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陰謀だらけの魔法合戦(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編6)  作者: 月森琴美


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 校庭では三年女子が華麗なダンスを披露している。

 二年女子はリボンを持っていたが、三年生はバトンを持っていて、そこから時々噴水のように水や花火のような光を出し、幻想的な魔法のダンスを見せていた。

 しかし屋上に集まった五人は、その素敵なダンスも観賞する余裕はない。

『すみません、およびだてして』

 斎はぺこりと頭を下げる。

「今の時間は大丈夫だよ。それより君たちの方はどうなの? もうすぐ午前中が終わるんだけど、姫は無事に取り戻せたのかな」

 雅人の言葉に、帝は顔をしかめた。

「やかましい。勝負はこれからだ」

「おやおや、あれだけ自信満々だったのに、どうしたのかな。み、か、ど」

 ふふっと意味深に笑いながら、雅人は手に持つ薔薇の花を玩ぶ。

「まだ勝負の途中なのに、俺達を呼ぶとはどういうことだ、斎」

 直樹が不可解だといわんばかりの顔で問うた。

 斎は彼の方を向いて、自分の小型PCを出し、画面を見せる。

 そこには先日直樹から送られた双子のデータが映っていた。

「これがどうかしたか」

 直樹は怪訝そうにPCを見て、次の瞬間顔を強張らせる。

「どうしたの、直樹君」

 無言でPCを睨みつける直樹のただ事ではない様子に、雅人は目を瞬かせた。

『英司先輩、先輩と帝先輩のPCに送られた双子のデータを直樹先輩に見せてください』

「え? わかったよ」

 英司はそう言うと、小型PCを出して直樹に見せた。

「帝も双子のデータ、ちょっと直樹先輩に見せてみてください」

「これがどうかしたのか」

 そう言いながら、帝も小型PCを出すと直樹にデータを見せる。

 彼は三人のPCを見比べて、恐ろしいほど冷静な声で言った。

「すまない。俺のミスだな、これは」

「一体どうしたっていうのさ」

 雅人はPCを覗き込み、次の瞬間思いっきり笑う。

「あははははっ、あーっ、これ何なの。これがあの二人? あーっ、笑える。もう最高」

「おいっ、どういうことだ」

 顔に青筋を立てて、帝は怒鳴る。

『僕達に直樹先輩が送ってきた双子のデータは間違っていたんです』

 斎の思念を受けた英司は、えーっ、そんなのありなのか、と叫んだ。

「はははっ、直樹君。君がしてやられるとはね。油断大敵って奴さ」

 愉快そうに雅人は笑い続ける。

「さすが僕の従兄弟達だ。悪戯の度合いが半端ないね。はははっ、いいね、あの子たちは。愉快すぎる」

「笑い事じゃないぞ。何だこれは」

 直樹は氷点下ともいえる温度の声を出す。

 表面上は冷静さを装っていたが、腹の中はしてやられたという悔しさで煮えくり返っていた。

「あいつら……終わったあとでどうしてくれよう」

「君が自分の誇りをかけて作り上げた防御プログラムにあっさり侵入。ウイルスを注入して君が三人に別々の間違った情報を送るように改変するなんて、そこらの魔法使いには出来ない芸当さ。真っ向から僕達にまで喧嘩を売ってくるとは命知らずな子たちだね。いいよ、実にいい」

「良くないっ。雅人、お前の躾が悪いからこんな扱いづらいのが出来たんだぞ」

「いいじゃない。僕は楽しくて好きだよ、こういうの」

「お前が甘やかすから、あっちは付け上がるんだ。もう少し目上には気を遣うって処世術を教えるべきだろう」

「えーっ、そんな形式ばったのなんて教える必要ないじゃない。こんなに愉快な子たちなのに」

「くそっ、変人を師匠に持つとこんな迷惑野郎になるのか。第二の分家は師の人選を間違っているぞ」

「二人とも言い争いはそこまでにしろ」

 帝の苛立ちを含んだ声に、二人はぴたっと口を閉じる。

「時間が惜しい。直樹、状況を説明しろ。お前が俺達に送った情報が間違っていたというんだな」

「ああ。おそらく犯人はあの双子の片割れ、怜だ」

 直樹はゆっくりと気を静めながら言った。

「俺の情報ベースに侵入してお前達に偽のデータを送信するようプログラムを改変したようだ。苦心して完璧に作り上げたと思っていたセキュリティシステムをハッキングして改造するとはな。してやられたよ。俺が油断したせいだ。本当にすまない」

