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朝礼台の上から戦闘開始の号令がかかった。
各クラスの戦闘担当である生徒達は次々に魔獣を償還して、ターゲットに定めたクラスの砦に向かわせる。
(凄い……何て迫力なんだ)
雅人(中身は英司)は城のバルコニーからその様子を感嘆の思いと共に眺めた。
『最初僕達は高みの見物としゃれこもう。まず作戦としてはこうだ』
雅人蛙は肩の上から、直樹と打ち合わせた作戦の全貌を説明する。
一番に攻めるのはA組。
開始と同時に三年生の中で最も再弱と言われているクラスを先につぶす。
他の組には魔族内でも名を響かせる大物魔法使いがいるが、残念なことに今年のA組にはそんな存在がいない。
すでにやる前から最下位決定とすら言われており、事実その評価に間違いはなかった。
雅人と直樹率いるクラスだけではない。
他のBとE組さえ一組でもライバルを減らそうと、同じ考えでまず最初の標的をA組にしていた。
そのためA組は4組から一斉攻撃を受けることになる。
他のクラスを攻めるどころではない。
A組の戦闘担当は急いで自身の魔獣をクラスに戻し、他クラスから来た魔獣たちとの戦いに投入せざるを得なかった。
『A組もねばるねえ。よくやってる』
雅人蛙のつぶやきに、英司は質問する。
『もし今雅人先輩がA組だったらどうしますか』
『僕かい? 僕だったら敵を圧倒的な魔力でねじ伏せるよ』
雅人蛙は何を当たり前のことを聞くんだい、と言った。
『そうですよね。他に方法ないですし』
『僕の場合は幻惑の魔法が得意だからね。それを用いて、わざと他クラスから来た魔獣たちに幻術をほどこして敵を誤認させ、同士討ちに持っていくよ。その方が直接確固撃破よりも魔力の消費量を抑えられる』
君はどうするんだい、と聞かれて、英司は俺も同じですと答えた。
『風魔法を使って相手を全部吹き飛ばすことも出来ますけど、やっぱ魔力の消費が激しいし、ここは風の幻惑魔法を使って架空の敵を作り、相手の魔獣を翻弄します。あとは風に毒になる香りを混ぜ込んで吹かせ、魔獣を全部毒で一掃するかですね』
『なかなか君の策もエゲつないね』
『どうも。いつも先輩や薔薇の花を飛ばしてるんで、面倒になったら一気に飛ばしますけどね』
『ふふっ、普段の修行が役に立っているようで何よりだよ』
『……修行というより、生活必需魔法になっちゃってるんですが』
『それはそれ。気持ちの持ちようだよ』
そんなことよりそろそろタイムリミットのようだと言われ、雅人(中身は英司)はバルコニーからA組のクラスエリアを見る。
堅牢な塔はボロボロで、塔のてっぺんから赤いクラス旗が消えていた。
『おっ、僕のクラスメイトもなかなかやるね』
赤いクラス旗はC組の放った黒い大きな犬型の魔獣一体によって、自軍のエリアに運ばれようとしている。
『やりましたね、一本目』
『そうだけど、あれは無理だね』
詰めが甘い、と蛙はつぶやく。
どういうことだと雅人(中身は英司)が首をかしげたとき、それは起こった。
黒い犬の魔獣に猿型の魔獣が何対も群がる。
犬型は猿を排除しようと攻撃するために、つい口に咥えていた旗を落としてしまった。
すばやく猿の一体がそれを取り上げる。
『あっ』
『ほらね』
蛙は人間だったら肩をすくめていたであろう仕草で、言葉を放った。
『犬型は攻撃する場合、大抵噛み付きに行くから口を使うことが多い。数で囲めば必ず口を開ける。旗の運び役としてはちょっとね。どうしても犬を使うなら、群れにして守り役を用意する必要があるだろう』
『対する猿は噛み付くより手足をつかった多彩な攻撃が可能。それもちゃんと運び役と守り役として複数を動かしている。確かにこれは最後が甘かったですね』
赤い旗は結局猿を使って襲わせたD組のものとなった。
『流石直樹君、クラスメイトへの指示も的確だ』
『あーあ、あの人に作戦で勝てる気がしないんですけど』
雅人(中身は英司)はぼやく。
蛙から苦笑と共に声が届く。
『大丈夫。今回は負け戦すればいい。ちゃんとその辺の段取りはついてる』
『そうですか』
雅人(中身は英司)は自信ありげな蛙の言葉にうなずくと、気持ちを別な方に向けた。
