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陰謀だらけの魔法合戦(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編6)  作者: 月森琴美


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 C組の燃える白い古城の上では、雅人(中身は英司)がそっと自分の魔獣を償還していた。

 呪を唱えると手のひらぐらいの大きさの小さな魔方陣から、小さな鳥が姿を現す。

 雅人(中身は英司)は、自分の指先に止まって嬉しそうに鳴く鳥の体に目に見えない強力な気流を纏わせた。

 どんな防御結界も一瞬気流の刃で切り裂いて無効にし、中へ侵入出来るようにすると、彼はそっとその鳥を空に放す。

 もし目にした者がいたならば、それは魔獣であるとは思わないだろう。

 ただの小さな鳥がたまたまバルコニーに羽根休めに立ち寄り、雅人と戯れてまた飛び去ったぐらいにしか考えない。

 それほど鳥は目立たない、小さなどこにでもいるつばめのような姿をしていた。

 雅人(中身は英司)の元を鳥が離れると、感心したような声がかかる。

『君もなかなかやるね、英司君』

『それは成功してから言ってください』

 雅人(中身は英司)は少しふくれっ面をした。

『というか方法はまかせるから黄色い旗を取ってきてね、よろしくとか、もっと早く言ってくださいよ』

『君ならなんとか出来るだろう? 事実もう仕掛けてる』

『そりゃやらなきゃいけないなら、早く仕掛けないとまずいでしょう。旗をE組に奪われたら面倒ですし』

 そう言って、雅人(中身は英司)はじっと鳥の動きに意識を集中させる。

 勝負は一瞬。

(さっきみたいに油断した所を襲うしかないよな。たぶんE組の魔獣たちは成功しないと思うし)

 先ほどから観察して考えたのだが、空を飛ぶ魔獣は出現していなかった。

 つまり一度飛空してしまえば、攻撃を受けない可能性がある。

 雅人(中身は英司)は、鳥をそっとB組の陣地にある社風の砦に潜ませた。

 中は予想通り、上の天井は木の梁が組まれていて、鳥が身を潜めるには丁度良い。

 そこに鳥をそっと隠すと、英司は鳥の目を通して社の中を観察した。

(思ったとおり、旗の周囲は強力な結界が覆っている)

 あそこに近づけば、即座に吸い込まれて異次元に飛ばされる。

 そんなことを考えていたとき、何かが社内に飛び込んできた。

 小さなネズミ型の魔獣だ。

(E組のか)

 英司は魔力を気取られないよう最小限にしつつ、鳥の眼力に己の視力を同化させる。

 ついに待ちに待った瞬間が来たのだ。

 ネズミが入り込んできたのと同時に、B組の防御役が数名社に駆け込んでくる。

 その中にB組の六花すみれの姿もあった。

 ネズミは一直線に旗を目指したが、すぐに仕掛けられた結界の罠にかかる。

「チューッ」

 結界に張られた光の糸のような網に絡め取られ、ネズミは必死に抵抗した。

 しかし旗から半径5センチほど離れた周囲に発生した渦のようなものに、ずるずる体が吸い込まれていく。

 暴れても体はどんどん吸い込まれ、とうとうネズミは渦の中に消えていった。

「やった」

「流石六花の結界は違うな」

 防御役の生徒たちは、口々に六花すみれを囲んで賞賛の言葉を送る。

(やはり六花家の結界は凄いな)

 英司も心の奥で賞賛した。

(あの光の触手みたいなのは、上から行っても反応するのかな)

 そうなったら魔力を込めて引きちぎればいいか、と英司は考え、その時を待った。

(出来るだけぎりぎりまで悟られないように、一瞬で掠め取る)

 防御役の生徒達は外の守りに出て行って、社の中は六花すみれ一人になる。

(よし、今だ)

 英司は意識を集中し、自分の意思を小さな魔鳥に伝えた。

(あの旗を持ってこい)

 鳥は天上から急降下して、旗の棒の先端をくちばしで咥える。

 その間、一度も地面をかすらなかったので、結界は発動しなかった。

(良かった。地上侵入のみ発動するタイプか)

 この魔鳥は、見かけによらず物をしっかりと咥えて離さない性質がある。

 そのためこういう役割には非常に適していた。

 六花すみれは社の入り口に意識を集中させていて、まだ鳥が旗を咥えたことに気付いていない。

(今だ。すぐに飛翔して外に飛び出せ)