「起きてしまったことはしかたない。よく調べてまた同じミスをしないようセキュリティを強化すればいい。それより急務は正確な情報だ。直樹、その忌々しい双子の正しいデータを送れ」

「ああ。すぐにやる」

 直樹はそう言うと、自分の小型PCを出し、キーを打ち始めた。

「これは僕達の方のミスでもあるからね。僕があの子たちのことを教えてあげるよ。顔写真はあとで直樹君が送ってきたのを見たらいい」

 雅人はそう言うと、少し真剣な表情で続ける。

「彼らは小学生とは思えない格闘センスと頭脳を持つ。まず兄の北原瑠衣だけど、身長は163センチぐらいかな。育ち盛りだし、これからいくらでも伸びると思うけどね」

「身長などどうでもいい。魔法のことを教えろ」

 帝がイライラしながら、口を挟む。

「瑠衣は炎系の魔法使いだ。魔力量は僕や直樹君に匹敵する。火炎系の攻撃魔法は大抵こなすし、補助系の魔法も一通り出来るね。魔力探知や防御魔法も出来るし、瞬間移動も可能だ」

「万能じゃないですか」

 英司がうめいた。

「君達とほぼ能力は互角だよ。それだけじゃなくて、僕と同じ変身魔法に長けている。僕でさえ騙すぐらい変化の術に長けているんだ」

『やっぱりそうですか』

 斎は自分が予想していた通りだと思う。

「何、斎。お前、わかってたのか。あいつらが変身魔法に長けてるって」

 英司の質問に、斎はうなずいた。

『さっきどうして僕達にわからないように後野さんが消えたのか、わかったんです』

「ええっ、どうやってたんだよ」

 英司の驚きの声に、帝は眉を寄せた。

「斎、英司。お前達は思念で何の会話をしてるんだ」

「それが斎が後野さん消失のからくりを見破ったみたいです。変身魔法を使ってるって」

「そういうことか」

 帝はちっと舌打ちする。

「君たちにわざと偽情報を送ったのも、自分たちのことを誤認させるためだったんだろうね。実際は変身魔法と瞬間移動や防御魔法を使えるのに、わざと君たちには直樹君から送られたデータを使って自分達がそっち方面には長けていないと思わせた。だから気付くのが遅れて、後野さんを見失った」

「そういう手を使わないって思い込んでましたからね」

 英司も悔しそうにつぶやいた。

「まさか直樹先輩から来たデータが間違ってるなんて、思いつきもしませんでした」

「そこもきっと計算のうちだよ、あの二人は。本当に小賢しくて楽しい子たちだ」

 雅人はくすくすと笑いながら、話を続ける。

「弟の北原怜は水系の魔法使いだ。そして恐ろしく頭がまわる。能力や魔力量はやはり僕や直樹君と対等だと思ったらいい。当然彼も変身魔法が得意でね。もちろん防御系の補助魔法や瞬間移動魔法だって使うよ」

「うーっ、小学生なのに何なんですか、その常識じみた魔法の才能は」

「お前たちだって小学生の時は似たようなものだったじゃないか。人の事は言えないだろう」

「それはまあ、そうですけど」

 もごもごと英司は口の中でぐちる。

「大体のことはわかったかな。他に質問とかある?」

 雅人の問いに、斎は静かに手をあげた。

「はい。斎君、どうぞ。通訳は英司君ね」

『この勝負のルールについてお聞きします。僕達は後野さんが競技に参加している間は手を出してはならない。早い話が校庭内に後野さんがいる間は、姿を見ても絶対捕まえてはいけない、というのがルールでしたよね』

 英司が首をかしげながら雅人に伝えると、彼はにこやかにうなずいた。

「そうだよ。君たちのルールはそれで間違いない」

『では双子チームのルールはどういうものでしょうか。彼らはどういう決まりで動いているんですか』

 英司は斎の質問にはっと気付くものがあったが、そのまま雅人に疑問をぶつける。

「ふふっ、流石斎君。良い質問だね」

 雅人はご機嫌な顔になる。

「双子チームに与えられたルールはね。体育祭閉会式まで後野茉理を完璧に護衛し、君たちに奪われないこと。ただし本人には絶対にこの事は悟られてはいけないし、彼女が参加する競技には必ず出るようにしなければならない」