(帝と斎、大丈夫かな。後野さんと会えただろうか)
出来れば彼女と会って、自信に満ちた姿でいて欲しい。
何しろこれから彼にとって辛い試練が待っている。
なんとか直視して、こちらの思惑通りに彼が出てきてくれればいいが。
(旗取り合戦の勝敗よりも、こっちの方が不安でしかないよ)
そんな事を考えながら、雅人(中身は英司)は次に攻められているB組の陣地を眺めた。
序盤から旗を一つ獲得して、D組の陣地は余裕そうに見えた。
(最初は上々だ。だがそうはいかないだろう)
直樹は氷竜の頭上から校庭を見下ろす。
ここからはすべての全体図を把握出来た。
D組の魔獣を脅威と感じたB組が、猿魔獣を排除するために動き出している。
(旗を狙うのではなく、攻撃役の数をまず減らすということか。欲深くなくて結構なことだ)
直樹は自軍の魔獣を次々と屠っていくB組の特殊な魔獣に注目した。
それは非常に珍しい体型をしたモンスターで、直樹も図鑑でしか見たことがない。
(縄の形とはな。なかなか面白い魔獣と契約している)
B組は他のクラスと比べて、圧倒的に防御能力が高かった。
それはこの組のエースである魔法使いの能力に由来している。
六花すみれ。
別大陸から渡ってきたクリスティ一族とは違い、六花家は昔からこの日本の地に住まい、土地を守ってきた一族だ。
古代には巫女や神と崇められたり、時には陰陽の技を用いて人々や土地を守り、ある時代には鬼と恐れられて駆除されたりと、この国で散々立場を変えて生き抜いてきた一族である。
基本的に土地や命を守り、争い事を嫌う一族のため、クリスティ一族とも争うよりは彼らの圧倒的な支配を受け入れ、傘下に入って共存の道を選んだ稀有な人々だ。
この国でクリスティ一族とはまた違った勢力を誇るのが六花家であり、それゆえに一族傘下の魔族の中ではかなり重要な位置を持っている。
(斎の母方の祖母の実家だ。雷導様は六花家を重んじ、雅人の祖母が亡くなったあと、正妻の座を与える女性を六花家から迎えた)
元々迎えるつもりはなかった後妻だったが、一族の家内を取り仕切る女性は必要だと年寄りたちに散々言われて、雷導は六花家の息女を迎えたと記録されていた。
直樹は自分の脳内から六花家に関する情報を引き出すと、改めてB組の陣地と今そこを攻略しようとして攻めているE組の魔獣を見る。
迷路のような造りになっているB組の陣地内を、大きな牛型の魔獣が全力で突破しようとしていた。
(ふむ。あれは陽動だな)
直樹は冷静に分析する。
(あんな分かりやすい突撃型、無数に仕掛けられた罠を暴くためにわざと走らせてるとしか思えない。本命の旗を狙う魔獣は別に動いていると見ていいな)
E組のリーダー役は学級委員ではなく、藤昇であろうと直樹はわかっていた。
(あの陣地にいる人形達は、藤昇が作り上げた物だろう。大切な旗の守り役となっている)
結局最後は各クラス一番強い魔法使い同士のぶつかり合いとなる。
(最終戦は俺と雅人、藤昇の魔法勝負。そうなるように持っていく)
直樹はちらりとC組の城に目をやった。
そこに立つ雅人(中身は英司)の肩にいる策謀の相方は、どう動くのか。
(こっちが一本取ったからには、向こうにも1本手に入れて欲しいものだが)
このあとの展開を考えると、その方が望ましい。
(あいつもわかっているはずだ、そのことは)
必ずB組の黄色い旗を取る。
自分たちの望む競技の流れに持っていくために、それが今、C組に求められる役割であった。
(さてあいつがどう動くのか、少し見物させてもらおう)
自軍の魔獣もほとんどB組の縄魔獣が片付けてくれている。
(実に理想的に数が減ったな。予定通りだ)
クラスメイトには悪いが、ある程度攻撃役の魔力を削いでおく必要があった。
(余裕があったら俺と藤昇の一騎打ちには持ち込めないしな)
そんな事を考えながら彼は余裕の顔をして、今回メイン攻撃役にと償還した氷竜の氷息を、竜の体に巻きついて締め上げようとしてる縄魔獣に吐きつける。
あっという間にバリバリに凍って、縄魔獣は砕け散った。
「お役目、ご苦労さん」
そうつぶやいて、直樹は黒眼鏡の奥で満足そうに目を細めた。




