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陰謀だらけの魔法合戦(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編6)  作者: 月森琴美


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 昼休みは長いようで短い。

 クラスメイトが午前中の興奮冷めやらぬ教室で昼食を取る気にはなれず、帝は豪華幕の内弁当を持つと、生徒会室まで瞬間移動した。

 すると、なんと斎と英司までが弁当片手にやってきたのだ。

「みんな考えることは同じですね」

 苦笑しながら英司は弁当の蓋を開ける。

「おっ、美味そう。さすが一流ホテルの老舗弁当だ」

 いつも持参のおかずより数段数と量が多い。

 ご飯もササニシキの新米である。

「いただきます」

 英司が両手を合わせてから、箸を持った。

 しばらく三人で弁当を食べることに集中する。

 斎は時々先ほどの事を考えて、箸を持つ手が止まった。

「どうした、斎」

 彼の様子に気付いて、帝が眉をひそめる。

「弁当の味がいまいちか。一応うちのグループの中では味に定評のある店のなんだが」

 斎はあわてて首を横に振り、箸を動かし始めた。

「さっき来賓席で見た物のことを考えてたんだろ、斎」

 英司がいち早く食べ終わり、お茶のペットボトルを手に声をかける。

 斎は静かにうなずいた。

「さっき見た物だと」

「あの双子たちの仕掛け第二段ってとこでしょうかね。来賓席に意味深な物があったんですよ」

 英司は先ほど来賓席で見た物のことを帝に話した。




 話は中一女子のダンスが終了間近の時間帯までさかのぼる。

 直樹に頼まれて、英司と斎は来賓席に駆け足で向かっていた。

「まったくもう、雅人先輩の奴」

 英司は走りながらぼやく。

「ただでさえ忙しいのに、更にやる事を増やさないで欲しいよ、まったく」

 斎はうなずきはしたが、どうにも違和感を感じる何かがあった。

(雅人先輩は確かにトラブルメーカーだけど、作戦遂行してる時にそれを邪魔するような行為はしないはずだ)

 そもそも彼の特異体質から考えて、いくら一族の仲裁役だとしても素顔をさらして人目の多い場所へ出向くだろうか。

(蛙に変化してしまうかもしれないというのに……そんな愚を冒す人だとは思えないんだけどな)

 来賓席は退場門から程近いテントにある。

 英司と斎は到着してすぐに来賓たちが言い争いどころか和やかにダンスを観賞している姿を目撃し、首をひねった。

「あれ、話と違う。騒動はもう収まったのか」

『どうでしょう』

 とりあえずこのまま戻るわけにはいかないと、奥に座る理事長の所に近づいた。

「やあ、二人とも。どうしたんだい」

 上機嫌な理事長の言葉に、英司は先ほど聞いたトラブルの事を話すと、怪訝そうな顔をされる。

「一体それはどういうことかな。別に来賓同士の言い争いなど起きていないよ」

「え? でも今藤ゆり子理事はいませんよね」

「ああ。応接室にいるはずだ」

「じゃあやっぱりまだ機嫌が直ってないってことですか」

「いや、別に諍いがあって応接室に行ったわけじゃなくて、着替えに行っただけだよ。お色直しだとか言って、あの理事は体育祭の間に3回も衣装変えをするんだ。ちょっと時間がかかってるみたいだげど、いつもなんか凄い衣装を引きずってくるし、化粧も濃いから支度に手間取っているんじゃないか」

「ええっ、そんな」

 どういうことだ、と目を瞬かせる英司の袖を、斎はぐいっとひっぱった。

 彼の目は険しくなっており、英司は更に驚く。

「どうした、斎」

『謀られたのかもしれません、僕達は』

「はかられた?」

『直樹先輩に思念を送って確認してもらえませんか。さっき退場門に来て、僕達と話したかどうか』

 流石の英司もはっと気付き、クラス席にいるであろう直樹に思念を送った。

 少しのやり取りのあと、英司は渋面になってうめく。

「直樹先輩はずっとクラス席にいたそうだ。じゃあ、退場門で俺達に話しかけてきたのって」

『双子のどちらかでしょうね。やられました』

 斎は悔しそうに唇を噛む。

『僕達が三人一緒に退場門で待ち構えていることなど、あの子たちにはお見通しだったのでしょう。今回の速さ勝負なら、僕達の方が有利です。あの子たちは二人しかいない。1人が1人を妨害するのがやっとでしょうが、そうするともう一人を防ぐ手段はない』

