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陰謀だらけの魔法合戦(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編6)  作者: 月森琴美


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 1年女子がポンポンを手に可愛らしく踊る校庭で、帝は退場門に行く前にしばし足を止め、最愛の少女の踊る姿を目に映した。

(茉理)

 本人に言ったら絶対否定すること間違いないが、彼女は思ったより可愛いと帝は感じていた。

 世間一般的には普通の平凡な子なのだが、いざ自分の特別として意識してしまうと周囲よりも違ってみえる。

 事実校内でも美人と定評のあるE組の響子より、彼女の方が何倍も輝いて見えた。

(去年の美奈子のときは、こんな風に思わなかったな)

 ふと帝は、去年つきあった彼女を思い出す。

 本来なら元彼女と今の彼女を比較するなんて言語道断の話なのだが、彼の場合はつきあう理由が恋愛感情ではないため、二人を比べることに何の後ろめたさもなかった。

 もちろん美奈子だって校内では名の知れた美少女である。

 去年の体育祭では、今年と同じように1年女子のダンスの時に可憐な姿で踊っていた。

(ああ、そうだ)

 帝はふっと思い至る。

(美奈子のダンス姿を見て、俺はオープニングセレモニーの連中と同じぐらい上手いなと感心していたんだ)

 去年もゆり子理事と彼女が率いる藤の宮歌劇団によるオープニングセレモニーが行われ、劇団員の女性たちが華麗なショーを校庭で見せてくれた。

 そのあと見た一年女子のダンスはお世辞にもプロと比較すると上手とは言えなかったが、美奈子は抜きん出て目立っていたのだ。

 体育祭終了後、二人で話をしたときに彼女のダンスを褒めたら、頬を染めながら小さい頃からバレエ教室に通っていたんだと教えてくれた。

(流石俺の女だ。プロと比べて遜色ないなと思って見ていたんだったな)

 帝様の彼女としてふさわしい自分になりたい、美奈子はそう言って、いつも努力していた。

 その態度は自分の女としてしごく当然の考えだと当たり前のように思っていたわけだが、特に心に響かなかったのは何故なのだろう。

(俺にふさわしい女……か)

 帝は頭の中でその言葉を反芻する。

(それは一体どんな女なんだ?)

 ふとそんな想いがよぎった。

(俺は魔族の頂点に立つクリスティ一族の長になる男だ。すべてにおいて抜きん出ていなければならず、俺よりも前に立つ人間などあってはならない)

 ずっとそう思っていたため、自分の横に立つ女性は誰もが見惚れる美少女で、女性としてのあらゆるたしなみと礼儀作法を身につけた誰が見ても完璧な貴婦人のような女性だと漠然と思っていたのだが。

(でもそれはクリスティ一族の長である男とその配偶者に値う条件だ。もし俺が一族の長にならなかった場合、ただの伊集院帝として生きる場合はどうなる)

 先日から少しずつ心の奥に忍び寄る想い。

 藤家による次期総帥の座をかけた戦いの火蓋は、この体育祭で切って落とされた。

(執事は大丈夫だと、藤家の増長を一族は認めないだろうと言っていたが、本当にそうだろうか)

 直樹が言っていたではないか。

 今回の体育祭実行委員長に藤昇を推薦したのは、クリスティ学園の理事長であると。

 理事長は一族の重鎮の一人である。

(一族が俺よりも藤昇の方が総帥にふさわしいと考えている可能性は否定出来ない)

 その場合、藤昇が当主となり、自分はただの一族の一員として生きることになる。

(ただの伊集院帝になった俺を見てくれる人間などいるのだろうか)

 そんな考えに沈む帝の脳裏に、英司の思念が届いた。

『帝、どこですか。もうすぐ1年女子のダンスが終わりますよ』

 その声で、彼ははっと我に返る。

(くそっ、今はそれどころじゃない)

 午前中最後のこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。

(何としても茉理を確保する。今はつまらない感傷に浸っているひまはない)

 彼は顔を上げ、すぐに退場門まで瞬間移動する。

「遅いですよ、帝」

 英司が門の側で、斎と共に待機していた。

 気持ちを切り替え、二人と茉理の退場を待ち構えていると、三人のすぐ横に長身の黒眼鏡男子が現れる。

「勝負中に済まない。英司、斎。今すぐ来賓席に向かってくれないか」

「えーっ、もう後野さんが来るんですけど」

 英司が声を上げるが、直樹はそれどころじゃないと告げた。

「来賓客にトラブルが生じた。理事長が宥めるのに一苦労していてな。お前達も行ってフォローして欲しい」

「トラブルだと?」

 帝の顔が瞬時に険しくなる。

「あの藤ゆり子がどうもうちの一族を馬鹿にする発言をしたらしく、一族出の来賓が怒って魔法攻撃をしてしまった。瞬時に他の客が防いでくれたから良かったが、まだお互い怒りが収まらないらしくてな」

