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陰謀だらけの魔法合戦(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編6)  作者: 月森琴美


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 20分の昼食時間。

 この間、一時勝負は休息で、各自お昼を取ることになる。

 だが瑠衣と怜は昼食どころではなかった。

『さっきはギリギリのタイミングだったね』

『まったくだ。僕が最後に妨害しなかったらどうなっていたか』

『やっぱ早いね、王様は。俺達と瞬間移動の速さは同じぐらいかな』

『それより瑠衣、ちゃんと姫の気を引き付けておけよ。僕もすぐに行くから』

『あー、けっこうそっちがやばいかも』

『何?』

『今、姫姉ちゃんがクラスに戻りたいって言ってる。ちょっと切るね。止めないと』

 教科準備室で茉理と一緒にいる瑠衣が、緊急事態だと思念会話を打ち切った。

(さっき王様と一瞬だけど接触したからな)

 出来れば二人が会うことは避けたかったが、この場合は不可抗力だったと怜は思う。

(あそこは午前中で一番僕達がやばいところだった。今までの作戦では太刀打ち出来ない瞬間だしな)

 茉理がダンスを終えて退場してくる時だけは、瞬間移動と変身魔法で彼女に成りすます作戦は出来ない。

 出来れば午前中は王様チームにこちらの能力を知られたくなかったが、向こうも流石に一族でも指折りの魔法使いだ。

(まあ、それでも上手くいった方だろう)

 次は午後だ。

 応援合戦とクラス対抗リレー、そして最後に中三の旗取り合戦がある。

(さっきの接触で、姫は王様が自分を探していることに気付いてしまった。自ら彼らに会おうとするに違いない)

 これを妨害しつつ、王様たちをかく乱して姫を隠さなければいけない。

(僕達の方がはるかに難易度高いんだけど。もう少し年下に優しくしてくれてもいいんじゃないか)

 頭の中でこのゲームの仕掛け人である雅人と直樹――二人の先輩に毒づきながら、怜は黒髪ツインテールの美少女れいの姿で教科準備室に入った。

 案の定、茉理はクラスに戻りたい(本当は帝に会いに行きたいのだが)と一生懸命訴えていて、るいが必死に止めている。

(やれやれ。るいには限界だよね)

 怜はため息をつき、二人の間に割って入った。

 そして一旦茉理に譲歩を見せる。

「いいじゃないの、るい」

「えーっ、でもどうするの? それじゃ困るよ」

 お前何言ってんの、と目が若干怒っている美少女バージョンのるいに、れいはごく普通の事だと言わんばかりの声で続けた。

「お姉様だってずっとくまやってお疲れだもの。少しは休息しないとね」

 強く押しまくってもしかたない。

 ここは一旦相手の気持ちを受け止めて、その上で錯覚させるのだ。

 ――もしかしたら自分の話を聞いてくれるかもしれない。

 相手が一瞬でも期待感を持つことで心に隙間を生じさせ、こちらの要求を受け入れてもらいやすくなる。

 れいの思惑が功を沿うし、茉理は目を輝かせた。

 そこにすかさず別な話題をふる。

「ただお姉様、お弁当は先に食べませんか。昼休みは長く取ってありますし、せっかくこうして美味しそうですし」

 机の上には、他の生徒達に配られるものよりはるかに豪華な来賓用三段重箱。

 食べ物で釣る作戦である。

 単純だが、実はけっこう効果があった。

 運動してお腹がすいているし、時間的問題も昼休みが長いから今すぐ行かなくても大丈夫という心理的描写を言葉に込めておく。

 案の定茉理は誘惑に引っかかった。

(このためにわざわざ用意しておいた甲斐があった)

 内心上手くいったことにほっとしながら、れいは茉理をお弁当の前に座らせることに成功する。

 すぐに温かいお茶までるいに入れさせた。

 こうすることで更にお茶が冷めないうちに、というもう一つの小さな心の圧迫まで加える。

 一度引いてしまえば、ずるずる誘惑するのはたやすいものだ。

(ま、このお弁当作戦の次の手も用意してあるしね)

 れいはB作戦が順調そうで、ほっとしながらお弁当に手を伸ばす。

 彼自身もお腹がすいていた。

 しばらくお箸を動かす音が教科準備室に満ち、茉理は女子の一食にしては多すぎる量のお弁当を前に、どう食べようかと迷いながらゆっくり口に入れている。

 るいとれいは中身は食べ盛りの男子なので、大きなお弁当をぺろっと完食してしまった。

 食べ終わってお茶を飲みながら、女の子とは思えない食べっぷりでちょっとまずかったかなと茉理をちらりと見たが、本人はそのようなことを気にしていなかったみたいで、ほっとする。

「ご馳走様でした」

 半分ほど残してお弁当の蓋を閉める茉理。

 そしてすかさず席を立った。

「じゃあごめん。行って」

 くる、と言おうとした茉理の手を、れいは掴む。

(悪いけど行かせないよ)