『やっぱりそうですか』

 斎はため息を一つついた。

「おい、どういうことだ」

 帝の声に、斎は少し微笑んで解説する。

『双子は僕達と違って、後野さんが競技に参加したあとなら、校庭内でも彼女に手を出して良いということです。僕達のルールを熟知した上で、時間差を利用して後野さんを隠すことが出来る』

 英司はうめきながら、帝に斎の言葉を伝えた。

「くそっ、後手にまわるとはな、俺達が」

 悔しそうに帝は拳を握る。

「まあまあ、勝負はこれからだよ、帝」

 雅人は彼の肩に手をぽんっと置いて微笑んだ。

「まさかこのままやられっぱなしで降参するかい?」

「冗談ではない」

 帝は勢いで肩に置かれた雅人の手を払う。

「正確な情報がわかった以上、もう遅れを取るつもりはない。見ていろ、必ず茉理を捕まえて生徒会室に連れていく。そのあとあの双子も捕らえて、たっぷりと目上の者に対する礼儀を叩き込んでやるぞ」

「その意気だよ。じゃあ僕達が手を出せるのはここまでだね。直樹君、君も一緒に行こう」

「ああ」

 直樹は力なくうなずくと、雅人と一緒に屋上から校庭に瞬間移動で戻っていった。

「やっぱりショックですよね、直樹先輩」

「自分の驕りがまねいた失態だ。だがあいつは落ち込んで終わるような男じゃない。大丈夫だ」

 帝が力強く言い、斎もうなずいた。

「それよりこれからの事を考えよう。双子の能力は俺達とほぼ互角なのはわかったが、それを踏まえてこれからどうする」

 帝の質問に、斎は静かに挙手をする。

「斎、言ってみろ」

 彼はうなずいて、今度は思念ではなく指先から細かい砂を出し、空中で浮かせて帝にも読めるように文字にした。

[二人は後野さんが自分の出番を終えて、校庭で他のクラスメイトが競技を終えるのを待つ時間を利用しています。その時はクラスごとに並んで待機してますが、綺麗に列を作って並んでいるというより、時々他のクラスメイトが走ってるとき、立ち上がって応援したりけっこう位置からはずれますよね。だからその時間、そっと後野さんのクラスメイトを装ってA組の赤いTシャツを着て近づき、すばやく後野さんを瞬間移動させて、自分がかわりに後野茉理に変化してるんです]

「なるほど。だから見つけられなかったと」

「今までクラス席にいた奴は、すべて偽物だったわけか」

 帝は腹立たしそうに言った。

「茉理をどこかに移動させたあとは、自分が後野茉理のふりをして俺達の目に留まるようにあちこち移動。確保しようと手を伸ばした瞬間に、他の生徒に変化してかく乱していたということだな」

「うわっ、すごくよく考えてますね」

「感心してる場合か、英司。こんなにしてやられて」

 帝が不機嫌そうに彼を横目で睨む。

「すみません。でも敵ながらあっぱれってやつですよね。まんまと騙されました」

 英司はやられたのにカラッとさわやかに流した。

[今も後野さんはどこか別な場所にいるはずです。僕達の目から完全に見えない所に。クラス席にいるのは偽物ですね。北原兄弟のどちらかはわかりませんが]

「つまり後野茉理の格好をしている奴は、すべて偽物ということか」

[僕達の目に後野さんだとわかる存在は、すべて兄弟が変化していると考えていいでしょう。視覚に囚われるべきではありません]

「なるほどな。よくわかった」

 帝はにやりと笑む。

「ではこれからの時間、茉理に見える存在はすべて偽者だと考えて行動するぞ。これなら敵の作戦にはまることはない」

「そうですね。わかりました」

 英司はうなずいた。

[一つだけ後野さんを確保できるチャンスがあります]

 斎の砂文字に、帝と英司の目が光る。

「それはいつだ」

「どうやって後野さんを捕まえるんだ」

 斎は二人の勢いに押され気味になるが、あわてて体勢を立て直して砂文字を出した。

[一年女子ダンスの退場後です。今までは競技だったので、校庭内に競技参加後待機の時間がありました。でもダンスにはそれがありません]

「確かにそうだな」

「ダンスは踊る位置も人数も決まっている。例え赤いTシャツを着ていても、イレギュラーな存在がダンス中に近づくわけにはいかないだろう」

 二人はなるほどとうなずいた。

「つまりダンスの退場後すぐなら、後野さん本人がいるってことだよな」

[退場門でおそらく双子も後野さんを確保しようと待ち構えているはずです。この時間だけは、単純な早さの勝負になるでしょう]

