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陰謀だらけの魔法合戦(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編6)  作者: 月森琴美


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3/12

 9月1日、まだ暑さの残る午後。

「また来たね、この季節が」

 生徒会室でテンション高く、薔薇の花を片手に高々と上げて叫ぶ金髪の美少年がいた。

「僕達の血潮を熱く燃え上がらせるスポーツの祭典。クリスティ学園中等部恒例の体育祭っ。華麗なる僕の勇姿を全校生徒の目に焼きつけ、永遠に心に残る青春の1ページとして皆の心に刻み込む記念すべき日となるだろう」

「あー、はいはい。頑張ってくださいね、雅人(まさと)先輩」

 ほぼ棒読みで答えたのは、生徒会書記にして2年B組の山下英司(やましたえいじ)

『雅人先輩、ご機嫌ですね』

 英司の横でおとなしく投書箱の中身を整理していた1年E組臨時書記の遠野斎(とおのいつき)が、一人ポーズを決めて萌えまくっている先輩をにこにこと眺めて、思念で思いを伝えた。

 残念なことに彼は呪いをかけられて、一切声を出せない体だったので思念会話しか出来ない。それも受信可能なのは英司と茉理限定という不便な状況だった。

 英司は可愛い後輩の素直な言葉に、少々うんざりした気分で返事を返す。

『まあ雅人先輩は、こういうお祭り騒ぎみたいなの大好きだからね。体育祭が終わったら今度は文化祭で大いにわめくから覚悟しておけよ』

『そうなんですね』

「ちなみに歴代生徒会役員たちは、体育祭を中等部の[魔祭]と呼んでいた」

「魔祭? 随分物騒な呼び名ですね」

 生徒会会計である3年D組森崎直樹(もりさきなおき)の発言に、英司は首をかしげる。

「魔の祭典という事だ。特に生徒会役員にとっては死ぬほど忙しいからな」

「あ……」

 納得してうなずく英司に、斎は目を瞬かせた。

『そんなにやる事あるんですか』

 彼の疑問が伝わったのか、中央に座っていた帝が口を開く。

「体育祭と文化祭の運営実行は、生徒会に委ねられる。もちろんすべてにおいて理事会と職員会議での合意は必要だが、基本的に俺たちはほぼ体育祭すべてを取り仕切らないといけないんだ」

「体育祭実行委員長という役職を新たに設けてね。そこに我らが生徒会長伊集院帝が君臨するんだよ。その元で各クラスから委員を募ったり、クラブ活動を利用したりして体育祭を盛り上げるんだ」

 金髪を振り乱し、得意そうに雅人は発言する。

「そのことなんだが」

 直樹はいつもの愛用品である黒眼鏡をきらりと光らせた。

「俺からの提案だが、今年は俺たちが取り仕切るのではなく、ゆっくり高みの見物をするというのはどうだろう」

「どういうことだ」

 突然の申し出に、帝始め他の4人は怪訝そうな顔をする。

「早い話が実行委員長を帝ではなく、他の生徒にやらせてみるということだ」

「ええっ、それって」

 英司は驚いた。

「つまり俺たち、雑用をしなくていいってことですか」

「もちろん手伝いはするさ。でも運営に関する事は別な生徒を立ててまかせることで、大分負担が減るだろう」

「へえ、なるほど」

 雅人は優雅に微笑んだ。

「確かに今の僕達の状況じゃ体育祭を仕切るのは荷が重いよね。僕は大いに賛成だよ」

「荷が重いって……確かに大変ではあるけど」

 去年もやったし、何とか出来ないことはないんじゃ、と首をかしげる英司に、直樹は説明する。

「まず今年の生徒会メンバーの中に、面倒な奴がいる」

「面倒って……君ねえ」

 雅人は顔をしかめて、ちらりと斎の方を見た。

 対する斎は苦しそうに顔をゆがめる。

 自分にかけられてしまった『存在そのものを消去する呪い』

 母の胎内にいる時にかけられたこの呪いは、彼を透明人間のように誰からも見えなくしてしまうのだ。

 成長して、やっと己の魔力で体を見えるように維持できるだけにはなったが、声を出すことは出来ないし、魔力を使いすぎて尽きたら、一時的に誰の目からも消えてしまうという非常に厄介な呪いだった。

