表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰謀だらけの魔法合戦(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編6)  作者: 月森琴美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/39

23

 昼休み中校内や校庭を探し回ったが、茉理の姿は見つからなかった。

 午後の競技を始めるアナウンスが響き、帝たちはとりあえず校庭に向かう。

 午後は応援合戦から開始だ。

 赤いクラスカラーの衣装を身に着けたA組の応援団が、校庭いっぱいに並ぶ。

 帝はこっそり1年A組を見たが、茉理は座っていなかった。

(やはりいないか)

 来賓席を見ると、蛍光カラーの十二単を着た藤ゆり子がくまのぬいぐるみと一緒に座っている。

(あれか。今度は逃がさないぞ)

 帝は決意を固め、英司に思念を送った。

『斎にも声をかけろ。来賓席にくまの着ぐるみが出現した。確保するぞ』

『はい』

 英司はうなずき、斎に思念を送る。

 三人は一旦退場門の前で集合し、来賓席に三人で向かうことにした。

「一応俺は来賓の連中を招待した人間だからな。来賓席に出向いて挨拶をすることは、おかしいことではないだろう」

「そうですね。相手にしたくはないですが、藤ゆり子理事にも声ぐらいかけておいたほうがいいでしょうね」

「隙を見て、くまをゆり子理事から引き剥がすぞ」

「はい」

 英司と斎は力強くうなずいた。

 早く茉理を確保したいと気はあせるが、それを押し隠して三人はわざと余裕のある顔で来賓席に向かう。

 帝の姿が見えると、来賓席の客達は立ち上がり、敬意を表した。

「本日はおまねきありがとうございます、帝様」

「天候にもめぐまれまして、最高の体育祭ですな」

「ありがとう。本日は足を運んでくれて感謝する」

 愛想良い笑顔などは浮かべられないものの、帝はかけられた声に丁寧に挨拶の言葉をかけていく。

 理事長の横にいる数名の理事達にも挨拶し、ついに長椅子に座る藤ゆり子の前まで来た。

「藤ゆり子理事、本日はご足労いただき感謝する」

 帝が挨拶の言葉を口にすると、ゆり子は金色の扇で顔を半分隠しながら彼を大きな目でねめつける。

「これはこれはクリスティ本家の帝様ではございませんか。本日はお日柄もよく、結構な体育祭でございますこと」

「そうだな。藤昇先輩にも今年は体育祭実行委員長として助けていただいた。きっと将来藤家の良き当主となられることだろう」

 帝の言葉に、ゆり子はにたあっと口元に笑みを浮かべた。

「あらあら、あの子は随分お役にたったようでございますわね。そうでしょうとも、彼は優秀な人材ですわ。あとで旗取り合戦でご披露いたしますが、魔法も分家代表の方々と同等の力を持っておりますの。本当に将来が楽しみですわ、ほほほ」