「そうか。わかった」

 帝はにやりと笑む。

「単純な勝負なら負ける気がしないな。英司、斎、ダンスが終わったら退場門に集合しろ。今度こそ茉理を捕まえるぞ」

「わかりました」

[はい]

 三人はうなずいて、次こそはと気合を入れた。



 目の前で三年女子のマジックダンスが終了した。

「次は一年男子による組体操を行います」

 一年男子が勢いよく入場門から走ってきて、位置につく。

「茉理、次私達のダンスだよ」

 入場門に行かないと、と横でクラスメイトの女子が話しかけてくる。

(確か姫の親友、川本奈々だったか)

 A組のクラス席に座っていた茉理姿の怜は、わかった、と言って席を立つ。

 そのままそっとクラスメイトたちが入場門まで進む列から自然に離れて別なクラスの生徒に変化し、退場門の方に向かっていった。

(王様チーム、流れが変わったな。どうやら気付いたようだ)

 怜はそっと人混みに紛れて目立たないようにしながら、考え事を続ける。

 先ほどずっとクラス席に座っていたが、王様たちは自分に手を出してこなかった。

 それどころかどこかで作戦会議でもしていたのか、一時的に姿が消えている。

(あっちだって馬鹿じゃない。ここまでやられたら、流石に僕達のデータが偽物だったと気付くだろう)

 怜はふうっと息を一つ吐くと、片割れに向かって思念を送った。

『瑠衣、そっちの首尾はどう?』

『順調だよん。怜が妖怪お婆の衣装を隠してくれたおかげで、お婆が強烈に怒ってさ。姫姉ちゃんはずっと着ぐるみ来て、頑張ってくれてる』

『それはいいけど、そろそろ姫のダンスが始まる。ゆり子理事の方はどうなった?』

『そっちも問題ないよ。さっきちょっと姫姉ちゃんに頼まれてクラスまで物を取りにいったんだけど、ついでに香坂先生に応接室から理事長室に箱を抱えて入っていく不審人物を見たって言ったら、速攻調べに行ってくれて、無事に衣装は見つかったんだ。それでお婆は着替え始めて、姫姉ちゃんは着ぐるみ脱いで入場門に飛んでいったってわけ。完璧でしょ』

『そう。無事にそこまで終わったか』

 怜はほっとする。

『瑠衣、次から作戦変更する。王様たちに僕達の能力がばれた』

『へえ、やっと気付いたんだ。遅すぎだよね』

 思念で茶化す瑠衣に、怜は顔をしかめた。

『油断は禁物だ。次はほんと一か八かの勝負になる』

『いいねえ、そういうのって燃える展開じゃん』

 まったく緊張感のない兄に、怜はあきれてため息しか出ない。

『作戦をBの方に変更。着ぐるみは来賓席に一旦置いてきて』

『了解』

『どうせゆり子理事はお色直しに時間がかかって、昼食後にお出ましだろう。少しの間、着ぐるみが放置されてても問題ないはずだ』

『わかった。で、その次は?』

『退場門にて待機だ。おそらく王様たち三人も束になって退場門にて待ち構えているだろう』

『うわっ、じゃあついにご対面勝負ってわけ?』

 燃えるねえ、とはしゃぐ思念に、怜はがっくりと肩を落とす。

『そんな馬鹿なことするわけないだろう。とにかく王様が姫を確保しようと動くから、お前はその前に彼女を瞬間移動だ。一秒たりとも王様より遅くなってはいけない。いいな』

『三人同時とかだったらどうするの?』

『そうならないように、僕が先輩達に化けて二人を散らす。王様だけ残して、二人には退場門から退場してもらおう』

『わーっ、なんか凄いだじゃれのつもり? それ』

『うるさいな。たまたま言い方がそうなっただけだ』

 怜はあくまで能天気な兄のペースにはまらないように、心をしっかり保とうと努めた。

『じゃあ、またあとで。退場門ではお互いタイミングをしっかり合わせるぞ』

『ラジャー。またあとでね』

 そう言って、思念会話は途切れる。

 怜はそっと退場門の側に身を潜めた。

(ここが午前中の山場だな。上手く行くことを祈ろう)

 どんなに細部まで作戦を練っても、世の中予定通りにはいかないことは沢山ある。

 運頼みの勝負だって時にはしないといけない。

 彼の瞳が意思の強い光を放った。

(だけど運もこちらに引き寄せてみせるさ。勝つのは僕達だ)

 改めてそう決意し、怜は自分の作戦を決行すべく退場門に向かった。

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