「なんですか、それは。いい年した大人の喧嘩って、なんて面倒な事を」

 英司が事情を知ってうめく。

「とりあえず興奮した二人は引き離した。ゆり子理事の方は藤家が応接室に押し込めて説得に当たっている。うちの一族のお偉方の方は来賓席で理事長が対応しているが、どうも藤家に全校生徒と父兄の前で謝罪せよとかなんとか息巻いていて、理事長の言葉も聞きやしない。このままではせっかくの体育祭が台無しになりそうだ」

「もう。そういうことは大人同士でやってくださいよ」

 俺達を巻き込まないで欲しいな、と英司がぶつぶつ文句を言うと、まったくだと直樹はうなずいた。

「分家代表として雅人を仲裁役に行かせたんだが、これが火に油を注いでしまってな。あいつ、また何か余計な言動をして、そのお偉方を更に怒らせてしまったようだ。悪いがお前達、二人で雅人を回収してきてくれ。理事長が一人ではもう収拾がつかないと思念で頼んできたよ」

「しかたないですね」

 英司はしぶしぶ承知した。

「帝、ここは頼みます」

「ああ。心配するな。俺一人で大丈夫だ」

「斎、行こう。早く片付けて戻ってこないと」

『はい』

 二人はあわてて来賓席の方へ駆けていく。

「俺は応接室の様子を伺ってくるよ。あれでも藤家は一応クリスティ一族傘下の家だ。あっちにも気を配る必要がある」

 そう言って直樹はすばやく瞬間移動で消えた。

 思いがけず一人になった帝は、退場門に身を寄せて茉理の動きに注視する。

 彼女の一挙手一投足までも見逃さないように集中していた帝の耳に、ふうっと生暖かい息がかかった。

「待ち伏せかい? み、か、ど」

 金の髪をゆるやかに肩に垂らし、真っ赤な薔薇の花を一厘持つ雅人の姿が、いつの間にか横にある。

「貴様っ、来賓席にいるんじゃなかったのか」

 帝は突然現れた彼に、くってかかった。

「そうだったんだけどさ。聞いてよ、ひどいんだよ、帝。僕が華麗に来賓の皆様の前で諍いを止めようと奔走していたのに、逆に僕に怒りの矛先を向けてきて参ったよ。あまりにも言う事を聞いてくれないから、嫌になって逃げ出してきたんだ。そしたら可愛い僕の帝が、こんな場所で憂い顔で愛しい姫を見つめて物思いにふけっていてね。声をかけずにはいられなかったんだ」

 雅人がそう言い終わるや、後ろからきゃーっ、雅人様よっと黄色い声援が響いた。

「ふふっ、可愛いレディたちだね。体育祭は楽しんでるかな」

「もちろんです」

「雅人様、先ほどの障害物競走、感動しました」

「旗取り合戦も応援しますね。がんばってください」

 きゃあきゃあと雅人のファンが寄ってくる。

「ありがとう。この僕の華麗な姿から目を離さないでくれよ。君たちの期待には必ず答えてみせるからね」

「きゃーっ、応援してます」

「雅人様、ファイト」

 女の子たちの熱は凄かったが、雅人はそれをすべて受け止め、魔法で大輪の薔薇の花束を出す。

「君達に僕からの贈り物だよ。さあ、受け取って」

 彼は薔薇を天に向かって投げる。

 すぐにそれはぱらぱらと女子たちの上に落ちてきた。

「きゃーっ、雅人様の薔薇よっ」

「どいてっ、私のよ」

「押さないでよ、あっ、踏んでる」

 女子たちはすぐに薔薇を拾うのに夢中になり、雅人どころではなくなってしまう。

「やれやれ。これでやっと君と話が出来るね、帝」

「うるさい。俺は今、それどころじゃないんだ。邪魔するな」

「はいはい。そうだったね」

 僕はここから高みの見物させてもらうよ、と雅人は少し帝から離れて微笑んだ。

「君の勇姿をこの僕が一番に拝めるなんて、なんてラッキーなんだ。がんばってくれよ、帝」

「やかましい。貴様はそこから一歩も動くな」

 帝はそう言うと、1年女子がダンスを終えてダダッと退場門まで駆け足で入ってくる中に目を凝らす。

 お下げ髪をゆらして、お目当ての少女が入ってきた。

 退場門まで駆け足で来たので、到着して息を弾ませている。

(よしっ。今だ)