「それは頼もしい限りだ」

 帝は横に座るくまに鋭い視線を投げる。

「ところでその横に座っているくまの着ぐるみは、いつから一緒にいるんだ。そのような物、こちらでは用意した覚えがないのだが」

「受け付けにおりましたわよ。わたくしのために用意されたくまちゃんですの。可愛いでしょう」

 そう言うと、ゆり子はまるで恋人でもあるかのように、くまをぎゅうっと抱きしめてその肩にもたれかかった。

 帝の顔が一瞬で渋いものになる。

 中身は自分の愛しい少女だと思うと、今すぐこの妖怪婆を殴り倒して彼女をその魔の手から救い出してやりたくなった。

「わあ、本当に可愛いですねー」

 わざと英司が声をあげて、くまのぬいぐるみに手を差し出す。

「こんにちは。握手してもらってもいいですか」

 そう言って、彼はくまに片手を差し出す。

 くまはもふもふの手を出して、英司の片手に重ねた。

『よしっ、今だ』

 帝の思念にあわせ、英司はくまと一緒に生徒会室に瞬間移動する。

「あらっ、く、くまちゃんが……わたくしのくまちゃんはどこっ?」

 突然もたれていたくまの着ぐるみがいなくなり、ゆり子はあたふたと周囲を見回した。

 帝はゆり子に言った。

「申し訳ないが、少々くまを借りる。調べたいことがあるのでな」

「なんですってえっ、あなたがくまを、わたくしの可愛いくまちゃんを」

 ゆり子はドウランを塗った白顔をわなわなと震わせて、帝に迫る。

「返しなさいっ。いますぐわたくしのくまちゃんをお返し」

「少しだけ調べたら、すぐ返す。我々はくまの着ぐるみではなく、中にいる人間に用があるだけだ」

 帝は口調だけは丁寧にゆり子に言うと、すぐに踵を返した。

「お待ちなさい、帝様。わたくし、あなたに一言申し上げたいことがありますの」

 鼻息も荒く、ゆり子は帝に叫んだ。

「あなた、本家の跡取りとか言って随分好き勝手におふるまいですけれど、そんな態度がいつまで持つか見ものですわね。あなた以上に本家総帥の跡取りになれる者など、いくらでもおりますのよ」

 けんか腰の態度に、周囲の大人たちは大慌てでゆり子の剣幕に割って入る。

「ゆり子様、帝様に失礼ですぞ」

「たかがくまの着ぐるみを取り上げられたぐらいで、そんなにお怒りにならなくても」

「いーえ、言わせていただきますわ。実力もないのに血筋だけで跡取りになった気でいらっしゃるようですけど、それも今日まで。次期総帥にふさわしいのは、あなたではなくわたくしの孫、藤昇をおいて他にございません」

「なんだと」

 帝の顔が険しくなる。

「あなた、ご自分の性格を一度しっかり自覚なさってはいかがですの? 友達もいなければ、周囲に恐怖を撒き散らして威圧するその態度。それで下々の者たちがついてこれると思っているのかしら。自分一人で何でも出来ると思っているその傲慢な態度は、総帥にふさわしくないと言わざるをえませんわ」

「……」

「所詮あなたはクリスティ本家の血筋以外、とりえのない我侭な子どもです。もし跡取りという肩書きを失ったら、あなたの側にいたいと思う人間はいるのかしらね。みんな、あなたから離れていくし、嫌われて一人孤独に生きていくしかないのではないかしら。お可哀想な帝様、ほほほ」

「貴様……」

 帝の瞳に怒りの色が現れた。

 しかしゆり子は動じずに、更に彼を挑発する。

「ほらほら、すぐそうやって威嚇する。魔法を使って暴力沙汰に持ち込む以外、あなたにはなあんにも出来ませんものね。さあ、わたくしを攻撃するといいわ。そして皆様にあなたの本性を特と見せておあげなさいな、帝様」

 自尊心を傷つけられて、思わず指先に電撃を集めそうになった帝の手を、そっと握る存在がいた。

 斎だ。

 彼は静かな目で帝を見つめ、首を横に振る。

 斎の心配そうな瞳を見て、帝の怒りが徐々に治まっていった。

 帝が落ち着いたのを見て、斎はほっとしてゆり子の方を向く。

 彼女は思いがけない斎の存在に、あからざまな侮蔑の笑みを見せた。

「あらあら、これは第5分家の代表、遠野斎様ではありませんの。お可哀想に、呪いで声も出せない障害者でいらっしゃるそうですわね。お気の毒に」

「……」

 斎は黙ったまま挨拶代わりに一礼し、そっと指を伸ばす。

 指先に集まった砂が文字を形成した。

[女王陛下、あなたにふさわしいのは砂の玉座です]

「え? なんですって……って、ああああーっ」

 突如としてゆり子の座っていた絢爛豪華な長椅子が崩れ落ちる。

 金箔を貼り、豪華な彫刻をほどこしていた長椅子は、斎の魔法で全部砂に変わってしまったのだ。

 ゆり子は悪趣味な十二単を纏いながら、完全に砂まみれになった。

[失礼します。砂のようにもろい玉座の女王陛下]

