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陰謀だらけの魔法合戦(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編6)  作者: 月森琴美


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 ついに旗取り合戦も終盤に差しかかった。

 残るはC組とE組。

 事実上の決勝戦である。

 しかし両者の状況はまるで正反対であった。

 魔力も体力も満ち足りたC組に対し、D組との戦いで死力を尽くしたE組は魔獣も少なく、クラス全体の魔力も底をつきそうになっている。

 誰もがC組の勝利を確信していた。

 来賓席では、興奮したゆり子理事が執事に鼻息も荒く命じている。

「こんな場所ではよく見えないわ。ついにわたくしの夢の実現の時。穂積、今すぐわたくしをよく見えるあの台の上に連れていきなさい」

「かしこまりました、奥様」

 穂積と呼ばれた執事は呪を唱え、次の瞬間ゆり子の体は朝礼台に瞬間移動する。

「あー、助かった」

 長椅子ではやっと接待から開放されたくまの着ぐるみが、頭をはずして顔を風にさらした。

「うわっ、すごくげっそりしてる」

『小坂先生、疲れてますね』

 英司と斎はその様子を見て、本当にお疲れ様と心の中でねぎらう。

 元はと言えば、自分達と双子の勝負に巻き込まれた気の毒としか言いようのない先生であった。

 今のうちにと小坂先生はそそくさとその場を去る。

 どこかで着ぐるみを脱いで、本来の姿に戻るつもりだろう。

「たぶんもう着ぐるみの出番はないよな」

『そうですね。もう必要ないと思います』

 二人はこそこそとささやき合う。

 一方二人の間に座る帝は、くまの着ぐるみどころではなかった。

 激しく荒れ狂う心を必死に抑えながら、最後の大勝負を見守ろうとしている。

 もしここで雅人までもがわざと負けるようなら、あの噂は本当だということだ。

 自分以外に彼らに命じることが出来るのは、総帥しかいない。

 ――競技にわざと負けて、藤昇を勝利させる。

 彼らがこれを受け入れて実行するということは、帝自身に次期総帥としての価値を見出さなかったということだ。

 すでに直樹は、わざと負けた。

 あとは雅人の意志を、この戦いで判断する。

(雅人、お前はどうする。俺ではなく藤を選ぶのか)

 本当はこの場にいることが怖い。

 雅人の意志など確かめたくはない。

 心の中にいるもう一つの人格が、怯えて震えているのを感じる。

(弱い僕がまだいるから、誰も僕を認めないのだろうか)

 心の奥でネガティブな感情が広がっていく。

 そんな事はあるはずないと必死に自分を鼓舞しつつ、帝は己の心と戦いながら雅人に望みをつないでいた。

(頼む。雅人、勝ってくれ)




 そんな帝の心境も知らず、雅人は城の上のバルコニーで余裕の笑みを浮かべた。

「E組の諸君、随分疲弊しているようだけど、大丈夫かな。そんな状態で、この美しさと賢さを兼ね備えた愛の王子たる僕に勝てるだろうか。ああっ、何てことだ。弱者をいたぶるなんて、僕の美学に反する行為をこれから行わないといけない。今日の戦いは勝利者になったとしても決して喜びを得ることは出来ないだろう。むしろ僕は敗者になりたい。この場の誰もがその姿を永遠に記憶するだけの価値ある姿。最後まであきらめずに希望を胸に戦い続けた先、あと一歩届かなくて儚く散り行く薔薇のようにあでやかな姿を持つ敗者に」

 いつものとおり舞台に立つ主役のように、彼は薔薇の花を手に前口上を口にする。

(さてあちらはどうでるかな)

 雅人はバルコニーから、E組の様子を見守った。

(相当お疲れのようだからね。先制攻撃は譲ってあげよう。さあ、早く作戦を立てて攻撃してくるといい)

 彼はクラスメイトたちに魔獣償還の準備をさせながら、じっとE組の出方を待つことにした。





(さてどうするか)

 E組の陣地で荒い息を吐きながら、昇は頭をフル回転させる。

 余裕いっぱいのC組に対し、自分達はもう償還出来る魔獣もいないし、クラスメイトの魔力もほとんど底をつきかけていた。

 しかしここで膝を屈するわけにも、放棄するわけにもいかない。

(僕が勝たないと、お婆が何するかわからないしな)