 そんな気持ちを込めて、あと数分だけつきあって欲しいと頼んだ。

 そして茉理の了承も得ずにさっさと瞬間移動する。

 場所が瞬時に変わったことで、茉理は咄嗟に判断する事が出来なくなった。

 そのままれいの作戦通りの流れにはまってしまう。

 彼の立てた次の誘惑は、マッサージ作戦。

 中学生でも運動したあとは、筋肉に疲労が溜まるものだ。

 それを見越してわざと香りにリラックス効果を持つ薔薇の温室に連れ込んだ。

 学園の校舎とは校庭をはさんで向かい合う位置にある古びた洋館。

 そこは特館と呼ばれ、生徒会室をはじめ理科室や音楽室など特殊教室が入った舘である。

 洋館には美しい庭が付随していて、庭の奥に雅人自慢の薔薇を植えた温室があった。

 この薔薇たちには様々な魔法効果が付与してあり、香りを吸うだけで神経を静めたり、魔力や体力を回復したりとまるでゲームの回復アイテムのようだ。

 それだけではなくこの温室には、もう一つ別な効果がある。

(防御と外部遮断の魔法。この温室内で行われた事は外部には決してわからない。探知魔法も効かない最強の防御結界が張られているんだ)

 昼休みも20分過ぎれば、帝たちはまた茉理の探索にかかるだろう。

 予想外の場所に茉理を隠すことで、彼らの目をごまかす。

(特館には生徒会室がある。まさか目と鼻の先に姫を連れてゴールしないといけない場所がある所に、彼女を連れてきているとは思わないよね)

 探知魔法をかけるにしても、この特館まで探索範囲に入れることはしないだろうと、れいは読んでいた。

(探すのはおそらく校舎内と校庭だ。でもここだって十分に勝負所の範囲には入っている)

 茉理は学園内から出してはいけない。

 また勝負の範囲は中等部のある場所のみとなっている。

(ここも中等部の一部だよ。気付いてないだろうけどさ)

 茉理を連れて更に温室の奥に進み、用意してあったベンチにうつぶせに寝かせて、あとから来たるいと一緒に彼女のマッサージを開始した。

 普段母親に頼まれる按摩の腕を披露しながら、二人は茉理の体をよく揉んで気持ちまでほぐす。

 そして密かに催眠の魔法をかけた。

(しばらく眠れ。ゆっくりと静かにおやすみ)

 茉理は魔法にかかり、眠り姫のように寝息をたてはじめる。

 完全に寝入ったのを確認し、二人はほっと息を吐いた。

「おつかれー。ちょっとやばかったけど、なんとかなったなあ」

 あー、つかれた、と瑠衣は肩をまわして笑う。

「美少女がだいなしだぞ、るい」

「いいじゃん。ここは誰もいないし」

「まあね」

 そう言って、怜も体の力を抜いた。

「なあ、気持ち良さそうだな、姫姉ちゃん」

 瑠衣は指でぷにぷにと茉理の頬をつつく。

「おい、あんま触るな。起きるかもしれないぞ」

「大丈夫だって。それにさ……なんか触りたくならないか、可愛くて」

「えっ」

 瑠衣の言葉に、一瞬怜は思考をとめた。

 とんでもない事を聞いた気がする、と思わず瑠衣を凝視する。

 彼の兄は美少女の姿だが、その目だけは男の子に戻って茉理を見つめていた。

 心なしか頬も若干染まっている気がする。

「なあ、普通の女の子だよな、姫姉ちゃんって」

「ああ。そうだな」

「でもさ、でもだよ。なんかお人よし過ぎて目が離せないっていうかさ、何気に一生懸命すぎてちょっと手を貸してあげたくなるっていうかさあ」

「……」

「上手く言えないんだけどさあ、そのさあ、だから、んーと……か、可愛いなって」

 怜は兄の言動に、思わず頭が痛くなる。

 黒髪ツインテールのまま、はあっと大きくため息をついた。

「お前、大丈夫か」

「ん? 何が」

「状況分かって言ってるのか、それ」

「状況って何だよ」

「その、お前が今可愛いとか言ってつついてる女子は、王様の女なんだぞ」

「あー、うん、そうだよ」

「でもってそんな相手がいる女子に惚れても、片思い決定だってわかってるんだよな」

「わかってるよ。わかってるけどさ、別にそこまでつきあいたいとか思ってるわけじゃないけどさ」

 瑠衣はもごもご言う。

「でもさ、まだ正式に王様の彼女になったわけじゃないし、来年はどうせ別れるんだろ」

「それはそうだが、王様がべたぼれなら、そのまま続行もありえる」

「それどころかナル兄の話じゃ、状況次第で対立するかもしれないんだろ? 王様と姫姉は」

「将来的には可能性がないわけじゃない」

 怜は表情を引き締めた。

 雅人と直樹が彼ら二人に頼んできた真の依頼に関わる内容である。

「だから僕達に姫の護衛を頼んできたんだろう。もしかしたら王様だけじゃない、一族すべてが姫と対立するかもしれない。その時一族の思惑を超えて、誰かが姫の味方でいて欲しい。彼女を守って欲しい。姫の事だけを思う専属の騎士が必要だと」