「だからわざと直樹先輩に化けて、俺達を引き離したのか。それにしても全然気付かなかったぜ。直樹先輩そのものだった」

 英司はしてやられたな、とつぶやいた。

『今、退場門には帝先輩一人です。対する双子は二人。一人が帝先輩を邪魔している間に、もう一人が後野さんを確保する作戦でしょう』

「くそっ、策を練ってもすぐそれを読まれて、次の手をぶつけてくる。ほんとここまで来ると自信無くすよ。勝てる気がしない」

 そうぼやく英司の横で、斎は何か手はないかと必死に思考をめぐらせる。

 するとふと来賓席の絢爛豪華な長椅子の上に、体育祭にはまるで必要のなさそうな物を見つけた。

『あれは……くまの着ぐるみ?』

 なんであんな物があそこに、と思い、斎は側に寄って手にとってみる。

 瞬時に彼はその着ぐるみに魔法がかかっていることを感知した。

『外部遮断に防御魔法。これを着れば、中の人間の魔力や気配を探知することは出来なくなる』

 それに完全に外部からの魔法を防ぐ効果で、思念会話も不可能だ。

『英司先輩。理事長にこれは何か聞いてもらっていいですか』

 斎の手にある物を見て、英司はなんだそれ、くまの着ぐるみがどうかしたか、と言いながら、理事長に尋ねる。

「それは藤ゆり子理事が気に入っているくまの着ぐるみでね。午前中、ずっと側に座らせて離さなかったよ」

「中に誰が入ってたのかご存知ですか」

 英司の質問に、理事長は首をかしげた。

「さあなあ。中の人のことまではわからんよ」

 そう言われて、英司は斎を見る。

 彼は静かにうなずいた。

 そして着ぐるみを元の様に置いて、英司の側にやってくる。

『間違いありません。着ぐるみに魔法がかかっています。あれを着れば、完全に外部とは遮断されます。感知魔法でも気取られない』

「でもさ、どうやって後野さんにあれを着せたんだ」

『方法はわかりません。でもあれを着て移動されたら、僕の探知魔法に引っかからないのは確かです』

 斎は振り返って着ぐるみをもう一度見ようとして、驚いた。

『えっ、ない?』

「どうした」

 英司も斎の視線を追って、さっきまであった着ぐるみが無くなっているのを見てびっくりする。

「嘘だろ。本当にさっきまであったよな」

『はい。もしかして僕達が来賓席にいるのに気付いて、あわてて着ぐるみを回収したのかもしれません』

 斎は自分の思う事を思念で述べた。

『僕達が来賓席に来ることを予想していなかった。だから着ぐるみを置きっぱなしだった』

「そうなのか? だって作戦としては俺達を来賓席に向かわせて、退場門から引き離すことなんだろう。俺達が来ないなんて思うわけないじゃないか」

『そうですが、あっちも二人です。作戦を立てているのは、たぶん頭の良い弟の方で、兄は弟の言う通りに動いている。もし弟が作戦説明の時、兄に対して、先輩二人は僕が追い払うから後野さんのことをよろしく、などと簡単に指示を出した場合、兄の方は弟がどうやって先輩二人を退場門から引き離すのか詳しい詳細は知らされないので、着ぐるみを置きっぱなしにしていたとしても不思議ではありません』

「つまり二人の意思疎通に穴が開いてて、あわてて着ぐるみ回収しに来たってことか」

『可能性はあります。だとしたら着ぐるみに僕達が気付いたことを、彼らはまだ知らないかもしれません』

 斎の目に光が宿る。

『これは二人の作戦を破るチャンスを得たかもしれないです、先輩』

「そうだな。もし帝が失敗していても、俺達には別な手がある、ということだ」

 話し込んでいるうちに一年女子のダンスは終わり、退場していった。

 楽しそうにクラス席に戻る女子たちを見ながら、英司は斎と目を見交わして帝の元に瞬間移動する。

 ――そして予想通り、そこには悔しそうな顔で一人立ち尽くす帝の姿があった。




「あのあとクラスを出る前に、着ぐるみの事を知ってる人はいないか聞いてみたんですけど」

 英司はお茶を飲みながら話を続ける。

「受け付け係の奴が言ってました。あの着ぐるみは朝受け付けに立っていたそうです。なんでも今年は受け付けを楽しくするために、あの着ぐるみと初等部から二人助っ人を呼んだそうで、三人は受け付けの机の横で水の入ったペットボトルをお客さんに渡す役をしていたと言ってました」