 体育祭実行委員長を立派に務めて、体育祭を成功させる。

 最初はそれだけで良いはずで、優勝しろとは言われていたが、本気でそこまで狙う気持ちはなかった。

(まったく面倒事を増やしてくれたよ)

 昇は心の中で帝にぐちる。

(へたにお婆にちょっかい出してくれちゃって、おかげでこっちは全力で勝つしかなくなったじゃないか)

 ここで勝利を修めるということがどういう事を意味するのか、昇はよくわかっていた。

(ますますクリスティ一族に目をつけられてしまう。僕とお婆の処分だけで済めばいいけどな)

 へたしたら藤家すべてがつぶされる。

(だけどこれ以上お婆を増長させちゃいけない。ここはなんとしても僕が実績を手に入れて、勝者の特権としてお婆を説得しよう。当の本人が総帥なんてやりませんって言えば、いくらお婆でも聞いてくれるはずだ)

「どうする、藤」

「もうこっちは限界だぞ」

 青息吐息のクラスメイトに彼は笑顔で元気付ける。

「まだ手はあるさ。勝てるかはわからないけど、最後まで全力を尽くそう」

「そうはいってもな」

 魔獣もほとんど壊滅状態だし、どうすればいいのかわからない、そう顔に書いてあるクラスメイトたちを見ながら、昇はすばやく戦えそうな人数と出来そうな策を考えた。

「魔力を出来るだけ節約して、相手を翻弄しよう。こっちには旗が3つある。これを分散して隠すんだ。一本取られても、まだあと二本、二本取られても一本残る。向こうは魔獣を使ってくるけど、僕達に直接攻撃は出来ない。つまりこっちが魔獣を出さなければ、連中はまったく攻撃出来ないということになる。出来ることはうろうろして僕達の陣地に隠された旗を探すことだけだ」

「そうか。そういうことになるな」

「旗が入るぐらいの小さな箱を生成しよう。出来るだけたくさん出して、そのどれかに旗を一つずつ入れる。それを風魔法で動かして、魔獣たちに宝探しをさせるんだ。これぐらいならさほど魔力を使わないから、交代で休みながら出来るだろう。そうやって時間を稼ぎ、あっちの魔力を削り取ろう。向こうは魔獣を出さないといけないから、僕達より魔力の消費量は多いはずだからね。根気良くやれば、いつか隙が見えてくる」

「そうしよう。藤、お前よくそんなことを思いつくな」

「本当に。藤君、思ったより頼りになるわ」

 クラスメイト達の顔にやる気が戻った。

 昇はほっとして、E組の旗の防衛を頼む。

「僕はC組を直接攻めるよ。こっちはよろしく」

「えっ、お前一人で大丈夫か」

 心配そうな級友たちに、昇は微笑んだ。

「大丈夫だ。まだやれる。それに僕は一人だけど、人形を何体も生成出来るからね。それを使って城攻めだ」

「よおし、最後までがんばろう」

「おーっ」

 そう言うと、E組は次々と作戦通りに箱を生成しだした。

(さて行きますか)

 目指すは、炎に包まれた古城。

 そのバルコニーに立つ麗しの王子様。

 ふと幼馴染が言ってた言葉が頭を過ぎる。

 ――乙女ゲームの攻略対象者のようだと。

(本当にそれっぽいよな。いいさ、こっちはモブだけど、モブも最近はけっこうやるみたいだし。モブなりにがんばりますか)

 そう気合を入れて、昇は呪を唱えて城攻めのための人形を生成した。




 E組が攻撃ではなく守りに徹しようとしているのを見て、バルコニーから雅人は微笑んだ。

(へえ、なかなか考えてるみたいだね。残り少ない魔力を使って、面白い作戦だ)

 本当は攻撃を待つつもりだったが、気が変わる。

 彼はクラスメイトたちに魔獣を償還させて、E組に突撃させた。

 目指すは白い箱たち。

 大量に生成されて、あちこち宙に浮いて動き回る箱のどれかに旗が入っている。

 魔獣たちは箱に飛びつき、次々と破壊していくが、お目宛の旗は見つからなかった。

(こちらも幻影でお返しするか)