 英司の念が伝わり、魔鳥はすばやく旗を咥えて飛翔する。

「あっ」

 流石に気付いたすみれがあわてて腕を伸ばすが、もう遅い。

 英司の魔鳥は超スピードで旗を咥えて社の外に飛び出すと、そのまま天高く飛翔した。

 眼下には、なすすべもなく自軍の旗が持ち去られる様を見ているしかないB組の生徒達。

(悪いね。でも空からの攻撃に対して何の対策も取っていないのは、大きなミスだよ)

 英司は心の中でそう思いながら、魔鳥が攻撃されずにC組のバルコニーまで旗を咥えて戻ってくるのを待つ。

 魔鳥は雅人(中身は英司)に旗を渡すと、得意そうに一声鳴いた。

「よくやった。ありがとう、シュエ」

 雅人(中身は英司)は魔鳥を指で優しく撫でて、空間を開き、魔界に戻してやる。

『流石英司君。では勝者としての勝どきポーズを華麗に決めてくれたまえ』

『あー、はいはい』

 雅人(中身は英司)は、雅人蛙の要望に答えて黄色い旗を右手で持ち、バルコニーから高々と掲げた。

 拍手と歓声が観客たちから出る。

 笑顔と薔薇の花吹雪もついでに追加しておいた。

『これで完璧ですよね、雅人先輩』

『きめ台詞がないのが残念だけど、まあいいよ。とりあえず君のがんばりに、僕も賞賛の言葉を送ろう。よくやったね』

 意外にも雅人蛙に褒められて、英司は目を丸くする。

『どうしたんです、先輩。随分素直な反応ですが』

『失礼な。僕はきちんと評価すべきところは評価し、賞賛する男だよ。いつも何か荒探しをしてケチをつける失礼な奴だとでも思ってたのかい』

『あまり褒められたことがないので、そういう人なのかと』

『ひどいなあ、英司君。僕は君をこんなに大事に思っているのに。普段どれだけ僕が君に愛情を注いでいるのか、よくわかっているはずじゃないか』

『体のいいおもちゃとして玩んでるだけだったんじゃないんですか。それを愛情とは言わないと思いますが』

『それもまた愛情表現の一つだよ』

『いーえ、違います。絶対に先輩の愛情表現の定義は間違ってます。今からでも自分をよく見直して、訂正してください』

『英司君がこんなに僕に冷たいなんて……僕は今、北極のオーロラの下で凍えてしまう瞬間にいるようだ。心臓が冷たく凍って、もう鼓動が止まりそうだよ』

『これだけ下でぼうぼう燃え上がる炎に包まれた城の上にいるのに、どうやって凍死するんですか。絶対に無理です』

『うっうっうっ……素直に褒めただけなのに、こんな冷たい言葉をかけられてしまうなんて。僕は、僕は明日からどうやって生きていけばいいんだ』

『おいっ、二人とも痴話げんかしてる場合じゃないぞ』

 突然二人の脳裏に、直樹の思念が飛び込んでくる。

 雅人と英司は即座に会話を中断した。

『どうしたの、直樹君』

『想定外の事が起こっている。雅人、今すぐ英司と交代しろ。ここからは残り3組。いよいよ勝負も大詰めだ』

『言われなくてもそのつもりだったけどね』

 雅人蛙はそう返し、不審そうに問う。

『君らしくもない声色だね。そんなに余裕がない状況ではないはずだけど』

『……帝の姿が見当たらない』

 直樹の返事に、二人は即座に反応した。

『どういうことですか、帝がいないって』

『わからん。だが校舎内と校庭にその姿はない。あと考えられるのは生徒会室だが、いきなり一人でそこに篭ってしまった理由がわからん』

『王様がいないなんて困ったね。生徒会室から出てこなかったら、英司君にひとがんばりしてもらわないといけないかな』

『斎はどうしました。一緒じゃないんですか』

 英司のあせった声に、雅人は小さなため息と共に答える。

『斎君は、たぶん双子に拘束されてると思う。帝がそう言ってたよ』

『ええっ、斎が捕まったんですか』

 英司は更に驚いた。

『今は競技中だ。藤昇がCとD組、どちらを攻めるか考えあぐねているから、こうしてこっちも作戦会議をしていられるが、すぐこの沈黙は破られる。いいか。ここからの作戦を伝える』

 直樹は氷の竜の上から全体を見渡して、二人に思念を送った。

『後野さん探しは一旦中止だ。というかここまで来たら、もうお前達に勝ち目はない。いさぎよく敗北を認めて、ここからは例の作戦遂行を優先させろ』

『えーっ、そんなあ』

 英司の悔しそうな声に、雅人蛙はまあまあと宥める。

『あの子たちよりも今はこっちが優先だよ。今回はタイムアップということで、ね』

『まだ負けたわけじゃないのに、ひどいです』

 しおしおと英司はつぶやいたが、もはや時間もなければ決行しないといけない作戦がもう一つあることを考えると、先輩たちの意向に従わざるをえなかった。

『まずE組には俺が仕掛ける。派手に氷竜で暴れてやるから、向こうも本気を出してくるだろう。お前たちがゆり子理事を怒らせたおかげで、向こうは彼女の機嫌を取るために適当に戦うことは出来なくなったようだしな』