「クリスティ一族からも姫を守る。これは万が一のためだってそう言ってたよね」

「ああ」

「もしそんな状況になったらさ、やっぱり辛いだろうね、姫姉ちゃんは」

「そうだな」

 瑠衣は茉理のお下げ髪にそっと触れて、ほおっと息をつく。

「俺さ、引き受けてもいいかな。その依頼」

「瑠衣」

「やっぱりさ、誰かが側にいた方がいいと思うしね。これからきっと姫姉ちゃんは魔力ないのに大変な目に会うんだろ?」

「そうだな」

「俺は……俺は助けたいよ、姫姉ちゃんの事。大変になるならさ、力になりたい」

 真剣な顔で瑠衣は怜を見た。

「あんまりこの役目を他の奴に譲りたくないしさ。怜はどうする?」

「僕は」

「引き受けたくないなら、それでもいい。俺一人でも姫姉ちゃんを守る」

 瑠衣の強い意志を秘めた瞳を見て、怜は大きなため息をつく。

「お前一人で守れるわけないだろう。自分の実力わかってるのか」

「いざとなったら怜でも倒すよ」

「冗談じゃない。お前ごときに倒される僕じゃないね。寝言は寝てから言ってくれ。まったく」

「なあ、怜」

「何だよ」

「怜はどうするんだ」

 ねだるような兄の眼を見て、怜は言った。

「それ、今すぐ決めないといけないことか」

「うーん、でも早い方がいいと思う」

 瑠衣は小首をかしげる。

「だって俺達が引き受けないって言ったり、ぐずぐずしてたらさ。絶対ナル兄と陰険眼鏡は別な人間を用意するよ。もう候補はいるだろうし」

「そうだな」

「ねえ、怜」

「何だよ」

「やろうよ、ねえってば」

「駄々をこねるな、何歳だよ、お前は」

「12歳」

「真顔で答えやがって。僕だって同い年だ」

「そうだね。双子だもんね」

「ああっ、もう。わかったよ」

 怜は兄のお願いだから一緒にやろうとねだる視線に根負けした。

「姫の護衛は引き受ける。元々そのつもりだったし」

「えっ、怜も姫姉ちゃんに惚れちゃった?」

「馬鹿言え。別に特別な感情はない。でも」

「でも、何だよ」

 怜はぷいっとそっぽを向く。

「あわよくば一族のお偉いさんやナル兄、眼鏡先輩と堂々とやりあえる。こんな面白い機会は早々ないだろう」

「あーっ、怜ってば照れてる。素直じゃないな。姫姉ちゃんの事を守ってあげたいと思ってるくせに」

「思ってないっ」

「思ってる」

「絶対に違う」

「嘘だ。だって俺達双子だもん。俺が思ったら、怜だって気になってるはずだよ」

「……別に僕は」

「うんうん」

「お前みたいに簡単に好きとか言わないから」

「そうだね。怜は本音は隠すタイプだしね、小さい頃からさ」

「うるさい。万年思考がダダ漏れのお前にだけは言われたくない」

「えーっ、怜は言わなさすぎなのっ。それじゃあ相手に本当の気持ちは伝わらないよ」

「ほっとけ。別に困ってない」

「そうかなあ。誤解ばっかりされちゃうじゃないか」

「言いたい奴には好きに言わせとけばいい」

「でも嫌な事言われたら、やっぱ傷つくよ。だからちゃんと自分の気持ちは言わなくちゃだよ、怜」

「……善処する」

 大人びた一言を言うと、怜はもう一度茉理の顔を見てから気持ちを切り替えた。

「それより午後の話をしよう。もう着ぐるみは回収してきたな」

「うん。さっき一時的に来賓席に置いといたのを持ってきたよ」

 瑠衣はパチンと指を鳴らすと、くまの着ぐるみを出す。

「よし」

 怜は首尾は上々だと笑みを浮かべた。

「これで来賓席に行ってた山下先輩と遠野先輩は、着ぐるみのからくりを見たはずだ」

「見せてよかったの? あれ」

 瑠衣の疑問に、怜は大丈夫だと返す。

「僕達の能力と午前中の作戦がばれた時点で、着ぐるみにかけた魔法効果がわかるのも時間の問題だった。だから逆にわざと見つけさせて、自分達が仕掛けを見破ったのだと誤解させる。僕達がわざとばらしたことには気付かずにね」

「それで? これからどうするの?」

「お前はここで姫の見張りだ。40分以上は眠っておいてもらおう。出来れば旗取り合戦の前に起きるのがベストだな。そうして彼女を屋上の指定した位置に連れて来て欲しい。あとの段取りは僕がする」

「一人で大丈夫か」

「問題ない。何かあったら連絡する。お前も姫が早く起きてしまいそうになったら、連絡してくれ」

「了解。いってらっしゃーい」

 手を振る瑠衣に若干の不安を感じながらも、怜は午後の罠を仕掛けるべく着ぐるみを手に温室を出て行った。

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