 斎は今まで見せたことのない冷たい目線で彼女を睨むと、帝の手を引いて来賓席を去る。

「お待ちなさいっ、この、わたくしにこんな侮辱を……許しませんよ。遠野斎っ」

 キイキイ後ろでがなりたてるゆり子を完全に無視して、斎は帝をひっぱっていった。




 退場門まで来て、やっと斎は帝の手を離す。

「おいっ、大丈夫か」

 本当は自分がそう聞かれなければならない立場なのだが、逆に帝は斎の事を心配した。

 思ったより彼は怒っていて、怒りでまだ肩が震えている。

 よほど先ほどのゆり子の態度が、腹に据えかねるものだったのだろう。

 帝はこんな斎は見たことがないと思いながら、そっと彼の肩に手を置いた。

「俺は大丈夫だ。すまなかったな」

「……」

 帝の落ち着いた顔を見て、斎はほっと肩の力を抜く。

 そしてまた砂文字を出した。

[すみません、さっきは勝手なことをして]

「あれか。いや、傑作だったな。砂の玉座」

 思い出して、帝はにやりと笑う。

[あの人に座られる椅子の方がかわいそうです。砂にでも座っていればいい]

「ははは、そうだな。お前の言う通りだ」

 笑いが漏れて、機嫌が良くなる帝を見て、斎もほっと表情を緩めた。

(帝先輩のこと何も知らないくせに、あんな風に言うなんて)

 帝は確かに一見我侭で俺様な態度をとるが、その本性はかなり優しくて周りを気遣う人なのだと、斎は知っている。

 さっきのゆり子の言葉も、相当帝を傷つけたはずだ。

[ゆり子理事の言葉は気にしなくていいです]

 帝は斎が出した砂文字に、目を見開く。

[藤先輩の方が跡取りに向いてるなんて、そんなことはありません。自信を持ってください]

「斎」

 ふっと笑みを濃くし、帝は斎に言った。

「ありがとう」

 斎は嬉しそうに微笑む。

「戻るぞ、生徒会室に」

 帝の言葉にうなずくと、斎は帝と共に瞬間移動し、生徒会室に戻った。




 これでやっと双子との勝負が終わる。

 そう思って安心していた帝と斎は、生徒会室で衝撃の事実と向き合うことになった。

 そこには英司と、着ぐるみのくまの頭を持って情けない顔をした1年E組の教師、香坂夢吉の姿があったのだ。

「どういうことだ、英司」

 帝は一瞬頭が真っ白になったが、あわてて英司に状況説明を求める。

 対する英司も困りきった顔で、帝に答えた。

「それがここに来て、着ぐるみの頭を取ってもらったら、中にいたのは香坂先生だったんです」

 予想外の展開に、斎は呆然となる。

(そんな……あの着ぐるみは後野さんが着てたんじゃなかったのか)

 確かに着ぐるみには彼らの探知魔法を妨害し、中に入っている人間の外部遮断を行う魔法がかけてあった。

 普通の着ぐるみであればまったく必要のない効果で、だからこそ後野茉理用だと思っていたのだが。

「あー、すまないが、そろそろ行ってもいいか」

 香坂先生が情けない顔で声を出す。

「あんまり来賓席を離れると、ゆり子理事が怒って何をするかわからんしなあ」

「そうですね。すみません、突然連れてきちゃって」

「いいよ。その、間違いは誰にでもあるし。じゃあな」

 そう言うと、香坂先生はまた熊の頭をすぽっと被り、瞬間移動で出て行った。




 くまの着ぐるみがいなくなった生徒会室。

 そこにはまだ頭の整理が追いつかない三人が残される。

「一体何故こんなことになったんだ」

「あの着ぐるみは後野さんには関係ないということなんでしょうか」

 どうすればいいんだ、とつぶやく英司の横で、斎は必死に思考をめぐらせる。

『英司先輩』

 斎は思念を英司に送った。

『朝受け付けをしていたという先輩のクラスメイトに聞いてくれませんか。受け付けしているときに、香坂先生はその場にいたのかどうかを』

「えっ、あ、そうか」

 英司ははっとする。

「くまの着ぐるみは、受け付けで父兄たちにペットボトルを配っていたって言ってたな。つまりその場に一緒に香坂先生がいたとしたら、少なくとも午前中くまの着ぐるみに入っていたのは、別な人間だったということになるってわけか」