 おかげで普段の生活でも体力温存(魔力温存)に気を払わねばならず、行動は極力最小限のものに留めている。

『すみません、僕が足手まといなんですよね』

 思わずしゅんとしてしまう後輩の申し訳なさげな顔に、英司はあわててフォローを入れた。

「ち、違うって。これはお前のせいじゃないだろう。しょうがないことじゃないか。お前はよくやってるよ」

 おたおたしている英司に、帝はため息をつく。

「おい、英司。お前は何を言ってるんだ。面倒なのは斎じゃないだろう」

 彼の言葉に、斎は驚いて顔を上げた。

「え? じゃあ面倒な奴って」

 英司ははっと気づき、澄ました顔で薔薇を玩ぶキンキラ派手な先輩に目線を移す。

「ひどいなあ、皆。僕はこれでもしっかり自分の役目を果たしてるじゃないか」

「お前の役目は、ほぼ英司がお前に変身してやってるだろう。体育祭で実行委員なんてやってみろ。冗談抜きで英司が倒れるぞ。自分のクラス種目に加えて、運営実行と雑用、更にお前のクラス種目と、お前の事だから嬉々として引き受けるだろう応援団長までやるはめになったら」

「わーっ、やめてください。それはもう絶対無理ですっ」

 英司は大声を上げて頭を抱えた。

「ただでさえ今だって大変なんですよ。体育祭なんて身がもちませんっ」

「あまいっ、あまいよ、英司君。これしきのことでへこたれる君じゃないだろう。さあ、顔を上げて限界を超えるんだ。あの夕日も君を応援しているよ。ほら、こんなに真っ赤に燃えているじゃないか」

「夕陽って、まだ3時過ぎなんですけど……」

 雅人の容赦ない台詞に、英司は更にうーっと頭を押さえて縮こまる。

「お前がその派手な容姿で入場行進し、女生徒たちから歓喜の悲鳴を浴びて蛙に変化したと仮定して、体育祭で実行委員とクラス種目をこなしつつ、お前の不在を俺たち4人で隠蔽出来るのかシュミレートしてみたが、見事に全員昼までに魔力切れを起こすことが予想される。俺と帝と英司で変身魔法、斎に身代わり人形を作ってもらっても理事会と職員、生徒やご来賓の目をかいくぐるのは至難の業だ」

「ああっ、何てことだ。すべてはこの僕の美しさが招いた悲劇。美しいということは、なんという罪だろう!」

 突然生徒会室が暗くなり、床で薔薇の花と共に悲劇のポーズを取る雅人にスポットライトが当たる。

「どこかに哀れな僕を救ってくれる勇気ある乙女はいないだろうか。僕は……僕はこのまま悲劇のプリンス・オブ・カエルとして人々から嘲笑され、蔑まれて生きるしかないというのか。ああ、なんということだ。どうしたらこの傷ついた心が癒えるのだろう。こんな僕を優しく見つめ、愛してくれる運命の姫とは一体いつめぐり合えるのか」