 雅人は自らの魔力を投じ、城中に白い旗の幻影を出す。

 いきなり城のあちこちに現れた白い旗の数は十や二十ではない。

 数百を越すと思われるほど、城内は白い旗で埋め尽くされる。

(どうやら来たね。読みどおり君一人か)

 雅人はふふっと嬉しそうに笑った。

 沢山の小人の人形が、旗を求めて城内を駆け回る。

 藤昇も同じく数百体ほど小人を生成して挑んできた。

(君との一騎打ちだね。さあ、正々堂々やりあおうじゃないか)

 E組の旗攻略はクラスメイトにまかせ、彼は一人城の守りに徹する。

 昇の放つ小人たちは次々と旗に触れ、幻影の旗は次々と消えていった。

(やるね。でもまだまだこんなものじゃないよ)

 雅人は旗が消えるたびに、他の場所にまた白旗をどんどん出し、小人達を翻弄する。

 藤昇も額に汗を浮かべながら、あきらめることなく更に小人の数を増やして突入してきた。

(ああっ、何て愉快なんだ。こんな対決は久しぶりだよ)

 バルコニーで魔力を発しながら、雅人はほぼ同等の力を持つ相手との一身一対のスリルを心から楽しむ。

(もっと攻めて、きわどいスリルを、切羽詰った限界の境地をこの僕に見せてくれ。さあ、藤君、君のすべてを僕にぶつけて欲しい。そして二人で僕達しか分からないぶつかりあった者同士の最高の高みを共に味わおう)

 他の生徒会メンバーには到底理解しがたいバトル狂のような事を考えながら、雅人はすっかり精神が高揚していた。

 彼の気分を盛り上げるかのように、城の背後から有名なバレエ音楽まで流れてくる。

 彼を応援するプリンス・ソロリティの女子たちの応援ダンスが始まったのだ。

 彼女たちは着慣れないバレエのチュチュとシューズを履いて、お世辞にも似合わない格好を晒しながら、恥も外聞も脱ぎ捨てて一生懸命バレエ『白鳥の湖』もどきの踊りを、大太鼓と有名なバレエ音楽に合わせて踊っていた。

「みんなっ、私達の愛と情熱を込めた応援で、雅人様に勝利のパワーを送るわよーっ」

 ソロリティ会長の大太鼓に合わせて、気合の入った掛け声と共に、彼女たちはがんばっている。

(ああ、なんて愛らしいレディたちだろう。ここは勝って勝利の栄冠を君たちに送りたいけど、本当にごめんよ。今日の僕は敗者にならなければいけない。苦渋の決断の末、涙を飲んで敗北しなければいけない悲劇の王子なんだよ。でもその姿は華麗で感動的なものにしてみせる。君たちの心に永遠に残るようにね)

 そんな事を考えながら、彼は自分に与えられた役割に酔いしれていた。

 しかし良い気分もすぐに冷めそうなダミ声が、朝礼台から響く。

「あんな品性の欠片もない踊りより、ずっと芸術的で素晴らしい応援舞踊を皆様にお見せしなさい」

 いつの間にか朝礼台の上に威厳たっぷりの女王のごとく立ったゆり子理事の命令で、なんとE組と来賓席の間に再び燕尾服を身につけた歌劇団の女性団員たちが現れる。

 そして今度は彼女たちの歌と華麗なダンスが校庭に響き渡った。

 こちらは藤昇を讃える歌詞で、しごく美しいソプラノで歌われる。

 それにあわせて一糸乱れぬ優雅な動きで、団員たちは踊りだした。

(うーん、やっぱりあっちはプロだけあって素晴らしいね。歌もダンスも完璧だ)

 それを見ながら雅人は思う。

(でも瞳に輝きはないね。僕のレディたちはダンスは素人だけど、その目は輝きに満ちている。それは完成された芸術をも超える素晴らしいものだと僕は評価させてもらうよ。どちらが人の心をうつのかと問われれば、絶対に僕のレディたちだろう)

 逆にやりたくもないダンスと歌を披露しないといけない団員たちに、彼は心の底から同情した。

 そしてちらりとE組の藤昇をみやる。

 彼の顔は応援する団員たちの歌とダンスが始まった時から喜びというより、またかといううんざり顔になっていた。

(あちらもお困りのようだね。まああんな感性の祖母を持ったら、僕だって裸足で逃げ出したくなるよ。その点に関しては同情するね)