 帝は彼女に向かって腕を伸ばした。

「茉理っ」

 驚いた顔で、茉理は帝の方を見る。

「帝先輩?」

(間違いない。本物だ)

 勝利を確信し、彼女に触れようとしたその時。

 しゅっと何かが帝の目の前に飛び込んだ。

(何だ)

 魔法はかなりの才能だが、体力面においても幼い頃より鍛えられ、更に帝は動体視力が良い。

 目の前に突如現れた異物に対して、一瞬反応してしまった。

 その一瞬が勝敗を決める。

 茉理は目の前で姿を消した。

「なっ、何だと」

 彼女を瞬間移動されてしまい、帝はその場に呆然と立ち尽くす。

 足元を見ると突然飛び込んできた物は、真っ赤な薔薇の花一輪。

(雅人の奴。何故邪魔をした)

 花を拾い上げ、怒りに燃えて雅人の方を向くと、すでに彼はそこにいなかった。

(逃げたな。あいつ)

 煮えたぎる怒りのまま、花をぐしゃっと握りつぶすが、そこにはある違和感があった。

(何だ、これは。手紙だと?)

 薔薇の花の茎に、細長く折りたたんだ白い紙が結ばれている。

 帝は茎ごとぐしゃぐしゃに握りつぶした白い紙をほどいて、中を見た。

 そこには黒のマジックで、文字が書かれている。

[ざんねんでした。またどうぞ]

「……」

(くそっ、やられた)

 帝は紙を引き裂いた。

 同時にあることを思い出す。

 さっきの雅人だ。

(あいつ、女子にきゃあきゃあ騒がれても、蛙に変化しなかった)

 本物の雅人は、目の前で女の子の悲鳴を聞いたら即座に金の蛙になってしまうという特異体質がある。

 そのため今回の体育祭は実行委員を生徒会が引き受けず、雅人の競技はすべて英司が雅人に化けて肩代わりしているのだ。

 ということは、さっきの雅人は――。

(くそっ、双子の片割れか。雅人に変化して、俺をかく乱しやがった)

 雅人本人から聞いた情報によると、彼に負けないぐらい双子も変身魔法のスペシャリストだという。

(全然見破れなかったな。あれがあいつらの能力か)

 いつも身近で雅人の事をよく知っている自分でさえ騙すとは、正直信じられない変身技術である。

 放送委員が午前中の競技終了と昼休みのアナウンスをした。

 北原双子に翻弄されて、午前中はあっという間に終わってしまう。

(俺としたことが。何なんだ、この結果は)

 帝はやるせない気持ちを拳に込めて、くそっと退場門を一発殴った。

 幸い斎が土魔法で強化していたため、門は帝の想いを受け止め、少し揺れるだけで済む。

「帝っ」

 英司と斎が瞬間移動で戻ってきた。

「後野さんは……」

 英司はそこまで言って、言葉を止める。

 帝の側に茉理がいない。

 それだけで結果は自ずと知れた。

 斎も悔しそうな顔で、顔を俯ける。

『完全にしてやられましたね、午前中は』

「ああ、そうだな」

 英司も肩を落とした。

「なんだかなあ。思ってたより凄くないか。双子達」

『そうですね。午後は更に気合を入れて挑みます。このまま負け続けるつもりはありません』

 斎は思念でそう言うと、顔を上げる。

 予期せず敗者となってしまった三人の脳裏に、能天気な声の思念が響いた。

『やっほー。午前中は終了だね。みんな、これから20分は昼食タイムとしよう。お昼ごはんぐらいゆっくり食べたいしね。勝負は20分後からということで。じゃあまた。がんばってね』

 雅人の声に、帝は先ほど会った彼の偽物を思い出し、くそっと舌打ちする。

「とりあえずお昼食べましょうか、帝」

 英司が彼の肩に手をかけて、軽く叩く。

「午後必ず取り返しましょう。このまま下級生に負けっぱなしっていうのはごめんです」

「わかってる。食べたら、すぐ生徒会室に来い。午後の作戦会議だ」

「はい」

 英司も斎もうなずいて、三人は他の生徒達と一緒に教室へ戻った。

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