『はい』

「よし。ちょっと待ってろ」

 そう言うと、英司は瞬間移動で校庭のクラス席に戻る。

 帝は一瞬深く息を吐き、斎を見た。

「よく気がついたな、斎」

 魔力はあるが頼りない後輩だと思っていた彼が、急に違った存在に見える。

 何日か前、直樹が斎に魔術系列の書物を渡し、よく勉強して帝と英司を支えるように言っていたことを思い出した。

(確かに来年直樹が卒業すれば、生徒会に頭脳担当者がいなくなる)

 帝と英司は性格上、そこまで細かく考えて行動するのは苦手なタイプであることは否めない。

 斎は思ったよりそちらの方面に、自分より長けているのだろう。

(それにしても何だな)

 帝は心の中で思った。

(生意気な奴らだが、双子は相当優秀だ。ここまで俺達を追い詰めるとは)

 正直こんな状態にまでなるとは思っていなかった。

 自分達だけではなく、あの雅人と直樹まで翻弄してくる逸材など早々見つかるものではない。

「あいつらは生意気だが、才能だけは認めるしかない。次の生徒会に欲しい人材だ」

 彼らをこちらに付かせることが出来れば、来年の生徒会は安泰だろう。

「なんとしても勝って、茉理だけじゃなくあいつらも確保するぞ、斎」

 帝の言葉に、斎はうなずいた。

 その時。

『キャーッ、助けてっ、帝先輩っ』

 帝の脳裏に、突然悲鳴のような声が響く。

 思念で届いたSOS。

「茉理っ」

 帝は顔色を変えた。

 こんな風に自分に窮地を思念でぶつけてくる相手など、彼女しかいない。

『帝先輩?』

 突然顔が強張る帝に、斎は驚く。

『キャーッ、変な奴らが屋上にっ。助けてーっ、帝先輩』

「屋上だとっ。行くぞ、斎」

 帝は叫ぶ。

「茉理が思念で助けを呼んだ。屋上だ」

 そう言うなり、彼は即座に屋上まで瞬間移動する。

 斎もあわててあとに続いた。




 風の吹く屋上には、誰の人影も見えない。

 眼下に広がる校庭では、白組応援団が華麗なる応援ダンスを披露中だ。

「茉理っ、どこだ」

 帝は屋上を走り回り、彼女を探す。

 しかしどこにも見えなかった。

 争ったあともない。

 帝が首をかしげていると、また声が聞こえてきた。

 今度は思念ではなく、本物の音声だ。

「きゃーっ、助けて、帝先輩っ」

「茉理? こっちか」

 帝は斎と声のする方を目指す。

 校庭がよく見える屋上左側。

 フェンスに身をもたせかけ、そこにいたのは――。

「なっ、なんだこれは」

『……たぬきのぬいぐるみ、ですね』

 そこにはまぬけなおとぼけ顔をしたたぬきのぬいぐるみが、フェンスに背中をもたせてちょこんと置いてあった。

 そのたぬきは白いエプロンをつけていて、エプロンには黒マジックで[あとのまつり]と大きく書いてある。

 ぬいぐるみの横には、スピーカーと一昔前のMDデッキ。

「キャーッ、タスケテ、ミカドセンパイッ、キャーッ、タスケテ、ミカドセンパイッ」

 デッキにつながれたスピーカーから、何度もエンドレスで流される人工音声で作られた女の子の声。

 そしてデッキには白い幅広のリボンが結ばれていた。

 そこにはマジックで字が書いてある。

[ざんねんでした。またどうぞ]

「くそっ、またか」

 帝は指先から電撃を出し、気色悪い声を放ち続けるMDデッキを破壊した。

 斎はたぬきのぬいぐるみを掴むと、帝の方を振り向く。

[帝先輩、これは僕がもらってもいいですか]

「何に使うつもりだ。そんな物」

 怪訝そうな目で斎を見る帝に、彼は微笑んだ。

[雅人先輩にあげようかなと。こういうの好きそうですし]