「それだな」

 帝は食べ終わった弁当の蓋を閉めながら言った。

「当日茉理は双子に預けられる予定だった。おそらく受け付け担当の教師に雅人が話をつけて、そう設定したんだろう。臨時の手伝いとでも言い含めてな」

「だから後野さんは着ぐるみを着たんですね。それだと何の違和感もなく、あれを着て動くでしょう」

「基本的にお人よしだからな、あいつは」

 帝はため息を一つつく。

「そして受け付けに現れた藤ゆり子理事にくまの着ぐるみが気に入られてしまい、一緒に来賓席に座るはめになったそうです。後野さん、午前中は接待してたんですね」

『あの理事の相手させられてたなんて、大変だったと思います』

 斎は顔を曇らせた。

『作戦のためとはいえ、かなり辛かったんじゃないでしょうか』

「そうだろうなあ。あの人の相手なんて、俺だったら速攻逃げる」

「同感だ」

 帝はさも嫌そうに顔をしかめる。

「おそらく茉理の接待はわざとだろう。ゆり子理事に気に入られるような着ぐるみを彼女に着せて、万が一俺達が気付いても、あの理事がべったりと抱えているものを簡単には奪ってはいけないと思ったに違いない。姑息な手を使うあの双子の考えそうな策だ」

「もう何重にも先を越されちゃってますよね、俺達」

「だが午後は挽回するぞ」

 帝はにやりと笑む。

「ゆり子理事のお気に入りになってしまったのならば、早々無くすことは出来ない。必ず着ぐるみは午後の競技が始まれば、ゆり子理事の隣に座るだろう。そこを捕まえて、着ぐるみごと生徒会室に瞬間移動だ」

『はい』

「わかりました」

 英司は勢いよく答え、斎はうなずいた。

『20分経ちましたので、そろそろ後野さんを探しにいきませんか』

 斎の提案に、英司はうーん、と考え込む。

「どうした」

 帝に斎の思念を伝えると、彼はにやりと笑んだ。

「別に急ぐこともないだろう。あとで着ぐるみごと回収すればいい」

[ですが相手はあの双子です]

 斎は思念会話がもどかしくなって指先から砂を出し、空中に文字を書いて浮かばせる。

[本来の僕達の行動は、20分の昼食時間の間だけ探索を一時停止するというものだった。ならば予定通り探索を必死に開始した方がいいと思います。表向きは]

「あっ、そういうことか」

 英司が声をあげた。

「つまり俺達が着ぐるみの秘密を見破った、という事実を隠蔽するための探索行動をするということか」

[はい。双子はどこかに後野さんを隠しつつ、僕達の行動を見張っているはずです。さっき着ぐるみを見られたかもしれないという可能性も考えて、僕達がどう動くのか注視しているでしょう]

「確かにな。それはありえる」

[だとしたら僕達が必死に探知魔法や走り回って調べることで、双子は安心するはずです。先ほどの着ぐるみの仕掛けは、僕達に見破られなかったと。午前中と変わらず後野さんを探しているとなれば、彼らは警戒せず、午後も彼女に着ぐるみを着せるでしょう]

「わかった。ではすぐに動くぞ」

 帝は椅子から立ち上がった。

「英司、お前と俺は手分けして校内を見回る。俺は4階、英司は1階からだ」

「はい」

「斎、お前は屋上に上がって、探知魔法を発動させろ。もし何か気付いたことがあったら、すぐ英司に思念を送れ。いいな」

[はい]

 斎はしっかりうなずく。

「では行動開始だ。それと出来るだけ俺達は人を探している事をアピールしながら動くぞ。英司、お前もクラスごとにまわって聞き込みをしろ。見つけた奴に声をかけて、俺が茉理を探していることを生徒全員が知るようにしておけ」

「そんなに目立って大丈夫ですか」

「ああ。ここまでやられておいて、このままで済ませられるか」

 帝は瞳を燃え滾らせた。

「午前中は双子と俺達三人だけの勝負事として動いたが、こうなったら双子対俺達プラス校内の生徒全員という勝負に持ち込んでやる。全校生徒が俺のために茉理を見つけたら連絡してくるだろう。つまり双子は俺達だけじゃなく、生徒全員の目をもごまかさなければいけないということだ」

「でもそれって雅人先輩たちとのルール違反になりませんか」

 心配そうな英司に、斎は大丈夫だと微笑む。

[雅人先輩たちの提示したルールの中に、後野さんを見つけるために他の生徒から情報を得てはならないというものはありませんでした。後野さん本人に知られてはいけない、という規定はありましたけど]

「そっか。そうだったよな」

 英司は気合を入れて拳をにぎった。

「じゃあ作戦開始しましょう。午後は絶対に負けません」

「ああ。必ず茉理を取り戻すぞ」

 三人はお互いの気合いを確認し、生徒会室から各自茉理探索に出て行った。

 しかし彼らは気付かなかった。

 ――その時、茉理は彼らのいた特館の庭の奥、温室にて静かに眠っていたことを。

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