「……英司、飛ばせ」

「はい」

 帝の言葉で、英司はパチッと指を鳴らした。

 生徒会室の窓が開き、突風が喜劇役者と化した先輩を外に飛ばす。

「わあああーっ、えいじくーんっ、ゴミ置き場じゃない所にしてくれーっ」

 そう叫びながら、雅人の姿は外に消えていった。

「はあ、終わりましたね」

 英司は窓から雅人を飛ばした方を眺める。

『ちなみにどこに雅人先輩を飛ばしたんですか』

 斎の疑問に、英司は爽やかな笑顔を向けた。

「いつもゴミ置き場じゃ面白くないからね。今回は伝書烏の飼育場にしてみたよ」

『……ごみ置き場とあまり変わらないような気がするんですが』

 斎は小さく笑うと、突風で散らばった投書箱の中の投書用紙を拾い集める。

「斎、英司。悪いが何か茶を入れてくれ。次の話をする前に一息つきたい」

 直樹は小型PCを出すと、椅子に座りなおした。

「茶を飲んでいる間に雅人も戻ってくるだろう。その頃には頭も大分冷えているだろうしな」

「わかりました。えーと紅茶でいいですか」

『はい』

 二人はうなずき、生徒会室備え付けの冷蔵庫から冷えたアイスティーのペットボトルを出す。

 人数分カップに注いで配る頃、雅人は頭に黒い羽を数枚つけて戻ってきた。

「今回はまた随分斬新な場所まで行ってきたようだな」

「もうひどいよ、英司君。烏たちに歓迎されて大変だったんだよ。僕の美貌は鳥でさえ魅了するみたいだ、まいったね」

 美しさは罪なのさ~と懲りずにポーズを決める雅人に、斎は側に寄って頭の上についている羽を払った。

「ありがとう、斎君」

 雅人はがばっと斎に抱きつく。

 相変わらずのスキンシップに、斎は苦笑すると雅人に身をまかせた。

「二人とも席に着け。直樹、話を進めろ」

 帝の言葉に、雅人と斎は椅子に座る。

 先ほどとは打って変わった真剣な雰囲気が、その場に流れた。

 流石の雅人も薔薇を玩びながらおとなしくしている。

 かってないほどの緊迫感に、斎は胸をざわめかせた。

(なんだろう、話って)

「もう一つ、今回実行委員を他者に委ねたい理由がある。学園側に許可を取ったが、今年の体育祭に助っ人として初等部から2人呼ぶつもりだ」

「は? 初等部からですか」

 英司は目を丸くした。

「呼ぶのは小学6年生の子でね。僕の従兄弟に当たる子たちだ」

 雅人は薔薇の香りを堪能しつつ、口を出す。

「現初等部の中では一番魔力が高く、成績も優秀だ。間違いなく将来クリスティ家を支える重鎮になれる子たちだよ」

 雅人の言葉に、帝はふんっと鼻を鳴らした。

「どうだかな。使える奴かどうかは俺が見極めてからだ」

「そう、それだ、帝」

 直樹が彼の言葉に相づちを打つ。

「二人を呼ぶのは表向きは体育祭の手伝いだが、本当は彼らを見極めることにある。そのために帝、英司、斎。お前たち3人にはこの二人と体育祭でちょっとしたゲームをしてもらいたい」

「ゲームですか」

『ゲーム?』

「そう、ゲーム。二人とも優秀な子なんだけどねえ」

 雅人はため息をつくと、続けた。

「優秀すぎて自尊心が高いんだよ。早い話がクリスティ直系だという理由だけで帝を奉ることなんて出来ないと言うんだ」

「つまりこの子たちは、帝に対して反抗的だと」

 英司がうーんと腕組みをして、考え込む。

「わかってると思うけど、僕と直樹は来年3月には卒業だ。生徒会に新たな人材を新入生から入れないといけない」

 雅人はくるくる手持ちの薔薇を回しながら続けた。

「なので分家の血筋から良い人材を選びたいんだけど、今の小学6年生にはそこそこな生徒しかいなくてね」

「唯一抜きん出ているのがこの二人ということだ。今、PCにデータを送ったから確認してくれ」

 直樹の言葉に、皆小型PCを出して覗き込む。

北原瑠衣(きたはらるい)北原怜(きたはられい)――双子ですか」

「そう。でも二卵性だから、微妙に顔が違うでしょ」

「見間違えることはなさそうですね」

 英司は画面に映った二人の写真を確認する。

 そこには赤毛の少年と黒髪の少年が、良く似た顔で映っていた。

「黒髪の北原怜は冷静沈着、情報分析や状況判断に優れている。赤髪の北原瑠衣は攻撃魔法が半端なく強い。性格は単純で脳筋だ」

 直樹が二人の事を評する。

「で、さっそく今からアプローチをかけたんだけど、二人ともあっさり断ってくれちゃってね。血筋と家柄に守られてるはりぼての王様には仕えたくないんだとさ」

 やれやれ、と雅人は大仰に肩をすくめてみせた。

「何だと」

「はりぼての王様……すごい表現ですね」

『自尊心が高すぎる。大丈夫でしょうか』

 帝は瞬時に眉を吊り上げ、英司はあきれて、斎は不安そうな顔をする。

 三者三様の反応を楽しみつつ、雅人は続けた。

「それでこの二人にはある条件を出しておいた。体育祭で『はりぼての王様と愉快な仲間達』と勝負をし、勝てば生徒会役員にはならなくてよい。でももし負けたら来年生徒会に入って、帝に絶対服従すること」