 せめて観客が愉快で楽しめる競技内容にしたいものだと、雅人はバルコニーから校庭全体を見下ろして微笑んだ。




 来賓席は突然現れた燕尾服の女性達に視界を奪われ、競技がよく見えないという状態に陥っていた。

「すごい迷惑だな、これ」

『まったくです』

 英司がぶつぶつ文句を言う。

 斎は彼女たちの体の隙間から校庭の様子を見ながら、ため息をついた。

「いくらあっちの応援団が凄いといってもさ。これはこれでやりすぎだよ」

 そうは思いませんか、帝、と英司が横に座る彼に話題を振っても、帝は全然反応しない。

 彼は呪を唱えて小さなリスのような魔獣を償還すると、そっと校庭に放った。

 そしてその魔獣の視覚を通して、もっと近くで競技を観戦する。

 リスは五角形の防御壁のすぐ側まで来て、そっと中の様子を覗いた。

 帝の脳裏にリスが見た物が浮かび上がる。

 C組のお城のバルコニーでは、雅人がバトルの喜びにひたっているのを目にした。

(このバトル狂は楽しんでやがる)

 いつもの雅人の姿であることが、逆に帝の心を安心させた。

 必死に小人で攻める藤昇の額には、限界を超えて魔力を振り絞っているため玉の汗が浮かび、頬を伝って地面に落ちる。

 どう考えても雅人の――C組の勝利は揺るがないだろう。

(もはや持久戦になっている。こうなったらより魔力が多い方が勝つ)

 ずっと戦闘を最小限にして魔力を温存していたC組と、限界まで戦い抜いたE組ではどうしたって魔力に差がありすぎた。

 旗を守るE組のクラスエリアにいる生徒たちも、徐々に魔力切れを起こしてばたばたと倒れている。

 回復役が必死に回復魔法をかけているが、その回復役ですら限界に来ていた。

 それでも最後まであきらめない、そんな気迫でE組はまだ持ちこたえている。

(その戦意喪失しない精神力は流石だと思う。だがそろそろ潮時だな)

 帝は冷静に状況を分析し、優勝はC組かと結論付けた。

 だがその時。

 雅人がバルコニーの手すりぎりぎりの所まで前に出て、指をパチンと鳴らした。

「やれやれ、つまらないから増援と行こうか」

 もう何もしなくても勝てる。

 それなのにいきなり彼は、自分の魔獣を償還した。

 それも一体何体いるのか数えるのも嫌になるぐらい大量に。

 父兄や生徒達からも驚きの声があがる。

 帝も心臓が止まりそうになった。

(どうしてだ、雅人)

 彼が償還した魔獣は、黒い炎に全身を包んだ狼の魔獣。

 炎を装備したあれだけの魔獣がエリアに突っ込めば、たちまちすべての物を焼き尽くしてしまうだろう。

 ――あの白い箱たちも、中に入った旗さえも。

 旗はすべて損なうことなく、5本をそろえなければならない。

 千切れたり、まして燃やすなどしたら失格だ。

(血迷ったのか、雅人)

 昇やE組の生徒たちも、C組の生徒達も、全員が驚愕する。

 どう見てもこの魔獣を使う事は、敗北するようなものだ。

 帝の心は、今や完全に打ちひしがれて砕けそうになる。

(雅人、お前もなのか)

 直樹だけではない。

 雅人までもがわざと負けるというのか、この勝負に。

 衝撃で動けない帝の目の前で、雅人は魔獣をE組に突入させた。

 あわててE組の生徒達は、昇の指示で隣のD組の陣地に逃げ込む。

 C組の生徒達も自分の償還した魔獣が炎の巻き添えをくわないよう、あわてて自軍のエリアに戻した。

 狼達は白い箱や散らばった人形たちに飛びついて噛み付き、引きちぎり、体に纏った炎をつけて燃え上がらせる。

 先ほどまでは水害に泣いたが、今度は火事だ。

 E組の陣地は今や黒い煙と炎に包まれて、盛大に燃え上がっている。

 その中でゆっくりと金髪に赤いドレスの女王人形が炎の中で崩れ、灰になっていくのを、校庭にいた全員が見たのだった。

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