『へえ、何それ。英司君たち、何したの?』

『お気に入りのくまの着ぐるみをちょっと拝借しただけですけど、そんなに怒るものなんでしょうか』

 ちゃんと返しましたよと英司は続けたが、雅人は愉快そうな口ぶりで言った。

『それは楽しいことをしたんだね。僕も混ぜて欲しかったな』

『その話はあとでしろ。それより俺が戦う間、雅人、お前はC組を動かすな。クラスの連中も全部城の中に入れて防御を最大限厚くし、全員の魔力を温存だ』

『はいはい。わかりました』

『英司、お前は雅人と交代後、斎を探せ。俺達が敗北して例の藤家断罪イベントが始まる前に見つけ出し、校庭でスタンバイしていろ』

『帝は? まず帝の方に行った方がいいのでは』

『冷たいようだが、今の優先順位は帝ではなく斎だ。帝が自らの意思で出てこないのなら、説得して引っ張り出すのに時間がかかるだろう。だが今はその時間がない。敗北イベント自体は、英司、お前が帝に俺達が求めていた役割を果たしてくれれば出来るからな。だが斎はどうしても必要だ。第5の分家代表として、皆の前で帝に忠誠を誓ってもらう必要がある』

『クリスティ一族分家の総意だということを、魔族全員に認知してもらわないといけないからね。彼がその場にいなければ、この敗北イベントの意味が半減してしまうよ。英司君、なんとしても双子から斎を取り戻してくれ』

『……わかりました』

 英司はしぶしぶうなずいた。

 納得はしていないが、物事には優先順位があることぐらい彼もわかっている。

『いいな。俺が派手に負けるから、そのあとは雅人、お前の番だ。うまくやるんだぞ』

『はいはい。ちゃんと華麗に敗者になってみせるから任せておいてよ』

『ではな。各自、検討を祈る』

 そう言って、直樹は思念会話を打ち切った。

 蛙はピョコンと肩からバルコニーに飛び降りる。

『英司君、君今すぐ瞬間移動して、校庭に飛んでいいよ。あとは僕がやるから』

『わかりました』

 英司はすぐさま瞬間移動すると、バルコニーから姿を消した。

 同時に蛙はポンっと雅人の姿に戻る。

 元の姿に戻った彼は口元に余裕の笑みを浮かべつつ、クラスメイトたちに伝達した。

「みんな、ここは見せ場をD組に譲ろうじゃないか。全員お城の中に入って高みの見物といこう」

「いいのかな」

「先に攻撃した方がいいんじゃないの」

「E組が今すぐこっちを攻撃してきたら、どうするのよ」

 口々に意見を述べるクラスのみんなに対し、雅人は最高の笑みを浮かべてみせる。

「大丈夫。あっちは絶対にD組を攻撃する。僕達はEとDがぶつかって体力と魔力を削いだあとで、ぼろぼろになっても勝者となった方を攻撃しよう。そのためには、ここは魔力と体力を温存させておくべきだ。それに最後の主役の方が面白そうだしね。E組は僕達かD組か、どっちを攻撃するか迷ってるみたいだけど、すぐに戦況は動くよ。心配しないで」

 雅人の言葉にC組のクラスメイトたちは全員従い、炎を弱めた城門から城の中に入った。

「EとDの死力を尽くした戦いだ。何が起こるかわからない。巻き添えをくわないように、最大限の防御をしよう」

 彼の言葉で、外の防壁代わりをしていた炎が勢いを増して燃え上がる。

 幻惑で出来た炎なのでまったく熱くはないが、周りでみている者たちにはまるで炎に包まれた難攻不落の城に見えた。

 立てこもる準備を整え、雅人はまたバルコニーに舞い戻る。

(僕の準備は万全だよ。さあ、直樹君。君の手腕を見せてもらおうか)

 自分と違い、演技などのたぐいはからっきし駄目な親友が、どうやってわざと敗北者になるのか。

 校庭すべての人々が注目する中、なけなしの演技力を発揮して奮闘するであろう直樹の姿を目に焼き付けておこうと、雅人は薔薇を片手にバルコニーの椅子に座って状況を見守った。

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