「そうか」

 帝はにやりと笑む。

「つまりこの二人を体育祭で叩きのめして、俺の僕にしろということか」

「はりぼての王様と愉快な仲間達って何ですかっ」

『英司先輩、気になる所はそこなんですね』

 後輩たちの反応が面白くて、先輩二人は満足げに微笑んだ。

「ゲームの方法を説明するよ。名づけて『姫取りゲーム』。君達には一人の姫君を奪い合ってもらう」

「えっ、姫取りゲーム?」

『姫って……まさか』

「おいっ、お前ら」

 瞬時に察して帝と斎の顔色が変わる。

「あいつをまきこむ気か。冗談じゃない」

 ダンっと机を拳で叩き、帝は勢い良く立ち上がった。

「別にお前達が加減を間違えねば、後野茉理に危険はない」

「それにさ、帝。僕としては君達と小六組に本気でやってもらいたいわけ。そこらの文房具や魔道書とかかけたって本気になれる? お互いに全力を出し合ってこそ真の実力がわかるってものでしょうが」

 雅人は優雅な笑みを浮かべつつ、帝の抗議をさらっとかわす。

「茉理姫は双子チームに当日預ける予定だよ。彼らは全力で後野茉理を護衛し、徹底的に君達の目から隠す。君達は本物の後野茉理を見つけ出して、生徒会室に連れてくること。制限時間は体育祭が終了するまで」

「つまり俺たちは後野さんを見つけて保護すればいいんですね」

「そうだ。逆に体育祭が終わっても後野茉理を見つけられなかった場合、双子の勝利だ。君たちから彼女を徹底的に守り抜いたんだからな」

 直樹は言葉を切ると、アイスティーを一口飲む。

 思いがけない勝負の話をされて戸惑っている後輩たちに、雅人は愉快そうに付け加えた。

「三人とも死力を尽くしてがんばってくれたまえ。僕達は遠くから見物させてもらうからね」

「えっ、雅人先輩、体育祭来ないんですか」

「まさか。全員参加でしょうが。僕はご来賓にでも成りすまして優雅にお茶をいただきつつ、君達の勇姿を眺めるのさ。もちろん僕と直樹はこの勝負には一切手を出さないから、そのつもりでね」

「その方が面倒がなくていいかもしれないですね」

「英司君、それはどういう意味の発言かな」

 雅人は薔薇を片手に、ちろりと英司を睨む。

「この僕が参加したら、何か面倒事が起こりそうな気配でもあるのかい? 僕が天性のトラブル・メーカーだとでも君は思っているのかな」

「もしかして自覚なしですか。そうですか」

 自分の事はよくわかりませんもんね、とつぶやく英司に、雅人は綺麗な顔を歪ませた。

「ああっ、何と言うことだ。この眉目秀麗、愛と才能と知性にあふれた僕が、こんな悲しい誹謗中傷を受けるとは。それも僕が愛してやまない愛しい英司君から。これ以上の悲劇があろうか。君の言葉は僕の心臓を破裂させ、魂の奥まで非難の矢は突き刺さる。僕はこの苦しみを抱えて明日からどうやって生きていけば良いのだ。誰か僕に教えてくれ。どうずれば英司君の心をまた僕の元に引き寄せられるのだろう。彼の温かいまなざしが無くては、僕は一瞬たりとも生きてはいけないのに」

「良かったな。お前はそこでポーズを決めて、しばらく死んでてくれ。それがみんなのためだ」

「なっ……直樹君、お前もか!」

「シェイクスピアの戯曲に似たような台詞があったな。まあ、いい」

 直樹はにやりと笑うと、また真面目な顔に戻る。

「話が長くなったが、以上のような理由で今年は実行委員を他の生徒にまかせたい。どうだろうか」

「好きにしろ」

 会長の一言ですべてが決まった。

 直樹は黒眼鏡をきらりと光らせ、すべてが思い通りに始まることに安堵の笑みをこぼすのだった。

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