 あとのまつりのエプロンがやたら目立つたぬきのぬいぐるみは、確かにジョーク商品として雅人がもらったら喜びそうだ。

「好きにしろ」

 帝は苛立つ心を必死に抑えて、そう答える。

 斎はすばやくたぬきのぬいぐるみを、瞬間移動で自分の持つ亜空間バッグにしまった。

 これは土魔法で作り上げた収納場所で、目には見えない空間を自分の収納庫にしたものだ。

 この中に入れておけば物は収納した時と同じ状態で保存出来るし、すぐに魔法で取り出せる。

(あとで英司先輩にでも伝達を頼もうかな。どうせ旗取り合戦で雅人先輩と顔を合わせるだろうし)

 その前によくこのたぬきを調べて、他に何か仕掛けがないか確かめなければいけない。

(あの双子の事だ。僕達を屋上に誘き出して、今度は何のつもりだろう)

 理由もなくこんな酔狂な悪戯はしない連中だと、斎はこれまでの経緯でそう考えていた。

「二人ともここにいたんですね」

 横の空間が一瞬歪み、英司が姿を現す。

 フェンスの一部が電撃で黒く焦げ、MDデッキの残骸が散らばっているのを見て目を丸くした。

「一体ここで何が……」

「大したことじゃない。それより英司、聞き込みはどうなった」

 帝の問いに、英司は答える。

「やはり斎のよみどおり、朝、香坂先生は受け付けにいたそうです。もちろんくまの着ぐるみも」

「つまり午前中、くまの着ぐるみに香坂先生は入っていなかったということだな」

[双子の差し金でしょう。僕らが着ぐるみを見つけたことも、彼らが仕組んだのかもしれません]

 斎は考えていたことを砂文字にした。

[僕達は偶然あのくまを見つけたと思い込んでいましたが、彼らはわざとあそこに着ぐるみを置いて、僕達に見つけさせたんだと思います]

「仕掛けを見せるなんて、なんでそんなことしたんだ」

 英司の疑問に、斎は更に砂文字を書く。

[午前中、後半から僕達の動きに変化があったことに、双子たちも気づいたのでしょう。おそらく能力がばれたことを確信した。だから今度は、午前中より積極的に僕達を欺く作戦に出てきている]

「欺く、か。正直騙されてばっかだよな、俺達」

 英司はため息をついた。

[この屋上に僕と帝先輩を誘き出して罠にはめたことも、何らかの伏線にするつもりのはず。どんな仕掛けを考えているのかわかりませんが、次屋上に何かあっても慎重に行動すべきかと思います]

「わかった。屋上にわざと誘われても、無視して動くことにしよう」

 わざわざ敵の罠にかかるほど馬鹿なことはない、という帝の言葉に、斎と英司はうなずいた。

「これからどうします? 俺、もうあまり時間ないんですよね」

 英司はとほほと情けない顔をする。

「次の選抜リレー、アンカーで走らないといけないし、その次の旗取り合戦には二年生の身でフル出場ですよ。まったく理不尽だと思いませんか」

「しかたないだろう。俺と斎でなんとかする。お前は自分の役目を果たして来い」

「よろしくお願いします」

 そう言うと、英司はまたしゅっと消えた。

 瞬間移動で入場門まで飛んだのだ。

 斎が見下ろすと、入場門の前には選抜リレーの選手たちが並んでいる。

 ふと頭の中に英司の思念が響いた。

『斎、後野さん探しも大事だけど、旗取り合戦のあとのこと、わかってるよな』

『はい。直樹先輩と雅人先輩が負けたあとのことですよね。もちろんです』

 斎は思いを込めて肯定する。

『藤家を断罪して、帝先輩を次期総帥だと宣言しましょう』

『ああ。じゃあ、帝と後野さんのこと、頼んだぞ』

 そこで会話は途切れた。

 最後の応援合戦が終わり、青い衣装を着たE組応援団が退場門に向かっている。

 軽快な行進曲と共に英司たち選抜リレーの選手達が校庭に入場し、父兄席からは割れんばかりの拍手が響いた。

(英司先輩、がんばってください)

 クラスは違うが、応援したい気持ちに変わりはない。

 斎は心の中で英司に声援を送り、帝と一緒に屋上から校庭に戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