君たちに出来るわけないよね、だ! ちゃんと出来るよ。もう何年目?」

「初等部入学の時からだから、今年で六年目だな。おかげで僕達は男子なのに、クラスでは女子と思われてる」

「最近じゃSNSとか投稿サイトとかで一般大衆も騙せてるしねーっ。ああっ、俺達ってほんと優秀すぎる。恵まれたこの才能が怖いね」

「お前……最近変態ナル男に似てきてるんじゃないか」

「えーっ、そうかな」

「気を付けろ。間違ってもナルと同じ性格になるなよ。そうしたらいくら双子でもお前と兄弟の縁を切るからな」

「そういう怜だって、どんどん性悪陰険眼鏡っぽくなってきてるじゃないか。気をつけてよ、俺あいつ凄く嫌いだし。性悪二号になったらえんがちょだぞ」

「……随分古い台詞を言うんだな」

「こないだ見たマンガに出てた」

「作者は昭和生まれか」

「あ、じゃあこれ知ってる? これもマンガに出てたけどさ、チョベリバとチョベリグ」

「お前、少女マンガでも読んでいるのか」

 あきれた顔で怜は言った。

「それは90年代のギャル語だぞ。男子はほとんど使わない」

「でもそう言うってことは知ってるんだ」

「まあ、知識としては頭に入ってる」

「ふうーん、知識として、ね」

「別にいいだろ」

 意味深な視線を投げられ、怜は歳相応に耳を真っ赤に染めた。

「とにかくやるべき事は完璧に」

「やるべき事はそれなりに」

「僕達らしく」

「俺達らしく」

 そこで二人は同時に片方の拳を出して、コンっと合わせた。

「やってしまうぞ」

「やっちゃいましょう」

 双子のシンクロかけあいは見事に決まり、二人は互いの顔を見合わせて不敵な笑みを浮かべあった。

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